生成AIで画像を生成するだけで商標権を侵害することがあるか?
2025年9月16日にバンダイナムコ株式会社(以下、バンダイ)が、「バンタイ・ BANDAI SPIRITS の登録商標を使用した生成画像について」というタイトルで生成AIに関するプレスリリースを出しています。ちょっと具体性を欠き、かつ、タイトルに商標と書いてあるのに「生成された画像によっては、SNS等への投稿が著作権侵害等の違法性が疑われる場合もございます」と著作権の話に持って行っているのでちょっともやっとします。これは、テーマ自体がセンシティブであることに加え、日米の商標制度の違いを踏まえた結果であると考えられます。
私もセンシティブな話ゆえにちょっと記事化を避けていましたが、米国BANDAIのリリースから状況を推測している記事も出てしまいましたので、本記事では、主に日米の商標制度の観点から解説することとします。
このプレスリリ-スは、先日のチャーリー・カーク氏暗殺のシーンを生成AIによって生成したアクション・フィギュアの画像の箱に、バンダイのロゴに類似したものが表示されていたことに対応したものと思われます。米国のリリースの方は日本と比較してかなり強いピッチになっています。
最近、架空のアクション・フィギュアの生成がネット上で普通に流行っています。もちろんネタやパロディ目的であり、そのようなフィギュアを製造販売することが意図されているわけではないですが、このケースはあまりにも反社会的であるため、企業としてはブランドイメージを守るために適切な声明を行うことは当然と言えます。
では、日米の商標制度の違いについて見ていきましょう。米国の商標制度では「商標の希釈化」に関する規定があります。今回のように登録商標の使用により商標に結び付いた信用が毀損される場合には一定の条件の下に商標権の侵害となり得ます。
一方、日本では、商標法には「商標の希釈化」という概念がありません(不正競争防止法で一部カバーされていますが)。日本において商標権の侵害になるのは、基本的に、登録商標と類似(商品も類似)の商標を、商品の出所表示のために業として使用(生産・販売・輸出入・広告)する場合です。もちろん、業務妨害や名誉毀損等に基いて訴えることは可能ですが商標法とは別の枠組みです。要するに、「当社の登録商標を含む画像の生成は商標権侵害です」というようなこと言ってしまうと法律的には不正確になってしまいます。
ということで日米の社会的インパクトと商標制度の違いを考慮した上でこのようなプレスリリースになったのだと思います。バンダイの広報と法務の苦労が忍ばれます。
なお、一般的なお話ですが、今までにもネットへの一線を超えた不謹慎な投稿で検挙されたような案件はありました。画像系の生成AIによりこういった投稿がより容易になってしまいましたので十分か注意が必要かと思います。また、生成画像に意図せず他社の登録商標が含まれてしまった場合は、あらぬ誤解を避けるためにもプロンプトをちょっと変えて登録商標が含まれなくなるよう再生成してからアップしたりするのは、商標権の話とは別にビジネス上の礼儀かと思います。