発案はプライベートバンカー 経済的にメガネ買えない子へ企業と支援
子どものメガネ購入を支援します――。経済的に困窮する家庭に、無償でメガネを届ける取り組みが広がっている。公的支援が手薄なメガネ購入の負担軽減をはかり、子どもの教育・生活環境を改善するのが目的だ。10月からは東京でも始まる。
一人上限2万円で、メガネの全国チェーン店と各地域の協力企業が50%ずつ出す。メガネは地域の同チェーン店で買う。
支援の対象は、各地域でこの取り組みに賛同する民間団体の活動に参加したり、支援を受けたりしている子育て世帯の高校生まで。
「見えやすくなった、とうれしそうです」と中学1年生の長男(12)の様子を語るのは、兵庫県明石市の女性(53)。2学期に新しいメガネを手にした長男は、自分で手入れも始めたという。
小学1年生の時、弱視と診断された。弱視や斜視など子どもの治療用メガネは保険適用され、自治体の子ども医療費助成を利用することができる。ただ、保険適用は「治療の効果」(厚生労働省)の観点から、9歳未満が対象だ。
女性は7年前に離婚。補助がなくなって以降、メガネの購入は経済的に厳しい。長男の現在の視力は左目だけが0.2。中学ではテニス部に入り、勉強にも運動にも適したメガネの購入を考えていたとき、自身が参加する民間団体「しんぐるまざあず・ふぉーらむ・神戸ウエスト」がメガネ支援に関わっていることを知った。
「治療用メガネ」とは別に、「矯正用メガネ」は自治体の就学援助で購入補助が出ることはまれだ。
同県西宮市の女性(53)には大学1年生の長女(19)がいる。長女の視力が悪いと分かったのは、中学1年生のとき。医療機関で測ると0.1以下だった。そして「実は小学生の時から黒板が見えにくかった」と長女から告げられた。離婚に4年の時間を要し、経済的に不安定だった。女性は「視力が悪い、と言いづらい環境にしたのは私のせいだ」と自分を責めた。
今回、高校卒業前にメガネ支援の呼びかけに応じた。分厚いレンズから薄いレンズのメガネに替わり、満足そうな長女を見て「本当に助かりました」と喜んだ。
購入代は、全国チェーンのパリミキ(本社・東京)と、兵庫県では地元企業として産業用ポンプを製造・販売する兵神装備(同・神戸市)が出し合う。そして、子どもや女性を支援する県内4団体(神戸市、西宮市、尼崎市)が、定期的な関わりを持ち、経済的事情を抱える高校生までの子どもがいる世帯に声をかける。
こうした連携は、今年1月から各地で本格的に始まっている。これまで徳島や北関東(水戸市など)、愛知、香川の各県、京都、北九州、博多の各市で展開。10月から東京と山口でも実施する。
兵庫で関わる4団体の一つ、NPO法人「こどもサポートステーション・たねとしずく」(西宮市)には、8月までに16人から申し込みがあった。大和陽子代表理事は「子どもが必要性を訴えるのが難しいし、服のようにお下がりはできない。我慢してきた子にとって、丁寧にモノを選び、自分が思い描く自分に近づける経験になっている」と話す。
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この取り組みの発案者で、パリミキと協力企業、民間団体の三者をつなぐのは、一般社団法人「ソーシャルビジネスバンク」(神戸市)の東(あずま)信吾さん(51)だ。
20年以上、金融機関に勤め、経営者や富裕層らと出会ってきた。現在は企業顧問や公益団体の役員などを務める。法人の活動は2022年に始めた。
メガネ支援は、東さんが大塚製薬創業家の大塚芳紘さん(チャイルドライフサポートとくしま理事長)と神戸市内で食事をしているとき、「地元のNPOから経済的事情でメガネが買えない子どもたちがいると聞いた。何かサポートできないか」と相談をうけたことがきっかけだった。
クレディ・スイス(当時)勤務時代の同僚がパリミキに勤めていることを思い出し、パリミキホールディングスの多根幹雄会長と大塚さんをつないだ。「視力の問題は学業成績や自尊心に直結する。経済的理由で子どもがメガネを持てない状況をなくしたい」と考えるパリミキと大塚さんがお金を出し合い、23年7月以降、徳島県内の支援団体を通じて、子どもたちにメガネが渡った。
これを機に東さんは、全国に店舗があるパリミキと社会貢献活動に関心が高い地元企業、当事者のニーズをつかんでいる地元支援団体をつなげることで、他の地域でもできるのではないか、と考えた。
東さんは富裕層の資産運用を担当するプライベートバンカーの仕事の合間をぬって、08年から東南アジアの子どもや女性に教育や医療の支援を行うNPO活動に関わるようになった。11年にグラミン銀行創設者でノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏と会う機会を得た。生き様に影響を受け、社会課題を解決する活動に取り組み始めた。
プライベートバンカーの経験を生かして着目したのは、経営者や富裕層の視点を踏まえた寄付の仕組みだ。「寄付者が心の充実感を得て、お金が社会に循環することが大事だ。お金持ちが自分の幸せをお金以外に求めたときに、選択肢の一つに寄付活動を採用してもらいたい」
どのように社会貢献をすればいいのか迷っている経営者らと、支援を届ける人に伴走しているNPOなどの団体との間に東さんが立ち、「通訳」を担う。NPOの代表らと一緒に説明資料をつくったり、寄付者に話す内容を考えたりして、寄付金がどのように役にたっているかを伝える。経営者や富裕層の「心」に寄り添うことを、社会課題の解決にむけた活動に位置づける。
「支援をうける側の幸せを願わないと、寄付者を集めてこようというパワーは生まれない。私がぽっと出でやっていることではないので、信用してもらえる」。東さんはメガネの支援活動に無報酬で取り組んでいるという。
子どものメガネへの公的支援
小中学生に学用品や給食費などを補助する就学援助のうち、生活保護世帯以外の低所得家庭を対象とする援助は、各自治体が費目を決める。文部科学省の昨年度調査で、費目に「メガネ」と記述して回答したのは約20自治体にすぎなかった。
横浜市では2004年度から矯正用メガネの購入に援助する。23年度、生活保護世帯を除く約2万8千人の就学援助受給者のうち、メガネ購入の援助を受けたのは1222人(4.3%)。同様の制度を持つ神奈川県藤沢市では同年度、就学援助受給者の約1割が制度を利用した。
生活保護の場合、医師の診断のもと、医療扶助で矯正用メガネを購入できる。
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