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作:綾小路君をTSヒロイン化した作品がみたい
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14話


 無人島試験2日目の午前、Bクラスのキャンプ地は朝食を終え、それぞれの役割に分かれて動き出していた。水汲みや薪集め、食料調達の準備を進める中、突如として不穏な気配が漂う。

 

 「おいおい、随分と質素な生活してるな、Bクラスは」

 

 聞き慣れない声に振り向くと、そこにはCクラスの生徒が二人立っていた。小宮と近藤——龍園の取り巻きとして知られる二人だ。彼らは手にスナック菓子を持ち、炭酸飲料のペットボトルを煽りながら、余裕たっぷりの笑みを浮かべている。

 

 「ははっ、朝食は何を食ったんだ? まさか、雑草とかじゃねえだろうな?」

 

 明らかな挑発。周囲のBクラスの生徒たちは不快感を露わにしながらも、口を開くことができずにいた。

 

 「……何か用か?」

 

 沈黙を破ったのは神崎だった。彼の冷静な声に、Cクラスの二人はわざとらしく肩をすくめる。

 

 「何、ちょっとした親切心だよ。龍園さんからの伝言だ。『夏休みを満喫したかったら今すぐ浜辺に来い』ってな」

 

 「浜辺?」

 

 一之瀬が怪訝そうに呟く。

 

 「そうそう。俺たちの拠点はな、文明的で快適なんだぜ。クーラーボックスには冷たいジュース、肉や魚もたっぷりある。お前らみたいに水や食料に困ることなんてないんだよ」

 

 小宮がポテチをバリバリと音を立てながら、わざと口を大きく動かして見せる。

 

 「へぇ……それはすごいね」

 

 挑発的な態度にも関わらず、一之瀬は穏やかに微笑んで見せた。だが、その目は真剣だ。

 

 「Cクラスがそんな贅沢な生活を送ってるなんて、ちょっと気になるな」

 

 「だったら見に来いよ。あ、もちろん手ぶらで来いよ? お客様扱いしてやるからよ」

 

 小宮と近藤はニヤニヤしながら背を向け、そのままBクラスのキャンプ地を後にした。

 

 「……なんなんだあいつら」

 

 柴田がさきほどの2人に呆れる。

 

 「行ってみようかな」

 

 「えっ?」

 

 予想外の返答に、クラスメイトたちが驚く。

 

 「Cクラスのこと、ちょっと気になるんだよね」

 

 一之瀬は穏やかな表情のまま、しかしどこか鋭い眼差しをしていた。

 

 「本当にそんな贅沢な生活をしてるなら、それはそれで情報になるし。どうしてポイントをそんなに使ってるのか、その意図も気になるし……」

 

 「でも、帆波ちゃん、一人で行くのは危険じゃない?」

 

 神崎がすぐに口を挟む。

 

 「Cクラスの連中がまともに情報を渡すとは思えない。もしかしたら、罠の可能性もある」

 

 「でも、行かないと何も分からないよ?」

 

 「……だったら———神楽坂、お前が付き添え」

 

 神崎が俺の名前を呼んだ。

 

 「えっ、俺?」

 

 「一之瀬を一人で行かせるのは危険だ。お前なら、状況を冷静に見極めて対応できるだろう」

 

 「…俺でいいのか?」

 

 「ああ、お前がいい」

 

 神崎は断言する。

 

 「Bクラスの中で、冷静さと適度な距離感を保ちつつ対応できる、いざとなったら力も足もある。そうなると一之瀬を守れる奴は限られる。神楽坂、お前なら適任だ」

 

 「うーん……」

 

 正直、俺は神崎のほうが適任なんじゃないかと思う。 だが、神崎がこう、信頼というか評価してくれているのを聞くと期待に応えたいとも思ってしまう。

 

 「神楽坂くんなら大丈夫だと僕は思います」

 

 浜口が提案にのってくる。

 

 「頼んだよ神楽坂副委員長! 一之瀬委員長をよろしくね」

 

 クラスのみんなから、応援を送られる。

 

 「……分かったよ。一之瀬、一緒に行こう」

 

 「ありがとう、神楽坂くん!」

 

 こうして、俺と一之瀬はCクラスの拠点へ向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

  Cクラスの拠点に足を踏み入れた瞬間、俺は思わず息を呑んだ。

 

 (……なんだ、これは)

 

 目の前に広がるのは、試験とは思えないほどの豪勢な光景だった。ターフやパラソルの下にはリクライニングチェアが並べられ、クラスの生徒たちはジュースを片手にくつろいでいる。バーベキューの香ばしい匂いが辺りに漂い、肉や魚が次々と焼かれていた。さらに沖合では水上バイクが疾走し、楽しげな悲鳴が響き渡っている。

 

 (これが……同じ試験を受けてるクラスか?)

 

 俺が茫然と立ち尽くしていると、隣にいた一之瀬が小さく苦笑しながら声をかけた。

 

 「神楽坂くん、しっかりして?」

 

 「あ、ああ……ごめん」

 

 軽く頭を振り、気を引き締める。確かに呆けている場合じゃない。俺たちはCクラスの動向を探るためにここへ来たのだから。

 

 そんな俺たちの様子を察したのか、Cクラスの生徒がこちらに気づき、この一連の挑発を行った人物のいる場所まで案内する。

 俺たちと同じ一生徒のはずなのに、このように指示を出し畏れさせている存在。

 前々から、揉め事が大小問わず起こり悪い噂を聞く男——龍園翔が、パラソルのもとで涼んでいる状態でリクライニングチェアに掛けている状態からそっと体を起こした。

 

 「ほう、Bクラスのリーダーがわざわざご来訪とはな。俺たちのバカンスを羨ましくなったか?」

 

 「にゃはは、確かに楽しそうだね。でも、ただの見学だよ」

 

 一之瀬はあくまで柔らかい笑顔を崩さずに応じる。その態度が余裕すら感じさせるせいか、龍園の口元がニヤリと歪んだ。

 

 「くくっ、見学とはつれないな。せっかく来たんだ、遠慮せずに飲み食いしていけよ」

 

 「お誘いはありがたいけど、私たちは遠慮しておくよ」

 

 「そうか、つまんねえ返答だなぁ。まあいいさ、それよりも……おい、アルベルト」

 

 龍園はパラソルの横で待機していた、ガタイのいい外国人―—山田アルベルトに声をかけた。

 

 「キンキンに冷えたコーラを持ってこい」

 

 「Yes,Boss」

 

 走り出すアルベルトを横目に、一之瀬は小さく溜息をついた。

 

 「……うーん、あまり感心しないなぁ」

 

 「なんだ、俺の指示の仕方が気に入らねぇってか?」

 

 「ううん。ただ、仲間なのにずいぶんと乱暴な扱いをするんだねって思ってさ」

 

 龍園はククッと笑いながら肩をすくめる。

 

 「俺にとっちゃ、使える駒かどうかが全てだ。仲良しごっこなんざ興味ねぇよ」

 

 一之瀬はその言葉に少しだけ表情を曇らせたが、すぐに次の話題へと移った。

 

 「そういえば、龍園くん。金田くんのこと、知ってる?」

 

 「金田?」

 

 龍園は一瞬だけ考えた後、面倒そうに鼻を鳴らした。

 

 「さあな。野郎のことなんぞいちいち気にしちゃいねぇよ」

 

 その言葉に、一之瀬の目がわずかに鋭くなる。

 

 「同じCクラスの生徒だよね? 彼、私たちのところで保護したんだけど……顔に痣もあったし、ちょっと気になっててね」

 

 「へぇ? それはご苦労なこった」

 

 龍園は興味がなさそうに、アルベルトが持ってきたコーラを軽く飲み干す。

 

 「まあ、アイツがどこで何してようが知ったことか。うちのクラスからいなくなったのは事実だろうが、それだけの話だろ?」

 

 「でも、彼の怪我は……」

 

 「さあな。俺は知らねぇよ。それよりも——」

 

 龍園は一之瀬をじっと見つめ、ニヤリと口角を上げた。

 

 「せっかく来たんだ、ちょっとくらい遊んでいけよ。お前専用のテントも用意してやるぜ?」

 

 「……」

 

 挑発的な笑みを浮かべる龍園。その言葉に、俺の中で何かが弾けた。

 

 「いい加減にしろよ……!」

 

 思わず声を荒げると、龍園は興味なさげに俺を見た。

 

 「……なんだお前?」

 

 完全に眼中にない、と言わんばかりの態度に、俺は拳を握りしめる。

 

「金田を殴ったの、もしかしなくてもお前だろ龍園」

 

「神楽坂くん、落ち着いて」

 

 一之瀬が静かに俺を制し、腕を引く。

 

 ……そうだった。俺はあくまで一之瀬を守るために来ているんだ。龍園に文句を言うためではないはずだ。

 

 挑発された一之瀬は終始冷静だ、俺も落ち着かないと。

 

 「龍園くん、これで分かったよ。君は試験を放棄したんだね」

 

 「はっ、くだらねぇ試験なんざやってらんねぇよ」

 

 龍園はコーラを一気に飲み干し、空のビンを砂に投げ捨てる。

 

 「……もう十分、情報は得られたよ。ありがとう、龍園くん」

 

 そう言って、一之瀬は踵を返した。

 

 「帰ろう、神楽坂くん」

 

 「あ、ああ……」

 

 俺は龍園を一瞥し、一之瀬の後を追う。

 

 背後からは、龍園の楽しげな笑い声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 Cクラスの拠点を後にし、俺たちは森の中の道を引き返していた。

 

 木々の隙間から差し込む陽射しがじりじりと肌を焼き、じっとりと汗がにじむ。だが、それ以上に俺の心を重くさせていたのは、さっきの自分の行動だった。

 

 「……一之瀬」

 

 「ん?」

 

 俺が立ち止まり、一之瀬のほうを向く。彼女は小首を傾げ、俺の言葉を待っていた。

 

 「さっきは、悪かった。ついカッとなって……」

 

 一之瀬が龍園に挑発されても冷静でいられたのに、俺は感情的になってしまった。護衛としてついてきたのに、一番冷静さを欠いていたのは俺だった。

 

 一之瀬はふっと優しく笑った。

 

 「ううん、気にしなくていいよ。神楽坂くんは優しいね」

 

 「……俺はただ、龍園の態度が気に食わなかっただけだよ」

 

 「そうかもしれない。でも、そうやって怒ってくれる人がいるって、悪いことじゃないと思うな」

 

 俺は何も言えず、俯いた。

 

 一之瀬は俺の横に並び、歩きながら続ける。

 

 「それにしても、龍園くん……完全に試験を放棄してたね」

 

 「ああ。ここまで徹底してルールを無視するとは思わなかった、この様子ならCクラスは警戒しなくてもよさそうだな」

 

 一之瀬は「うーん……」と少し考え込むように唸った。

 

 「確かに、今のままなら試験にはならないかもしれないけど……なんか違和感があるんだよね」

 

 「違和感?」

 

 「うん。だって、龍園くんはこの大事な時期に何もしない人なのかなって」

 

 一之瀬は歩きながら、考えるように指を軽く唇に当てた。

 

 「でも、実際にCクラスは豪遊していたし、金田を追い出すということは点呼によるポイント減少も避けられない。どう考えても試験を捨てたようにしか見えなかったが……」

 

 「うん。それが不自然だと思うんだ」

 

 一之瀬は少しだけ歩調を緩めて、俺の方を見た。

 

 「ねえ、神楽坂くん。もしかしたら、龍園くんは“まだ何かを隠してる”って可能性はないかな?」

 

 俺はその言葉に少し考え込む。確かに、龍園のやり方は予想外だったが、あまりに愚かすぎる。

 

 「……何か裏がある、か」

 

 一之瀬は「うん」と頷くと、少しだけ微笑んだ。

 

 「まあ、今はまだ分からないけどね。でも、Cクラスが試験を捨てたって結論を出すのは、ちょっと早い気がするな」

 

 「……確かに、そうかもしれない」

 

 俺は改めて、龍園のあの余裕たっぷりの態度を思い出す。もし本当に全てのポイントを失っているなら、あそこまで楽しげに笑っていられるものだろうか……?

 

 でも、今は確証がない。

 

 「まあ、今はひとまず戻ろっか! きっとみんな、報告を待ってると思うし」

 

 「そうだな」

 

 一之瀬がそう言い、俺たちは再び足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 そう言って歩を進めると、木々の隙間からBクラスのキャンプ地が見えてきた。

 

 俺たちが戻ると、すぐに何人かのクラスメイトが駆け寄ってきた。

 

 「おっ、帰ってきたか!」

 

 「どうだったんだ? Cクラスの様子は?」

 

 先陣を切って声をかけてきたのは柴田だった。彼の後ろでは神崎や白波たちもこちらを見ている。

 

 一之瀬は「うーん」と少し考え込み、ゆっくりと口を開いた。

 

 「一言で言うと……“豪遊”してたよ」

 

 「豪遊?」

 

 「うん。バーベキューセットやターフ、パラソルなんかも揃えてたし、ジュースやお菓子もいっぱいあったよ。しかも、水上バイクまで乗ってたしね」

 

 一之瀬の説明に、クラスメイトたちは驚いたように顔を見合わせた。

 

 「は? マジで?」

 

 「そんなことしてたら、あいつらすぐにポイントなくなるんじゃないか?」

 

 「実際、もう全ポイント使い切ったみたいだよ」

 

 一之瀬の言葉に、一瞬沈黙が訪れる。

 

 「…それは、本当か?」

 

 神崎が呆れたように眉をひそめる。

 

 「うん、龍園くん本人がそう言ってたよ」

 

 「えぇ……? アホなのか……?」

 

 柴田が困惑したように頭を抱えた。

 

 Bクラスのクラスメイトたちは、Cクラスの異常な行動に驚きながらも、どこか困惑しているようだった。

 

 一之瀬はそんな空気を和らげるように、ぱっと明るい笑顔を見せる。

 

 「でもね、みんな。私たちは私たちのやり方で、この試験を乗り切ればいいんだよ!」

 

 「……え?」

 

 クラスのみんなが戸惑いながらも、一之瀬の言葉に耳を傾ける。

 

 「Cクラスがどういう作戦を取ってるかは分からないけど、それはあくまであのクラスの選択。私たちは、クラスみんなで協力してポイントを節約しながら試験を乗り切る。それができれば、きっとこの試験に勝てるはずだよ!」

 

 クラスメイトたちは顔を見合わせる。

 

 「……確かに、俺たちは他のクラスと違って、みんなが一丸となって協力できる強みがあるよな」

 

 柴田が頷くと、渡辺も「おお、それが俺たちの強さだよな」と同調する。

 

 「だよね!」

 

 一之瀬は力強く頷き、両手を腰に当てる。

 

 「だから、Cクラスのことはあんまり気にしなくていいはずだよ。むしろ、私たちがこの試験を最後までしっかり乗り切れば、きっといい結果が出せると思う!」

 

 その言葉に、クラスメイトたちの表情が次第に引き締まっていく。

 

 「よし、やるしかねえな!」

 

 「うん、協力して試験頑張ろう!」

 

 士気が上がるのを感じながら、俺は一之瀬を横目で見た。

 

 (やっぱり、一之瀬はすごいな……)

 

 Cクラスの異様な状況を見たあとでも、動揺せずにすぐにクラスの士気を高めるあたり、彼女の持つ“人をまとめる力”は本物だ。

 

 「さ、じゃあお昼ご飯の準備しよっか!」

 

 一之瀬がそう言うと、クラスメイトたちは次々と動き出した。

 

 俺も軽く息を吐き、気を引き締める。

 

 (この試験、Bクラスなら大丈夫なはずだ……)

 

 そんなことを考えながら、俺は食料班の手伝いに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Bクラスのキャンプ地に足を踏み入れた瞬間、私は思わず息を呑んだ。

 清潔に整えられた拠点、整然としたハンモックの配置、無駄のない道具の選定。

 Dクラスとは、まるで違う光景が広がっていた。

 

 Bクラスの生徒たちは、それぞれの役割を的確にこなし、楽しみながら生活しているように見える。

 統率のとれた集団。それがBクラスの強みなのだろう。

 

 「あれ? 堀北さん! 綾小路さんも一緒だね!」

 

 明るい声が響き、ジャージ姿の一之瀬が手を振る。

 彼女はちょうどハンモックの紐を結んでいたところらしい。

 

 「随分とクラスは上手く機能しているようね。拠点としては苦労も多そうだけれど」

 

 「うーん、最初は大変だったけどね。でも、みんなで工夫していくうちに、むしろ楽しくなっちゃったかな!」

 

 一之瀬はそう言って、ハンモックに腰を下ろす。

 

 情報交換のためにBクラスを訪れた私たちは、お互いの試験状況を話し合った。

 一之瀬は隠し事をする様子もなく、Bクラスのポイント消費や物資の使い方を開示してくれた。

 その姿勢には感心するが、同時に不用心すぎる気もする。

 

 「……まあ、何にせよBクラスが順調そうで何よりね」

 

 話がひと段落したところで、

「お話中すいません。あの一之瀬さん。神楽坂くんはどこにいるかわかりますか」

 

 話し合いをしていると、一人の男子生徒が現れ遠慮がちにそう聞いてきた。

 

「神楽坂くんはこの時間海のほうに出向いてるはずだよ? どうかしたの?」

 

「お手伝いに行こうと思いまして。余計なことでしたか」

 

「ううんそんなことはないよ。金田くんの気持ちは凄くうれしい。じゃあ、向こうで千尋ちゃんたちのフォローに回ってもらえる? 私から言われたって話せば大丈夫だから」

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

 その短いやり取りを見て、少し疑問に思い尋ねる。

 

「クラスメイトにしては随分と余所余所そしいわね」

 

「あ、彼は───」

 

「Cクラスの生徒、ね」

 

 一之瀬さんが答える前に綾小路さんが言葉を挟むと、そうだよと頷いた。

 

「知ってたんだ? 彼、Cクラスと揉めちゃったみたいでさ。一人で過ごすって言ってたんだけど流石に放っておけなくって。事情は話したがらないから聞いてないけど」

 

 その話に、昨日Dクラスも同じことをしたのを告げる。

 

「私たちも昨日一人拾ったのよ、Cクラスから溢れた生徒を」

 

 私はさっき龍園くんに会い詳細を聞いたことを話す。好き放題暴れまわる龍園くんに対して謀反を起こした二人の内の一人だということ。伊吹さんは殴られた経緯もあったこと。

 

 それを聞いた後、一之瀬さんは守り通す決意を更に固めたのか、力強い瞳をしていた。

 

 すると、隣の綾小路さんが自然にあることを聞く。

 

 「……神楽坂創は、元気にしてる?」

 

 その言葉に、私は僅かに違和感を覚える。

 

 (…珍しい、この人誰かを心配するような人だったかしら。それに、神楽坂くんって兄さんの制裁を止めようとした人だったわね)

 

 あのときのことを思い出し、申し訳ない気持ちと困ったら相談してくれて大丈夫と言ってくれたお人よしな彼の雰囲気に安堵したのも思い出す。私の数少ないミスを思い出し恥ずかしい。

 

「うん、神楽坂君は元気にしてるよ。クラスのみんなを積極的に助けてくれてるよ」

 

 そして一之瀬さんも綾小路さんが聞いていることに興味を持ったのか、少し面白そうな笑みを浮かべた。

 

 「……ねえ、綾小路さんって、もしかして神楽坂くんのこと気になるの? なんか意外かも!」

 

 「……」

 

 綾小路さんの雰囲気が、心なしかわずかに揺らぐ。

 

 綾小路さんが誰かを好きになるなんて正直予想がつかない。この人、ここ4か月の学校生活で人とまともに話さないし。…しいて言えば、私と話すくらいかしら。

 私が弁当を持参したとき、彼女が質素にパンだけで済ませようとしたのを憐れんで、おかずを渡したとき、どこか嬉しそうな雰囲気を出していたのを思い出す。

 多分、花より団子な人なのだと思っていたのだけれど。

 

「そういえば、前に腕を組むのも躊躇なかったよね」

 

 ……腕? 腕を組むって綾小路さんが…? 男子はおろか、女子とも距離を保っていて櫛田さんもなかなか困惑していたのを思い出す。

 

 が、それは一瞬のことだった。

 

 「……違うわ。前に借りがあって助けるのを約束したことに過ぎない」

 

 即座にそう淡々と返す綾小路さん。

 

 一之瀬は「借りって……どんな?」と意味ありげに微笑む。

 私は、綾小路さんの言葉について考える。

 

 (借りってもしかして……私と兄さんのあのときのことかしら)

 

 「……そろそろ行きましょう、綾小路さん。長居するとBクラスに悪いわ」

 

 私は意図的に会話を打ち切った。

 

 私は、それ以上この話題を掘り下げたくなかった。

 そして、綾小路さんもまた、それを察したのか何も言わず頷いた。

 

 一之瀬さんは少し名残惜しそうにしながらも、あえてそれ以上は触れなかった。

 

 こうして、私たちはBクラスのキャンプ地を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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