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「初代ぷよぷよ」と「ポラリスコード」が共存する田舎の小さなゲームセンター「テクノワールド」の生き残り戦略

最近、ゲームセンターの数が減っていると感じているのは私だけでしょうか。

2025年現在、アミューズメント業界は衰退傾向にあります。私が暮らす岩手県内でも、近隣のゲームセンター2店舗が閉店してしまいました。

そのような状況のなか、奮闘しているのが岩手県奥州市にあるゲームセンター『テクノワールド』。最新ゲームからレトロなビデオゲームまで楽しめ、老若男女のゲーム好きが集う場ですが、2016年には閉店の危機を迎えたことも…。

今回はそんなテクノワールドで12年間たった一人で運営を続けてきた店長の久保智晴さんにインタビュー。ゲームセンターの数が減少していくなかで、どのような取り組みをしているのか、お話を伺いました。

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ゲームセンター テクノワールド
岩手県奥州市江刺区にある小さなゲームセンター。昔ながらのビデオゲームや最新の音楽ゲームまで数多くの筐体(きょうたい)が設置されている。1992年から稼働している「ぷよぷよ」から2024年にサービスを開始した「ポラリスコード」がある。
X / YouTube

大手が注力する「プライズ」はあえて置かない。その理由は?

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「クロスビーツ」と「グルーヴコースター」

――テクノワールドは、大手と比べると比較的「小さなゲームセンター」という位置付けになるかと思います。そんなテクノワールドがこだわっている部分を教えてください。

久保さん:
最新のゲームだけでなく、あえてレトロなビデオゲームも残しているところです。

令和になって、多くのゲームセンターでは、レバーとボタンで操作する「ビデオゲーム」タイプからクレーンゲームなどの「プライズ(景品)」タイプに切り替えています。

ただ、うちのような田舎の小さなゲームセンターでプライズを導入すると、お店側がマイナスを抱えることが多いんです。キャパシティも小さいし、お客さんの数もそこまで多いわけではない。場合によっては1人の方がすべての景品を取っていくこともあります。

田舎のゲームセンターは、そんな需要と供給のバランス問題を抱えている場所です。それなら、テクノワールドはあえて「プライズ」を導入せず、むしろ古いものを大事に使う方針でいいんじゃないかなと考えました。

――なるほど。リスクを逆手にとったことで、レトロなゲームが残るようになったんですね。

久保さん:
「ダンスエボリューション」や「グルーヴコースター」、「クロスビーツ」などはオンラインサービスのゲームですが、現在はサービスが終了しています。でも、オフラインでしか遊べなくても、そのゲームをやり続ける人だっているはずなんです。たとえ新曲が増えなくても、スコアで競えなくても。そんなゲーマーのためのゲームセンターがあってもいいんじゃないかと思いました。

「なぜサービスが終了したのにこのゲームを入れたんだ!?」というような話題性のある機種も取り入れたことで、新旧が融合する今のテクノワールド独自の空気感ができあがりました。

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「ParaParaParadise」と「beatmania complete MIX(5鍵)」

――テクノワールドに足を運ぶと「隠れ家に来たみたいで落ち着くな」と感じるのは、この独特な雰囲気によるものなんですね。

久保さん:
テクノワールドは、いにしえのゲーマーが集まるようなゲームセンターなので、ゲーム機のみならず、お客さんも込みで雰囲気が醸成されていますし、岩手県という風土も加味されていると思います。

関東圏のゲームセンターでも店長を経験したことがあるのですが、お客さんの数も多く、出入りも激しいので、つねにせわしない空気が流れていました。その点、岩手はまったりした空気が流れているように感じられます。

お客さんの数が多いといたずら対策も必要になってくるのですが、ここではお客さんを信じて営業しているので、そんなところも影響していると思います。

閉店の危機を救ったのは、一人のお客さんの声だった。

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――久保さんはテクノワールドをお一人で運営されていると聞きました。ゲームセンターを個人で経営をしようと思ったきっかけを教えてください。

久保さん:
14年ほど前まで、テクノワールドは別の会社が運営していました。それがある日、当時の社長から「電気代が高すぎて筐体が買えないから、店を畳もうと思う」と聞いて。いちゲーマーとして、「奥州市にボタンとレバーがついているゲームがあるゲームセンターが減るのは嫌だなぁ」と思ったんです。私自身、ずっとそういうゲームで育った人間だったので余計に寂しさを感じてね。

そこで、「辞めるんだったら、ぼくが筐体を買い取って続けます」と打診して、江刺区へ移転し、テクノワールドを続けることになったんです。

――それから12年間、運営を続けてきたのですね。運営するなかで、印象的だった出来事はありましたか?

久保さん:
2016年に閉店の危機に陥ったとき、「『テクノワールド』存続に関する大切なお知らせです。拡散をお願いします。」という内容をSNSに投稿し、大きな話題になったことですね。実は、このSOSを出すきっかけをくれたのは一人のお客さんだったんです。

当時は窮地に陥っていて、電気代も払えずに家賃も数ヶ月滞納している始末。筐体すべてを稼働することすら惜しんでいたので、廃墟のように薄暗い状態で運営していました。

そんななか、伸び悩んでいるアミューズメント業界や、ゲームセンターそのものに対して嫌気が差し、「この現状で、Twitter(現:X)になにを発信するんだよ…」と卑屈になっていたんです。

でも、そのお客さんが「とにかく現状をSNSで発信してみましょうよ」と言ってくれました。正直、助けを求めるのは禁じ手だと思っていました。それでも何とかしてゲームセンターという場所を残していきたかったんです。

この投稿をきっかけに、テクノワールドはニュースに取り上げられ、想いを受け取ってくれた方に支えられながら何とか今も運営を続けられています。

――全国のゲームを愛する人たちが、テクノワールドを繋げたんですね。

久保さん:
そうですね。それからは、ありのままの想いを包み隠さずに投稿できるようになりました。

今では、「なんで閉店間際なのにbeatmaniaⅡDXのダウンロードが7%なんだよ!KONAMIさんどうなってるんだよ!」とか、流行りの「エッホエッホ」に乗っかったりして(笑)。「面白いことを言うやつがいるゲームセンターだな」と思ってもらえたら、とXの発信を続けています。

YouTubeでも「麻雀ファイトガール」や「ボンバーガール」の配信をしているのですが、始めるきっかけをくれたのもこのお客さんです。彼には「発信の可能性」を教えてもらいましたし、彼がいなかったら、今のテクノワールドはなかったですね。

ユーザーの声が巡りめぐって、ゲームセンターを支える力になる

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格闘ゲームの金字塔「ストリートファイター」シリーズの
最新作「ストリートファイター6 タイプアーケード」

――全国的にゲームセンターの数は日に日に減少していますよね。店長さんは、アミューズメント業界をどのように見ていますか?

久保さん:
新しいものを作り出す動きが停滞しているように感じますね。

昔はビデオゲームの参入障壁が低かったため、新規参入しやすく星の数ほど新しいゲームが出ていました。でも今は、昔ほど新しいゲームは生まれません。1つの筐体に対して1つのゲームしか入らない状況です。

ゲームセンター側も、メーカー側も、「このゲームは当たるだろうか?」とガチャを毎回引いてるような状態かもしれませんね。

ーーユーザーである私たちにできることはあるでしょうか?

久保さん:
改善が必要な点は、ユーザーのみなさんが声をあげてメーカーに届けてほしいです。「こうしてくれたらおもしろい!」「この部分を改善してくれたら、もっとやりたくなる!」といった声を届けることで、ゲーム業界に新しい動きが生まれると思います。

裏を返せば、ユーザーの支えがない筐体はすぐに姿を消してしまう可能性もあります。長く愛されつづけるゲームが生まれれば、ゲームセンター側も「これは売り上げが立つんだ!」と気がつくことができますから。

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全国のゲーマーのみなさん、ぜひ…!

――今後、テクノワールドをどのような場所にしていきたいですか?

久保さん:
今まで通りです。私の体力と気力が続く限り、奥州市にみんなが集まれる場所を残しておきたい。その気持ちはここにゲームセンターを作ったときからなにも変わっていません。

とはいえ、現在も経営が厳しい状態は続いているので、テクノワールドの存続にはみなさんのお力が必要です。あと10年はがんばりたいです!

私に限らず、個人でゲームセンター経営している人たちもきっとギリギリの状態だと思います。いい意味で頭のねじが2、3本外れていないと続けられない仕事なんですよ。「大変ななかで頑張ってくれているんだな」ということが少しでもみなさんに伝わったら嬉しいです。

――最後に、テクノワールドにまだ行ったことがないゲーム好きの方に一言メッセージをお願いします。

久保さん:
あるうちに来て!!

10年後、テクノワールドを続けられているか実際のところわかりません。ゲームセンター自体がなくなるという話もそうですし、みなさんが推しているゲームをテクノワールドに置いておけるかという話にもなってくると思います。

「推しゲーがテクノワールドにあるぞ。これは訪問せねば!」と思ったときにぜひ足を運んでください!

・・・

店長の久保智晴さんのお話から、存続の危機に陥りながらも現在まで経営を続けられたのは、店長さんの努力とお客さんの協力があってこそ!ということに気づかされました。

私自身もゲームが大好きなので、これからもテクノワールドに通い詰め、支える力のひとつになりたいです。

岩手県奥州市江刺区にある小さなゲームセンター『テクノワールド』。もしかしたらみなさんの好きなゲームが、ここにあるかもしれません。

ゲームセンター テクノワールド
住所:〒023-1131岩手県奥州市江刺区愛宕梁川127-1
営業時間:平日17:00~24:00  休祝日13:00~24:00
アクセス:JR水沢駅より徒歩1時間12分
(XのDMへのご連絡で店長が送迎可能)
〈取材・文=toraco/編集=はせがわみきいしかわゆき

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コメント

3
mash
mash


お疲れ様です。素敵な記事を読ませて頂きました。
音ゲーマー、レトロゲーマーの間でよく話題に上がるテクノワールドですがインタビュー記事は初めて見たので新しく知れたエピソードが沢山あってとても楽しかったです❣️

toraco@感想を書くひと
toraco@感想を書くひと

mashさん!
noteを読んでくださりありがとうございます!!🫶🫶

私もインタビューをしていて初耳情報がたくさんあったのでびっくりしました!
少しでも多くの方にテクノワールドの情報を知ってもらえると嬉しいですね!🥰

昔はゲーセンたくさんあったのに、ほんとなくなりましたね。
手軽なスマホアプリや家庭用ゲーム機、オンラインゲームとは違う魅力を引き出して存続して欲しいと思います。
eスポーツやイベントと連動してやるとか。

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「初代ぷよぷよ」と「ポラリスコード」が共存する田舎の小さなゲームセンター「テクノワールド」の生き残り戦略|toraco@感想を書くひと
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