返却の直後、アプリで「損傷を検出」の通知が鳴った。同氏は心配になり、シャトルバスを降りて荷物を全部持って駐車場に戻り、車両を確認したという。この件を報じたカー・スクープスに対して同氏は、「10年間ハーツを利用してきて、いつも車を良い状態で返してきました」と述べ、信頼関係を築いてきた同社への困惑を隠さない。

AIが指摘した損傷箇所を確認したところ、どう見ても無傷だったという。「まったく問題なかったんです。損傷など影も形もなかった」と同氏は述べている。その場でビデオを撮り、車の状態を記録したが、動画でも傷らしきものは何も見当たらなかった。

サポート体制にも問題があったようだ。従業員も上役もみな「AIスキャナーの問題だ」と責任逃れをし、カスタマーサポートに連絡するよう促したという。「請求について何の権限もない」と主張する彼らの態度からは、人間の判断が入り込む余地のないシステムであることがよくわかる。カスタマーサポートの電話担当者も「何もできない」と繰り返すばかりだった。

そればかりか、この利用者によれば、同じ車に前の利用者がつけた傷があったが、AIはそれを見逃していたという。これが本当なら、システムの信頼性そのものに疑問符が付く。借りる前からある傷を明確にできるシステムとは名ばかりということになる。

「この店舗は避けるべき」自衛策を迫られる旅行者たち

こうした状況を受けて利用者たちは、ネット上で盛んに情報交換をし、不当な請求から身を守るための自衛策を議論している。

IBタイムズ紙によると、レディットやフェイスブックなどのソーシャルメディアでは、顧客たちが「人間の目では見えないような小さな車両の損傷を見つけ出し、高額な料金を課している」と批判し、ハーツのボイコットを呼びかけている。

旅先の夕陽を楽しむ二人の女性
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カー・スクープスによると、レディットのユーザーたちはAIスキャナー設置の空港店舗のリストを共有し、入念すぎるAIチェックを回避する戦略について議論しているという。

対策用のアプリで護身するユーザーもいる。ニューヨーク・ポスト紙は、対策の指南記事を掲載。アップルのiOSユーザーであれば「Proofr」と呼ばれるAI搭載アプリを利用するよう勧めている。

機械学習でレンタル前後の車両の状態をチェックできるアプリで、自分で証拠を確保しておく手段として注目されている。ただしカー・スクープスは、こうした証拠をハーツが認めるかは分からないと注意を添えている。