900 シノブ、妖刀を探す その1
島にある刀を回収しに行くユナとカガリ様と別れ、わたしは城下町で情報を集める。
逃がした妖刀を探さないといけない。
せっかく遭遇したのに、逃したのが悔やまれる。
さらには怪我をしてサクラ様に迷惑をかけ、ユナを呼んでしまった。
大蛇のこともそうっすけど、ユナには助けてもらってばかりだ。
「これもわたしが弱いせいっすね」
しかも、妖刀の回収まで手伝ってもらうことになった。
心強いけど、情けない気持ちもある。
「ユナに出会うまでは、強いと思っていたっすけどね」
同年代なら、それなりの実力があると自負していた。
でも、それは自惚れだった。
ユナの前では足元にも及ばない。
そもそも、あんな可愛らしいクマの格好しているのに強いなんてズルイっす。
しかも、魔法だけでなく武器の扱いにも長けていて、治療魔法まで使える。
「はぁ」
ため息が出る。
ユナと比べても仕方ないことは分かっているけど、嫉妬してしまう。
わたしは頭を横に振る。
今は妖刀のことっす。
妖刀を見つけ出し、回収するのが仕事っす。
それには妖刀に関する情報を集めないといけない。
「さて、どこで情報を集めるっすかね」
城から妖刀が盗み出されたことは機密となっているため、大っぴらに情報を集めることができない。
冒険者ギルド、警備隊などの国と関わる場所はサタケさんが情報を集めてくれることになっている。
表で情報を集めるのはサタケさんたちに任せる。
そして、表があるなら裏がある。
「あそこには行きたくないっすけど。わたしが行くしかないっすよね」
わたしは大きめのフードで身を包み、体と顔を隠す。
そして、城下町の裏道を進む。
城下町にも裏の場所がある。
行き場を失った者、悪いことをした者、理由があって身を隠す者。
そして、表では売れない物などが出回る。
裏路地を進み、一軒の古ぼけた店にやってくる。
ドアを開け、店の中に入る。
奥のカウンターの前にはお爺さんが座っている。
わたしに気づいているはずなのに、ボーとしている。
「久しぶりっすね」
「なんだ。おまえさんか」
声をかけるとわたしを見てくれる。
このお爺ちゃんは長年、ここで店をしている。
わたしが生まれる前かららしいから長い。
長いってことは、裏の情報にも詳しいため、何度かお世話になっている。
「最近、誰かが刀を売りに来ていないっすか?」
「刀が欲しいなら、そこの籠の中に入っている」
お爺さんが指さす先には乱雑に籠の中に刀が入っている。
「いや、こんな安物じゃなくて、高そうな刀っす」
「そんな刀が、こんな店にあると思っているのか?」
「そうっすね」
「頷かれると腹が立つな」
ああ、面倒くさい、お爺ちゃんっす。
「それじゃ、最近、高そうな刀をどこかで買い取ったとか、聞いていないっすか?」
「今度は他の店についてか。なにか買っていけ」
「ゴミをっすか?」
「帰れ!」
「冗談っすよ。えっと、いいゴミはないっすかね」
わたしは店内を見て、使えそうな物を探す。
店内はいろいろな物がある。日用品から、雑貨、使い古された武器などが置いてある。
できれば使えそうな物がいい。
「無理に買わんでいい」
店内を探していると、お爺ちゃんが面倒くさそうに言う。
だからと言って、なにも買わなければ話してくれない。
わたしは少し考える。
「ああ、それなら、これをあげるっす」
わたしはここに来るまでに買った団子をカウンターの上に置く。
「初めから出せ」
「わたしのご飯っすよ」
本当はわたしの非常食だ。
妖刀を見つけ、尾行することになるかもしれない。
お爺ちゃんは、そんなことを気にすることもなく、団子が包まれた笹を取り、団子を食べ始める。
「お茶もあるっす」
わたしはお茶が入った水筒を出し、コップに注ぐ。
お爺ちゃんはお茶を飲む。
「ぬるい」
「我が儘っす」
お爺ちゃんは文句を言いながら、団子を食べ、お茶を飲む。
「おまえさんが探しているものか分からんが、先日、刀を持った男が暴れ、騒ぎになった」
最後の団子を食べながらお爺さんは口を開く。
「ちょっとした騒ぎっすか?」
「怪我人も出ている」
「それで、その男はどうなったっすか?」
「知らん」
「知らないって」
「団子とお茶程度なら、十分だろう」
「それなら、他の物も買うっすよ」
わたしは店内を見渡して、ある物を見つける。
「これを買うっす」
わたしは投げナイフ5本セットを手にする。
「おまえさんなら、もっといいナイフが買えるだろう」
「使い捨て用の投げナイフは安物で十分っす」
「一言多い」
わたしはお金を払って、投げナイフ5本をアイテム袋にしまう。
「男が持っていた刀は、男が購入できるような刀ではなかったそうだ」
「どんな刀だったっすか?」
「さあな、俺も実際に見たわけじゃない。男がどこかで盗んで来たんじゃないかと言われているが、もう知ることはできない」
つまり、その男は死んだってことだ。
ここには国が管理する警備隊は来ない。
その代わりにここの治安を守る組織がある。
刀を抜いて、暴れれば、殺される。
「ただ今夜行われる競売に刀が出されることになっている」
「競売っすか?」
「さっきも言ったが、刀を持った男が暴れたことで怪我人も出ている。その怪我の補償として、刀を売って、怪我を負った者に渡されることになっている」
それじゃ、返してほしいと言っても、返してくれないっすよね。
そもそも、城から盗まれた妖刀と証明するものをなにも持っていないし、そんなことを説明すれば、足元を見られる。
ここは、そういうところだ。
だからと言って、盗むわけにはいかないっすよね。
盗めば、怪我人にお金が渡らなくなり、治療が受けられなくなる。
そもそも、その刀が妖刀とも限らない。
でも、妖刀の可能性もある。
面倒っす。
「もし、競売に参加するなら、これを持って行け」
そう言って、なにかを放り投げてくる。
わたしは受けとる。
「コイン?」
コインにはモグラの絵が彫られていた。
ここを仕切る者の紋章だ。
ここを仕切っている人物は、人殺し、薬物、人身売買など人の命に関わることは禁止にしている。
でも、盗品などは見逃されている。
珍しい魔物の素材、薬草、なども売っている。
ランクなど気にしない冒険者が売りに来る。
冒険者ギルドに引き取ってもらうより、高く引き取ってもらえるからだ。
闇ギルドとも言われている。
あまり、関わりたくない。
でも、そんなことを言っていられない。
「競売に参加するにはそれが必要だ」
「どうして、持っているっすか?」
「信頼がおける商売人は受け取っている」
「信頼……」
「なんだ。その目は? いらないなら返せ」
「冗談っす。でも、わたしに渡してもいいっすか?」
「騒ぎさえ起こさなければ問題はない。それと終わったら、ちゃんと返しに来い」
「了解っす」
ありがたく借りることにする。
わたしは競売の場所を聞き、店を後にする。
話だけは競売のことを聞いたことがあった。
競売所は10日に一度、行われる。
盗品、貴重な魔物の素材、珍しい植物、骨董品、様々なものが出品される。
だからといって、毎回掘り出し物が出るとは限らない。
競売は夜に行われるそうなので、それまでは情報収集を行うことにした。
お爺ちゃんの言うとおり、刀を持った男が現れ、人を斬りつけ、怪我人が出たそうだ。
その場を見た人が言うには、男に話しかけても、言葉はなく。
斬りかかってきたそうだ。
それで、ここを守る警備隊が現れ、殺したと言う。
それも、数人がかりだったと言う。
妖刀を持っている者を止めたことも驚きだ。
でも、警備隊にも怪我人がでたのことだ。
それじゃ、止めるには殺すしかなかった。
酔っ払いとも言われているけど、詳しい現状はわかっていないらしい。
もっと、詳しい話を聞きたいけど、警備隊に聞くわけにもいかない。
仲間だと思われて、治療費を請求されても困る。
わたしが取り逃した男っすかね。
妖刀の可能性が高くなったけど、面倒くさいことになった。
これも、わたしが取り逃したせいだ。
あのときに、ちゃんと捕まえていれば、男は死ぬことはなかった。
わたしが対峙した男でないことを祈るっすが、それはそれで別の妖刀ってことになって、面倒だ。
「はぁ」
一つの失敗が悔やまれる。
夜まで時間を潰したわたしは競売所に向かう。
わたしはフードを被り、顔を隠し、お爺ちゃんから聞いた建物にやってくる。
「ここっすね」
遠くから様子を窺っていると、数人が入り口の男にコインを見せて、中に入って行くのが見えた。
どうやら、このコインは入場許可書にもなっているみたいだ。
わたしは建物に向かい、扉の前に立っている男に近づくとコインを見せる。男はコインを見ると無言で扉を開ける。
わたしは、その開いた扉の中に入る。
もちろん、わたしが中に入ると扉は閉められる。
通路の先は細い一本道が続く。
途中で、扉が3枚あったけど、開いていた。
表の警備隊などの侵入を防ぐものだろう。
一本道を進むと、開けた場所に出る。
そこには受付みたいな場所があり、男が番号札を受け取っている。
周りを見ると、ほとんどの者が持っている。
どうやら、番号札でセリをするみたいだ。
わたしも受付に向かい、番号札を受け取る。
番号は15と書かれていた。
シノブ視点です。
オークション会場に向かいます。
※祝、900話です。もう、900話なんですね。1000話も見えてきました。(一年以上先になりそうですが
……)
ここまで読み続けてくださった読者様、ありがとうございます。
900話、時間にすると、とても長い時間になると思います。
その時間をクマという作品に使ってくださり、ありがとうございます。
まだ「くまクマ熊ベアー」という作品は続きますので、お付き合いしていただけると嬉しいです。
ブックマーク、評価、感想、そして、[累計]総合 - 52位ありがとうございます。
励みになっています。
これからもくまクマ熊ベアーをよろしくお願いいたします。
くまなの
※くまクマ熊ベアー10周年です。
原作イラストの029先生、コミカライズ担当のせるげい先生。外伝担当の滝沢リネン先生がコメントとイラストをいただきました。
よかったら、可愛いので見ていただければと思います。
リンク先は活動報告やX(旧Twitter)で確認していただければと思います。
※PRISMA WING様よりユナのフィギュアの予約受付中ですが、お店によっては締め切りが始まっているみたいです。購入を考えている方がいましたら、忘れずにしていただければと思います。
※祝PASH!ブックス10周年
くまクマ熊ベアー発売元であるPASH!ブックスが10周年を迎え、いろいろなキャンペーンが行われています。
詳しいことは「PASH!ブックス&文庫 編集部」の(旧Twitter)でお願いします。
※投稿日は4日ごとの22時前後に投稿させていただきます。(できなかったらすみません)
※休みをいただく場合はあとがきに、急遽、投稿ができない場合はX(旧Twitter)で連絡させていただきます。(できなかったらすみません)
※PASH UP!neoにて「くまクマ熊ベアー」コミカライズ公開中(ニコニコ漫画、ピッコマでも掲載中)
※PASH UP!neoにて「くまクマ熊ベアー」外伝公開中(ニコニコ漫画、ピッコマでも掲載中)
お時間がありましたら、コミカライズもよろしくお願いします。
【くまクマ熊ベアー発売予定】
書籍21巻 2025年2月7日発売しました。(次巻、22巻、作業中)
コミカライズ13巻 2025年6月6日に発売しました。(次巻14巻、発売日未定)
コミカライズ外伝 4巻 2025年8月1日発売しました。(次巻5巻、未定)
文庫版12巻 2025年6月6日発売しました。(次巻13巻、発売日未定)
※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。
900話、記念登録
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