作:綾小路君をTSヒロイン化した作品がみたい
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試験最終日、5回目のディスカッション。
この日も、葛城率いるAクラスは沈黙を選択しており議論に参加することはなかった。
龍園も同様に話すことはないと寝ていたりすることもあり、他のCクラスの面々も黙っている。
正直、試験についての議論のネタは尽きており話している人も主に俺と平田、櫛田さんで回っている感じだ。
平田と櫛田さんとは主にクラスメイトについての話題で話すことが多くなり、試験についての議論はほぼしなくなった。 堀北さんと神崎も最初は試験についての議論はしていたが、ネタが尽きて話すこともなくなってしまった。
最初は、このグループで優待者についての建設的な議論をして結果1を目指そうとしていたが、この状況でそれを達成できると思っている人は俺を含めて全員いないかもしれないと考えてしまう。
このままでは、結果2になってしまい葛城の作戦勝ちになるかとも思ったが、やけに龍園が静かなのも不気味に感じる。
結局、大した成果は得られず時間が終わってしまった。
部屋に戻ると、神崎がベッドに腰掛ける。制服の上着を脱ぎ、手元には水のペットボトルがある。
俺と目が合うと、神崎は軽く頷いた。
「お疲れさん、神楽坂。……次の議論で試験は終了だが手ごたえはどうだ」
「ああ。もう、何をどう話しても、答えにたどり着く気がしなかったよ」
「俺も同じだ。Aクラスは沈黙を貫き、Cクラスは話す気もない。……相手が悪かったということだ」
神崎のその言葉に、少し救われた気がした。自分だけが空回りしていたわけではないと、そう思えるからだ。
「……このままだと葛城の作戦勝ち、かもしれないな」
「それでも、やれることはやった。少なくとも、お前はな」
「……そうかな」
俺も冷蔵庫に入れてある飲み物を手に取り、神崎と向かいあう。
「…そう気を落とすな、この議論の全てが無駄だったとは思わない。少なくとも、議論を通じて他クラスの人間の思考や癖を知ることができた。これは今後に活きるはずだ」
「……それも、そうか」
「お前もよくやっていた。場を回し、話題を探し、どうにか前に進もうとしていた。俺はそれを見ていた」
「……神崎、ありがとう」
「礼には及ばないさ」
そんな風に素直に評価されるのは、少しだけくすぐったかった。
「ただ……やはり妙だったのは、龍園だ」
「あいつがここまで何もしないなんて、確かに不自然だよな」
「ああ。前に会ったときに試験の根幹にたどり着いていると言っていたなら何か動きがあってもおかしくない」
神崎の言葉に、俺は無意識に頷いていた。
龍園翔――何か仕掛けてくるんじゃないか。
そんな確信めいた違和感が、胸の中にじんわりと広がっていった。
6回目の最後になるディスカッションは、やはりと言うべきか、終始淡々とした空気の中で進行していった。
結局話し合いという体裁を保っていたのは、平田や櫛田さん、そして俺ぐらいだった。
議論の最初にこの試験の結果についてどうすると全員に問いかけたがAとCの反応はなく、ただ時間だけが過ぎていった。
―――やがて、試験終了を告げる音が部屋に響いた。
葛城は、立ち上がると一言も発せずにそのまま部屋を後にし、他のAクラスの面々も彼に続くように静かに姿を消した。
続いて、龍園が立ち上がり、こちらを一瞥して口元を歪めた。
「――残念だ、神楽坂。お前が喧嘩を買ってくれれば、もう少し楽しめたんだがな」
捨て台詞のように吐き捨てると、龍園は手を軽く振って部屋を後にした。
Cクラスの他のメンバーも無言でその後に続く。
生徒たちが静かに退室していく中、俺にそっと近づいてきたのは平田だった。
「神楽坂くん、お疲れさま」
そう言って、平田は笑みを浮かべて軽く俺の肩を叩いた。
「結局、思ったような成果は出せなかったけど……」
「そんなことないさ。あの空気の中で話をまとめようとしてくれたのは僕も助かったよ」
続けて櫛田さんも、柔らかな笑みを浮かべて声をかけてくる。
「うんうん、神楽坂くんがいなかったら、大変な試験になってたと思うよ。ありがとうね」
そんな言葉を受けて、ようやく少しだけ肩の力が抜けた気がした。
「……ありがとう、二人とも」
それでも、胸の奥に残るのは、拭いきれない敗北感だった。
そんな時、堀北さんが静かにこちらへ歩み寄ってくる。
「……お疲れさま神楽坂くん。最終的に議論は決着しなかったけど無意味ではなかったはずよ」
相変わらず感情をあまり見せない口調だったが、それが堀北さんなりの評価だということは伝わってきた。
「……ありがとう、堀北さん」
そんな会話を交わしていた、その時だった――
――ピロン。
着信音が、教室に響いた。
全員のスマートフォン。その通知された画面を覗き込んだ生徒たちが、驚きの声を漏らす。
「兎グループ……試験が、終了……?」
「えっ、もう……?」
(兎グループって一之瀬のいるところだ、何かあったのだろうか?)
何人かが慌てて自分のスマホを取り出す。
俺も、その着信に目を落とした瞬間――
――ピロン、ピロン、ピロン、ピロン。
続けて、4度。立て続けに着信音が鳴り響く。
まるで連鎖するかのように、他のグループからも終了の通知が届いていた。
『鼠グループの試験が終了いたしました』
『馬グループの試験が終了いたしました』
『鳥グループの試験が終了いたしました』
『猪グループの試験が終了いたしました』
「これは……?」
誰かの小さな呟きに、教室の空気が一変する。
このとき、俺の脳裏には龍園の顔が思い浮かぶ。
混乱のさなかにある俺たちだが、別れの挨拶をして部屋に戻ったのだった。
時計の針が21時30分になるころ。
神崎と俺はスマホを片手に悩んでいた。
「優待者どうしようか? 神崎は誰かわかったか」
「いや、俺も心当たりがないな。 正直、適当に書いて送っても仕方がないと思うが…」
そのとき――
カサリ、と部屋の静寂を破る音がした。
「……?」
顔を上げた神崎と、俺の視線がドアの方に向かう。
慎重に立ち上がってドアを開けると、外には誰の姿もない。ただ、ドアの下に、一枚の白い折りたたまれた紙が滑り込まれていた。
「……何だこれ」
拾い上げ開く。中には一言だけ、手書きの文字が並んでいた。
『優待者は櫛田桔梗』
その瞬間、部屋の空気がぴんと張り詰める。
俺と神崎は、目を合わせることもなく、ただその一文をじっと見つめていた。
「……誰がこれを?」
「わからない。でも、考えられるのは――」
「龍園、か?」
「ああ。可能性は高い。だが、なぜ自分で送信しなかったんだ…」
だが、すぐに不安が胸をよぎる。
「罠とかじゃないよな? 送信して不都合になることはないはずだけど」
「そうだな、……まさか結果1を狙っていたのか龍園は」
「…とりあえず、名前を入れて送信してみるか」
「ああ」
俺たちは無言でうなずき合い、それぞれスマートフォンを手に取った。
指が画面をなぞり、優待者の名前を入力する。
――櫛田桔梗。
あとは送信ボタンを押すだけ。小さく息を吐いて、画面をタップした。
静かに、しかし確かに俺たちは“結果1”への道を選んだ。
こうして、特別試験は終わりを迎えた。
・試験結果
子(鼠) ───裏切り者の正解により結果3とする
丑(牛) ───裏切り者の回答ミスにより結果4とする
寅(虎) ───優待者の存在が守り通されたため結果2とする
卯(兎) ───裏切り者の回答ミスにより結果4とする
辰(竜) ───試験終了後グループ全員の正解により結果1とする
巳(蛇) ───優待者の存在が守り通されたため結果2とする
午(馬) ───裏切り者の正解により結果3とする
未(羊) ───優待者の存在が守り通されたため結果2とする
申(猿) ───裏切り者の正解により結果3とする
酉(鳥) ───裏切り者の正解により結果3とする
戌(犬) ───優待者の存在が守り通されたため結果2とする
亥(猪) ───裏切り者の正解により結果3とする
以上の結果から本試験におけるクラス及びプライベートポイントの増減は以下となる
Aクラス……マイナス200cl プラス200万pr
Bクラス……変動なし プラス250万pr
Cクラス……プラス150cl プラス550万pr
Dクラス……プラス50cl プラス300万pr
この夏の特別試験で決定したクラスポイントと順位
1位:Aクラス……924cl
2位:Bクラス……773cl
3位:Cクラス……642cl
4位:Dクラス……362cl
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今回の特別試験を聞いたとき、私はまず各クラスの動きと、自クラスの反応の観察に努めた。
Aクラス、葛城康平は優秀な人間のようだが、あくまで“ただ”優秀であるだけ。
事実、今回のような試験では堅実な作戦を打ったものの敗れている。守りに入るにしても、自クラスの優待者の把握は最低限行うべきだった。
……いや、そもそも情報を集めようにも、Aクラスはリーダーが二分している状況だ。
『坂柳有栖』という人間が、一部の生徒から強い支持を得ているらしい。近いうちに情報を集めておく必要があるかもしれない。
Bクラス、一之瀬帆波は思ったより“できる”人間だ。
兎グループでの携帯すり替えによる作戦を見抜き、さらに真の目的である優待者のフェイクにもたどり着いた。
さらに観察力にも優れており、軽井沢恵が優待者であることを見抜いていた。
明るく、天真爛漫な性格を装っているが……腹芸もできる。油断はできないだろう。
……何より、創の信頼を受けている“女”。
―――もし、彼女を壊してしまったら、創は傷つくのだろうか。
……傷つくのだろう。何なら、自分が何もできなかったと自責の念に絡め取られる。
あの部屋の頃のように。今となっては、もっと寄り添えればよかったと思う。
だから、私が創のすべてを支配すればよかっ―――
……何を考えているのだろう、私は。
私は、ただ創の“幸せ”を守るだけ。それは、私の身勝手な思いでしかない。
……そんなの、私も、誰にも許されない。
……思考が逸れた。Bクラスについては、今のところ“剪定”する必要はない。
Cクラス、龍園翔については、おそらく――思考が私と似ているのだろう。
無人島試験、干支試験ともに策略と行動力では、この1年生の中ではトップクラスだ。
私が動かなければ、この夏は龍園翔の一人勝ちだったはず。
宣戦布告を受けた堀北鈴音は、表面上はそれを無視しているが――いずれ、敗北を喫する。
また、私がDクラスの暗躍に関わっていることも、龍園翔は嗅ぎつけてきた。
―――しかし、そんなことはどうでもいい。
堀北鈴音が話していた議論の内容、龍園翔が創に喧嘩を提案したこと――それを聞いたとき、私は久しぶりに困惑した。
なぜ、龍園翔が創にそんなことを?
龍園翔にとって創は、ただの“凡庸な人間”であるはず。
―――そうでなければならないはずだ。
創の様子は遠くから見ていたが、特に変わった様子はなかった。
……いや、むしろ“戻った”様子というべきか。
そして私は確信した。あの日、創を傷つけたのは――龍園翔であると。
だからこそ剪定しなければならない。創にとっての“楽園”であるべきこの場所に、害をなす存在。
私が守らなきゃ。
私の創を傷つけるものは――私が、排除しなければ。
そのために、Dクラスの軽井沢恵の件について触れておくのは吉だった。
最初は堀北鈴音とは別に、手足となる存在……駒が欲しいと考えていたが、軽井沢恵は十分に“使える”。
欲を言えば、私では干渉しづらい“男側の駒”が欲しいが……軽井沢恵を通して平田洋介の人となりを知れただけでも、良しとしよう。
行動原理は罪悪感。私と似ているところもあるが、それだけだろうか?
平田洋介の“闇”は、おそらくそれだけではない。近いうちに壊すのは難しくても――ここは実力至上主義の学校だ。
いずれ、“壊れる”時がくる。そのとき、機会は巡ってくるはず。
軽井沢の一件から、Cクラスの人間の弱みを握れたのは、僥倖だった。
―――そこから、どう龍園翔を“処理”するか。
思考を巡らせる。搦め手でも、正々堂々でも関係ない。
私が生涯で敗北を喫するのは――創、ただ一人。
それ以外は許されない。そもそも起こるはずがない。
だから、創には――この“楽園”を楽しんでほしい。
それが、私にできる、唯一の“贖罪”だから。