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作:綾小路君をTSヒロイン化した作品がみたい
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10話


 放課後の玄関前は、帰宅する生徒たちで賑わっていた。

 

 そういえば一之瀬とどう合流すればいいのか少し悩んでいたが、その必要はなかった。彼女はすぐに見つかった。

 

 場を支配するような存在感を持つ彼女は、可愛らしい見た目も相まって、どこにいても目立つ。男女問わず多くの生徒に話しかけられ、次々と笑顔で応じている。

 

(さすが、一之瀬だな)

 

 創は少し距離を取ってその様子を眺めていたが、横にいた清華も同じく彼女の周囲を観察していた。

 

「相変わらず、人気者ね」

 

「そうだね…って、綾小路さんいつの間に!?」

 

 全然、隣にいたのに気付かなかった… 思わず、驚いてしまう。

 

 創がそう返すと、一之瀬がこちらに気づいて手を振った。

 

「あ、神楽坂くん、綾小路さん! こっちこっち!」

 

 創は軽く手を挙げて応じ、清華も小さく頷きながら彼女の元へ向かう。

 

「待たせちゃったかな? ごめんね」

 

「いや、今来たところだ」

 

「………それで、話って何?」

 

 清華が静かに問いかけると、一之瀬は少し気まずそうに微笑んだ。

 

「えっとね、ちょっと付き合ってほしいことがあって……。二人とも少し時間、あらためて大丈夫かな?」

 

「まあ、問題はないけど」

 

「……私も別に構わないわ」

 

「よかった! それじゃ、ちょっとついてきて」

 

 一之瀬に促され、創と清華は彼女と共に校舎の裏手へ向かった。

 

 

 たどり着いたのは、体育館裏。

 

「ここで何を?」

 

「実はね……今日ここで告白されることになってるの」

 

「……なるほど」

 

「えっ!? 今日なの!? あと、綾小路さん、意外とあっさりしてるね……?」

 

 一之瀬の問いに清華は少し視線を逸らし、淡々と答えた。

 

「別に、珍しいことでもないでしょう」

 

「そ、そうかな……?」

 

 まあ、確かに一之瀬なら珍しいことではないとは思うが。

 

 一之瀬が苦笑しながら手紙を取り出して見せる。そこには可愛らしい文字で書かれた告白の言葉と、今日のこの時間に会いたいという内容が綴られていた。

 

「それで、相談って?」

 

 創が問いかけると、一之瀬は少しバツの悪そうな表情を浮かべながら言った。

 

「……あのね、いろいろ考えたの、どうすればいいのか。…その神楽坂くん。できれば、彼氏のフリをしてほしいんだ」

 

 

 瞬間、沈黙が訪れた。あと、気のせいか空気が冷える感じがする。

 

「………俺に? えっ、彼氏…役?」

 

「はっ… 神楽坂創が...彼氏に?」

 

「え、う、うん……」

 

 清華が僅かに目を細めて一之瀬を見つめる。

 

「なぜ?」

 

 創が何か言う前に、清華が淡々とした声で問い詰める。

 

「えっと……色々調べたら、付き合ってる人がいるって言うのが、一番相手を傷つけずに済む方法らしくて……」

 

「……それ、本当に最善かしら」

 

 清華はわずかに眉をひそめ、静かに呟く。

 

「え? う、うん……たぶん」

 

 一之瀬が少し困ったように笑う。

 

 創はというと、突然の申し出に戸惑いながら「…俺でいいのか?」と問いかける。

 

「もちろん! 神楽坂くんなら信頼できるし、誰かに言いふらしたりしないでしょ?」

 

「……まあ、それはそうだが……」

 

 創が困惑しているのを見て、清華がわずかに視線を逸らしながら呟いた。

 

「……断れば?」

 

「えっ?」

 

 創は驚いて清華の顔を見るが、彼女はそっぽを向いたまま何も言わない。

 

「あっ、あの… 綾小路さん……もしかして、反対?」

 

 一之瀬が少し意外そうに尋ねる。

 

「……別に。ただ、正直に話した方がいいんじゃないかと思っただけ」

 

 清華は表情を変えずにそう言った。

 

 一之瀬は少し考え込んだ後、苦笑いを浮かべた。

 

「うーん、そうかもだけど……その、やっぱり直接断るのって勇気がいるし……」

 

 それは、たぶん俺が一之瀬の彼氏になる勇気と同等以上なのでは… 

 一之瀬の彼氏役になれることは、とても名誉というかうれしいことなのだろう。

 しかし、告白というイベントに気が動転してしまったゆえの一之瀬なりの結論なのだろう。俺のなかでは、ある結論が決まってきた。

 

 そう言いながらも、彼女はどこか迷いがあるようだった。

 

 そのとき——。

 

「……来たみたい」

 

 清華が視線を向ける先に、一人の少女が現れた。

 

 

「一之瀬さん……それに神楽坂くんとその女性は?」

 

 告白の相手らしき少女―――白波千尋は、警戒するように主に創を見つめる。

 

 一之瀬はバツの悪そうな顔をしながら、どう答えるべきか悩んでいる様子だった。

 

 創は小さくため息をつき、静かに言葉を紡ぐ。

 

「ただの友達だよ、白波」

 

「えっ?」

 

 創の言葉に、一之瀬も、清華も驚いたように目を丸くする。

 

「一之瀬。相手の気持ちを受け止めないまま終わらせるのは、結局どちらにとってもよくないと思うぞ。嘘で相手を傷つけないようにするより、傷ついてでも本当のことを言ってくれたほうがいいはずだ」

 

 創は静かにそう言った。

 

 一之瀬は目を見開き、そしてゆっくりと息を吐いた。

 

「……そっか。うん、そうだね」

 

 彼女は決意したように、告白相手の少女に向き直る。

 

 

 「……ごめんね、お邪魔しました。いこう綾小路さん」

 

 そう呟いて、創は一之瀬と白波を残してその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 清華も特に何も言わず、創の後についてくる。体育館裏から少し歩いた先にある、並木道のベンチへと向かった。

 

 夕方の陽射しが長く伸びた影を作り、生徒たちの帰宅を促している。

 

 創は手すりに寄りかかりながら、ふっと息を吐いた。

 

「……なぜ、残らなかったの?」

 

 静かに問いかける清華。創は横目で彼女を見て、肩をすくめる。

 

「残るといっても… 恋愛の話なんて、俺に口出しできるようなもんじゃないよ」

 

「……そう」

 

 清華は創の隣に腰を下ろし、視線を前へと向ける。

 

 ふと、彼女がわずかに目を伏せ、言葉を絞り出すように呟いた。

 

「……でも、最初の選択は悪くなかった」

 

「ん?」

 

「偽装彼氏にならなかったこと」

 

「……ああ、そういうことか」

 

 創は苦笑しながら、足を組み直した。

 

「さっき言ったとおり、嘘をついても結局は後で傷つくだけだと思ったからな」

 

「……そうね」

 

 清華の返答は淡々としていたが、その指先がほんの少しだけ握られていた。

 

「…ねえ、そういえば「嘘で相手を傷つけないようにするより、傷ついてでも本当のことを言ってくれたほうがいいはずだ」と本当にそう思うの?」

 

「…綾小路さん?」

 

 なんだ? 綾小路さんどこか苦しそうだ… 何か、不快なことを言ってしまったのだろうか。

 

「…私は、時として真実を告げるより、嘘をついた方がいいと思ってしまうの。これは、間違っているの?」

 

 …どうしよう。どうやら綾小路さんは悩んでいるのだろうか。

 

清華の言葉に、創は少し考え込んだ。

 

「……間違ってるとは思わないよ」

 

 そう言いながら、創は視線を前に向けたまま続ける。

 

「嘘をついた方がいい時だって、確かにあるのかもね。相手を守るための嘘だってあるし、場合によっては、それが最善の選択になることもあるんだろうね。 でも…」

 

「……でも?」

 

 清華が小さく問い返す。創は苦笑しながら、清華に目を向ける。

 

「俺は、できるだけ正直でいたいかな。嘘をつくのは簡単だけど、それが本当に相手のためになるのかって考えると……やっぱり難しいと感じるな。 結局は何のために嘘をつくのかが大事なんだろうね」

 

 清華はしばらく黙っていた。まるで創の言葉を噛み締めるように、ゆっくりとまばたきをする。

 

「……そうね」

 

 どこか納得したような、でもまだ整理がついていないような表情。

 

 創はふと、彼女の手がまだぎゅっと握られていることに気づく。

 

「綾小路さん」

 

「……何?」

 

「もし、俺が嘘をついたほうがいい場面に出くわしたら……その時は、アドバイスしてくれるかい」

 

 冗談めかした調子でそう言うと、清華は少し驚いたように創を見つめ、そして静かに目を伏せた。

 

「……考えておく」

 

 それだけ言うと、彼女はそっと指を緩めた。

 

 ——夕暮れの光の中、二人はしばらく沈黙を共有する。

 

 それぞれの心の中で、何かを整理するように。

 

 

 

 

 

 

 5分ほどたっただろうか。俺たちのそばを一人の少女が小走りで駆け抜けていった。

 

 目には薄らと涙を浮かべながら。

 

 

 そろそろ陽が傾こうかという頃、一之瀬がトボトボと歩いて戻ってくる。

 

「あ……」

 

 そして俺たちを見つけちょっと気まずそうに俯く。けどすぐに顔を上げる。

 

「私が間違ってた。千尋ちゃんの気持ちを受け止めようとしないで、傷つけない方法だけを必死に考えて逃げようとしてた。それって間違いなんだね」

 

 恋愛って難しいんだね、と一之瀬はつぶやく。

 

「明日からはいつも通りにするからって言ってたけど……。元通りやっていけるかな」

 

「それは二人次第かな。なるべく俺も気にかけるけど、やっぱり2人が向き合うことが大事だと思う」

 

 創は静かに答える。

 

 一之瀬は小さく息を吐きながら、並木道の手すりに寄りかかった。

 

「うん……そうだよね」

 

 彼女は手すりに肘をつきながら、ぽつりとつぶやく。

 

「ありがとう。変なことに付き合わせちゃって」

 

「いいさ。たまにはこんな日があっても」

 

 創がそう言うと、一之瀬は少しだけ笑みを浮かべた。

 

 すると、隣にいた清華が静かに口を開いた。

 

「……傷つけることを恐れるのは、悪いことじゃない」

 

 その言葉に、一之瀬は少し驚いたように彼女を見る。

 

「でも、逃げてしまうと、本当に伝えたいことは届かなくなる」

 

 清華は淡々とした口調で続ける。

 

「……だから、次に同じようなことがあったら、最初から正面から向き合うこと。私もいい教訓になった」

 

 一之瀬は目を瞬かせた後、苦笑しながら頷いた。

 

「うん、そうだね。 綾小路さんもありがとう」

 

 ぐーっと両手を空に向けて伸ばし、俺たちに向き合う。

 

「よし、今度は私が協力する番だね。やれるだけのことはやってみるよ。 神楽坂くんもよろしく頼むね!」

 

「ああ、もちろん」

 

 夕暮れのオレンジ色の光が、三人の影を長く伸ばしていた。

 

 こうして、一之瀬の告白相談は一応の終わりを迎えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、創は学校の掲示板に目を向けた。そこには「須藤とCクラスに関する情報を求む。有力な情報提供者にはポイントを支払う」という張り紙が貼られていた。

 

 どうすればよいか神崎に相談した結果、一之瀬と共に協力し、すぐに実行へと移した。

 

 その効果は上々で、すでにいくつかの情報が寄せられている。改めて、神崎と一之瀬にはお礼を言わないとな。

 

 創は張り紙を一瞥し、静かに歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

  日は流れ、審議を明日に控えた夜、創はベッドに横になりながら携帯を手に取った。

 

 (綾小路さん、今頃準備してるのかな…)

 

 ふと、彼女のことを思い出し、無意識にメッセージアプリを開く。

 いつものように短いやり取りだけで済ませるつもりだったが、何を書けばいいか少し迷った。

 

 『明日頑張ってね、応援してる』

 

 シンプルな言葉を打ち込み、少し考えてから送信する。

 清華なら、きっとさらりと流すか、簡単な返事だけで終わるだろう。

 

 ……と思っていたが、すぐに既読がつき、意外にも返信が届いた。

 

 『ありがとう』

 

 予想通りの淡白な返事。

 

 (……意外といつもどおりなのかな、すごいな綾小路さんは)

 

 そう思ったが、深く考えても仕方がない。

 

 『おやすみ、綾小路さん』

 

 そう送ると、しばらく間を置いて、ぽつりと一言だけ返信が来た。

 

 『おやすみなさい』

 

 その短い言葉を見て、創は静かに携帯を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

「やっほ。随分遅かったね」

 

 一之瀬が声をかけたのは、審議終わりの3人、堀北さん、綾小路さん、そして証言の一人である佐倉さんが現れた。

 

「待っていたの?」

 

「どうなったかなって思って」

 

 綾小路さんは佐倉さんの方に顔を向ける。

 

「佐倉愛理。申し訳ないけど続きは後で聞かせて」

 

 下駄箱を開け、中をジッと見ていた佐倉さんが、顔だけを綾小路さんに向けた。

 

「う、ううん。何でもないの。ただ、私、頑張ってみるね。勇気を出して」

 

 早口でそう答えた佐倉さんが、軽く頭を下げてから帰っていく。

 

「佐倉愛理?」

 

 綾小路さんは呼び止めてみるが、佐倉さんは立ち止まることなく駆け足で玄関を出て行った。

 

「ごめん。なんか悪いタイミングだったかな?」

 

「いえ……」

 

 ともかく、俺たちは生徒会室であった一連の出来事を聞く。

 

「そっか。その提案蹴っちゃったか。Dクラスはあくまでも無罪を主張するんだね」

 

「Cクラスは、1日でも須藤健を停学にすれば勝ちだから」

 

 向こうの提案は、罠だからこそ乗れないということか。

 

 二人は納得がいかないようで、特に神崎は選択を誤りだと断言する。

 

「相手を殴ったという事実は消しようがない。それよりも折角目撃者の裏付けと証拠が出て来て、相手に譲歩させたんだ。そのタイミングで受け入れ妥協すべきだった」

 

「けど綾小路さんの言うように、停学処分はDクラスの負けだよね。須藤くんは停学になるような生徒と判断、素行不良と取られてレギュラーが白紙になるかも」

 

「白紙になるとも限らないだろう。確かに心証は悪くなるかも知れないが、どちらにも責任があったと分かれば、学校側もそれを考慮した査定に変わるはずだ。しかし、明日須藤の責任割合が増えれば、それすらも危うくなる」

 

 どちらの意見も間違ってはいないのだろう。無罪主張も、受け入れも正解の一つだ。

 

「そうね。間違ってはいない」

 

「ん? じゃあ、なんで綾小路さんは止めなかったの?」

 

「再度話し合いに持ち込まれたらDクラスの負けは必至。神崎隆二の言うように『完全無罪』を勝ち取ることは『実質不可能』になる」

 

 つまり、有意義な証言をしようと、勝てなくなるということか。

 

「それでも戦うんだ? 新たな証拠も証言もないのに?」

 

「堀北鈴音がその判断を下した。どこまでも徹底抗戦すると」

 

 驚いた。堀北さんは合理的な人だと思っていた。

 それでも前に進む選択をしたのは、戦う意思の表れなのかもしれない。

 

 これからもDクラスは困難に立ち向かっていくんだという覚悟を決めているのだろう。

 

「ふーっ。今から有力な手掛かりが手に入るとも思えないけど、もう一度ネットで情報を集め直してみるね」

 

 一之瀬は笑いながら協力継続を申し出る。

 

「俺も可能な限り証拠か目撃者が見つからないか当たってみよう」

 

 最初は反対だった神崎も、協力は惜しまないといった態度を見せる。

 

「協力してくれるの?」

 

「乗りかかった船だしね。それに言ったでしょ。嘘は許せないって」

 

 神崎と俺も頷く。良かった、2人ともまだ協力してくれるみたいだ。

 

「申し出はありがたいけれど、それは必要ないわ」

 

 話がまとまり始めたとき、堀北さんがそこにいた。

 

「必要ないって……どういうこと? 堀北さん」

 

「話し合いの場では無罪は勝ち取れない。仮にCクラスやAクラスから新たな目撃者が現れたとしても、やっぱり無理ね。けどその代わりと言っちゃなんだけれど……あなたたちに用意してもらいたいあるものがあるの。唯一の解決策のために」

 

「あるものって?」

 

「それは───」

 

堀北さんが欲しいものの名前を口にする。しかし、それが何なのか、俺にはすぐに理解できなかった。

 

一之瀬は少し硬い表情になり、神崎は腕を組んで考え込む。

 

(そんなものが本当に手に入るのか?)

 

俺も思わず疑問を抱くが、堀北さんの表情は揺るがない。

 

「え……参ったな。それは中々ハードなお願いだね」

 

 隣の神崎も考え込むような仕草を見せ黙り込んでしまう。

 

「私がお願いできるような立場じゃないことは理解しているわ。虫が良すぎるもの。あなたたちにかける負担も大きい。けれど───」

 

「あーいや、うん、私個人でも一応何とかなる範囲ではあるんだよね。Dクラスの事情は分かってるつもりだから。ただ聞いてあげたいのは山々なんだけど……理由も聞かずにってのはちょっと都合が良すぎるんじゃない?」

 

「確かにそうね……じゃあ、今から私が話すことに納得がいったなら協力して貰える?」

 

 堀北さんは唯一の解決策だと言った詳細を、一之瀬と神崎、そして俺に話して聞かせる。

 

 どうしてそれが必要なのか。何に使うのか。どんな目的があるのか。

 

 説明を終えると、俺たちはしばらくの間言葉なく黙って考え込んでしまう。

 

「あなたならこの作戦のリスク、そして有用性を理解してくれるはず」

 

「それ……いつから考えてたの?」

 

「話し合いが終わる寸前よ。偶然の思い付き」

 

「や……凄い手だよ。現場に足を運んだ私自身そのことは全く意識してなかった。というよりも蚊帳の外っていうか……想像の範疇になかったから」

 

 俺も思わず同調してしまう。

 

「想定外の発想。効果も、多分見込めると思う。だけど、そんなのってあり?」

 

 ややドン引きした様子で一之瀬は神崎と俺に意見を求める。

 

「おまえのルール、モラル的には反するかも知れないな、一之瀬」

 

「でも、面白い手だと思う俺は。少し反則だとは思うけど」

 

「あはは、だよねぇ……。反則だよね。だけど……確かにたった一つの方法かも」

 

「そうだな、それは俺も彼女の話を聞いて思った。無かったはずの活路だ」

 

 この作戦にはどうしても嘘が付きまとう。正直、嘘は良くないと思うが仲間のためなのならするしかないとも思ってしまう。

 

 嘘を嫌う一之瀬たちはどう思うだろうか。

 

「嘘から始まったこの事件に終止符を打てるのはやはり嘘だけ。私はそう思う」

 

「にゃるほど、ね。目には目を、嘘には嘘を、か。でもさ、それって実現可能なのかな? そんなものが簡単に手に入ると思えないんだけど」

 

「その点は心配ないわ。さっき確認してきたもの」

 

 どうやら、堀北さんはこの作戦に自信があるみたいだ。そして、綾小路さんが口を開く。

 

「確か機械に強い外村秀雄というクラスメイトに協力をお願いすれば、細かい部分も上手くいくはず。櫛田桔梗あたりに頼んでみる」

 

 堀北さんは…うん?今、顔をしかめたような。しかし、すぐに小さく頷いた。

 

「ねえ神崎くん、神楽坂くん……。私たち、Cクラスを引き離すために協力を始めたはずだよね?」

 

「ああ。そうだな」

 

「ん? そのはずだ」

 

「でもさ、ひょっとして今私たちがしようとしてることは、後々自分たちを追い込むことになるんじゃない? って、今考えてたんだけど」

 

「かも知れないな」

 

「…そうだね」

 

 正直、今のところ二人には敵という意識がないから、曖昧にうなずいてしまったけど二人はDクラス。そのうち、相対することになるのか。

 堀北さんも手ごわいと思うけど、正直俺は綾小路さんが敵になるのが怖いとも思ってしまう。今のところ、綾小路さんには仲良くしてもらっているけど向き合わなきゃいけないのかと少し思考を逸らしたくなる。

 

「参ったなぁ。Dクラスに君みたいな子がいるなんて、完璧計算外だよ」

 

 一之瀬は堀北さんに敬意を示してから、少し呆れながらも携帯を取り出す。

 

「これは貸しだからね。いつか返してもらうよ」

 

 そう言い、堀北さんに力を貸すことを約束した。

 

「ええ、約束するわ」

 

 力強く、堀北さんは答える。

 

「それから綾小路さん、あなたにも手伝ってもらいたいことがあるの」

 

「なに?」

 

 すると、堀北さんはなぜか綾小路さんのわき腹をつまもうと、手が音よりも素早いんじゃないかと錯覚するほどに迫る。

 

 しかし――

 

 綾小路さんの手が光の速度に迫るんじゃないかと錯覚するほどに手をつかみ返した。

 

「くっ…! 相変わらず油断も隙もないわね…」

 

「「えっ…」」

 

 一連のやりとりに、俺と一之瀬が困惑する。口には出していないが多分神崎も困惑しているだろう。

 

 一之瀬はその光景を唖然と見守り、どこか恐ろしいものを見る目で堀北を見ていた。

 

 俺は、まあ、仲がいいのかなぁと少しほっこりした気持ちと2人を怒らせてはいけないなという複雑な気持ちを抱いた。

 

 

 

 

 

 

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