【南の楽園で「発達障害児8年で44倍増」】とかいう胡乱な記事について

 かなりひどい記事だと思ったので、手短にコメントする。

 リンクを開きたくない人もいると思うので要約としては以下。

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・宮古島市の自閉症・情緒障害の特別支援学級在籍数は、2013年度まで 0人、2014年度 6人、2022年度 265人、2024年度 224人
・全国の同種の在籍者数は、2014年度 8万1624人 → 2022年度 18万3618人(増加率 2.25倍)。
・宮古島市の増加率は全国平均を大きく上回る 44倍

 記事では、認知度や診断基準の変化だけでは説明できないほど増加している(第2回に続く)
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1.人口比は考慮しなくてよいのか

 2013年まで0人というのは、発達障害の児童が存在しなかった、というわけではなく、受け入れ態勢がそもそもなかった、と考えるべきではないだろうか(県内の他の自治体には在籍していた)。

 そこで、宮古の小中学校の全児童数と、特別支援学級で自閉・情緒として登録されている児童数を比較すると以下のようになる。

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沖縄県の学校基本調査より作成

 文科省の調査によると、「特別な教育的支援を必要とする児童生徒数」は、8.8%というものがある。これをただちに発達障害の児童の割合としたがる人もいるのだが、担任回答であることも考慮するとかなり扱いに気をつけた方がいい数値だ。ただ、宮古の数値が非常に乖離しているというわけでもない、という判断材料のひとつにはなるだろう。

2.宮古だけなのか

 とはいえ、全国の数値と比べる必要もあるので以下に記す。

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全国学校基本調査から作成

 比較するとこうだ。

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 平成30年あたりから割合が逆転しており、最新の調査では2ポイントの開きがある。平均から見れば特別支援学級の自閉症・情緒区分に在籍する児童数は多いと言える。

 ただ、この割合は宮古だけではない。

 試みに、全国の小学校の児童数と特別支援学級で自閉症・情緒として在籍している児童数の割合を以下に示す。令和6年度の数値を基準に降順にしている。

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学校基本調査及び特別支援教育資料より作成

 宮古と同じ4%台が他に9府県存在する。記事のタイトルは増加を考えているが、本文としては割合の多さも問題としており、ならば同じようにこの9府県も考えなければ整合性がとれないだろう。

3.どこを起点とするかで数字は変わる

 では、増加率を考えるとどうだろうか。
 平成26年から、令和6年まで、割合がどの程度増えたかでランキングした。一番右が率である。

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 およそ46倍と、圧倒的に宮古が1位になる。やはりこの増加は奇妙なのだろうか。
 ところが、これはある程度のからくりがある。記事にもあるが、それまで宮古で特別支援学級の自閉症・情緒の区分の児童はいなかった(≠存在していなかった)。平成26年度は小学校はたった3名である。つまり、このとき初めて、宮古の情緒児童に対する支援は始まったと言っていい。
 特別支援学級の完全実施は平成19年度から、設置基準の緩和は平成28年度からとなっている。つまり実施初期の、極端に数字が少ない時期を選べば、増加率をある程度操作できる。

 たとえば、徳島県は、平成24年度は、特別支援学級の自閉症・情緒に区分されている児童が0.037%しかいなかった。そのため、令和6年度の3.8%と比べると、驚異の100倍超えとなる。記事の表現に従うならば、「すだちの国で発達障害児13年で100倍増」とタイトルをつけなければならない。

 これは実数で考えても一緒で、いくらでも極端な値をとることができる。宮崎県の令和6年度の自閉症・情緒障害特別支援学級の在籍児童は1947人だが、平成12年の、特別支援学級の前身である75条の学級の同様の在籍児童は14人しかいなかったため、その増加率は139倍と言える。そもそも、外れ値の出やすいいち市区町村と、全国や都道府県の大きな母数をそのまま比べるのが果たして正しいのか疑問が残る。

 良識ある記者であれば、それまであまり特別支援教育に力を入れてこなかった宮古において、平成30年あたりになんらかの行政側の施策がなにかあったのではないかと考えるのが穏当だろう。

4.発達障害の原因はなにか

 この記事は「第2回」があることを予告しているが、内容についてはある程度推測できる。恐らく、宮古での発達障害増加の原因を、農薬のネオニコチノイドに求める記事が提供されるだろう(記者のこれまでの記事、記事内の小児科医の所属している団体から)。

 これは、たとえば以下の「宮古島地下水研究会」団体の陳情書にもある。

https://miyakojima-tikasui.com/report_activity/2023_05_31.pdf

 この中で当該団体は、宮古のほぼ全児童に、「発達障害に関するスクリーニングテスト等により「発達障害の可能性のある児童」の実態調査を実施・分析し、その結果の公表」をしてほしいという、人権感覚を碓氷峠に落としてしまったような請願を行っている。

 ネオニコチノイドと発達障害については、木村・黒田(2012)の論文から取りざたされているが、国立環境研究所の、否定的な研究もあり、なんともいえない。

 無論、研究が進み、神経系の障害への関与が認められるかもしれない。しかし、現段階でなにも確かなことが言えない中で、あたかもそれが原因であるかのように不安を煽るような記事は、ちょっと怒られた方がいいと思う。そしてなにより、土地の名前と障害を安易に結びつけることは、過去様々な教訓を華麗に無視しており、そこに住んでおられる方は怒ってよいと思う。

5.障害はないにこしたことはない、のか

 これは根本の話だが、記事では明らかに発達障害は悪として書かれている。これは果たしてそうなのだろうか。立岩真也氏の論考を読んでから(「ないにこしたことはない・か1」(『障害学の主張』(明石書店))ずっと考えていて、結論が出ていない。しかし、記事の反応を見るに、そういう風に考える人たちは(肯定的にしろ否定的にしろ)、あまりそうは考えていないように思える。市川沙央氏のストレートな言葉に自身を反省しても、この記事のロジックを逆説的に自身の反省には使えない(これは私もそうだ)。これは宿題とする。


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