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作:綾小路君をTSヒロイン化した作品がみたい
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7話


 放課後、Bクラスの教室では、皆で集まって勉強会を開いていた。一週間後の試験を前に、クラス全員が真剣に問題に取り組んでおり、教室は静かな集中の空気に包まれている。

 

「ちょっと休憩しようか?」一之瀬の声が教室に響き、休憩を取るためにみんながリラックスをする。創もそのまま少し肩の力を抜く。

 

「ちょっとトイレ行ってくる。」創は、立ち上がると一緒に勉強していた神崎に言って、教室を後にした。トイレに向かう途中、教室の静けさから少しだけ解放されたような気がして、軽く背伸びをしながら歩いていた。

 

 

 

 

 その時、廊下を歩いていた創の目に、見覚えのある人物――浜口哲也が映った。

 

(浜口…?こんなところに突っ立って、何をしているんだ?)

 

 何か気になるものがあったのか、創は自然と足を止めて浜口を見つめた。それと廊下の騒がしさが、創にこの状況の不審さを感じさせる。創はそのまま無意識に彼に話しかけるため歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 浜口哲也は、おそらく同学年のCクラスであろう、ガラの悪い集団が同じBクラスの少女――姫野ユキを取り囲んでいるのを見かけ、心の中で焦りを感じていた。彼は普段、何事にも気が利くタイプではあるが、こういう場面でどうすれば良いのか迷っていた。

 

その時、神楽坂創が現れた。

 

「なあ浜口、こんなところで何をしているんだ?」創は浜口に声をかけた。

 

浜口は驚き、思わずその場に立ちすくむ。「あっ、神楽坂くん。どうしよう、その、姫野さんが…」

 

 創は浜口の視線を追い、姫野が男女数人のあまり風紀のよくないグループに絡まれているのを確認した。状況を見極めた創は、行動を起こした。

 「...浜口、ここは俺が行ってみる。最悪、何か良くない事態になったら一之瀬たちBクラスの誰かや先生を呼んでくれないか。頼む。」

 そう言うと、素早くCクラスの集団に向かって歩み寄る。

 

 浜口はその姿を見て、思わず息を呑んだ。普段、創は明るく穏やかな人物だ。クラスの中では、冷静で知的だけど人付き合いに消極的な神崎くんとよくいるから少し一目おかれている。

 浜口はそんな創の姿を見ていたが、そんな創が突如として、このような場面で勇気のいる行動を起こしたのだ。今、目の前でその行動力を目の当たりにして、心の中で驚きを感じた。

 

 浜口は自分の無力さを感じる。自分はいつもクラスのみんなと仲良くはできているが、他人に対して積極的に動くことはなかった。それに比べて、創は自分ができる範囲で、他の人のために動こうとする姿勢を見せている。

 

 自分がここでただ立っているだけでなく、行動を起こすべきだと気づかされる。創のように勇気を出せるか不安だったが、創の行動に尊敬の気持ちを抱いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 姫野ユキは、Cクラスの女子生徒と肩がぶつかった瞬間、ほんのわずかに表情を曇らせた。

 だが、それも一瞬のことで、すぐにいつもの無気力な表情に戻り、淡々とした口調で言った。

 

「……ごめんなさい」

 

それだけ言って、立ち去ろうとする。だが、Cクラスの女子生徒はそれを許さなかった。

 

「ちょっと待ってよ、謝るだけ? ぶつかっておいてそれはないんじゃない?」

 

隣にいた別の女子が横から口を挟み、ヒートアップする。

 

「そうよ、こっちは痛い思いをしたんだからさ。せめて誠意を見せるべきじゃない?」

 

「誠意って……」

 

姫野は言葉を濁した。

 

「そうだなぁ、50,000ポイントくらいもらえれば、許してあげてもいいけど?」

 

男子生徒が横からニヤニヤと口を挟む。Cクラスの面々は完全に姫野を獲物と見なしていた。

 

「……そんな額、無理です」

 

 姫野は、さすがに困惑した様子を見せた。

とはいえ、彼女は自分から助けを求めるタイプではない。ただ静かに立ち尽くし、どうするべきか考えているようだった。

 策としては、一之瀬に連絡をとることが浮かんだが、そもそもそんなことは許してくれないだろう雰囲気からあきらめていた。

 

「じゃあ、しょうがないから30,000ポイントで許してあげる。これでどう」

 

 どうやら、自分は不運にもカツアゲ行為のターゲットにされたのだと姫野は気づいた。

これは、支払わないと解放されないのではないか、そう思うようになっていたとき、人影が増えた。

 

それは、同じクラスメイトの男子、神楽坂創だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (また揉め事か……)

 

 少しだけ気が重くなる。

 つい最近、堀北兄妹の問題に巻き込まれたばかりだというのに、またトラブルに遭遇するとは。

 だが、目の前で困っているクラスメイトを放っておくわけにはいかない。

 

 創はCクラスの集団へと歩み寄った。

 

 「どうしたんだ?」

 

 淡々とした口調で問いかけると、Cクラスの生徒たちが一斉に創へと視線を向けた。

 姫野もまた、静かに彼の登場を見つめていた。

 

 「ん? 何だ、お前は」

 

 男子生徒の一人が、面倒そうに創を睨む。

 

 「Bクラスの神楽坂創だ。君たちはたしかCクラスの人たちか。まあ、同じ学年のよしみとして何があったか聞いてもいいか?」

 

 Cクラスの生徒たちは顔を見合わせ、嘲るような笑みを浮かべた。

 

 「別に大したことじゃないよ。ただ、こいつが私の友達にぶつかったのに、まともに謝ろうとしないからさ」

 

 「だから、誠意を見せてもらおうと思ってな」

 

 男子生徒がニヤニヤと笑いながら言う。

 

 創は姫野に視線を向けた。

 彼女は無表情を崩さぬまま、小さくため息をついた。

 

 「……ぶつかったのは事実だけど。でも、最初にぶつかってきたのはその、向こうの方だよね」

 

 その言葉に、Cクラスの女子が顔をしかめた。

 

 「は? 何言ってんの?」

 

 「そうよ、私たちがぶつかったんじゃなくて、そっちが勝手にぶつかってきたの」

 

 創は彼女たちの態度を見て、確信した。

 

 (……なるほど、これは当たり屋ってやつか)

 

 意図的にぶつかって、言いがかりをつける手口。

 おそらく、最初からポイントを巻き上げるつもりだったのだろう。

 この学校はカツアゲ等には厳しいはずだが、あの一件で懐疑的となっている。

 

 (しかし、どうしようか? 正直、俺は姫野が悪くないとは思っているが証明できない...。 こんなとき、一之瀬や神崎なら...)

 

 

 

 

 そう考えながらも、創は冷静さを保ち思考する。 そして、ふと、あるものが目についた。

 

 「……確認してみようか」

 

 創の言葉に、Cクラスの生徒たちは眉をひそめる。

 

 「確認?」

 

 「この廊下、あそこに監視カメラがあるよな。それを先生に見てもらえば、どっちがぶつかってきたのか分かるんじゃないか?」

 

 そう目をCクラスの面々に向けて言うと、生徒たちは一瞬たじろいだ。

 

 「は? 何言ってんの? そんなことわざわざする必要ないでしょ?」

 

 「そうそう、大げさすぎるって」

 

 彼らは必死に取り繕おうとするが、明らかに動揺している。

 

 「...でも、公平に考えたらそれが一番いいですよね?」

 

 不意に、横から別の声が飛んできた。

 

 「……浜口?」

 

 創がそちらを見ると、いつの間にか浜口哲也がそばに立っていた。

 

 「僕はただ見ていただけなんだけど、これって姫野さんが不当に責められてるなら、ちゃんと証拠を見せるべきじゃないかなって思っただけでさ……」

 

 彼はやや緊張した様子だったが、それでも真っ直ぐCクラスの生徒たちを見つめていた。

 

 「それに、これが学校にバレたら、そっちの方が問題になるんじゃないかな?」

 

 浜口の一言で、Cクラスの生徒たちは露骨に顔をしかめる。

 

 「……チッ、つまんねぇな」

 

 男子生徒が舌打ちしながら、姫野を一瞥した。

 

 「せっかく譲歩してやろうと思ったのによ」

 

 「まあ、今回は見逃してやるか」

 

 そんな捨て台詞を残し、Cクラスの生徒たちはその場を去っていった。

 

 残されたのは、創と浜口、そして姫野の三人だけだった。

 

 

 

 

 

 姫野がぽつりと呟く。

 

 「……その、助かったよ……ありがとう」

 

 彼女は相変わらずの淡々とした口調だが、少しだけ声のトーンが柔らかい。

 

 「気にしないでいいさ。困ってるクラスメイトを助けるのは当然だろ」

 

 創がそう言うと、浜口は遠慮し笑いながら肩をすくめた。

 

 「僕なんて、ただ提案しただけだから」

 

 「いや、それが大きな助けになったよ。俺が言うより、浜口が言った方が説得力があったしな」

 

 「そ、そんなことないよ」

 

 浜口は恐縮した様子で頭をかいた。

 

 

 姫野は二人のやり取りを聞きながら、視線を少しだけ落とす。

 

 「……ふうん」

 

 気のないような相槌を打つが、それ以上何かを言うでもなく、ただ静かに佇んでいた。

 

 「姫野、もう大丈夫そうか?」

 

 創が何気なく問いかけると、姫野はようやく顔を上げ、創を一瞥した。

 

 「……問題ないよ」

 

 短くそう答える。だが、その声はいつもよりわずかに落ち着いているように感じられた。

 

 「ならよかった」

 

 創は軽く微笑み、ポケットに手を突っ込みながら少し伸びをする。

 

 「じゃあ、俺はそろそろ戻るよ。姫野と浜口も気をつけて帰れよ」

 

 その言葉に、姫野はほんの一瞬だけ足を止める。そして、わずかに考えるような間を置いてから、静かに言葉を返した。

 

 「……そうする」

 

 それだけ言うと、彼女は再び歩き出す。

 

 その後ろ姿を見送りながら、創はふっと小さく息を吐いた。

 

 (……何とか解決できたな)

 

 「じゃ、またね、神楽坂くん」

 

 「ああ、また明日な、浜口」

 

 浜口がそう言って手を軽く振ると、創は頷き、来た道を引き返していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中間テストが終わり、Bクラスの生徒たちはモール内にあるカラオケルームに集まっていた。

 一之瀬を筆頭に、クラスのメンバーが楽しく談笑し、テストの疲れを吹き飛ばすように盛り上がっている。

 

 「みんな、中間テストお疲れさま! 無事に乗り越えられてよかったよ!」

 

 一之瀬が明るい声でそう言うと、クラスメイトたちから「お疲れー!」と声が上がり、紙コップに入ったジュースを軽く掲げ合う。

 創も同じようにジュースを持ち上げ、口をつけた。

 

 カラオケルームには、思い思いに過ごす生徒たちがいた。

 マイクを持って歌い始める者もいれば、ソファに腰掛けて雑談する者たちもいる。

 創は、そんな賑やかな空間の片隅で、隣に座る神崎に向き直った。

 

 「神崎、いろいろ教えてくれて助かったよ」

 

 創が素直に礼を言うと、神崎はいつもの冷静な表情のまま、小さく頷く。

 

 「別に礼を言われるようなことはしていない。わからない者に教えるのは当然のことだ」

 

 「まあ、そういうと思ったよ」

 

 創が苦笑すると、その様子を見ていた渡辺が、ニヤリと笑いながらマイクを片手に口を挟んだ。

 

 「でもさー、神崎先生のおかげで助かったやつ、結構いるんじゃね? なんか、授業よりわかりやすかったって評判だったぜ?」

 

 「そうそう、マジで教え方うまいよなー」

 

 他のクラスメイトたちも同調し、神崎の方を見ながら頷く。

 

 「……別に、教師を目指しているわけではないがな」

 

 神崎は少しだけ表情を緩めながら、そう答えた。

 その様子に、創もつられて微笑む。

 

 クラスの雰囲気は穏やかで、どこか温かい。

 しかし、そんな空気の中で、創はふと視線を落とした。

 

(……そういえばDクラスの堀北さんと綾小路さんは、うまくやれただろうか)

 

 このテストを彼女たちは上手く乗り越えられたのか。

 

 創には、その答えを知る術はなかった。

 

 「どうした?」

 

 神崎が創の様子に気づき、冷静な声で問いかける。

 

 「いや、ちょっと考え事をしてただけさ」

 

 創はジュースの入った紙コップを軽く揺らしながら、そう答える。

 

 「……お前が気にかけることか?」

 

 神崎は冷静な口調で言う。

 彼にとって、Dクラスのことは特に関心のある問題ではないはずだ。

 

 「……どうだろうな」

 

 創は曖昧に笑い、紙コップの中のジュースを一口飲んだ。

 

 クラスメイトたちの笑い声が響く中、創の中には、静かな考えが渦巻いていた。

 

 テストの結果次第では、退学。

 この学校では、それが決して絵空事ではない。

 

(俺は……何かすべきだったんじゃないか?)

 

 そう思うのは、おかしなことだろうか。

 Dクラスのことは他クラスの自分には関係のない話のはずだ。

 それでも、胸の奥に得体の知れない違和感が広がる。

 

 自分が今ここで笑っている間に、誰かがこの学校を去ることになるのかもしれない。

そんな考えが頭をよぎる。

 

(……なんだろう、この感じは...後悔?)

 

 原因のわからない感覚に、創はそっと目を伏せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋の明かりは、最小限に落とされた部屋。

 

 ベッドの上で、綾小路清華は無表情のままスマホを操作している。

 

(……結局、大したことはなかった)

 

 中間テストは予想通りの結果だった。

 自分がミスをすることなどありえないし、周囲の点数にも興味はない。

 須藤健がミスをするのも、可能性の一つとしては考えており、5万の出費も創が痛い思いをした結果から痛くはなかった。 

 

 

 

 また、傷つけてしまった。 胸の奥が痛む。

 

 

 

 勉強会のメンバーで、モール内のカラオケルームで祝勝会を開いていたときのこと。

 堀北鈴音を中心として勉強会メンバーが楽しんでいるときのこと。私がジュースを取りに外に出たとき見つけた光景。

 

 スマホの映像を再生する。

 

 画面には、カラオケルームの光景が映し出される。

 

 マイクを握る創の姿。

 ノリの良いクラスメイトたちに促され、ぎこちなく歌い始める。

 

 ──最初は乗り気ではなかったのだろう。

 歌声も、どこか控えめで、恥ずかしさがにじんでいる。

 けれど、周囲の笑い声や合いの手が響くうちに、次第に表情が和らぎ、いつの間にか少しだけ楽しそうに歌っていた。

 

 清華は、それをじっと見つめる。

 

 やがて、映像が終わる。

 

 清華は、スマホを手の中で回しながら、しばらく黙っていた。

 

 ──そして、もう一度、再生する。

 

 特に意味はない。

 ただ、もう一度見たくなっただけ。

 

 もう一度。

 

 もう一度。

 

 何度も、何度も。

 

 気づけば、かなりの時間がたっていた。

 

(……なんで、こんなことしてるの)

 

 自分の行動に疑問を抱くが、すぐに考えるのをやめた。

 ただ、創が楽しそうにしている映像を見ているだけ。

 

(あの部屋にいたら、こんな光景はみられなかった)

 

 誰かと笑い合い、冗談を言いながら歌うなんて──そんなもの、存在しなかった。

 

(でも、今は……)

 

 ここでは、それができる。

 彼が、こうして笑えているのなら、それでいい。

 

 清華は、ふっと小さく息を吐き、スマホの画面を閉じた。

 

 暗くなった画面に、自分の顔がぼんやりと映る。

 そこに浮かぶ感情が何なのか、清華にはわからなかった。

 

 そっとベッドに横になり、目を閉じる。

 

 ──ただ、ほんの少しだけ。

 

 胸の奥が、温かかった。

 

 

 

 

 

 

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