作:綾小路君をTSヒロイン化した作品がみたい
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学校生活にも少しずつ慣れてきた創たちBクラス。最初はみんな緊張していたが、授業にも慣れたからか、ゆるくも楽しい時間が増えてきた。
時には、一之瀬が優しくも注意をする場面もあり、そんな微笑ましいシーンが青春の1ページを作っていた。そんなある日、3時間目の保健体育。担当の星之宮先生が授業を始めるときに言った言葉が響いた。
「ちょっとみんなー。今日はこれを受けてもらうよー。」
星乃宮先生は、教室を軽く見渡しながら、テストを配り始める。その様子を見て、クラス内が少しざわつく。
「え、テスト?」と誰かが驚きの声を上げると、先生はニコッと笑って続けた。
「うん、でも心配しないで。今回のテストはあくまでも今後の参考用だよ。成績表には反映されることはないからね。ただしカンニングは当然ダメだよー」
クラスの面々はほっと息をつくが、やはりどこか緊張感が漂う。
「それじゃ、頑張ってねー」と星之宮先生が言うと、クラスは少しだけリラックスする。
創は問題用紙を広げ、問題に目を通す。一科目4問、全20問で、各5点配当の100点満点。最初の問題の内容は思ったより簡単で、すぐに解答を記入した。続く問題も、教科書で見たような基本的な内容であり、受験の際に勉強した成果が表れる。特に難しいところもなく、手が止まることなく進んでいく。
(うん、こんなものか。)
創は心の中でつぶやきながらも、周囲の状況に気を取られることなく、ひたすら問題を解き続ける。気づけば、テストの時間の半分を過ぎた頃には、最初の問題群はすべて解き終えていた。
次の問題も、解きやすくて十分に解ける範囲だった。創はさっと解答を終え、再び次の問題に目を向ける。
(順調だな。)
だが、テストも最後の3問が目に入ると、創はその内容に一瞬固まった。問題は一見して、高校1年生では解けないレベルの内容だった。
(これは…難しいな。)
創はペンを止めて、一度問題を読み返す。解き方が思いつかない。受験勉強の際、栄一郎兄さんには中学生までの範囲をみっちり教えてもらい復習してきたが、わずかな時間の中で、冷静にこの問題の解法を模索するものの答えが思いつかない。
(どうすれば解けるんだ…?)
周囲の静けさが、逆に創の頭を少し混乱させる。だが、やはり答えには辿り着けないままだ。
(まあ、成績には影響しないと言っていたけど…)
それでも創は、最後まで諦めずに考え続ける。しかし、どうしても答えを導き出すことができなかった。
テストが終わり、休み時間になるとクラスのみんなはそれぞれテストについて話し合い感想を言い合っていた。
創は少し周囲を見回し、何気なく振り返ると、神崎がちらりと創を見ていた。すっかり仲良くなった神崎に向かい、創は歩み寄った。
「どうだった?」
創は少し笑いながら、苦笑いを浮かべた。「あの最後の3問はな…。難しすぎる。」
「確かに、あれは高校1年生にしては難しすぎるよな。」
神崎は静かにうなずきながら答えた。「それに...成績に反映しないのが少し気になるな。なぜ、あの問題を解かせようとしたんだ?」
創は肩をすくめ、軽く答える。「そうだな…、でも星之宮先生は参考用と言ってたから、あまり深く考えなくてもいいんじゃないか?」
神崎は少し眉をひそめて、静かに言った。「まあ、それもそうだな…。」
「次の授業も頑張って、終わったら食堂に行こうな、神崎。」
その後、神崎はうなずき、次の授業に向けた準備に取りかかる。創も、次の授業への準備を整えた。
日は流れ、5月最初の学校開始を告げる始業チャイムが鳴った。程なくして、手にポスターの筒を持った星之宮先生がやって来る。いつもの温和な雰囲気とは違い、どこか厳格な空気を漂わせていた。
「これより朝のホームルームを始めるよ。その前に何か質問はあるかな?」
星之宮先生は堅い調子で言った。生徒たちは少し困惑しながらもある現象を確認するためか、数人の生徒がすぐさま挙手した。
「あの先生、今朝確認したらポイントが10万ポイント振り込まれていないのですが、これは故障ですか?」
そう聞いたのは、中性的ながら大人びた雰囲気の生徒、浜口哲也。
「浜口君、前に説明したとおりポイントは毎月1日に振り込まれます。今月も問題なく振り込まれたことは学校側は確認しているよ」
「え、でも……。振り込まれてなかったよな?」
柴田たちをはじめ、クラスのみんなは困惑する。
「……これから大事な説明をするね」
説明? いったい何を話すのだろうか。
「ポイントが振り込まれたこと。これは間違いないよ。これはどのクラスも同じだよ」
どういうことだ... ポイントは確か今朝、10万ポイントではなく6万5000ポイントしか振り込まれていなかった。てっきり、故障かと俺をはじめ、みんなそう認識していたと思うが...
そんなとき、一之瀬の様子が真剣なものとなる。
「星之宮先生、質問いいですか?」
「いいですよ、一之瀬さん。」
「私たちBクラスには10万ポイントではなく、6万5000ポイントが支給されたということですか?」
「え? 帆波ちゃん確か、毎月10万ポイント振り込まれるって……」
「...いや、確かそう明言はしていなかったかもしれない」
神崎はそう言いながら、先生を中心に目線を向けた。
「うん、一之瀬さんの言う通りだよ。クラスのみんなもどういうことかわかったかな」
教室の中は、突然の出来事、報告に騒然としだした。
「……先生、質問いいですか? 腑に落ちないことがあります」
一之瀬がまた手を上げる。不安に包まれるクラスメイトを心配しての挙手に見えた。
「ポイントが引かれて支給された理由を教えてくれませんか」
確かに、なぜポイントが引かれたのか、その詳細が一切不明だ。
「遅刻欠席、合わせて8回。授業中の私語の回数38回。ひと月で学校生活に慣れたからかゆるみが出たね。この学校では、クラスのみんなの成績、素行がポイントに反映されるよ。その結果みんなに振り込まれるはずだった3万5000ポイントが減らされたの。
入学式の日に説明したよ。この学校は実力で生徒を測ると、ね。」
星之宮先生は淡々と丁寧に言葉を発する。
つまり、スタートダッシュで貰った10万という巨額のアドバンテージを、オレたちBクラスはひと月で3万5000ポイント失ってしまったということだ。
「星之宮先生。私たちはそんな話、説明を受けた覚えはありません……」
「網倉さん、だますような説明をしてごめんね、この学校は実力をはかる。それをみんなに覚えてほしいの」
「せめてポイント増減の詳細を教えてほしいです……。今後の参考にさせてもらえませんか」
「ごめんね、一之瀬さん。それはできない相談だよ。人事考課、つまり詳細な査定の内容は、この学校の決まりで教えられないことになっているの。社会も同じだね。みんなが社会に出て、企業に入ったとして詳しい人事の査定内容を教えるか否かは、企業が決めることだよ。」
「っ……」
一之瀬の表情がより一層暗くなる。それに、つられてみんなの表情もくもる。
話の途中だがチャイムが鳴り、ホームルームの時間が終わりを告げる。
「もうひとつ。本題に移らせてもらうね」
手にしていた筒から白い厚手の紙を取り出し、広げた。それを黒板に貼りつけ、磁石で止める。生徒たちは戸惑いながら茫然とその紙を眺める。
「これは……各クラスの成績、か?」
半信半疑ながらも、神崎はそう言葉にした。
そこにはAクラスからDクラスの名前とその横に、最大4桁の数字が表示されていた。
俺たちBクラスは650。Aクラスが940。Cクラスが490。そして一番低い数字がDクラスの...0だと?。これがポイントのことだとするなら、1000ポイントが10万円に値するのだろうか。すべてのクラスが軒並み数値を下げている。
「もうわかったかな。このポイントはクラスポイントといって、各学年は評価によって増減されるの。このポイントに100を掛けた値がみんなに支給されるプライベートポイントになるよ」
「この学校では、優秀な生徒たちは順にクラス分けされるの。最も優秀な生徒はAクラスへ。ダメな生徒はDクラスへ、とね。大手集団塾の制度に近いかな。1位のAクラスとは290ポイントの差があるね」
「それからもう一つ。国の管理下にあるこの学校は高い進学率と就職率を誇っているのは知っているわね。
けど……世の中そんなうまい話はなくてね。この学校で将来の望みを叶えて貰うには、Aクラスに上がるしか方法は無いの。それ以外の生徒には、残念ながらこの学校は何一つ保証してくれないの」
星之宮先生はそう緊張感をもたせていく。 が、次には雰囲気を変える。
「でも、あきらめないでみんな。頑張って上のクラスに上がれるようできるかぎりサポートするからね」
「そのためみんなに伝えないといけない知らせがあるよ」
黒板に、追加するように貼り出された一枚の紙。そこにはクラスメイト全員の名前が、ずらりと並んでいる。そして各名前の横には、またしても数字が記載されていた。
「この数字が何か、受けたみんなならわかるよね。」
真剣に生徒たちを一瞥する。
「先日やった小テストの結果だよ。みんな、勉強面はよくできてるわね」
一部の上位を除き、ほとんどの生徒は80点前後の点数を取っている。俺は80点とおそらく基本的な問題を1問ほどミスっているな。一之瀬は90点というおそらく高難易度の問題を解いており、トップになっているさすがだ。
「この結果なら、今のところ退学者は出なさそうね。この調子で頑張ってね」
「た、退学? どういうことですか?」
「みんな、落ち着いて聞いてね。この学校では中間テスト、期末テストで1科目でも赤点を取ったら退学になることが決まっているの。今回のテストで言えば、40点未満の生徒は全員対象と言うことになるの。気を付けてね」
「「え、ええっ!?」」
「退学、そんな!?」
「ごめんねみんな。学校の規則で決まっていることだから、変えることはできないの。
今から中間テストまでは後3週間、じっくりとクラスのみんなで熟考して、退学を回避できるにはどうしたらいいか行動してほしいの。みんなが赤点を取らずに乗り切れる方法はあると確信しているわ。悔いのないように挑んでね」
そう、星之宮先生は告げ、教室を後にした。
そんななか、クラスはいまだ理解が追いつかず困惑するもの、泣きそうになるもの、覚悟を決めようとするもの。
教室の空気は、重くなっていた。
創は、静かに考える。
(退学……か。)
この学校のルールでは、ただの進学校のそれとは違う。しかも、たった一度の中間テストで、人生が大きく変わる可能性があるとは思っていなかった。
(入学から一ヶ月。平和な日々が続いていたが、これは…。)
創は、周囲を見渡した。
一之瀬は唇を引き結びながら、クラスメイトたちの反応を注意深く見ている。神崎は無言のまま、腕を組み考え込んでいた。柴田や渡辺も、先ほどまでの気楽な空気は消え、不安そうな表情を浮かべている。
(……さて、どうするか。)
このまま何もしないのは、違うはずだ。
それがわかっている以上、創にできることは何なのか――。
創は、軽く息をつきながら、静かに決意を固めた。