コメントをありがとうございます。文末にも書いたように法律の専門家ではないので細部には立ち入りたくなかったのですが、少なくとも本と出版に関しては一定の専門性をもって身を置くものとして「いい加減なこと」を申し上げているつもりはありませんので、大変恐縮ながら、少し補足をさせていただきます。
(以下、法律の専門家の方がご覧になられていたら、間違いはぜひご指摘いただきたいです。また、元ポストが多くの批判を受けているので、同意いただける方にはその旨もお知らせいただけると心が安らぎます……)
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あるときまでは、むしろ自分も「業界の商慣習のほうが法律に則っていなくて許諾を取るのが正しい」と思っていました。ですがその後、引用の要件というのは必ずしもそんなに白黒はっきり分かれるものではないと知りました。
著作権法において、他人の著作物を許諾なく利用することはできません。引用とは、その原則に対する例外です。以下の、引用の要件を満たせば、許諾なく利用することができます。
・引用部分が公表された著作物であること
・引用部分と自己の著作物の区分が明瞭であること
・自己の著作物が「主」であり、引用部分が「従」であること
・「引用の目的上正当な範囲内」であること
・出所を明示すること
・改変など、引用部分の著作者人格権を侵害しないこと
おっしゃる通り、書影にも著作権があります。
ですが同時に、書影は著作物としては扱いが難しい領域にあるとされます。それ自体が著作物であると同時に、本の内側に印刷された別の著作物を紹介するための付随的なパッケージ画像としての側面があるからです。
ですので、自分の出版物に他の本の書影を載せようという人にとって、法的に確実で無難な手続きとしては「(引用の要件を満たすか微妙なところなので)許諾を取る」ということになるはずだと思います。
自分がもし今回話題になっているような本を編集していたとしても、許諾を取るでしょう。それは上記の、法的に引用の要件を満たすか不安だからということに加え、制作者への礼儀として、人と人のあるべきコミュニケーションとして、そうしたいと考えます。
とはいえ、そのこととは別に、今回のケースにおいて、書影の使用が引用の要件を満たすかどうかというのは、裁判でそれなりの議論の積み上げが必要となるような領域であるはずです。
自分が申し上げたのは、そのようなグレーな領域にあるものを、専門外の人間が一方的に権利侵害だと決めつけて騒ぐことは、ほかの活動を委縮させるからあまりよくないのではないか、ということです。
委縮させる対象はもちろん、出版社だけではありません。むしろ自分が念頭に置いていたのは、ZINEの制作者のほうです。たとえば、今回この本に掲載されているZINEの中にも、著作権法上の許諾が必要なものを、許諾を取らずに掲載しているものが含まれている可能性は十分にあります。たとえば自分が過去に作ったものが不安で、今回のこのX上での様々な人の意見を見ながら、心を傷めているZINEの制作者の存在を想像しながら、このようなことを書いています。
ですが、ここはたいへん言い方が難しいですが、誤解を恐れずにいえば、ZINEというカルチャー自体、元をたどれば、ときに著作権的にはグレーな表現をしながらも、自分が好きでたまらない対象の魅力を伝えたいという気持ちから生まれてきた歴史を持つものであり、それがゆえに自由な魅力にあふれ、文化をつくってきたものだったはずです。自分はそのすべてを全否定する気持ちにはなれません。
もちろん時代は進んでいますし、なにより今回の件は、関係が逆転しているという問題があります。商業出版側がZINEの魅力を紹介することで、しかもその許諾が雑であることが叩かれている、その気持ち自体はもっともです。ですが商業出版物とZINEの間に法的な基準の差が設けられているわけではありませんし、出版流通に携わるものとして、2025年現在、そもそも両社の間に明確な線を引くことも難しいと考えます。
著作権法の一行目には「著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする」とあります。ただ権利を保護すればよいということではなく、文化の発展に寄与するためにさまざまな工夫がなされていて、だからこそ親告罪になっています。著作権者以外の人が過度に振りかざしてしまうと、かえって利用や創作が委縮するリスクがあるということです。
ましてや、著作物でもありパッケージでもある書影という難しい領域にあるものについて、業界の商慣習がよくない、すべて許諾を取るべきだ、という了解が拡がりすぎてしまうと、書評などはもちろん、書店が大きく印刷してPOPに使うことから、SNSで写真に撮って「この本おすすめ!」というような紹介にまで、不安が広がりかねないと考えます。それを防ぐためにこそ、書影の許諾については弾力的な運用がされているというのが自分の見解です。
とはいえ、繰り返しになりますが、もし自分だったら今回の件は許諾を取ります。連絡先を探すのはそれほど難しくないものばかりなので、さすがに表紙に使うならひと声かけようよ、と思います。それは上記の件とはまた別の、より倫理的な問題だという認識です。
Quote
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@DrVAN_Helsing
内沼さん、影響力あるからいい加減なこと言わないで欲しいな…。
この件、自分も昔興味を持って調べたんだけど、書影は独立して著作権を持つから許諾とる必要があるんだよね。
こちらは業界の商慣習の方が法律に則っていなくて許諾を取るのが正しいです x.com/numabooks/stat…