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『タコピーの原罪』に見る“罪”と“夢”――タイザン5作品に通底する構造

2022年に『少年ジャンプ+』で連載され、大きな反響を呼んだタイザン5先生による『タコピーの原罪』

無邪気な異星人・タコピーと、心に深い傷を抱えた少女・しずかちゃんの交流を描いた作品です。

その見た目のかわいらしさとは裏腹に、善意が悲劇を招くこの物語の構造は、読者に強い問いを投げかけます。

本記事では、この『タコピーの原罪』という作品が内包するあるひとつのテーマ──
「無知は罪なのか?」という問いに焦点を当てて読み解いていきたいと思います。

「知らなかったこと」は、罪なのか。
「知ろうとすること」は、救いになるのか。
そして、「わからないままでも、誰かと生きていく」ことは可能なのか。

本作は、現代社会──とくにソーシャルメディア時代に生きるわたしたちに問いを投げかけているように感じました。



①「無知」と「無垢」は罪なのか?

『タコピーの原罪』において、もっとも印象的なのは、「無知」「無垢」に対する罪の意識の強さです。

物語の中心にいるタコピーは、その存在自体が「無知」や「無垢」の象徴ともいえるキャラクターとして描かれています。

彼は、子どもの落書きのようなデザインを持ち、語尾に「〜だっピ」とつけて話す、かわいらしいような、それでいてどこか苛立ちを感じさせるような存在として登場します。

そして、タコピーは悪意を持って行動しているわけでは決してありません。むしろ純粋で、相手を思って、よかれと思って行動している。しかしその善意の行動が裏目に出てしまい、事態を悪化させたり、取り返しのつかない悲劇を招くこととなる。

このような善意が悲劇を引き起こすという構造からは、「無知は罪である」という思想が物語に、そして現代社会の背後に存在しているということが言えるのではないでしょうか。



本作では、物語が進むにつれて、タコピーだけでなく、しずかちゃん、まりなちゃん、あずまくんたちの過去や背景が徐々に明かされていきます。

最初は単純に見えた彼らの人物像が、次第に複雑に、立体的に描かれていくというストーリーラインは、他者を「知っていく」という構造そのものです。

このような構造は、読者に対して深く刺さるものがあります。

それは、「何も知らないままでいてはいけない」「バカのままでは許されない」という、現代的な強迫観念に近いものです。ソーシャルメディア社会において、私たちは「知らなかった」という状態そのものを非難される場面に数多く出会います。

現代では、知識や情報そのものを持ち得ていなかったり、あるいは時代に即した倫理観や価値観をインストールしないままでいること自体が、大きなリスクとなりえます。とりわけSNSのような空間では、そうした“無知”や“無垢”が瞬時に断罪の対象となり、炎上へとつながってしまう。

私たちが「炎上」から目を離せずにいる理由は、単なる野次馬根性からではなく、「同じことをしたら自分もこうなるかもしれない」という恐怖がどこかにあり、その“罪”の構造や力学を「知らなければいけない」という防衛本能がはたらいているからなのかもしれません。

本作はまさに“無知は罪である”というテーマを、あるいはその“「無知」に対する恐怖と処罰感情”を描き出しているのではないでしょうか。



②「無知」による加害と被害

読者は当初、タコピーの行動を愚かで滑稽なものとして受け止め、その未熟さに失望することとなり、ときに怒りさえ覚えるかもしれません。

しかし、その感情は物語が進むにつれて、やがて自分自身への問いに変わっていきます――「私たちもまた、何も知らずに、他者を断罪してはいなかったか?」と。

しずかちゃんやまりなちゃん、あずまくんたちの過去が明かされるたびに、読者は「自分もまた無知だった」と気づかされ、「もっと知りたい」「理解しなければ」という気持ちに駆られます。それゆえに物語から目を離すことができなくなる。

そうして作品内では、「悪いのはまりなちゃんだろう」「いや、彼女も被害者だった」「本当に悪いのはしずかちゃんでは?」「いや、彼女もまた被害者で」といった価値観の転倒が幾度となく繰り返されます。

それは、現代のソーシャルメディア社会における“加害者を断罪したい"という欲望と、“自分もまた加害性を孕んでいるのでは"という怯えの往復運動と似ているのではないでしょうか。

だからこそ、本作に登場する“無知は罪”という主題は、単なる物語の構造を超えて、私たちの現実と密接にリンクしているように思えるのです。


また、こうした構造はタイザン5先生の次作『一ノ瀬家の大罪』にも共通して見られます。

『一ノ瀬家の大罪』では、交通事故によって「記憶喪失=無知」の状態に陥った一家が、その記憶を取り戻していくという筋書きになっています。

彼らは、自分たちが事故の以前はどんな人間だったのか、なぜこのような状況に陥ったのかを、一つずつ「知っていく」過程が描かれます。

そこには、「すべてを知らなければいけない」という焦燥感と、「すべてを知ることができれば問題を解決することができるはずだ」という願望が共存しているのかもしれません。


③タイザン5作品に共通する「現実と夢(虚構)」というテーマ

さらに注目すべきは、タイザン5先生が描いている「現実と夢(虚構)」というテーマです。この主題は、『タコピーの原罪』以前の過去の読み切りにおいて何度も反復されていました。

たとえば、『ヒーローコンプレックス』では、漫画家として「夢」を叶えた弟と、しがないサラリーマンとして「現実」を生きる兄の対比が描かれています。


また、『キスしたい男』では、「アンジェリーナ・ジョリーとキスする」という荒唐無稽な「夢」を見ることで、過酷な「現実」から逃れるための拠り所として生きる男が主人公でした。


さらに、『同人政治』では、漫画という「虚構」を通して、政治という「現実」を変えようとする若者たちの姿が描かれており、そこでも「虚構と現実の交差点」が存在していました。


これらの作品に共通しているのは、「夢(虚構)」と「現実」は決して対立するものではなく、むしろお互いに影響を及ぼし合い、簡単には切り分けることのできないものとして描かれているという点です。

「夢を見るからこそ、現実とのギャップに苦しむ。しかし、夢や虚構があるからこそ、現実の中で希望を持って生きることもできる。」タイザン5作品は、そうした夢と現実の相互依存性の中で、人間がどのように生きるかという命題を繰り返し問いかけています。


④「タコピー」という虚構

では、本作『タコピーの原罪』における「現実と夢(虚構)」とは、何を指しているのでしょうか。

それは、タコピー自身がまさに「夢(虚構)」の存在であるということです。

彼は「ハッピー星」から来たという荒唐無稽な設定で、彼のもつ「ハッピー道具」もまた子供の夢想のようなものです。

タコピーの存在によって、しずかは一時的に希望を持ち、前を向くことができました。けれど同時に、彼の存在がさらなる不幸や悲劇を招いてもいます。夢=虚構は人を救いもすれば、傷つけもする。


物語の終盤、しずかがタコピーに向かって「どうすればよかったのか」と問い詰めるシーンがあります。

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それはタコピーに対する責め立てのようでありながら、同時に読者自身に向けられた問いかけでもあります。「お前があの時ああしなければ、こうはならなかった」と思っていた読者に対して、彼女はその刃を突き返しているようにも見えます。


そして、その問いに対してタコピーが返した答えは「わかんないっピ…」でした。

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これは非常に重要な転換点です。それまで物語を動かしていた「知らなければいけない」という強迫観念に対して、ここで初めて「わからないことをわからないまま引き受ける」という態度が提示されるからです。

すべてを知れば答えが出るはずだった。でも、すべてを知ってもなお、「どうすればよかったのか」はわからなかった。

そのときタコピーは、自身の罪を認め、「ごめんね」と謝罪し、しずかと一緒に時間を過ごすことを選択します。

ここには、自らが「無知である」という“罪”、そして「すべてを知ることができればうまくいくはずだ」という思い違いもまた“罪”であったとして認めた姿が表れているのではないでしょうか。

つまり、知ることそのものには限界があり、むしろその限界を受け入れた上で他者と関係を結ぶこと――その態度こそが、救済や共生の第一歩なのだということを、このシーンは静かに示しているのかもしれません。


⑤おわりに_「おはなし」とは何か?

そして彼は、「おはなしがハッピーをうむんだっピ」と語ります。

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この「おはなし」には、前述したような「物語=虚構(fiction)」としての意味だけでなく、「対話(conversation)」としての意味も込められているように感じられます。

人は物語を通じて他者とつながり、対話を重ねることで少しずつ他人を理解していく。すべての人々が、加害者であり、被害者であるということ、何らかの"罪"を抱えながら生きているということ。

そこには、現実と夢のあいだで揺れる私たちが、完全な答えに辿り着けなくても、「ともに生きていく」ために必要な“祈り”が込められているように思えるのです。

最終話のラスト、まっしろな見開きページの中で、「ありがとう」「バイバイ」と読者に向かって語りかけるタコピー=虚構の姿は、そのままこの物語そのものの終幕であると同時に、この『タコピーの原罪』という作品から、読者への“別れの挨拶”でもあります。

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けれどそれは、決して絶望的な別れではなく、私たちが現実を生きていくために、“物語”が与えてくれるほんのわずかな光を抱えて、それでもなお前に進んでいくことを促す、静かな励ましのように感じられるのではないでしょうか。


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