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作:綾小路君をTSヒロイン化した作品がみたい
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23話


 夏休みは穏やかに過ぎていき、そんなある日のこと。

 学校に行って保健室で薬を受け取った帰り、生徒会室の前で葛城と出くわした。

 扉の前で腕を組み、何か思い詰めたような顔で立っていた。声をかけると、生徒会長に話があるが不在のようで待っているらしい。

 

 その流れで、この学校について不満や悩みはあるかと問われた。学校生活は特に問題なくクラスメイトと上手くやれていることが思い浮かぶが、それを言葉にする前に2人の人影、生徒会長の堀北学と書記の橘茜が現れる。

 

 現れた堀北先輩は葛城を見やると、続けて創にも目を向け、話があるということで葛城と入室する形で生徒会室に足を踏み入れることになった。

 

 入った俺は堀北先輩に葛城がプレゼントを学外にいる妹さんに送りたいという、お願いを聞くことになった。 

 葛城は大事な家族である妹さんをとても大切に思っているようだ。俺も、大事な家族である松雄さんと栄一郎兄さんの顔が思い浮かぶ。

 

 堀北先輩に郵便の交渉していたが、首を縦に振ってくれることはなかった。

 学校のルール上、荷物の発送は禁止になっているのと、その経緯も聞いたが俺としては葛城の願いが叶ってほしいと思ってしまう。

 だが、規則に違反する行為はポイントでも解決できないと一刀両断されてしまう。

 

 結果として、葛城は残念そうに退出していった。

 

 俺は、生徒会室での葛城のやりとりを黙って見ていたが、彼が退室したあと、どうしても納得がいかず堀北先輩に口を開いた。

 

 「……その、葛城の件、なんとかできませんか」

 

 自分でも未熟な願いだとわかっていた。それでも、家族を思うあの表情が頭から離れなかった。

 

 堀北先輩は一度目を伏せ、すぐに顔を上げる。

 

 「神楽坂。学校の規則は、私情で曲げられるものではない。どれほどの事情があろうとも、違反は不正だ。例外は許されない」

 

 はっきりと、迷いのない言葉だった。俺はそれ以上何も言えず、ただ肩を落とすしかなかった。

 

 すると先輩は、少しだけ視線を逸らしてから口を開いた。

 

 「だが――もし、どうしてもというなら、綾小路清華に相談してみるといい」

 

 突然出てきた名前に、俺は驚いた。

 

 「綾小路……さんに、ですか?」

 

 「神楽坂と出会ったあの夜の日。割って入った女子生徒。俺が、今この学校の1年生で最も高く評価している生徒だ」

 

 先輩はそう言って、わずかに口元を引き締める。

 

 「入試では筆記試験全て満点だったそうだ。面接では一言程度しか発さなかったそうだが、それで合格するあたり秘めた実力は相当のものと評価されているだろう」

 

 そんな人だったのか。只者ではないと思っていたが綾小路さんが。

 

 「……じゃあ、あとで連絡してみます」

 

 何気なくそう言うと、先輩の眉がぴくりと動いた。

 

 「連絡先を知っているのか?」

 

 「え? まぁ、クラスも近いですし……」

 

 「……驚いたな。俺は彼女を生徒会に誘ったことがある。だが、きっぱり断られた上に、連絡先すら教えてもらえなかった」

 

 堀北先輩が淡々とそう話すのを聞きながら、俺は綾小路さんのマイペースさに内心で頷いた。

 

 すると先輩は、ふと姿勢を正し、俺の目を見据えてこう言った。

 

 「ふむ、ならば神楽坂。お前が生徒会に入る気はないか。副会長という立場で」

 

 あまりに突然の申し出に、横にいた橘先輩が目を丸くする。

 

 「副会長……!? 会長、それはさすがに――」

 

 「神楽坂にはその資格がある」

 

 そう言い切る堀北先輩。俺はもちろん驚いたが、すぐに首を振った。

 

 「いえ、俺は……無理です。堀北先輩や綾小路さんみたいに、まだまだ頼れる人間じゃないと俺は思っています。…それに一之瀬も生徒会に入っていますし、頑張ってる彼女に失礼な気がします」

 

 そう伝えると、堀北先輩は一度目を伏せ、少しだけ考えるように口を開く。

 

 「……来年、この学校は変わるかもしれない。それも望まない方向に。俺はそれを懸念している」

 

 そこに、橘さんが口を挟む。

 

 「ですが会長、南雲くんがそのような学校づくりをするとは思えません」

 

 南雲という人物を聞いて、あることが思い浮かぶ。

 

 「一之瀬が生徒会に入ったとき、尽力したのは南雲先輩だったと聞いてます。だから、俺もその人を差し置いて副会長にはなれません」

 

 

「…そうか、だがこのことは頭に入れておいてくれ。副会長は2人まで置いておける」

 

 それからも会長は、連絡先を交換しておいたほうが都合がいいだろうということで、内心恐縮しながらも交換をした。

 

 

 そんな、やりとりを経て俺は生徒会室を退出した。

 

 

 

 

 

 生徒会室を出たあと、俺はそのまま寮に戻り、自室のドアを静かに閉めた。

 

 (……綾小路さんに、頼るしかないのか)

 

 葛城のことを思い返すたび、胸の奥に小さな棘が刺さるような痛みがあった。助けたい。でも、俺一人じゃどうにもならない。

 

 俺は机に置いていたスマートフォンを手に取り、深呼吸一つしてから、チャットを開いた。

 

『少しだけ時間もらえないかな綾小路さん。相談したいことがあるんだ』

 

 数十秒後、すぐに既読がつく。そして、綾小路清華から返ってきたメッセージは、やはり簡潔だった。

 

『会って話す?』

 

『会って話せるなら話したいな。寮の近くにある中庭のベンチでどうかな」

 

『了解』

 

 そのやりとりを終えると、俺はジャケットを羽織り、部屋を後にした。

 

 ──十五分後。中庭のベンチで待っていると、静かに足音が近づいてきた。

 

 「創」

 

 その声に顔を上げると、綾小路清華が立っていた。整った私服姿、無駄のない動作。そしてどこか、他人と距離を置いたような静かな佇まい。

 

 「……ごめんね、綾小路さん。どうやら、外に出るために準備させたようだね。服、とても似合ってて素敵だと思う」

 

「……別に、普通だと思う」

 

 雰囲気が少し柔らかくなった。心地よい風も吹いてくる。

 

 俺は頭を下げて、葛城のことを説明した。違反行為と知りながらも、家族を守るために苦しんでいること。自分では何もできないこと。それでも、どうにかして助けたいと願っていることを。

 

 清華は黙って最後まで聞いていた。そして、ほんの少しだけ、視線を斜め下に落としてから言った。

 

 「話は理解した。…そうね、方法がないわけじゃない」

 

「ほんと!? どうしたらいいの?」

 

 清華は少しだけ視線を空に向け、そして静かに言葉を紡ぎ始めた。

 

 「校則において、校内──つまりこの敷地内における配送手段は、全面的に禁止されているわ」

 

 「……うん、そうだね。それのせいで荷物は送れないんだ」

 

 「だけど、敷地の外。例えば大会や遠征、合宿など、正規の手続きを踏んだ外部活動においては、その制限は適用されない」

 

 「えっと、それってつまり……?」

 

 清華はわずかに頷く。

 

 「校外に出る生徒が、部活でつかう必要な荷物として、それに“紛れ込ませる”形なら……物資を持ち出すことも可能、ということ」

 

 「荷物に、紛れ込ませる……」

 

 「正確には、正規の運搬物として登録された中に“あらかじめ用意された私物”があったとしても、細かく検査されることはない。特に、それが部活動であれば尚更。教師たちは規定の範囲内に収まっているかを確認するだけ」

 

 「……なるほど。じゃあ、もし葛城がその物資を大会に出る生徒に依頼するなら――」

 

 「その生徒によって荷物を届けることができる」

 

 「……できそう、かな?」

 

 「可能か不可能かで言えば、可能。ただし、それに伴うリスクはゼロじゃない。やると決めた以上、葛城康平も大会に出る生徒も、それなりの覚悟が必要」

 

 俺は力強く頷いた。

 

 「ありがとう、清華さん。……一人、大会に出る生徒に心当たりがあるんだ。俺はやるよ。葛城を、助けたいから」

 

 清華は少しだけ目を細めると、そっと言った。

 

 「……そう、力になれてよかったわ」

 

 「なあ、綾小路さん」

 

 「何?」

 

 「今回の件……相談に乗ってくれたこと、本当に感謝してる。だから、もし俺にできることがあるなら、お礼をさせてもらえないかな」

 

 少し間が空いた。清華は俺の言葉を吟味するようにほんの少しだけ目を伏せ、そしてゆっくりと答えた。

 

 「……そうね。じゃあ、ひとつだけ」

 

 「うん、なんでも言って」

 

 「夏休み中、もし何かあったら……呼んでもいい?」

 

 「え?」

 

 「夏休み、時間を持て余しているから。ダメ...?」

 

 彼女は視線を逸らさず、まっすぐにそう言った。 少し不安そうにも見えるが返答は決まっている。

 

 「……もちろん。いつでも、何回でも呼んでよ。 …まあ、綾小路さんを満足させられるかはちょっと保証できないけど」

 

 そう、肩をすくめておどけて言っておく。 綾小路さんも安心感を覚えたのか、笑みを浮かべる。

 

 「ふふ。ありがとう、創」

 

 少しだけ、風が吹いた。夕方の空は少しだけ赤みを帯びて、彼女の髪を揺らした。

 

 今のこの静かな時間が、妙に心に残る気がした。

 

 

 

 

 寮に戻ったあと、俺は一之瀬に連絡を取り、葛城の連絡先を聞いた。軽く事情を話すと、彼女はすぐに連絡先をくれた。

 

『ありがとう一之瀬、助かったよ』

 

 そう送ったあと、俺は葛城にメッセージを打った。

 

『明日、少しだけ俺の部屋に来てもらえないかな。力になれるかもしれない』

 

 返事はそれほど遅くなかった。

 

『……わかった。時間はそっちに合わせる』

 

 

そして、協力者として頼むもう一人にも連絡を入れた。

 

 

 

 

 

 そして翌日。俺の部屋には、先に呼んでおいたサッカー部の柴田が来ていた。

 

「神楽坂、大事な頼み事ってなんだ?」

 

「大事な話だからもう一人きたら、話すよ」

 

 数分後、ドアがノックされる音がした。

 俺は立ち上がり、ゆっくりと扉を開ける。

 

「来てくれたか、葛城」

 

「……神楽坂。話は本当なのか?」

 

 逸る葛城を出迎え、俺と柴田は真剣な表情で迎えた。

 

 葛城が席に着くと、俺は単刀直入に切り出し、例の作戦の説明をした。

 

「結論から言う。葛城、お前のやろうとしてること……柴田が協力できると思う」

 

 葛城の目がわずかに揺れる。柴田は隣で腕を組んで頷いた。

 

「俺、次の大会に出る予定なんだ。だから……荷物に何かを“紛れ込ませる”くらいなら、できると思うぞ」

 

 そういって、事情を汲んだ柴田はニヤリと笑う。

 

 葛城は数秒、何も言わなかった。

 

 だがやがて、絞り出すように言葉を返す。

 

「……なぜ、そこまでしてくれる?」

 

「助けたいと思った。それだけだよ」

 

 沈黙。けれど、その静けさは悪くなかった。

 

 やがて、葛城は小さく息を吐いて言った。

 

「……わかった。頼らせてもらう。 …ありがとう」

 

 それだけで十分だった。俺たちはうなずき合い、簡単な打ち合わせを始めた。

 

 柴田は作戦について、リスクを理解してなお、協力してくれるようだ。 

そのお礼として葛城は10万ポイントを支払う契約を交わした。

最初は柴田は受け取りを拒否しようとしたが、葛城の誠実な態度に折れたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。作戦は、無事成功した。

 

 

 そして夜、俺は帰ってきた柴田と再び会っていた。

 

「本当に助かったよ、柴田。ありがとう」

 

「おう。ま、こういうのも悪くないな」

 

 柴田はちょっと照れくさそうに頭をかきながら笑った。

 

「それに、葛城から10万ポイントもらっちまったからな。なんか、かえって気が重いぜ」

 

「でも、お前はそれだけのことをしたってことだよ」

 

「……ま、そうかもな。じゃあ神楽坂。今度、どっか遊びに行くか。ポイントもあるしよ、ちょっと羽伸ばそうぜ」

 

 俺も笑い返す。

 

「いいな、それ。夏休みだし、行きたいとこ考えとくよ」

 

「おう、そうしてくれ」

 

 拳を軽くぶつけ合って、笑い合った。

 

 この学校で、いや生きる上で人とのつながりの大切さを再認識できた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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