なぜ日本の音楽が世界に広く届きはじめているのか。次々に世界で「日本人初」の快挙が続く背景。
今年は、海外の音楽シーンにおいて「日本人初」という言葉が使われるケースが非常に増えています。
象徴的な出来事と言えるのが、現在世界33都市を回っているAdoさんのワールドツアーが、既に世界24都市25公演でチケット完売となっている上に、「日本人初」となる約2万人を動員するパリ公演もソールドアウトしたということが日本でも話題になったことでしょう。
参考:Ado、日本人初となる約2万人を動員するパリ公演をソールドアウト 世界24都市25公演でチケット完売
実はこのAdoさんの快挙以外にも、5月30日にはBABYMETALがロンドンのO2アリーナで「日本人初」の単独公演を開催し、2万人のチケットをソールドアウトさせて話題になっています。
参考:BABYMETAL、ロンドンで2万人を熱狂させる。日本人史上初となる快挙の背景は
また、6月にはYOASOBIもロンドンのウェンブリーで、2日間のワンマンライブを開催し1.8万人を動員。さらにはスペインの音楽フェス「Primavera Sound Barcelona 2025」にて「日本人初」となるメインステージでのパフォーマンスを披露しているのです。
参考:YOASOBIが【Primavera Sound Barcelona 2025】メインステージに日本人アーティストとして初出演&自身初となるヨーロッパ単独公演のレポートが到着
日本人初の快挙が同時多発的に
4月には世界最大規模の音楽フェス「コーチェラ」でXGが3番目に大きなステージであるSaharaで「日本人初」のトリを務めたことも話題になりましたが、こうした世界における「日本人初」の快挙は複数のアーティストで同時多発的に発生するようになってきているのです。
なぜ急に海外で「日本人初」の快挙が次々に達成されるようになってきたのでしょうか?
これは一時的な要因ではなく、日本人アーティストの複数の取り組みが重なり合って同時多発的に生み出された現象であることが見えてきています。
大きなポイントとなる取り組みは下記の3点です。
■海外でのライブを通じてファンを増やす
■アニメ関連楽曲としてファンを増やす
■TikTokのバズを通じてファンを増やす
1つずつ順番に詳細な事例をご紹介します。
■海外でのライブを通じてファンを増やす
まず、日本人アーティストが海外のファンを増やす上で、最も基本的な活動であり重要な活動と言えるのが、海外でのライブです。
その象徴的な存在と言えるのがBABYMETALでしょう。
BABYMETALは2014年から10年以上、毎年のように世界中を巡るワールドツアーを実施し、着実にファンを増やしてきました。
特に昨年2024年は、ヨーロッパの大規模な音楽フェスに軒並み出演し、フェスでの観客動員も含めて101万人の動員を達成しています。
参考:「世界ツアー101万人動員」の快挙を成し遂げたBABYMETALに、日本の音楽業界が学ぶべきこと
また、今年「コーチェラ」に出演したXGも、デビュー直後から海外のフェスを中心に活動をして海外のファンを増やしてきたことで有名です。
その結果、昨年は初めてのワールドツアーで35都市を1年間でまわり、40万人ものファンをワールドツアーに動員することに成功しました。
参考:なぜXGは世界同時ヒットを成し遂げられたのか。日本の常識に縛られない新しいアプローチ
他にも新しい学校のリーダーズは、コロナ禍の最中にアメリカでの活動にシフトしたことで成功しましたし、最近ではTravis JapanやBE:FIRST、Number_iなど、多くの日本人アーティストがワールドツアーや海外のフェス出演を通じて海外のファンを増やす努力をしています。
海外のファンを増やしたいのであれば、当然ながら海外のファンの目の前で自分達のパフォーマンスを披露するのが、地道ながらも最も近道であると言えるわけです。
ただ、BABYMETALのような成功事例がこの10年なかなか増えなかったように、簡単な選択梓ではないことも事実です。
■アニメ関連楽曲としてファンを増やす
一方で、日本の音楽が世界に広がるルートとして、最も日本ならではのユニークなルートと言えるのがアニメです。
2023年にアニメ「【推しの子】」の主題歌としてリリースされたYOASOBIの「アイドル」が世界的なヒット曲となり、ビルボードの国際チャートで1位を獲得したことがその象徴と言えるでしょう。
参考:YOASOBI「アイドル」国際チャート1位の快挙に学ぶ、日本の音楽が世界で勝つ方法
なにしろいまや、「アイドル」のMVの再生数は、6.1億回を超えています。
また、今回世界33都市を巡るワールドツアーで50万人規模の動員を行うと言われているAdoさんが世界で確固たる人気を確立したのは、アニメ映画「ONE PIECE FILM RED」の効果が大きいと言われています。
実は今回のワールドツアーのチケット販売も、アニメ配信サービスのCrunchyrollが担っており、アニメファンの集客をベースに50万人の動員を可能にしていると考えられるわけです。
さらには、アニメ「チェンソーマン」の主題歌である米津玄師さんの「KICK BACK」がアメリカでゴールドディスクを獲得していますし、昨年世界中で大ヒットしたCreepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」もアニメ「マッシュル」の主題歌ですから、こうしたアニメと音楽の相乗効果は日本の音楽にとって非常に重要なルートと言えるでしょう。
■TikTokのバズを通じてファンを増やす
また、海外でのライブやアニメに加え、ここ数年重要性を増しているルートと言えるのが、TikTok上で話題になることです。
TikTok経由で世界で話題になった楽曲と言えば、何と言っても藤井風さんの「死ぬのがいいわ」が代表的なケースと言えます。
参考:藤井風「死ぬのがいいわ」の世界的ヒットは、日本のアーティストの海外への扉を開くか
この曲は2020年のリリースから2年後に、タイのTikTokユーザーの投稿が話題になったことがきっかけで、今も世界中で聞かれる楽曲になりました。
また、YOASOBIの「アイドル」やCreepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」もアニメの主題歌だった上に、TikTok上で話題になったことが、相乗効果で大きなヒットとなったと考えられています。
また最近では、千葉雄喜さんの「チーム友達」がTikTokで話題になったことがきっかけで、千葉雄喜さんがミーガン・ジー・スタリオンさんとコラボして「Mamushi」をリリースすることとなり、これまたTikTok経由で世界中で大きな話題になることとなりました。
参考:世界中を席巻する日本語ラップ曲「Mamushi」が示す日本音楽の可能性
さらにPSYCHIC FEVERは「Just Like Dat feat. JP THE WAVY」という楽曲のTikTokの総再生回数が2億6000万回を超えるなど大きな話題になったことで、世界中にファンが急増。
参考:PSYCHIC FEVER、初アメリカツアーで「J-POPの壁」越えられるか? LDH JAPANのグローバル戦略に迫る
アジアツアーはもちろん、今年に入ってアメリカツアーも成功させることができているようです。
TikTok経由の世界への広がりは、現在ならではの新しいルートと言えます。
単発のブームではなく、大きなトレンドになる可能性
こうした様々な取り組みによって生まれた日本人アーティストの海外での活躍は、そのアーティストの活躍がまた他のアーティストを刺激し、その刺激を受けたアーティストの活躍をまた他のアーティストが参考にする形で、もはや単発のブームではなく大きな流れとしてのトレンドになろうとしています。
象徴的なのは、日本人アーティストの米国大手レコード会社との契約が立て続いていることでしょう。
藤井風さんは2024年にRepublic Recordsと契約し、初の英語詞のアルバムとして9月にリリース予定のアルバムから、1曲目となる「Hachikō」をリリースし話題になっています。
また、BABYMETALは2025年4月にキャピトル・レコードとパートナー契約を締結、8月に4枚目のアルバムのリリースが控えています。
さらに今月に入って千葉雄喜さんがワーナーミュージックと包括契約を締結し、LAに移住することを発表。明確に「グラミーを獲る」と宣言をされています。
参考:千葉雄喜、武道館ワンマンは別次元の表現を─その後はグラミー賞を狙いにLAへ移住予定
米国の大手レコード会社も、現在の日本人アーティストに将来の可能性を感じているからこそ、次々に日本人アーティストと契約をしていると考えられるわけです。
グラミー賞が2025年の「J-POPの世界的ブーム」を予想
実は、今年の初めにはその当のグラミー賞のウェブサイトで、2025年の音楽トレンド予想の筆頭に「J-POPの世界的ブーム」があげられていました。
参考:「2025年はJ-POPが世界的ブームに」 レコーディングアカデミー、音楽トレンド5つを予測
そういう意味では、今年に入っての日本人アーティストの世界での活躍は、予想通りだったということも言えるかもしれません。
こうした日本の歌が世界に広がるトレンドは2024年から見えてきていましたが、その流れは2025年に入って明らかに加速していると言えます。
参考:2024年は、「日本語の歌」が世界に拡がり始めた年として、音楽業界の歴史に残る年になる。
実は日本の音楽が今まで世界に広がっていなかったのは、明らかに日本の音楽業界のCD偏重の時代が世界よりも長く続いてしまったため、配信サービスなどのデジタルシフトが遅れた影響だったと考えられています。
サブスクと呼ばれる音楽の配信サービスの普及により、音楽の世界からは文字通り言語や国境の壁が消えようとしているのです。
今年は、日本の音楽団体が業界の垣根を越えて団結し、国際音楽賞「MUSIC AWARDS JAPAN」を開催し、その動きを政府も支援するほか、トヨタやNTTドコモなど日本の大手企業もスポンサーに名乗りを上げるなど、日本全体がこの流れを加速しようと支援する動きも生まれています。
参考:YOASOBIや藤井風に学ぶ、アワードと連動して日本の音楽を世界に拡げるために必要なこと
世界におけるJ-POPの可能性は、まだ広がりはじめたばかりと言えるかもしれません。
これからも日本人アーティストによる「日本人初」というタイトルの海外での活躍のニュースをたくさん目にすることになりそうです。