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作:綾小路君をTSヒロイン化した作品がみたい
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25話


 文の途中に生成画像があります。不都合がある場合は消去する可能性があるのでご了承ください。


夏休みも残り2日となった、午前のこと。

神楽坂創は、寮の部屋でゆっくりとしていた。

 

窓から差し込む夏の日差しは、まだまだ強い。

そんな中、手元のスマホが小さく震えた。

 

「──ん?」

 

画面を見ると、クラスメイトの柴田からメッセージが届いていた。

 

『なあ、明日ヒマか? 夏休み最後の日だし、プール行かね?』

 

突然の誘いに、創は目を瞬かせた。

だが、特に予定もなかった。

少し考えてから、指を動かす。

 

『いいな。神崎も誘っていいか?』

 

すぐに「いいぞ! 3人で勝負でもしようぜ」という返信が返ってきた。

 

水泳の授業を経て、泳ぎは良くなったが柴田や神崎にはまだまだ追いつけてなかったと思い出す。せっかくなら、1度は勝ってみたいと考える。

 

「よし……」

 

ベッドに寝転がったまま、創は神崎にも連絡を取ることにした。

 

『明日、柴田とプール行かないか?』

 

それから数分もしないうちに、神崎から返事が来る。

 

『了解した。必要なものを準備しておく』

 

きっちりした文章に、創は小さく笑った。

 

「そうだ、準備か……」

 

水着──

頭に浮かんだ瞬間、創はベッドから起き上がった。

 

授業用の競泳水着は持っているが、プールに遊びに行くには少し場違いだ。

できれば、ラッシュガードも用意しておきたい。

 

「今日のうちに、買いに行くか」

 

呟きながらスマホ端末を手に取り、外出の支度を始める。

夏休み最終日。

きっといい思い出にするために──準備を整えようか。

 

 

 

 

買い物を終えて、寮へ戻る道すがら。

手には新しく買ったラッシュガードと、カジュアルな水着が入った紙袋を提げていた。

 

「……これで準備は、なんとかなったかな」

 

まだ陽の高い午後。

夏の空気を肌に感じながら、創はひとり呟く。

 

寮の部屋に戻り、エアコンをつける。

ひんやりとした空気が流れ込み、汗ばんだ身体を冷やしてくれた。

 

バッグをベッドの上に置き、スマホを手に取る。

 

その瞬間──

新しいメッセージの通知が目に入った。

 

送信者は──綾小路清華だった。

 

『夏休みも、もう終わりだけど──創は、どう過ごしてる?』

 

やわらかな文章に、創は自然と口元をほころばせる。

それだけで、心が少し軽くなる気がした。

 

指先を動かし、返信を打つ。

 

『今日友達に誘われて、明日プール行くことになったから準備をしているよ』

 

すぐに既読がつく。

しかし、返信はなかなかこない。

 

創は少し疑問に思いながらも、とりあえず明日の準備と晩ごはんの準備をしていると、数時間たった後、清華からまたメッセージが届いた。

 

『そう、楽しそうね。

 もしかしたら、私もプールに行くかもしれない。

 おそらく会えるかも』

 

言葉は淡々としているのに、不思議と温度を感じた。

胸の奥がくすぐったくなる。

 

そのとき、さらに一通のメッセージが届いた。

 

──写真が送られ、何気なく確認すると。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「──っ!?」

 

小さく、声が漏れた。

 

画面いっぱいに映ったのは、

その下に白いビキニを着た清華の姿だった。

 

普段制服越しでは決して見えない柔らかなラインが、しっかりと見えている。

 

 

『変かな?』

 

添えられたメッセージ。

短い一言なのに、爆弾のような破壊力だった。

 

「な、なな……っ!」

 

創は慌ててスマホを下ろし、顔を片手で覆った。

 

心臓がうるさい。

顔から火が出そうだった。

 

(な、なんで……なんでこんなの送ってくるんだ……!)

 

冷静に考えようとしても、

目に焼きついて離れない。

 

彼女の、あどけない表情。

彼女の美しくも柔らかな女性的な姿。

 

こんなの、どう返事すればいいんだ──!?

 

創は、完全に頭を抱える羽目になったのだった。

 

 

 

 

(……落ち着け、俺……!)

 

深く深呼吸を繰り返しながら、

そろりとスマホを手に取った。

 

画面の中では、清華のあどけない表情と、白いビキニ姿が、相変わらず静かにこちらを見つめている。

 

(ダメだ……見るたびに頭が真っ白になる……)

 

それでも、返信しないわけにはいかない。

 

(……ちゃんと、答えなきゃ)

 

決意して、メッセージ画面に指を滑らせる。

そして、震える指で文字を打ち始めた。

 

しかし、良い返事が思い浮かばない。

 

打っては、消し。

また打っては、消し。

 

(だめだ、これだと、なんかストレートすぎる……!)

 

(もっと、自然に……普段通りに……)

 

そう自分に言い聞かせて、何度も書き直す。

だけど、どれだけ推敲しても、結局──

 

『似合ってる。すごく可愛いと思う。』

 

──この一文にしかならなかった。

 

(……これ以上、うまく言えない……!)

 

震える指で送信ボタンを押す。

まるで爆弾のスイッチを押すかのような、覚悟だった。

 

「はぁぁぁぁ……っ」

 

ベッドに突っ伏し、盛大なため息をつく。

心臓のドキドキは、しばらく収まる気配を見せなかった。

 

スマホが小さく震えたのは、それからほんの数十秒後のことだった。

 

恐る恐る画面を見ると──

清華からの返信が、届いていた。

 

『ありがとう。

 明日、もし会えたら嬉しい。』

 

短い、でもどこかあたたかい言葉だった。

 

創は、スマホを胸元に抱きしめる。

そして、誰にも見られないように、小さく笑った。

 

(──よし、明日は……絶対、いい一日にしよう)

 

そんなふうに、静かに決意する創だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最終日の朝。

寮のロビーには、まばらではあるが生徒たちが集まりはじめていた。

 

創も、荷物を肩に掛けながら目的の人物のもとに向かう。

 

「お、神楽坂。おはよう」

 

一足先に着いていた神崎と柴田が、手を振ってくる。

 

「おはよう。今日、暑いな……」

 

創も苦笑しながら、二人のもとに歩み寄った。

 

「だな。プールで泳ぐにはもってこいだな」

 

柴田が笑いながら言うと、神崎も軽くうなずいた。

 

「プールサイドで倒れないよう、水分補給を忘れないようにしよう」

 

そんな会話をしながら移動をし、プール近くまで来るとふとポケットの中のスマホが震えたことに気づいた。

 

(──綾小路さんから?)

 

会話を続けながら、創は人目を忍んでスマホを確認する。

 

画面には、清華からのメッセージ通知が表示されていた。

 

『おはよう、創。

 突然でごめんなさい。

 お願いしたいことがあるの。』

 

(……?)

 

少しだけ眉をひそめながら、そっと詳細を開く。

 

『今朝、須藤健、池寛治、山内春樹のクラスメイトの様子が少し変だった。

 落ち着きがなく、挙動不審で不審な荷物も気になる。

 もしできればでいいから、更衣室で彼らの様子を観察して報告してほしい』

 

そして、カラオケで撮った集合写真であろうか、綾小路さんのほかに、堀北さん、櫛田さん、そしてこの男子たちが写っている写真からメッセージの三人であることを確認した。

 

 

『──了解。任せて』

 

スマホにそうだけ短く返信すると、創はそれ以上スマホを弄ることなく、また顔を上げた。

 

「──何かあったのか?」

 

ふと、神崎と柴田がこちらを覗き込む。

 

少しだけ間を置いて、創は笑って首を振った。

 

「いや、大したことない。……プール先で少し用事ができたから、ちょっと離れる時間を作ってもいいか?」

 

「用事? わかった、先にプールで遊んでおくぞ」

 

神崎はそれ以上詮索しなかった。

柴田もあっさりと話題を変え、再び他愛もない会話が続く。

 

 

 

 

 

プール施設に到着した創は、更衣室へと向かった。

ロッカーのひとつに荷物をしまい、手早く着替えを済ませ、ラッシュガードを羽織る。

 

周囲では、プールに遊びに来た生徒たちがそれぞれに準備を進めていた。

 

(──須藤たち、か)

 

不自然にならないように更衣室内のベンチに腰を下ろし、しばらく様子をうかがっていると──

須藤、池、山内の三人が連れ立って入ってくる。

 

三人はすぐに、更衣室の奥の人目につきにくいスペースへと移動した。

 

そのとき、池が何かを手に持っているのが見えたが、コントローラー?みたいなものだろうか。 ただ、さらに奥に移動したため創の位置からでは、池と山内が何をしているのかは見えなかった。

 

だが、須藤だけは入口側に立ち、あからさまに周囲を警戒するような動きを見せていた。

まるで見張りのように、その場から動こうとしない。

 

(……動きが不自然すぎる。やっぱり何かしてるな)

 

創は、あくまで自然な動作で立ち上がり、須藤の方へと歩を進めた。

 

そして、軽く首を傾けながら声をかける。

 

「なあ、何してるんだ?」

 

須藤の表情が一瞬で強張る。

その目は、まるで侵入者を見るかのような鋭さを宿していた。

 

「……別に、関係ねぇだろ?」

 

低く、刺すような声音。

創の進行を止めるように、わざと立ち位置を塞いでくる。

 

「そうか。……仲間はどこにいるんだ?」

 

「言ったろ、関係ねぇって」

 

ぴくり、と須藤の眉が跳ねる。

少し、苛立ちの表情も見える。

 

「…この奥にいるのか? 何をしているんだ?」

 

「だから、関係ねぇっていってんだろ! ぶっ飛ばすぞ!」

 

声を荒げて威圧する須藤に驚くが、怪しいことをしていると言っているようなものだ。

気持ちを強く持ち、問いかける。

 

「なあ、俺もこの奥に入れてもらえないか」

 

「はあ!? ダメだ! 通せねえよ」

 

須藤の顔をみて、お互い鋭い視線を交わす。

そして、須藤が舌打ちをして目線を切る。

 

「おい! 寛治、春樹戻ってこい!」

 

そして、あわただしい足音が聞こえる。

 

「オペレーションデルタ、なんとか完了だ!」

「離脱するぞ!」

 

池と山内が、小声ながらも明らかにテンションの高い声で駆け戻ってくる。

 

「撤収だ、撤収!」

 

須藤が舌打ちしながらも立ち位置をずらし、三人はそのまま更衣室から慌ただしく退出していった。

 

創はその背中を見送りながら、ふぅ、と静かに息を吐いた。

 

 

須藤たちがいたあたりを再度確認する。

しかし、特に不審なものは見当たらない。 強いて言えば、足元に通風孔があるくらいだ。

 

 

人目のない場所へと移動し、スマホを取り出して清華へとメッセージを送る。

 

『須藤たちだけど、更衣室の奥に池と山内がいたけど、池は何かコントローラー?みたいなものを持っていたと思う。ただ、何をしてたかは見えなくてわからなかった。役に立てなくてごめん。須藤は通路を塞ぐように立ってて、声をかけたら3人は引き上げた。』

 

少し間をおいて、返信が届く。

 

『そんなことない、ありがとう。

 その場所に、不審なものはなかった?』

 

創はスマホを持ったまま視線を巡らせ、記憶を呼び起こす。

 

『特に異常はないかな。

 強いて言えば、壁の下の方に小さな通風孔があったくらい』

 

間もなく、簡潔な言葉が返ってきた。

 

『わかった。助かった、創』

 

創はスマホをしまい、再び更衣室を出てプールへ向かう準備を整えた。

 

(──結局、何だったんだ?)

 

少しの疑問を残しつつ、創は歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 「……あっちか」

 

 視線を向けると、プールサイドから神崎と柴田が歩いてきた。二人とも体格がいいからか水着姿が似合っている。軽く濡れた髪が、さっきまで水中にいたことを物語っている。

 

 「2人とも、待たせたな」

 

 「いや、俺もさっき上がったところだから気にすんな」

 

 タオルを肩にかけた柴田がが軽く応じると、俺は手に持っていたドリンクを2人に渡した。

 

 「冷たいの、取ってきた。いるだろ?」

 

 「助かる」

 

 2人は素直に礼を言い、缶の冷たさを掌で確かめる。神崎は周囲を見渡しながら、「どうする、これから」と尋ねた。

 

 「せっかくだから歩き回ろうぜ。 出店もあるって聞いたからな」

 

 柴田がそう言い、俺たちは歩き回ることになった。

 

 

 

 俺たちは雑談を交わしながら、歩き回ると柴田が話しかける。

 

「うん? あれ、一之瀬じゃないか? それに、誰かといるのが見えるな」

 

見てみると、一之瀬とクラスメイトが3人いるが、他の集団も見える。

 

「あれは、Dクラスの面々じゃないか?」

 

そう、神崎が答えると、柴田は声を掛けにいった。

 

よく見ると、Dクラスの面々は櫛田さん、堀北さん、そして今朝見かけた須藤、池、山内を見かけた。 それを認識し、もしかしてと思い広く観察すると、佐倉さんと、綾小路さんを発見した。 

 

…メッセージのやりとりからどこかで会いたいとは思っていたが、どうやら今日はツイてる日なのかもな。

 

俺も柴田に続き声を掛けに行くのであった。

 

 

 

 

 

「あれ一之瀬たちじゃん。そっちも今日来たんだ」

 

柴田が手を挙げて応じる。

 

「やっほー。柴田くんたちじゃない」

 

俺たちがその集団と合流すると、一之瀬が気さくに声をかけてきた。

 

「なんか楽しそうな集まりだな、俺たちも混ぜてくれよ」

 

 

「私は全然オッケーなんだけど……いいのかな?」

 

 櫛田さんが笑顔で頷くと、他の男子たち――池や山内も文句を言わず受け入れた。

 

…いや、どこか恨めがましい視線を感じるような気がする。須藤もさっきのやり取りからか辟易とした視線を感じる。

 

 こうして、俺たち三人は一之瀬たちとDクラスの面々と合流し、大所帯でプール施設内を歩くことになった。

 

 

 俺は自然な感じで、綾小路さんと、その隣にいる佐倉さんに声をかける。

 

「やあ。綾小路さん、ここにいたんだね。 佐倉さんも久しぶりだね。元気にしてた?」

 

 佐倉さんは少し驚いたように目を瞬かせたあと、小さく微笑んで頷いた。

 

「うん……神楽坂くんこそ、久しぶり。最近は、その、あんまり……」

 

「はは、そうだね。この暑さだし、俺もバタバタしてるから、そこまでかもね」

 

 気まずくならないように軽く笑って返す。ほんの少し距離を感じたけれど、彼女なりに気を遣ってくれているのが伝わってきた。

 

 そして──その横に立つ綾小路清華に、俺は自然なふりをして視線を向ける。

 

 けれど、それだけで胸の奥がざわついた。

 

 白いビキニ。昨日、突然送られてきた、あの一枚。

 

 

(……思い出すな、バカ)

 

 今日の清華は、水色のラッシュガードで全身をしっかりと覆っている。

 露出はほとんどない。けれど、だからこそ、その“ギャップ”が余計に記憶を刺激する。

 

 彼女の姿をまた“見たい”という気持ちと、

 そんなことを思ってしまう自分への罪悪感がせめぎ合う。

 

 そんな俺の視線に気づいたのか、彼女が軽く首を傾げた。

 

「……何か?」

 

「え、いや。別に……その、似合ってるなって、思っただけでさ」

 

 …いや、自分でも何を言ってるんだか。

 ラッシュガード姿に“似合ってる”なんて、どんなコメントだ。

 

 けれど、綾小路さんは表情を変えずに小さく頷いた。

 

「そう。ありがとう。でも……今日は人が多いから見せられなくてごめんね」

 

 その言葉に、思わず息を詰まらせた。

 

 彼女は冗談を言ったのか、それとも──

 

 ただ、佐倉さんが「え……?」と小さく首を傾げたのに気づいて、俺は慌てて話題を変えた。

 

「そ、そういえば、2人はもう泳いだのかな。俺はまだでさ、一緒に泳いでみたいな、ははっ」

 

顔が熱を帯びているのを感じるが、夏の日差しのせいだと思うようにした。

 

 

 

 

 

 

そんな話をしていると、前方の方で歓声が上がる。

 

顔をあげてみると、その騒ぎの中心からパシャン!と水しぶきが上がった。それと同時に人間と一個のボールが空中で舞う。強烈に叩きつけるスパイクが相手コートの水中に叩きつけられた。どうやらプールでバレーをしているようだ。

 

スポーツ用のプールの区画でどうやら上級生の先輩たちが熱い戦いを繰り広げていることがわかる。

 

 一之瀬の説明によると、バレーで無双していて特に目立っている金髪で整った顔立ちの人が生徒会でお世話になっている南雲先輩のようだ。

 

……そういえば、前に堀北先輩は俺を副会長にならないかといっていたが、あの、すごい人と同じ立場にするつもりだったのか...

 

 

そんな様子を見た池、山内がどうやらバレーで目立ちたいということで、一之瀬もクラス間の親睦ということを意図してか、流れでBクラスとDクラスで勝負する流れになった。

負けた方はランチの奢りをする条件のもと、本気で勝負をするしかないようだ。

 

 

 

 

 

 

BクラスとDクラスのバレー対決が始まることになった。

 

Bクラスは柴田、神崎、一之瀬たちを筆頭にBクラスのチーム力で戦い、Dクラスは須藤が高い身体能力を発揮して中心となって戦う状況になっていた。

 

そんななかで俺は……

 

 

 

 

「ご、ごめん……!」

 

 

 初っ端のサーブはミス。反応はしたものの、レシーブもまともにできず、ボールを大きくはじいてしまった。

 

「ドンマイ! 神楽坂くん、次だよ、次!」

 

「焦ることはないぜ神楽坂。動きは悪くないから、あとは慣れだな」

 

 一之瀬と柴田がフォローしてくれる。技術面をみんなにアドバイスされながら、俺はその一つひとつを頭に叩き込む。

 

  ミスを引きずるわけにはいかない。そう思って前を向くと、ちょうど柴田がスパイク体勢に入っていた。

 

「……よしっ!」

 

 神崎のトスを見事に捉えた柴田のスパイクが、鋭い角度でDクラス側のコートへ飛ぶ。

 

 ──が、ボールの軌道は、綾小路清華のほうへ。

 

 (綾小路さんのほうに行った! 大丈夫だろうか)

 

 彼女、開始から動けていない様子から心配してしまう。

 

 そう思い、綾小路さんを見つめるその瞬間だった。

 

 彼女は寸分の狂いもなくポジションをずらし、きれいな姿勢のまま両腕を突き出す。

 

 「おお!ナイスレシーブだ綾小路!」

 

 須藤が声を上げる中、彼女は無表情のまま体勢を立て直していた。

 

 ──その一瞬、彼女と目が合った気がする。

 

 (すごいな、綾小路さん。あの体勢で、完璧なレシーブだ……)

 

 感心をしているだけにはいかないな。俺もチームの一員として、少しでも役に立たなきゃ。

 

 次のラリーでは、神崎が俺の近くに寄ってくれて、声をかけてくれた。

 

「サーブの時の構え、もう少しだけ膝を落とせ。あと、ボールは真正面じゃなく、胸の斜め前で受けると安定する」

 

 理屈はシンプル。でも、いざやってみると身体が思うように動かない。

 

「すまない神崎……」

 

「謝らなくていい。少しずつだが良くなっている、……もしかしたらトスを上げるかもしれないから、そのときはスパイクを思いっきり打ってみろ」

 

 神崎は淡々と、だが温かく言ってくれる。その姿勢に勇気をもらいながら、俺は何度も動きを繰り返す。

 

 そして、三度目のサーブレシーブ。

 

 (今度こそ……!)

 

 ボールをよく見て、両腕を突き出す。小さな衝撃が腕に伝わり、ボールが綺麗に神崎の方へ返る。

 

「ナイス!」

 

 一之瀬の声が飛び、ようやくチームに貢献できたという実感がこみ上げた。

 

 そこから俺の動きは少しずつだがよくなっていき、レシーブ、トス、スパイク──その流れの中に自然と溶け込んでいった。

 

 そして試合は、気がつけばマッチポイントを迎えていた。

 

 

 最後の一点。お互いに譲れない空気が、プールの上に張りつめる。

 

「ここで決めるぞ!」

 須藤の声がDクラスに響き、池と山内が気合いの声を上げる。

 

 それに応じるように、神崎が俺の肩を軽く叩いた。

 

「タイミングが合えば、行くぞ。跳べるな?」

 

「ああ、やってみる──いや、やるよ」

 

 俺は自分でも驚くくらい、迷いなく答えていた。

 

 サーブが打ち込まれ、激しいラリーが始まる。柴田が飛び込んでレシーブ、ボールが神崎の手へと繋がる。

 

 一瞬、視線が交わった。

 

(来る──!)

 

 神崎のトスは、高く、そして俺にとって理想的な軌道で宙を描いていた。

 

 俺は助走をつけ、足元の水を蹴り飛ばす。

 

 跳んだ。 ここ一番でいい感覚で跳べた気がする。

 

 身体が空へと突き抜ける感覚。水を弾き飛ばすように両腕を振り抜き──

 

 スパイク!

 

 須藤も高く跳んできたが、俺の方がわずかに速く、上からぶち抜いた。

 

 会心の一撃だ。

 

 ──が。

 

 ボールはラインすれすれの、ほんの数センチ、外へと逸れていた。

 

 

 力が抜けて、そのまま着地する。

 

 試合は……負けた。

 

「……っ、ごめん、あと少しだったのに」

 

 悔しさがにじむ言葉。それでも、水面越しに手が差し出された。

 

「何言ってんだよ、あれ決まってたらマンガだって」

 

 笑いながら柴田が手を引き上げてくれる。

 

「すごかったよ、神楽坂くん。あんなすごい、スパイク初めて見たよ!」

 

 一之瀬がタオルを差し出してくれながら言う。

 

「結果より過程だ。上手くなって楽しかったんじゃないか」

 

 神崎も、いつも通りの口調でそう告げる。

 

 ……それが、たまらなく嬉しかった。

 

 だがそのとき。

 

「おい、お前──」

 

 低い声とともに、目の前に影が差す。

 

 須藤が、水しぶきを上げて歩み寄ってきた。

 

 え……ちょっと、こわ──

 

(め、メンチ切ってる!?)

 

 周囲の空気が固まる。池と山内が露骨に「うわヤバい」みたいな顔をして距離を取った。

 

 だが。

 

 「バスケ部、入れよ」

 

 そう言って、須藤が俺の肩をバシンと掴んだ。

 

「は……?」

 

 呆ける俺に、須藤は真顔で続けた。

 

「お前、今の跳び方、やるじゃねえか。バネもタイミングもいい。バレーじゃなくてバスケだ。絶対伸びる。明日から来い」

 

「いや、あの、ちょっと待って……」

 

「なんだ、バスケは嫌いか? 安心しろ、俺がバスケの魅力をたっぷり伝えてやるぜ。なあ、池?」

 

「な、なんで俺にふるんだよ!」

 

 なぜか池に話を振る須藤。それを笑って見ていた一之瀬が、俺の肩をぽんと叩いた。

 

「にゃはは、神楽坂くん明日からバスケ部で頑張ってね」

 

「ええ、一之瀬!?」

 

 こうして、差し出された俺はランチタイム、須藤にたっぷりとバスケの魅力を伝えられた。

興味深い話もできたが、丁重に断るのに神経を使うことになったのは勘弁してほしい。

 

(……でも、まあ悪くないかもな)

 

夏休み最終日、こうして友達と遊ぶことの楽しさを嚙み締めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、午後では、自然と男子たちの水泳勝負が始まった。

 

「よーし、50メートル平泳ぎ、勝ったやつがジュース奢られなー!」

 

「やってやるぜ!」

 

「神楽坂もやるよな! さっきの跳びっぷりなら、水泳もいけるだろ!」

 

「え、俺も?」

 

「当然だろ? せっかくの夏なんだからよ」

 

 須藤にぐいっと腕を引かれ、俺もゴーグルを借りて列に並ぶ。

 

「……じゃあ、やってみるか」

 

「お、乗ってきたな!」

 

「スタートは俺の掛け声でいくぞー! 位置について──よーい、ドン!」

 

 掛け声と同時に、水しぶきが上がる。俺も必死に水をかき、足を動かす。

 

(は、速い……けど、負けるもんか!)

 

 全力で泳ぐうちに、肩や腕の筋肉が熱くなる。でも、不思議と苦しさはなかった。

 

 結果としては、僅差で須藤が1位、柴田が2位、俺は3位とリベンジはならずだった。

 

 悔しくもあったが、やっぱり楽しかった。

 

 

 

 その後、一之瀬と櫛田さんに誘われて、集団全員でボールでの遊びをしたりと楽しい時間が過ぎていった。

 

 

 

 ――そうして遊び疲れた頃、プール施設内にアナウンスが響き閉館となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

プールでひとしきり泳ぎ終えると、体力を使い果たしたため喉が渇く。

 

「良かったら少し寄り道して帰らない?」

 

 一之瀬が近くのコンビニを見てそういった。全員似たような気持ちだったのか反対意見はでなかったため、寄ることに。

 

 

 

 コンビニに入ると、それぞれが思い思いにジュースやアイスを手に取っていく。俺はというと、アイス売り場の前で立ち止まっていた。

 

(冷たいの……いいかもな)

 

 その時、視線の先に二人の姿があった。

 

 綾小路さんと、佐倉さんだ。

 

 二人とも、アイス売り場の前でじっと何かを見つめていた。選んでいる、というより……悩んでいる?

 

「どうしようかな……」

 

「嫌いなの? アイス」

 

「ううん、どれも好きだよ。この辺りにあるやつは全部食べたことあるかも」

 

 小さな声が、佐倉さんの口からこぼれた。

 

 言いながら、二人ともアイスケースを覗き込んだまま、数分は動かなそうな気配だった。

 

「……あの、二人とも?」

 

 思わず声をかけると、佐倉さんが小さく「ひゃっ」と反応し、綾小路さんはすっと俺を見た。

 

「神楽坂くん?」

 

「なに買うか決まった?」

 

「…ちょっとだけ、迷ってて」

 

「はは、確かにこんなにあると迷うよね……」

 

 何気ないやりとりだったが、どこか微笑ましくも感じられた。

 

「アイスか……ああ、ひとつ思い出したよ」

 

「……思い出した?」

 

 綾小路さんが問いかける。

 

 俺は、ケースの中から小さめの有名なカップアイスを一つ手に取ってから、静かに言葉を継いだ。

 

「去年の夏も、暑い日でさ。兄さんと一緒に、このアイスを食べたことがあったんだ。冷凍庫にひとつだけ残ってたやつで、兄さんが食べようとしたら『創も食べてみる?』って言ってきてさ」

 

「……それで?」

 

「結局、半分こして食べたんだけど、あれ……実は父さんのやつでさ。めちゃくちゃ怒られたんだよね」

 

 思い出し笑いをしながら言うと、佐倉さんがひかえめに笑い、綾小路さんは―――うん? なんだろう、複雑な表情を見せたような――― だが、すぐにいつもの様子でもあったような気がする。

 

「そう……それは災難だったわね」

 

「でも、なんか楽しかったんだよな。冷たくて、甘くて……兄さんと笑いながら食べたの、今でも覚えてる」

 

 言いながら、ふと横目で綾小路さんを見る。彼女は何も言わず、ケースの中からひとつアイスを取り上げていた。

 

「……同じのにしようかしら」

 

「じゃあ、私も」

 

 2人とも俺が手にしたのと同じ、カップタイプのアイスを手に取る。

 

購入を済ませた俺たちは早速いただく。

 

 

俺と佐倉さんは手慣れてアイスを口に運ぶが、綾小路さんはどこかぎこちない。

 

…もしかして、無理して合わせてたのかな?

 

そうだとしたら、申し訳ないことをしたと思い謝ろうとするが、そのとき口に運ぶ。

 

「これは……美味しい……」

 

「おいしそうに食べるねー。まるで初めて食べたみたい」

 

一之瀬が興味深そうに綾小路さんを見つめる。

 

「この暑さだから、より美味しく感じるだけ」

 

 そう言っても食べている姿を見れば幸せそうで、微笑ましい気持ちになる。

 

「まぁねー。いやぁあまりに美味しそうに食べてるからさ。そんな顔初めてみたよ」

 

「彼女、人形のように表情を変えないから」

 

そう堀北さんがツッコむが……、どうだろうか、綾小路さん意外と表情に出るタイプだと思うのは俺だけだろうか?

 

そんな、穏やかな時間を楽しみ夏が終わった。

 

…来年もこんな穏やかな夏を送りたいとそう思うのだった。

 

 

 

 

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