作:綾小路君をTSヒロイン化した作品がみたい
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豪華客船のトレーニングルーム。ランニングマシンやウェイトトレーニングの機器が整然と並ぶ空間には、適度な冷房が効いていた。
俺は試しに軽くストレッチをしてみる。
(……思ったより、体は動くな)
無人島試験で龍園にボコボコにされたが、あれから三日経ち、熱と身体の痛みもほぼ引いていた。まだ本調子とは言えないが、軽い運動なら問題なさそうだ。
「もう大丈夫そうだな」
横で同じようにストレッチをしていた神崎が、ちらりと俺を見て言った。
「まあな。神崎も付き合わせて悪いな」
「いや、俺も少し体を動かしてみたかっただけだから、気にするな」
そう言いながら、試しにランニングマシンに乗ってみる。初めて使うので手探り状態だが、ゆっくりと速度を上げていくと、足の運びも自然と馴染んでいく。
「こういう施設、今まで使ったことなかったけど、案外いいな」
「俺も船に乗って初めて使ったが、悪くないな」
神崎は軽く息を整えながら、落ち着いた声で答えた。
「学校にも、こういうジムみたいな施設があればいいんだけどな」
「確かに。夏休みの間にどこかでジムの体験とかしてみるのもいいかもな」
無人島試験で体力の重要性を痛感したし、こういう施設を使えるなら、普段からトレーニングを積むのも悪くない。
そんなことを考えていると——
突然、ポケットに入れていた携帯が甲高い音を立てて震えた。
「……なんだ?」
神崎も同じタイミングで携帯を取り出している。
「重要なメールみたいだな」
携帯を開くと、そこには学校からの指示が書かれていた。
『間もなく特別試験を開始いたします。各自、指定された部屋に、指定された時間に集合してください。10分以上の遅刻をした者にはペナルティを科す場合があります。本日20時40分までに2階206号室に集合してください。所要時間は20分ほどですので、お手洗いなど済ませた上、携帯をマナーモードか電源をオフにしてお越しください』
俺は携帯の画面を開き、神崎と目を合わせる。
「……特別試験、か。」
「ああ。時間指定もされているな。」
神崎が静かに内容を読み上げる。
「20時40分までに2階206号室に集合……所要時間は20分ほど、か。そこまで長くはないな。」
「俺も同じだな、特別試験ってことは、またポイントを得るチャンスがあるんだよな」
「だろうな」
神崎は少し考えるように目を細めた。
「……無人島試験が終わったばかりなのに、次の試験か。今度はどのようなことを試されるのか、気になるな」
「同感だ。まあ、悩んでも仕方ないし、とりあえず指定の時間までにシャワーとご飯をすませておくか?」
「そうだな。それまではまだ時間があるから、少し運動して汗をかいておこうか」
俺たちは再びランニングマシンに向かいながら、神崎と一緒に次の試験のことを考えていた——。
集合時間が迫り、俺たち二人はトレーニング後にシャワーを浴び、晩飯を済ませた状態で指定された206号室へと向かった。
廊下を歩いていると、前方から見慣れた顔が現れる。
「津辺も俺たちと一緒か」
同じBクラスの女子、津辺が歩いていた。
「やっほ、神崎くんと神楽坂くんが一緒なんだね」
「そのようだな。俺たちは同じグループってことだろうな」
「そうみたいだね」
津辺が柔らかく微笑みながら頷く。
「しかし、二人がいるならなんとかなりそうだね。特別試験と聞いて緊張したけど、頼りにさせてもらうよ」
「俺も特別試験って聞いて緊張したけど、津辺と何より神崎がいるなら大丈夫だと思ってるよ。 だから、頼りにしてるぜ神崎」
そういって、神崎の肩をたたく。
「……俺は俺で、できることをやるだけだ。だから二人ともよろしく頼む」
そういって、俺たちは少し士気をあげながら試験会場へ向かった。
エレベーターもあったが、どうやら階段を使ったほうが早そうだ。神崎と津辺と並んで階段を降りていると、すでに何人かの生徒が同じ方向へ向かっているのが見えた。
「意外と人が多いな……俺たちと同じ目的の人もいるのか?」
神崎が階段の途中でふと周囲を見渡し、軽く眉を寄せる。
「そうかもしれないな。実は、一之瀬にあのメールについて確認したんだが、どうやらグループを組むらしい。詳しい内容はとりあえず時間通りに始まる説明を聞いてほしいそうだ」
「そうなのか……」
俺たちがそんな話をしていると、エレベーターの近くに何人かの生徒が立っているのが見えた。壁にもたれながら携帯をいじっている者、ただ腕を組んで様子を伺っている者——どうやら、彼らもこれから行われる試験について何か情報を得ようとしているようだ。
「私たちの動向をチェックしてる、って感じかな?」
津辺がぼそりと呟く。確かに、彼らの目線には妙な意図を感じる。
「可能性はあるな……まあ、特別試験だ。情報戦になるのは当然か」
神崎が冷静に状況を分析しながら、小さく息をつく。
そんな彼の言葉に、俺はふと思う。
(無人島試験のときも、チームワークだけでなく情報の有無が結果を大きく左右した……今度の試験も、そういう方向性なのか?)
考えていても仕方がない。とにかく、今は206号室に向かうことが先決だ。
俺たちはそのまま足を進め、206号室の前へと到着する。そこにはすでに数人の生徒が集まっていた。
「……なるほど、やっぱりこの中に同じグループのメンバーがいるわけか」
神崎がそう言いながら、じっと周囲を見回す。
すぐに目に入ったのは、落ち着いた雰囲気の男子生徒——Aクラスの葛城康平。
その隣には、Dクラスの堀北の姿もある。
どうやら、葛城は堀北さんに宣戦布告をしているようだ。
改めて詳しく神崎に教えてもらったが、無人島試験ではどうやらAクラスもポイントを落としており、結果として、Dクラスの一人勝ちだったらしい。
俺も、寝起きで頭が働いていないなかで聞いたけど驚いた。
ただ、この無人島試験、改めて考えると不審な点というか疑問が浮かび上がる。
そもそも、この試験龍園たちCクラスは0ポイントだったらしいが、俺はそこにも驚いている。
龍園はリーダー情報を獲得していたはずだから、ポイントは少なくとも50ポイントは得ていたはずだ。
だが、0ポイントということは恐らくCクラスのリーダー情報を見抜いたクラス、もとい人物がいるということ。
俺はあの現場をみたから、おそらく龍園がリーダーだと思っているが、他の誰かはどうリーダーを見つけたのだろうか。
…俺は、なにか大事なことを見落としているような気がする。
だが、これはもう過去のものになってしまった。俺は、今回の試験について考えないといけないと切り替える。
そんな考えをしていると、葛城が少々高圧的な姿勢を見せた為か、神崎が間に割って入る。
Aクラスのリーダー格である葛城に対して、紳士的に対応している姿を見ると、改めて神崎と一緒に試験に臨むことに安心感を覚える。
俺もせめて神崎の足を引っ張らないように頑張らないとな。
俺が神崎を見て安心感を覚えていると、ふと、背後から妙な気配を感じた。
ズカズカと大股で歩く足音——それは、まるで自らの存在を誇示するかのようだった。
(……この歩き方、まさか)
振り返るまでもなく、誰が来たのかは察しがついた。
「クク……雑魚どもが群れてるじゃねえか。俺も見学させてくれよ」
不敵な笑みとともに現れたのは、Cクラスのリーダー——龍園翔。
その後ろには、同じCクラスの生徒が三人付き従っていた。
彼の登場に、先ほどまで冷静だった葛城の声色がわずかに険しくなる。神崎も表情を引き締めた。
「……龍園か」
「お前もこの時間に招集されたのか? それとも、偶然ここを歩いていただけか?」
葛城が鋭く問いかけるが、龍園はニヤリと口角を上げながら肩をすくめた。
「残念なことに、お前らと同じ時間のようだな」
その言葉を聞いて、俺は無意識に拳を握りしめていた。
(……龍園)
無人島試験の夜、俺をボコボコにした男——あの日の記憶が未だに俺の中に強く刻まれているからか身体に力が入る。
だが、俺は深く息を吐き、意識を切り替える。
(…今は関係ない。試験のことを考えないと)
そうしている間にも、龍園は軽口を叩きながら、葛城や堀北さんにちょっかいをかけ始めていた。
葛城も冷静に切り返し、二人の間にピリピリとした空気が生まれていく。
そして——
「……龍園、俺はお前を許さない」
隣にいた神崎が、前に出て低い声で呟いた。
普段冷静な彼にしては珍しく、その声には明確な怒気が含まれていた。
龍園もそれを察したのか、ニヤリと薄ら笑いを浮かべる。
「なんだ、お前は。俺にはお前に怒られる覚えがないなあ」
周囲の空気がピリつき始めるのを感じた。
(……神崎、まさか龍園に突っかかるつもりか?)
俺が驚いている間にも、神崎は一歩、龍園に近づく。
「Cクラスがどんな方針を取るかは自由だ。だが、他クラスの生徒に、仲間に暴力を振るうのは、到底許される行為ではない。 お前がその態度なら、俺も相応の対応をとる」
「……くく、随分とまあ熱いじゃねえか?」
龍園は楽しそうに肩を揺らすと、俺を一瞥する。
「俺にはなんでこいつがこんなに怒っているのかわかんねえんだが、何かわかるか、なあ神楽坂」
龍園の視線が俺に向けられる。
思わず拳を握りそうになったが、ここで挑発に乗るのは得策じゃない。
それより——
「……神崎、もういい」
俺は静かに、だがはっきりとした声で神崎を制した。
彼が驚いたように俺を見やる。
「だが、神楽坂——」
「気持ちはありがたい。でも、あれはもう終わったことだ」
俺は龍園を一瞥しながら、言葉を続けた。
「俺はもう大丈夫だし、あの件で騒いでも得られるものはない。今は試験に集中すべきだ」
そう言うと、神崎はしばらく俺を見つめた後、静かに息を吐いた。
「……分かった」
そうして、神崎は龍園から目をそらした。
だが、神崎の眼光はまだ鋭さを保っていた。
一方の龍園は、つまらなそうに肩をすくめる。
「クク、つまんねぇなぁ。せっかく面白くなりそうだったのによ」
そう呟きながら、龍園は再び場を見渡す。
俺は静かにその様子を見守りながら、これから始まる試験への緊張感を高めていく。
部屋へ入ると、日本史の担当もとい1年Dクラスの教師である茶柱先生が静かに座っていた。そして、俺たち3人が席につくと、淡々と説明が始まった。 以下が特別試験のルールとなる。
・特別試験
1年生全員を干支にちなんだ12のグループに分け、“考える力” を試す試験。
・基本ルール
各グループには “優待者” と呼ばれる生徒が1人ずついる。
試験終了時までに、その優待者の正体を見破ることが目的。
3日間の試験期間中、午後1時と午後8時の毎日2回の話し合いを実施。
最終日午後9時30分~10時の間 に答えを学校へ送信。なお、結果3と4はこれに限らない。
・試験結果と報酬
結果1:全員が優待者を正しく答えた場合 → 全員50万ポイント(優待者は100万)
結果2:1人でも間違えた場合 → 優待者のみ50万ポイント
結果3:試験中に誰かが優待者を見破り報告した場合 → 正解者に50万ポイント+クラスにクラスポイント50加点(優待者のクラスは-50クラスポイントの減点となる)
結果4:試験中に誤答した場合 → 誤答者のクラスは-50クラスポイント、優待者のクラスに50クラスポイント加点+優待者に50万ポイント
・その他のルール
解答のやり取りはメールのみ、優待者本人は解答権なし。
携帯の盗難・メールの改ざん・また脅迫行為による情報開示は禁止、違反は即退学。
「今回の試験では、1年全員を干支にちなんだ12のグループに分ける。それぞれのグループ内で試験を行い、“考える力” が試される」
干支のグループ。考える力。
この時点で、いつもの試験とは毛色が違うのが分かる。
「今回の試験では、大前提としてAクラスからDクラスまでの関係性を一度無視しろ。そうすることが試験をクリアするための近道であると言っておく」
「試験では“優待者”と呼ばれる特別な役割の生徒が、各グループに1人ずつ割り振られる。そして、試験の目的は“その優待者を見つけ出すこと” にある」
優待者——。
その正体を突き止める試験、か。
「……単純なチーム戦じゃなさそうだ」
俺は思わず呟いた。
協力すれば全員が得をする。だが、裏切れば個人やクラスに莫大な利益が入る。
おそらく、この試験はただの話し合いでは済まない。
「おまえたちの配属されるグループは『辰』。ここにそのメンバーのリストがある。これは退室時に返却させるものだから必要性を感じるのであればこの場で覚えておけ」
そして、グループは以下の通り。
Aクラス・葛城康平 西川亮子 的場信二 矢野小春
Bクラス・神楽坂創 神崎隆二 津辺仁美
Cクラス・小田拓海 鈴木英俊 園田正志 龍園翔
Dクラス・櫛田桔梗 平田洋介 堀北鈴音
これは… そうそうたるメンバーだ。あの時間、葛城や龍園と会うことになったのも納得する。
試験開始は明日——。
これは、間違いなく無人島試験以上の厄介な戦いになる。
茶柱先生は説明を終えると退出していった。
説明を聞き終えた俺たちは、部屋を出る前に小さく息をついた。
神崎が考え込んで発言する。
「……これは、無人島試験より厄介だな」
「やっぱりそう思うか?」
「ああ。無人島試験はクラスごとの戦いだったが、今回は全員が入り混じる。協力と裏切りの境界が曖昧になるから、立ち回り次第では自分のクラスに不利益をもたらすかもしれない」
「それってつまり……自分の動きによって、クラスに迷惑をかけちゃう可能性があるってこと?」
津辺が不安そうに告げる。
「そうだ。だからこそ、慎重に動かないといけない」
「俺たちはどうする?」
「……まずは、各グループに配属されたクラスの状況を確認して、優待者をどうするかを考えたい。そのためには、一之瀬と連絡をとって状況把握に努めるのがよさそうだ」
そういって、早速神崎はスマホを取り出し連絡を行っている。 相手は一之瀬だろう。
神崎が一之瀬と連絡をとっている間、俺はメンバー表を改めて見つめる。
「……そういえば、一之瀬がいないのか」
ぽつりと呟くと、津辺が首をかしげる。
「そういえば、そうだね。葛城君や龍園君、平田君とリーダーが集まっているのにこの中に一之瀬ちゃんがいないね。なんで選ばれなかったんだろ?」
「単純に運が悪かった……とは思えないな」
このグループを見れば、各クラスのキーパーソンがある程度バランスよく配置されている。龍園や葛城、平田やそれに櫛田さんに堀北さん……それなのに、一之瀬だけが除外されているのは妙だ。
「……試験の運営側が、あえて外した可能性はあるか?」
「外した? なんでそんなことを?」
「それはまだわからない。ただ、もし意図的なものだとしたら、試験の結果に大きく影響するはずだ」
試験の性質上、説得力がものを言う場面が出てくるのは間違いない。一之瀬は人を惹きつける魅力を持っているし、味方を増やすのが得意だ。そんな彼女がいれば、グループの立ち回りも大きく変わっていただろう。
(……なぜ、一之瀬じゃなくて俺がこのグループに選ばれてるんだ? もしかして、俺が優待者になる可能性があるのだろうか)
神崎がスマホを操作しながら顔を上げる。
「一之瀬から返信があった。一之瀬は卯グループのようだ。あと、浜口と別府が一緒だ。一之瀬も同じ考えのようで、クラスのほぼ全員と連絡をして確認できているらしい」
なるほど、一之瀬のメンバーも浜口、別府と冷静な2人だからよさそうだ。そして、リーダーとして動ける準備が出来ているのはさすがだ。
「あと、一之瀬としては無理に優待者を聞くつもりはないようだが相談は受け付けているといっている。 そして、この試験での結果についてだか、一之瀬は結果1を目指したいらしい」
「結果1か…」
結果1は、最終日まで裏切者が現れなければ、全員に50万ポイントがもらえる最良の結果だ。
「俺としては龍園のあの性格上、結果1は難しいとは思うが一之瀬の望みだ。明日のディスカッションで同じく意見を述べてみようと思うがどうだろう?」
「そうだな、俺も異論はないよ神崎」
「私も神崎君に任せるよ」
俺たちは互いに顔を見合わせて確認する。
試験開始は明日。果たして、どのような試験になるか——。