作:綾小路君をTSヒロイン化した作品がみたい
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そして、時間を置いて──1日目、2回目のディスカッションが始まった。
しかし、一度冷え込んだ議論は再び熱を帯びることはなく、互いに探り合うだけの消極的な討論が続く。
「……葛城はどう考えている?」
創が意見を求めるが、葛城は腕を組んだまま目を閉じ、何も答えようとしなかった。
「……」
「葛城くん?」
平田が続けて声をかけるが、やはり沈黙が返るだけ。
討論に積極的に関わらない葛城の態度は、場の停滞を助長していた。
「このままでは何も決まらないな……」
神崎が小さく息を吐く。
龍園は特に発言することもなく、ただつまらなそうに場を眺めている。
その表情が「無駄なことだ」とでも言いたげで、創は改めてこの試験の厄介さを感じた。
結局、この回のディスカッションも有意義な結論に至ることはなく、形ばかりの話し合いで終了した。
──夜。
部屋に戻った創は、ベッドに横になりながら、今日の出来事を振り返る。
討論が停滞したままでは、明日以降の試験がますます難しくなるだろう。
(……まずは、葛城の動きがカギになるか)
彼が発言するかどうかで、今後の流れが変わる可能性は高い。
だが、今日の様子を見る限り、容易に口を開くとは思えない。
創は深く息をつくと、目を閉じた。
明日に備え、少しでも体を休めるために──。
そして、試験2日目の朝を迎える。
朝のビュッフェ会場は、相変わらず生徒たちで賑わっていた。食事を取りながら情報交換する者、静かに考えを巡らせる者、さまざまだ。
神楽坂創はトレーを持ち、すでに席に座っていた神崎と一之瀬のもとへ向かう。
「……おはよう。二人とも、昨日はよく眠れたか?」
「まあまあ、かな。昨日の議論はちょっと疲れちゃったけどね」
「どうやら、葛城は他のグループのクラスメイトにも沈黙するよう指示をしているようだ」
一之瀬が苦笑しながら答え、神崎が情報を補足する。
そして一之瀬の表情が、心配する表情に変わる。
「……それでさ、神楽坂くん」
一之瀬は、スプーンを置きながら、真剣な表情で創を見つめる。
「神崎くんから、昨日の話を聞いたよ。龍園くんが、喧嘩をしようと言ってきたって……?」
「ああ……」
創は少し間を置いて答えた。龍園が持ちかけた"喧嘩"の話。そして、最後に見せた妙な執着。
今さらそれを振り返るのも気が引けるが、一之瀬が心配してくれているのが伝わってきた以上、無下にはできない。
「まぁ、簡単に言えば、俺と殴り合えばBクラスに協力するって話だったな」
「それで、神楽坂くんは……」
「断ったよ。俺のためにクラスのみんなが心配してくれた。その思いを踏みにじるわけにはいかないからな」
創は淡々と答えるが、一之瀬はその言葉を聞いても、まだ不安そうな表情を浮かべていた。
「でも……どうして龍園くんが、神楽坂くんにそんな提案をしたんだろう…」
「恐らくだが、それは、」
「神崎、一之瀬、大丈夫だ俺は、まずは試験のことについて考えないか。このままでは、いい結果を得るのは難しいと感じているはずだ」
創は神崎が言おうとしていることに気づき、目を向けて意図を送る。
神崎は少し不満そうだったがなんとか了承した。
「…そうだね神楽坂くん、でも無理しないでね? もし何かあったら、すぐ頼ってほしいな」
その言葉に、創はうなずく。
一之瀬帆波は、自分のクラスのリーダーであり、誰にでも平等に優しい。
だからこそ、安心感を覚えるが、それだけではいけないと自分も頑張らないとと奮起できる。
そして、その隣で神崎も頷く。
「…俺も同じ考えだ。お前だけが戦う必要なんてない。Bクラスのために、無茶な選択をするなよ」
「……ああ、分かってる」
素直にそう返し、創は小さく息を吐いた。
「そういえば、一つ気になることがあるんだが……」
話題を変えるように、創は口を開いた。
「さっき聞いたんだが、猿グループが解散したらしいな」
「うん、そうみたいだね……。夜に、誰かが優待者のメールを送信したって話だよ」
創は眉をひそめる。
「誰かって……具体的には?」
「まだはっきりとは分からないかな。ただ、噂だと、Dクラスの高円寺くんが送ったっていうのが聞こえてきたんだよね……」
創は「高円寺」という名前を聞き、ふと眉をひそめた。
「……高円寺っていったいどんな奴なんだ? すまないが、よく知らなくてな」
その問いに、一之瀬と神崎が顔を見合わせる。
「うーん、一言でいうなら……すごく自由な人、かな?」
一之瀬が少し困ったように答えた。
「自由すぎて、試験とか関係なく好き勝手してるって聞いたことあるかな」
「だが、能力は異常に高いと聞く。Dクラスでトップクラスどころか、学年全体でも群を抜いているといっていいかもしれない」
神崎も補足する。
「昨日の夜、猿グループが解散したのも、その高円寺くんが優待者メールを送ったせいじゃないかって噂されてるよ。まぁ、本人はそんな噂気にしてないようだけど」
「……本人が何も言わないのに、どうして高円寺がやったって話になってるんだ?」
「うーん、自由すぎるゆえに評判が良くなくてね、昨日、ボーイさんを振り回してたって話を聞いたよ」
創は、その話を聞いて、思い当たる出来事があった。
──昨日の夕方、船のプールのそばを通りかかったときのことだ。
金髪で大柄な男子生徒がプールから上がったのだろうか、水浸しながらもまったく水を拭かずに歩き出したせいで、廊下の床と壁に水が飛び散っていた。
ボーイが慌ててタオルで拭き取ろうとするも、その男子生徒はそんなことを気にも留めず、悠然と歩き去る。
その場面を見ていた創は、少しだけ手伝うことにした。
近くにあったタオルを拾い、壁についた水滴をさっと拭き取る。
「……お、お客様!? すみません、助かります…」
ボーイがほっとしたように礼を言うのを聞きながら、創は改めてプールから上がった男子生徒の姿を見やった。
(……あれが、高円寺、なのか?)
そのときは名前も知らなかったが、今こうして話を聞く限り、間違いないだろう。
「……昨日、そいつを見たかもしれない」
創が呟くと、一之瀬が驚いたように目を丸くする。
「えっ、本当に?」
「ああ。プールから上がった後、ボーイさんが床を拭いてるのを完全に無視していたな。俺も少しだけ手伝ったが……あいつは全然気にしてなかったよ」
「そっか……それなら、やっぱり高円寺くんで間違いなさそうだね」
一之瀬は苦笑する。
「でも、神楽坂くんらしいなぁ。そんな状況でも、ちゃんとボーイさんを助けるなんて」
「……いや、ただ気になっただけだよ」
創が肩をすくめると、一之瀬と神崎が微笑んだ。
──こうして、試験2日目の朝は、些細な会話とともにゆっくりと過ぎていった。
ディスカッション3回目。 日をまたいでも、有意義な議論はできなかった。
議論が終わると、葛城たちAクラスのメンバーは無言のまま部屋を後にした。扉が閉まると、わずかに緊張が解けた空気が流れる。
「今日もその、議論が進まなかったね……」
平田が小さく息をつきながら言った。
「そうだな。むしろ、昨日より混迷してる気がするよ」
創が肩をすくめると、平田も苦笑する。
そんな、少し重い感じを払拭しようと櫛田が声をかける。
「でも、焦っても良いことはないと思うから、引き続きみんなで頑張ろう神楽坂くん」
「……ああ、そうだね櫛田さん」
創が軽くうなずくと、笑顔を見せる櫛田。
そして流れで結局は解散することになり、櫛田が軽く手を振ると、平田と一緒に部屋を出ていった。
扉が閉まるのを見届けると、龍園が声をかけてくる。
「さてと……考え直したか、神楽坂?」
龍園がニヤリと笑う。
「…何度も言うが俺は龍園とは戦わないぞ」
創がそう答えると、龍園は肩をすくめた。
「ちっ、つまんねぇな。 別に、お前は俺と戦うことにそう恐怖を感じてねえはずだ。
…誰が、てめぇの牙を抜いたんだ」
「…牙も何も、俺はこういう性格だ。 喧嘩を楽しむなんて考えは持てないし、龍園の考えには共感できない」
創は龍園の粘着に辟易としていた。議論の時も時折、視線を感じ少々疲れる。だが、その時――
「邪魔するよ」
部屋の扉が開き、一之瀬と綾小路さんが現れた。
一之瀬が入ってくると、龍園はこの状況を歓迎していたのか手を振った。
龍園は相変わらず余裕の態度で、一之瀬に話しかける。彼女が別のグループに振り分けられたことに触れ、本来ならこの場にいるはずだったのではないかと挑発するような口ぶりだった。
一之瀬は笑顔を崩さず、それが学校の意図的なグループ分けなのかどうかを逆に龍園へ問いかける。
すると、龍園はそれを肯定し、教師たちが何らかの目的をもって振り分けを行ったのは明らかだと語る。
「それにしても……」
「一之瀬の隣とは人形女、鈴音には飽きたのか。ククッ、もしかして女の方が好みなのかおまえ」
軽く、綾小路さんに一瞥を向ける龍園。
「………」
しかし、龍園に目を向けられても動じていない。
龍園も切り替え話は「提案」へと移る。
狙いは、Aクラスを潰すためにB・C・Dクラスが手を組み、優待者の情報を共有すること。
龍園はすでにCクラスの優待者全員を把握していると豪語し、それを元に情報を出し合えば、学校側のルールを看破できる可能性があるという。
さらに、信用を担保するために誓約書を作ることも提案した。
だが、堀北さんは即座に反対した。
誓約書を書いたところで、誰が裏切るか分からない以上、まったく意味がないというのが彼女の意見だった。一之瀬もまた、そのリスクを指摘する。
龍園はそんな二人の反応を予測していたかのように、堀北さんに対して「賛成できない理由があるだろう」と意味深に言葉を投げかけた。
そして、この作戦にはクラスの詳細な情報を完全に把握していることが前提であり、チームワークが機能しないDクラスにはそもそも実行不可能だと断言する。
また、龍園は一之瀬の人気を評価し、BとCの2クラスでの共闘を今度は神楽坂との喧嘩をしなくても行えることを提案。 また、喧嘩に応じたならAとDの6つの枠を半分の3つでなく1つおまけして、4つにしてやるとも提案した。
もし、この提案が本当に成されるなら魅力的ともいえるかもしれないが、相手は龍園、信用はできない。
優待者の把握もハッタリの可能性だってある。
ここで沈黙していた綾小路さんが口を開く。
「それは……成立しないんじゃないかしら」
話の風向きが変わる。
「人形女に、今の話が理解できたってのか?」
からかうように笑う龍園に対して、綾小路さんは淡々と意見をぶつけた。
「もしBクラスとCクラスが手を組むなんてことになったら、今度はAクラスとDクラスが手を組むことになると思う。今はDクラスもまとまりを欠いているけれど、負けることが確定したら、さすがに結束するはず。それは、Aクラスも同じだと思う」
「俺と一之瀬が繋がる事実は、何もこの瞬間に決まるわけじゃない。繋がったかどうかを確かめるすべもない。そんな不確定な要素で葛城が協力するとでも?」
綾小路さんが発した一言で、堀北さんも続けて会話に入る。
「この話し合いには未来がないわね。最終的に、相手を潰し合うしかなくなるわ」
「どういう意味だ、鈴音」
「彼女にしては、的を射ていたってことよ。もしこれ以上ここで談合のような話し合いを続けるつもりなら、こちらも『そうである』ことを前提に動くしかなくなる。それだけのことよ」
「望むところだ。おまえらが協力関係になれるのかどうか、楽しみだぜ。なあ?」
手当たり次第に敵意をまき散らし、同時に厚顔無恥にも手を差し出す龍園。それに対して堀北さんは徹底的に戦う姿勢を見せる。
この姿勢を見せられたら俺たちBクラスもCクラスと手を組むことは、検討することはなくなった。
「龍園くん。Bクラスの中には君の行動で傷つけられた人、迷惑をかけている人がいるよね。ポイントをもらえるかもって理由だけじゃ、簡単には手を組めないよ」
「そうか。そりゃ残念だな」
少しも残念そうではない雰囲気で告げる。
龍園は立ち上がると、部屋を出ようとする。
去り際、龍園が綾小路さんに近づく。
「…なあ、もしかしてお前か人形女」
「なんのこと」
「ククッ、いや、やっぱなんでもねぇ」
そう言って、龍園は退出した。
一之瀬が小さくため息をついた。
けれど、その顔に焦りはなかった。むしろ、どこか達観したような落ち着きを感じさせる。
「ふー……色々見抜かれちゃってたかな、あれは」
「いや大丈夫だったと思うぞ一之瀬。龍園も結局何もできなかったしな。しかし、こう目を付けられるのはしんどいな」
神楽坂が声をかけると、一之瀬は少しだけ困ったように笑った。
「名前に“龍”ってついてるけど、あれは蛇だよ。執念深さがすごい。獲物を見つけたら、ずっと食らいついてくるタイプ」
「それに今は……堀北さんも狙われてる気がするね。龍園はもちろん、Aクラスも明確に警戒してる」
その言葉に堀北はわずかに眉をひそめるが、すぐに表情を戻す。
「当然よ。浮上してくるクラスには必ず反発がある。それがいつかは分からないけれど、私は負けるつもりはない」
「頼もしいな堀北さんは」
俺の返しに、堀北さんも雰囲気を緩めた。
「……クラスを越えた協力関係って、成立すると思う?」
一之瀬がふと問いかける。視線の先にいるのは堀北さんと、そして綾小路さん。
堀北さんが答えた。
「わざわざ敵対する必要はないけれど、協力しようと持ちかけるのは難しいでしょうね。試験の仕組み上2つのクラスが協力してやるにしても不完全だもの。それに、DクラスとBクラス全員の揺るぎない協力が必須条件。成立するとは思えない」
「うん。さすが堀北さん。よく試験を理解してるね。龍園くんのアイデアは机上の空論だよ。やっぱり手を組んだのは正解だったね」
「龍園くんの作戦は不発に終わる。多分心配しなくていいね。問題は葛城くんの籠城作戦の方だね。本人と話してみて手ごたえはどんな感じ?」
堀北さんと神崎、そして俺に葛城の様子を聞く一之瀬。
「昨日も報告したが、残りのグループ同様取り付く島もない。声をかければ返事はあるが、対話に参加しようとする意欲は全く感じられない。試験終了までスタンスは崩さないだろう。葛城不在でも態度は同じか?」
「うん。こっちもダメ。やっぱり別の方法でアプローチするしかないね」
「厄介だな、残り3回の議論だから何か手を打たなきゃまずいかもな…」
そう、考えを巡らせるがいい案は思いつかない。
時間がたち、雰囲気は解散ムードとなる。
「それじゃあ、私は部屋に戻るから」
全員で竜部屋を出た後、すぐに解散となり堀北さんは自室に戻って行く。
その途中、待っていたと思われる浜口が合流してきた。
「あれ、浜口。 一之瀬を待っていたのか?」
「やあ、神楽坂くん。そうだね、兎グループの方針を話そうと思ってね」
「そうか、一之瀬を頼むよ。 浜口たちならいい結果をもたらすと信じているからな」
「はは、ありがとう。 神楽坂くんも竜グループと大変だろうけど応援してるよ」
そうして浜口と話していると、どうやら一之瀬は綾小路さんと浜口とのグループで話すようだ。
俺と神崎は別れ、部屋に戻った。
日が変わり、今日は試験のインターバル日。
身体と脳を休めるための一日だが、休んでいられるほど気楽でもない。
早朝、届いた一通のメールが、俺たちを再び“試験”の中へ引き戻していた。
──『牛グループの試験が終了いたしました。牛グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動して下さい』
俺は船の甲板にあるカフェへ足を運んだ。
すると、そこにはすでに神崎と一之瀬が、テーブルを囲むように腰掛けていた。
「おはよう、神楽坂くん」
一之瀬が柔らかく笑いながら挨拶する。
「おはよう。一之瀬も来てたのか」
「うん。神崎くんから誘われたの。ちょうど話したいことがあったから、ちょうど良かったかな」
神崎は頷きながら、話を本題に移す。
「早速だがメールが来たのは確認できているな。牛グループの試験終了についてどう思う」
「どのクラスが裏切ったのかについて考えたいよね」
一之瀬の言葉に、神崎がうなずく。
「ああ、優待者を見抜いたのはどのクラスなのか。そして、見抜かれているとしたら由々しき事態だ」
神崎の目が細まる。
「しかし、裏切り者はちゃんと見抜いて送信したのか? 議論を4回やったが、俺はそれだけで見抜けるものとは思えないんだが」
「確かに、議論を通して見抜くのは難しいよね。 でも神崎くんは別の危惧をしているんだよね」
「危惧…? いったい何なんだ神崎」
「恐らくだが、この試験には議論とは別の解決方法がある」
「別の解決方法? だが、学校のメールや説明にはそんなこと書かれていないぞ」
「なあ、神楽坂。 考えてもみろ、この試験はあくまで『シンキング』試験だ。議論をする試験ではないし、それはあくまで手段に過ぎない。 この試験は、議論をしなくても勝利することのできる方法があると俺は思っている」
神崎の発言に、俺は思考を巡らせる。
確かに、この試験は議論をするというには少々不自然な点が多い。
まず、この議論には強制力がない。
だから、葛城の沈黙が許されているが、もし、議論をしないといけない試験ならば、これは許されないことだ。
会話を続けようとしたが、神崎と一之瀬が目線を後ろに移す。 どうやら、誰かがこっちに向かっている気配を感じる。
そして、議論を通して馴染んだ声が聞こえてくる。
「いい天気だなぁ、一之瀬、神崎、そして神楽坂。お前と喧嘩するにはいい天気だと思わないか」
そう言って、龍園は俺たちの会話に入ってくる。
「…何の用だ、龍園。 冷やかしなら帰ってもらいたいものだ」
神崎が警戒し、龍園に鋭い目を向ける。
「くくっ、なに、お前らどうせ今日のメールについて話してたんだろう。あれは、俺からのサプライズだ。 全員、慌てふためくほど喜ぶとは送ったかいがあったもんだ」
そう、龍園の仕業だと言い張り、心の中で驚きがありつつも納得をする。何かしら動くなら龍園しかいないイメージがあるからな。
「龍園くんが送らせたんだねメール。 確かに、驚いたけどまだ議論は2回あるよね。事を急ぎすぎたんじゃないかな」
そう、一之瀬が問いかけるが龍園はバカらしい言動だと思ったのかニヤリと笑う。
「クッ、まだ議論なんかするつもりか。 まあ、いい。そろそろ本題に入ろう」
そう、間をおき声が鋭くなる。
「一之瀬、改めて俺と手を組め。 1枠先に俺たちがとったが、このまま何もしないなら俺が総どりするぜ。 そうすれば、この試験は俺の勝ちだ」
そう、龍園が告げるが神崎は否定する。
「くだらん、嘘をつくな龍園。 もし、仮にやるならお前はCクラス以外の優待者に向けての裏切りをするはずだ。 この、1枠も所詮は圧を掛けるだけのはったりにすぎない。 そんな、はったりに一之瀬がうなずくわけがないだろう」
そう切り捨てるが、龍園が笑ったままだ。
「くくっ、そうだな。 だが、収穫はあったぜ。 動揺したお前ら全員の反応から、優待者の法則もつかめてきたからなぁ」
「…優待者の法則?」
そう、思わず問いかけてしまう。
「なんだ、神楽坂気づいてなかったのか。 ククッ、しょうがねぇ親切に少しヒントをやるよ。前の議論で葛城が学校が公平性に基づいているといっていたよな」
「…ああ、確かグループにいる優待者のクラスの偏りはなく公平だと言っていたが」
「ああ、そうだ。そして、メールにある文には厳正なる抽選だとか書いてあったが、つまり意図的に学校は優待者を選んでいる」
「…そういえば、龍園は提案時に言っていたな。自クラスの優待者を把握しているなんて言っていたが、もしかしてその優待者から法則を導き出したということか」
「ああ、そうだ。 俺は、つまりこの試験の根幹にたどり着いているのさ」
そして、一之瀬に目を向ける。
「なあ、一之瀬。 お前ほどの奴だ、このことについては把握できているはずだ」
「…そうだね。 優待者には何かしらの意図があるんじゃないかなとは思っていたよ」
「だから、最後のチャンスだ。 提案したとき鈴音はああ言っていたが、手を組むことによって、俺はDクラスの鼻っ柱を折れる。 お前らはAクラスに追いつく一歩になるのは間違いねえ」
「このことを水面下にすれば、AとDが組むなんて器用なこと鈴音にはできねえよ。 何かしら、鈴音と協力してるみたいだが鈴音と俺、どちらと組むのがいいかわかるはずだぜ一之瀬」
そう言って、龍園は一之瀬の目をとらえる。
状況は緊迫するが、一之瀬は自然体で答える。
「龍園くん、何度も言うようだけど私は首を縦に振ることはないよ。 それは、私の考えだけでなく、クラスのみんなとのことや堀北さんとの約束があるからね。それに、私は龍園くんと違って優待者の把握はできてないから、その提案の条件を満たせないよ」
そう、一之瀬は首を横に振って無理だということを改めて示す。
「ククッ、そうか。 わかったよ、今回は手を引いてやる」
そう言って、席を離れる龍園。
「だが、まず俺は鈴音たちDクラスを潰す。そして、それが済んだら一之瀬、次はお前だ」
そう言い放ち、不敵な笑みを浮かべ去ろうとする龍園。
「…ああ、そうだ神楽坂。 喧嘩なら、この船だろうが学校だろうが受け付けてやるよ。そうだな俺に勝ったら10万ポイントやるが、船でやることを勧めるぜ。枠はまだ用意してやるからよ」
そして、緊迫した状況から解放された。
落ち着いた状況で神崎がため息をつきながら話す。
「まったく、しつこい奴だ。 当面はDクラスに矛先を向けると言っていたがどうする一之瀬。 正直、俺としてはあまり首を突っ込みたくはないんだがな」
そう言ってコーヒーを流し込む神崎。
「うーん、そうだね。 とりあえず、堀北さんが何かしら助けを求めてきたら対応する感じでいいんじゃないかな。 ただ、堀北さんなら大丈夫だと思うんだよね」
俺は、カフェオレを流し込み口を開く。
「…だが、一之瀬。 相手は龍園だ、堀北さんは優秀だと思うが大丈夫だろうか」
俺は堀北さんについて考えを巡らせる。
普段は、芯が通っている感じで物怖じしない優秀な人のイメージが今回の議論を通して補強されたが、初めに会ったときのあの夜のことを思い出す。
なんというかお節介かもしれないけど、見ていておかないとふと堀北さんは倒れてしまうんじゃないかという不安もある。
だが、そのとき脳裏に綾小路さんの姿も思い浮かぶ。 あの夜、助けてくれた綾小路さんの安心感が思い起こされる。
……綾小路さんは大丈夫だろうか。 もし、龍園に目をつけられたら。
だが、なぜだろうか。不思議と綾小路さんに関しては心配の気持ちが湧かない。綾小路さんなら何とかするという謎の信頼感を覚えてしまう。
それに、あのとき約束をしたから、いざという時は力になる心構えはしておこうと改めて決心する。
そうして、俺たちは試験についての方針を軽く話し合い、その日は気持ちを切り替えて休みを満喫した。