性別変更の外観要件は「違憲」 性同一性障害特例法めぐり札幌家裁
出生時に決められた性別と性自認が異なるトランスジェンダーの人たちが、戸籍上の性別を変更する際、性器の外観も変えるよう求めている性同一性障害特例法の規定が違憲かどうかが争われた家事審判の決定で、札幌家裁(佐野義孝裁判長)が「違憲で無効」とする判断を示した。
19日付。「外観要件」と呼ばれるこの規定を違憲とする司法判断が明らかになったのは初めて。
特例法をめぐっては、最高裁が2023年、卵巣や精巣の切除を求める「生殖不能要件」は違憲で無効とする決定を出し、「手術なしの性別変更」に道を開いた。今回の決定では新たに、外観要件のためにホルモン投与を求めることも違憲と判断された。ほかの裁判所の判断を縛る法的な拘束力はないが、同様の審判や法改正の議論に影響を与える可能性がある。
「身体治療」なしで性別変更を申し立て
申立人は30代のトランスジェンダー男性=札幌市=で、経済的事情などからホルモン投与や性別適合手術を受けることが難しい。今年2月、身体治療なしで戸籍上の性別を男性に変更するよう家裁に申し立てた。
申立人は、最高裁が無効とした生殖不能要件を除く四つの要件のうち、「18歳以上」「現在、婚姻していない」「現在、未成年の子がいない」の三つは満たしており、残る外観要件は違憲・無効と訴えた。
「外観要件で混乱を避ける必要性、相当低い」
決定は、23年の最高裁決定を引用し、法令上も性自認通りの取り扱いを受けることは「個人の人格的存在と結び付いた重要な法的利益だ」と指摘。これを踏まえると、手術やホルモン投与を受けることが必要な外観要件は、憲法13条が保障する「身体への侵襲を受けない自由」を制約していると述べた。
そのうえで、制約が許されるほどの必要性があるかを検討した。この要件は、公衆浴場などで性器が人目に触れると「社会生活上混乱が生じる可能性がある」などとして設けられたと説明。しかし、▽多くの当事者は公衆浴場の利用を控えるなどしており、混乱が生じることは極めてまれ▽戸籍上の性別が変わっても、変更後の性別で公衆浴場などを利用できるとは限らず、問題は浴場などの利用ルールで対応できる――とし、外観要件によって混乱を避ける必要性は相当低いと判断した。
「医学的な合理的関連性なくなった」
さらに医学的な知見が進み、身体治療が必要とは限らないとされるようになり、「医学的な合理的関連性がなくなった」と認定。外観要件は「身体の侵襲を受けない自由」を過剰に制約し、その程度は重大だとして違憲と結論づけ、申立人の性別変更を認めた。
性別変更の家事審判では、民事訴訟のように対立する当事者がいないため、決定はこのまま確定する。
最高裁は23年の決定で、生殖不能要件を違憲で無効と判断する一方、外観要件については審理を広島高裁に差し戻した。同高裁は24年、外観要件について、手術が必須なら違憲の疑いがあると判断したが、ホルモン投与の必要性は容認していた。
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いわゆる外観要件それ自体は一応残存していたとはいえ、ここ数年の間に実務上は事実上形骸化していた。 性別適合手術を経ないまま法律上の性別変更にいたるトランスジェンダー当事者は既に一定数存在しており、今後も増えていくことが見込まれる。 そして次の課題は、「身体的特徴は元の性別のまま法的に性別変更した人」を様々な場で実務上どう扱うことが合理的か、という点へと既に移行したといって良いだろう。 しかし、その点については、当事者や専門家の間でさえ未だ驚くほど議論がなされていない。 外観要件との関係において合理的な調整が必要となるのは、実は公衆浴場だけではない。 宿泊施設、更衣室、刑事施設、あるいは同性介護の原則がある介護の現場などだ。 これらの場の運用について、全て「法的性別」の通りに扱うことに無理があることは、想像すれば容易に分かることだろう。 そういう議論をすると決まって出てくるのは、「個別具体的な対応」とか「合理的配慮」といった言葉だが、抽象的に語るのは簡単でも、具体的な現場での調整は極めて難しいことがある。 当事者の思いやプライバシーと、周囲の環境とがぶつかったときに、何をもって「合理的」といえるのだろうか。 あるいは、現場で誰がどのように判断するのだろうか。 残念ながら、トランスジェンダーへのヘイトを煽る側ばかりがこうした点を強調して問題視するが、私に言わせれば、そのような懸念それ自体はヘイターに限らず社会にうっすら存在しているし、一部では既にコンフリクトも生じている。 外観要件の廃止を求めてきた側こそ、こうした課題に対して正面から向き合い、きちんとアンサーする必要があるのではないだろうか。
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