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作:綾小路君をTSヒロイン化した作品がみたい
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27話


 ついにやってきた体育祭本番の朝。

 全校生徒がジャージ姿で整列し、晴れやかな空の下を歩いてグラウンドへと入場していく。

 

「よーし、決めたぜ!俺が最優秀選手になって、もらったポイントで祝勝会をやろうぜ!」

 快活な声で張り切るのは柴田だ。「いいぞ柴田ー」「かっこいい!」などと歓声があがり笑っていた。

 

 一方で、俺はこの独特の雰囲気に少し緊張しながらも列に加わって歩いていた。

 

 

「神楽坂くん、もしかして緊張してる?」

 隣にいた一之瀬が、ふっと笑う。

 

「少しそうかな。 でも、昨日から楽しみでもあったよ」

「そっか。……うん、とりあえず命いっぱい楽しもうね!」

 

 行進は粛々と進み、やがて開会式が始まる。

 全校生徒が向かい合うように並び、3年Aクラスの生徒代表が開会宣言を行った。

 

 

 

 

 

 開会式が終わり、いよいよ最初の競技――100メートル走が始まった。

 

 1年生の男子から順番にスタートし、組ごとに呼ばれた生徒たちが走っていく。

 

 俺の出番は8組目。準備を整えて、呼ばれるのを静かに待った。

 

 そして――スタートラインに立つ。

 

 深呼吸を一つ。前を見据える。

 

「よーい……!」

 

 合図とともに地面を蹴り、加速する。

 

 風を切る感覚。足の運びは軽く、自然とスピードが乗る。

 

 周囲の様子は目に入らなかった。ただまっすぐに、ゴールテープを目指す。

 

「……1位、神楽坂くん!」

 

 アナウンスの声に、周囲が軽くどよめいた。

 

 特別派手な走りをしたわけじゃない。でも、結果はきっちり残せた。

 

 テントに戻ると、柴田が親指を立てて笑っていた。

 

「おおっ、さすがだな神楽坂! これでリレーも期待できるな!」

 

「まだ始まったばかりだしな。気を抜かずにいこう」

 

 そう返しながら、俺は空を見上げた。

 

 体育祭は、まだ始まったばかりだ――。

 

 

 

 

 

 

 続く二つめは、ハードル走だ。

 

 事前に聞かされていた通り、スピードだけでなく正確さも求められる競技。ハードルへの接触や転倒にはタイムペナルティが課されるため、バランス感覚が重要になる。

 

 スタートラインに立った俺は、深く息を吸って静かに集中を整える。

 

 「位置について――よーい!」

 

 合図とともに飛び出す。地面を蹴る感触、風を切る音、目の前に迫るハードルをリズムよく越えていく。

 

 一度も接触せず、スムーズにすべてを跳びきって――そのままフィニッシュ。

 

 「神楽坂くん、1位! ペナルティなし!」

 

 一之瀬の明るい声が聞こえる。何人かが「おお」と声を漏らした。

 

 俺は軽く手を上げて応えると、すぐに列から離れた。

 

 これで二競技連続の1位か。けれど、満足するにはまだ早い。今からが本番だ。

 

 

 

 

 

 

 

 ――そして、三つ目の競技『棒倒し』が始まろうとしていた。

 

 人数と力がものをいう、いわば総力戦の団体戦。

 

 俺たちBクラスとCクラスは白組として連携し、赤組――DクラスとAクラスの連合とぶつかる。

 

 開始前、俺たちはテント裏にある待機エリアで、Cクラスのメンバーと合流した。

 

 前を歩いてきたのは、龍園翔。いつものようにニヤついた顔で俺を見据えてくる。

 

「おう神楽坂。いい天気だなぁ。殺し合いにはもってこいだ」

 

「……さすがに比喩が物騒すぎる」

 

「ククッ。冗談だ。まぁ、今日はお前らと仲良くしてやる日だしな」

 

 龍園はわざとらしく肩をすくめると、気づいた神崎も合流する。

 

「で、Cクラスはどうするつもりだ? 合理的なのはクラスで攻めと守りの役割をこなしたほうがいいだろう、どっちを選ぶ?」

 

 神崎が一歩前に出て、落ち着いた口調で尋ねる。

 

「ククッ、そうだな俺たちCクラスが攻撃をしてえな。つーわけでお前らは防御だ、倒されんじゃねえよ」

 

「了解した。そちらこそ今回はたのむぞ龍園」

 

 そう言って龍園は、肩を回しながら後ろのCクラスのメンバーに視線を送る。すでに何人かの筋骨隆々な男子が、気合を入れるように小さく雄叫びを上げていた。

 

 

 俺たちBクラスも頷き合い、テントを出てグラウンドに向かう。

 

 ――総力戦の火蓋は、今まさに切って落とされようとしていた。

 

 

 開始の合図とともに、須藤をはじめDクラスの面々が咆哮をあげて突っ込んできた。

 まるで野獣のような突進に、砂煙が舞い、グラウンドが一気に戦場へと変貌する。

 

「来るぞ……!」

 

 神崎が短く告げる。

 俺は頷き、棒の周囲――もっとも脆いとされる左のラインに体を移した。

 

 須藤の姿は、圧倒的だった。

 目の前の防御陣をものともせず、3人、4人と弾き飛ばして突き進んでくる。

 

「止めろー! 須藤を止めろー!」

 仲間の声が飛ぶ。が――その圧に怯んでいる者もいる。

 

 俺は一歩前に出て、須藤の進路を塞いだ。

 

「通すわけにはいかない」

 

「おう、じゃあぶち破るだけだッ!」

 

 須藤の膝が唸る。身体が爆ぜるような突進。

 だが――その一瞬、神崎が横から須藤の腕を抑え、柴田が足元にタックルした。

 

「っ、くそっ、邪魔しやがって!」

 

 須藤の腕が暴れ、俺たちの腹をかすめる。

 それでも怯まず、冷静に距離を詰めていく。

 

「連携は取れてる。今は……耐えろ!」

 

 俺は真正面から須藤の胴にぶつかり、全力で押し返す。

 

 正面、左、右――三方からの包囲。

 Bクラスの防御陣は、一瞬の隙も見せず、須藤の進行とDクラスの面々を封じた。

 

 やがて、ホイッスルが鳴り響く。

 

 どうやらCクラスがやってくれたようだ。

 

 Dクラスの猛攻を、俺たちはなんとか守りきった。

 

 

 

二本目、攻めてくる相手はAクラスだった。戦いは激しさを増していた。

 

 攻めてくる相手の中には、葛城のように体格に恵まれた生徒もいたが、Bクラスの連携は揺るがなかった。

 

 神崎の指示、柴田の粘り強いブロック、そして俺も中央で棒を死守する。

 

 地を蹴って突進してくる相手を押し返し、何とか棒を支え続ける。

 やがて、ホイッスルがまた鳴り響く。

 

 Cクラスがまたやってくれたようだ。

 

 こうしてCクラスの面々をみると、身体能力の高いチームだとわかるな。味方だからといって龍園は気の抜けない存在だが、参加をして結果を残してくれるのは頼りになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そう思っていたがやられた。 なんてことをするんだという怒りが龍園に湧いてくる。

 

 四つ目の競技は綱引き。

 ルールは単純、二本先取で勝敗が決まる力比べ。

 

 第一戦。

 連携を整えて臨んだ俺たちBクラスだったが、Cクラスは独自の隊列で綱を引いていたため力を上手くこっちにもってこれず、結果はD・A連合の勝利。

 

 第二戦。

 しかしCクラスは陣形を整え、龍園の号令と共に今度は強い力で押し切ることができた。 ここまでは、龍園の作戦は勝つためのものだから特にいうことはなかったが。

 

 そして最終戦。

 均衡した勝負の中、あと一歩で勝利に届くか――そう思った瞬間、異変が起きた。

 

 綱が一気に緩み、俺たちは尻もちをつく。

 原因は明白だった。Cクラスの全員が、勝負の途中で手を放したのだ。

 

「何やってんだよ、ふざけてんのか!」

 

 思わず俺たちBクラスも抗議を上げるが龍園は不敵な笑みを浮かべたままだ。

 

「勝てないと思ったから手を休めたんだよ」

 

 そして相手チームにも向ける。

 

「よかったなお前ら、ゴミ見たいな勝ちを拾えて。這はいつくばる姿を見れて面白かったぜ」

 龍園の薄ら笑いが響く中、俺たちは龍園に踊らされて負けた。

 

 

 

 

 

 

綱引きの終わり方には納得がいかないものが残るが競技は止まらない。

 

次は障害物競走だ。

 

 歓声と砂埃が舞うなか、前の組に出ていた柴田が、スタートラインに立つ。

 その視線の先には、須藤の姿。Dクラスのエースで、三連勝中の男。――負けず嫌いな柴田にとっては、まさに燃える相手だ。

 

 合図と同時にスタート。

 

 飛び出した二人は、まるで計ったかのように並走する。

 平均台――網くぐり――ズタ袋。どれも難なくこなし、最後の直線。

 

 柴田は、最後まであきらめずに須藤の背を追った。

 結果は惜敗。ほんの数十センチの差――けれど、柴田の健闘はクラスメイトの誰もが認めていた。

 

 ゴール後、柴田が戻ってきた俺に苦笑を浮かべて言った。

 

「……あーくそ、あと一歩だったな。須藤速かったわ」

 

「でも最優秀とるんだろ。次勝てばまだチャンスはあるはずだ」

 

「それもそうだな。てか、神楽坂もチャンスありそうだよな。言っておくが負けねえぜ」

 

 そう言いながらも、柴田の顔はどこか誇らしげだった。

 

 次は、俺の出番だ。

 

 スタートラインに立つと、自然と気持ちが研ぎ澄まされていく。

 障害物の配置は頭に入っている。イレギュラーさえなければ、勝機はある。

 

 合図。

 

 一歩目で抜け出し、平均台を駆け、網をくぐる。ズタ袋もミスなく飛び越えていく。

 

 視界の端に誰もいない。最後の直線で後ろを確認する余裕があった。

 

 ――誰も並んでいない。そう確信し、胸を張ってゴールを駆け抜けた。

 

 息を整えながら振り返ると、少し遅れて他の生徒たちがフィニッシュしていく。

 

 Bクラスのテントから拍手がわき、柴田が軽く手を挙げて迎えてくれた。

 

 

 

 

 7つ目の競技、二人三脚。

 

 次々とペアがスタートを切るなか、俺と神崎もスタートラインに立った。

 

「神崎、いけるか?」

「問題ない。呼吸もお前に合わせるさ」

 

 簡潔な言葉のやりとりだけで、互いに理解は済んでいた。

 足首を結び、肩を並べると、余計な緊張も力みもなかった。

 

 合図が鳴る。

 

 ――初動、一歩目から揃った。

 

 神崎の無駄のない動きと、俺のタイミングがピタリと噛み合う。

 どちらかが引くでも、押すでもない。全くブレのないリズムで、並ぶ他のペアを一つ、また一つと抜いていく。

 

「……いける」

 

 ゴールが見えた瞬間には、すでに勝利を確信していた。

 最後まで一切のズレなく――俺たちは、そのままトップでゴールを駆け抜けた。

 

 息を切らせながら振り返ると、神崎もわずかに頷いていた。

 

「……さすが神崎、今までで一番走りやすかったよ」

「ああ。本番でうまくいってよかった」

 

俺は腕を上げ示しあわせることなく、グータッチを交わした。

 

 

…神崎とも友達としてすいぶん仲良くなれた結果としての勝利を感じ、嬉しさを覚えた。

 

 

 

 

 8番目の競技、騎馬戦が始まった。

 

 フィールドに広がる騎馬たち。その中でも一際目立つのが、須藤を騎手に据えたDクラスの大将騎だ。勢いそのままに、敵の大将――龍園のもとへ一直線に突撃していく。

 

「……須藤は龍園を狙いに行ったか。じゃあ、こっちはAクラスを中心に攻めたいな」

 

 俺たちBクラスは、Aクラスの騎馬を着実に潰すことに集中する。

 

 俺――神楽坂創が中央を務める騎馬。左には神崎、右には渡辺。そして、上に乗るのは柴田だ。チームワークなら俺たちに分がある。無理はせず着実に、冷静に勝ちを狙う。

 

「行くぞ、神崎、渡辺。バランスは任せろ」

 

「了解した。左から回り込もう」

 

「いいねいいね、ちょっと荒っぽく行こうぜ?」

 

 柴田が笑いながら身をかがめ、前方を鋭く見据える。ターゲットはAクラスの騎馬の一つ。機動力ではこちらが上。接近と同時に神崎と渡辺がタイミングよく左右にステップを入れ、俺が馬体をぐっと前に出す。

 

「今だ、柴田!」

 

「おうっ!」

 

 まるで獲物を狩る猛禽のように、柴田の手がハチマキを掴み取り、相手の騎馬を一騎撃破する。

 

 すかさず次の標的を見定め、回頭。

 

 葛城率いるAクラスの精鋭たちがこちらを睨んでいた。さすがに油断のない布陣。真正面から突っ込めば分が悪い。

 

「神崎、正面突破は危ない。フェイントで左を狙おう」

 

「……いや、向こうはそれを読んでる。フェイントを入れて、いったん距離を詰めてからステップで外側を取る。渡辺、負荷がかかるが耐えてくれ」

 

「任せとけって。練習の成果をみせてやるぜ!」

 

 再び騎馬を走らせ、今度は葛城たちと正面でぶつかる。駆け引きの応酬。ハチマキに何度も手が伸び、掴みかけてはかわされる。神経が擦り減るような攻防。けれど、焦らず、攻め急がず、今は守りに徹してチャンスを待つ。

 

「……柴田、2人とも強襲をかけたい。次で決めるぞ」

 

「了解!任せとけっての!」

 

「行くぞ!」「ああ!」

 

全身に力を込め、一気に加速。葛城たちの騎馬に正面からぶつかる。激しい衝撃に一瞬視界が揺れるも、俺たちは崩れない。この布陣での練習を何度も積み重ねてきた。その成果が今、試されている。

 

「左に振って、右に切り返す! 神楽坂、渡辺、頼んだ!」

 

「了解だ!」

「いっちょやってやるか!」

 

 フェイントからの切り返し。葛城の騎馬が僅かにバランスを崩した瞬間、柴田が躊躇なく身を乗り出す。

 

「もらったあああっ!」

 

 乾いた音と共に、葛城の騎手――戸塚弥彦のハチマキが空を舞う。

 

「よっしゃああああああっ!!」

 

 柴田の雄叫びがグラウンドに響き渡る。奪取成功。その瞬間、Bクラスの騎馬がぐるりと半回転しながら退避を開始する。

 

「柴田、ナイスだ!」

「神楽坂も馬として支えてくれたおかげだぜ、マジでバランス良かったわ」

「神崎と渡辺もよく頑張ったな」

「そりゃあな!」

「油断はするな、まだ終わっていないぞ3人とも」

 

 そんなやりとりを経て、ホイッスルの音が響く。

 

 試合終了の合図だった。

 

 俺たちBクラスの騎馬は、葛城たちAクラスの騎馬を撃破し、大きな手応えを残して引き上げてくる。

 

 そして、その逆サイド――須藤と龍園の激突にも、決着がついたらしい。

 

 俺たちが戻る先、そこに立っていたのは、ハチマキを高く掲げて勝利をアピールする龍園の姿。

 

 あの龍園が、挑発だけではなくしっかりと結果を出すあたり――味方とはいえ、敵に回したくない相手だと再確認させられる。

 

 戻ったテントからは拍手と歓声。勝利の空気が、Bクラスの中を満たしていた。

 

 柴田が騎馬から降り、俺たちの背を何度も力強く叩く。

 

「これだよ、これ! 最高だったな、お前ら!」

 

 クラスメイト達も祝福で迎えてくれる。

 

「すげーぞ柴田、かっこよかったぞ!」

「神楽坂くん、神崎くん、渡辺くんもお疲れ様! すごかったよ!」

 

 俺も、疲労感はあるが、それ以上に誇らしい気持ちが胸に広がり力がはいる。

 

 あとは、200メートル走で午前は終わりだ。 目指すはここまできたら1位を狙いたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午前の競技が終わり、昼休憩の時間になった。

 

 Bクラスのテントでは、皆が思い思いに弁当を広げ、疲れを癒していた。

 

「はーっ、もうすでに足パンパンだっての。午後持つかな、俺……」

 

 軽口を叩きながら弁当を広げる渡辺の横で、神崎は落ち着いた様子で水を飲んでいる。柴田も午後に向けて、弁当を勢いよく食べている。

 

「適切な栄養と水分補給をしておけ。午後に響くぞ」

 

「……言われなくてもしてるってのー、うぅ、塩分足りてねぇ……」

 

 そんなやりとりを聞きながら、俺は手元の弁当に箸を伸ばす。そこへ、クラスの女子たちが話しながら近づいてくる。

 

「さっきの200メートル、柴田くんと、神楽坂くん1位おめでとう!」

 

「ていうか? すごくない2人とも、1位しかとってないよね? 最優秀期待できるね!」

 

驚きと賞賛の混ざった声に少し照れながらも、俺は弁当をひと口かみしめる。

 

「おいおい、俺も二人三脚で1位とってるから褒めてほしいぜ」

 

「渡辺くん、それって結局柴田くんのおかげじゃん、それ~」

 

 

 Bクラスの仲間たちも、自然と笑顔が増えていた。午前中の戦いを終えた今、チームとしての一体感はかつてないほど高まっている。

 

 ――だが、気は抜けない。午後の種目には、最も大きなポイントがかかる合同リレーが待っている。

 

 勝負は、まだこれからだ。

 

 

 

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