アベノミクスについて
アベノミクスを簡単に言うと、金融緩和(お金を増やす)です。
金融緩和の方法としてMMTが採用されたので、MMT提唱者からはMMTの成功例と言われました。
https://archive.md/Km5VI提唱者が成功例としてあげているのが、「アベノミクス=日本銀行の異次元緩和」
民主党左派のブレーンとなっているニューヨーク州立大のステファニー・ケルトン教授が「MMT(Modern Monetary Theory、現代金融理論)」と名づけて提唱している。
アベノミクスをもう少し詳しく説明すると、
- 日銀がお金を発行。
- 発行したお金で市場の国債を買い取る。
- 日銀がお金を発行して国債を買い続ける限り、無限に国債の発行が可能。
- 疑似MMT。
- 国債を売った市場側に、日銀が発行したお金が渡る。
- 市場のお金が増えるので需要が増える
- 副作用として2022年から円安になり、円安からの物価高。
- 円安は外国要因、国内要因と色々な要因があるので、アベノミクスだけが原因ではない。
アベノミクスでは大して経済成長がしませんでした。
理由は、アベノミクスが景気対策(需要を増やす)であって、経済対策(供給を増やす)ではなかったからです。
- 景気対策では有効求人倍率が上昇します。
- 景気対策において人手不足になった時点で、人手が足りず供給を増やすのが難しくなります。
- 経済対策ではGDP(国内総生産)が上昇します。
- GDPとは国内総生産ことで、国民の生産量になります。
- 一人当たりの生産量(供給量)を増やすことで、GDP(国内総生産)が上昇します。
- 一人当たりの生産量(供給量)を増やす政策を経済対策と言います。
2013年から始まったアベノミクスでは需要が増えたので、有効求人倍率が上昇し、就業者数の回復もしましたが、それだけでした。
- 民主党政権では金融緩和の規模が小さかったので、就業者数の減少が続きました。
- 自民党に政権が戻った後、2013年からのアベノミクス(金融緩和)により、就業者数の回復が始ました。
コラム1-1-[1]図 就業率・就業者数の推移
厚生労働省の平成29年版 労働経済の分析 -イノベーションの促進とワーク・ライフ・バランスの実現に向けた課題-のコラム1-1-[1]図 就業率・就業者数の推移を掲載しています。
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/17/backdata/column1-1-01.html
需要が増えると企業は供給を増やすために、人を雇おうとします。
結果、有効求人倍率が上昇し、就業者数も増えます。
有効求人倍率が1以上になり、求職者よりも求人の方が多く、求人が余っている場合は人手不足になります。
- 逆に、求職者よりも求人の方が少なく、求職者が余っている場合は人出余りです。
有効求人倍率 | ビジネス用語集 | エリートネットワーク - 正社員専門の転職エージェント
有効求人倍率の意味を調べるならこちら。簡潔でわかりやすい説明が「正社員専門の人材紹介会社エリートネットワーク」の用語集にあります。
https://www.elite-network.co.jp/dictionary/yukokyujinbairitsu.html
有効求人倍率は、求職者1人に対して、何人分の求人があったかを示すもので、求職者数よりも 求人数が多いとき=人手が不足しているときは、有効求人倍率が1を上回り、逆のとき=就職難のときは1を下回ります。
アベノミクスでは就業者数が伸び続けましたが、大してGDP(国内総生産)は増加しませんでした
就業者数が伸びるという事は、生産者が増えるという事なので、GDP(国内総生産)が伸びる要因になります。
しかし、アベノミクスでは就業者数が増加したにもかかわらず、大してGDP(国内総生産)が伸びませんでした。
原因は労働者の労働時間減少です。
日米欧の実質賃金推移とその特徴
コロナ禍以降、世界的に人手不足感が強まり、またロシアのウクライナ侵攻をきっかけにした商品価格の上昇が発生するなど、インフレ圧力が目立つなかで、賃金動向への注目度も高まっている。日本では、バブル崩壊以降、コロナ禍前ま...
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=79294?site=nli
日本の労働時間の低下幅は大きく、その結果、時間当たり実質賃金が25年で9.8%増加しているにもかかわらず、一人当たり実質賃金は2.0%減少している。
労働時間が減少すれば、その分だけ、生産量が減ります。
(生産量がマイナス)
その減った生産量分を補うために、企業は人を雇いました。
(生産量がプラス)
結果、減った分と増えた分が相殺され、GDP(国内総生産)は伸び悩みました。
アベノミクスでは純粋に労働者が増えた分と、労働分割により労働者が増えた分があり、労働分割により増えた分は、GDP(国内総生産)の上昇に影響を与えないです。
- 労働(生産活動)を分割することで就業者数が伸びましたが、労働(生産活動)が分割されただけなので、生産量自体が増える要因にはなっていないです。
景気が良いとは?
景気とは取引の活発具合の事で、人手不足などで限界まで取引をしている場合、景気が良いことになります。
ただし、多くの人が考える景気が良いとは、収入が増えることです。
収入を増やすにはモノやサービスの生産量を増やす必要があり、一人当たりのGDP(一人当たりの生産量)が増えることで、収入が増えます。
そして、実際の豊かさである一人当たりの実質GDPや実質賃金は、生産性によって決まります。
日銀黒田前総裁が見逃した「ポパー理論」 重要なのはデフレ対策ではなかった
異次元金融緩和は対デフレで出発したが、本来、長期低成長こそ問題として解決案を考えるべきであった。異次元金融緩和が継続した10年間、生産性向上を目的とした成長戦略を政府および民間レベルで実行できたはずだった。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00351/070900149/
経済理論によると実質賃金は労働生産性に等しくなるので、労働生産性が向上すれば実質賃金が上昇することになる。
大規模緩和が阻害する賃上げ
日銀が6月27日に発表した2023年1-3月期の資金循環統計により、家計に加え企業が資金余剰である一方、政府が資金不足であることが改めて確認された。日銀短観を見ると、中小企業を含め長期にわたり企業は資金繰りに行き詰まっていない。これは、デフレが金融的要因ではないことを示すだろう。つまり、日銀が量的質的緩和を継続しても、信用乗数が低下し、結果として与信の拡大による需要の刺激にはなっていないことを示している。
https://www.pictet.co.jp/investment-information/market/boost-up/20230704.html
金融緩和
金融緩和は典型的な景気対策(需要を増やす)で、経済対策の効果もありますが、経済対策の効果は小さいです。
アベノミクスが失敗した大きな原因は、景気対策の金融緩和をしただけで、経済対策(重要な産業の育成、構造改革)を怠ったからです。
経済発展するには(生産量、供給量を増やすには)
実質経済成長率 - Wikipedia
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 実質経済成長率 (じっしつけいざいせいちょうりつ, Growth Rates of real GDP)とは、国内総生産の 実質値 に基づいた経済成長率のこと。実質成長率とも呼ばれる。 名目 経済成長率の対義語。 実質GDPは名目GDPと下記のような関係をもつ。 名目GDP=実質GDP × GDPデフレーター ( 物価 ) 上式より、名目GDPをGDPデフレーターで除したものが実質GDPとなる。実質経済成長率とは、この実質GDPの変化率のことをいう。 名目GDP一定の場合、GDPデフレーターが下落すると実質GDPは上昇するという関係にあることがわかる。 たとえば、 原油価格 などが高騰して輸入デフレーター(輸入物価)が上昇したとする。このとき、他の条件が同じであれば、実質GDP(あるいは実質成長率)は上昇する。 これは、輸入デフレーター(GDPデフレーターの控除項目)が上昇するとGDPデフレーターが下落するという関係にあることによる。 マネーサプライ と密接な関係にある 名目成長率 に対し、 実質成長率 はむしろ 労働 、 資本 、 生産性 などによって左右されるという違いがある。 物価変動の影響が取り除かれているため、実際に感じる成長率に近く、また時系列による変化を比較しやすい。 物価変動とあわせて算出する必要があり、計算が面倒である。また名目経済成長率のほうが実感に近いといわれる場合もある。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%9F%E8%B3%AA%E7%B5%8C%E6%B8%88%E6%88%90%E9%95%B7%E7%8E%87
マネーサプライと密接な関係にある名目成長率に対し、実質成長率はむしろ労働、資本、生産性などによって左右されるという違いがある。
名目GDPはお金の量が関係します。
実質GDPは
- 労働(労働者の数、労働時間、労働者の質)
- 資本(工場、機械、設備、ITインフラ)
- 生産性(技術進歩、技術導入)
で決まります。
世界ではITという技術進歩とITの導入により、生産性を高めてきました。
日本はIT後進国と言われ、IT導入の遅れが原因で、経済成長が鈍化しています。
日本のサービス業は「1人あたり」でG7最低だ
2015年には世界第27位だった日本の「1人あたりGDP」。IMFが最近発表した2016年のデータによりますと、さらに下がって第30位に落ち込んでしまいました。日本は、潜在能力は高いにもかかわらず、毎年順位が下がって…
https://toyokeizai.net/articles/-/155234?page=3
ニューヨーク連邦準備銀行の分析によりますと、1995年からアメリカなどの先進国の生産性が向上している最大の要因は、IT、通信業界の発達だと結論づけています。そのITが最も活用されている業種が、実はサービス業です。1995年以降、ほかの先進国の生産性が大きく向上して、日本の生産性が置いていかれている理由のひとつは、日本のサービス業がITを十分に活用できていないからという結論が導き出されています。
日本IT、稼ぎは人手頼み 労働生産性、G7最下位 構造転換乗り遅れ - 日本経済新聞
日本のIT(情報技術)産業の労働生産性が低下している。2019年からの4年間で13%下がり、下落率は主要7カ国(G7)で最も大きかった。IT企業で働く人は2割増えたが、それに見合う利益を出せていない。日本のIT競争力の足かせとなる。産業別の労働生産性は、企業の売上高から生産活動に必要な材料費などを差し引いた利益を指す「付加価値額」(物価影響を除く)を就業者数で割って算出する。新型コロナウイル
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO90150020Q5A720C2MM8000/
日本のIT(情報技術)産業の労働生産性が低下している。2019年からの4年間で13%下がり、下落率は主要7カ国(G7)で最も大きかった。
図録▽国民の情報通信スキル(ICT能力)に関する国際比較
現代は情報通信技術(ICT技術)の進歩によって生活の改善や豊かさがもたらされる側面がますます高まっている。このため、社会発展の重要な要素として国民の情報通信スキル(ICT能力)が位置づけられるようになった。 ここではOECDの報告書から各国国民の情報通信スキル(ICT能力)のレベルについてのデータを図録化した。同スキルは、①基本的なPC操作能力である「基礎レベル」、②表計算、プレゼンなどのコンピュータ・ソフトの利用能力をさす「標準レベル」、そして③プログラミング能力をあらわす「高度レベル」の3つに分けられ、それぞれのスキルを有する者の割合がグラフ化されている。 OECD諸国を中心とした対象31国における日本の順位は「基礎レベル」、「標準レベル」、「高度レベル」について、それぞれ、21位、12位、25位となっており(下表参照)、どちらかというとランキングの低い状況にあると言わざるを得ない。 情報通信スキル・ランキング(31か国) 基礎レベル 標準レベル 高度レベル トップ 3 1位 韓国 ノルウェー サウジアラビア 2位 スイス スイス ノルウェー 3位 オランダ デンマーク デンマーク 主要 国順 位 日本 21位 12位 25位 ドイツ 4位 20位 21位 英国 20位 5位 6位 スウェーデン 18位 13位 5位 韓国 1位 8位 12位 トップレベルに位置する国は、それぞれのレベルで異なっており、「基礎レベル」では韓国、「標準レベル」ではノルウェー、「高度レベル」ではサウジアラビアの国民のランキングが1位である。 全体的なレベル差はあるものの、日本、韓国、ドイツでは、高いスキルほどランキングが低下する傾向となっているのに対して、英国、スウェーデンといった国では、基礎スキルはランキングが低いが高いスキルではランキングが上昇する。 なお、メキシコ、トルコ、ブラジル、南アフリカといった途上国的な性格の国々では、「基礎レベル」、「標準レベル」のスキルを有する国民が先進国と比較してかなり少なる点が目立っている。
https://honkawa2.sakura.ne.jp/6246.html
OECDの報告書から各国国民の情報通信スキル(ICT能力)のレベルについて
OECD諸国を中心とした対象31国における日本の順位は「基礎レベル」、「標準レベル」、「高度レベル」について、それぞれ、21位、12位、25位となっており(下表参照)、どちらかというとランキングの低い状況にあると言わざるを得ない。
アベノミクスの失敗は、経済対策として、
- IT産業を育成する
- IT人材を育成する
- 企業のIT導入を促進させる
事が少なかったからだと考えられます。
構造改革について
構造改革も経済成長では重要です。
例えば、
- IT人材を育成するために、義務教育においてもっと専門的なIT教育を導入する。
- ITを活用できず、社内失業者になる人に対して、職業訓練所でスキル修得を促す仕組みを作る
https://www.news-postseven.com/archives/20201229_1623982.html/3東京某所にある中堅メーカーでは、労働者の味方であるはずの「労働組合」が社内失業者の巣窟と化し、会社の中核を占める中堅や若手社員との対立が激化しているという。
ITスキルをつけるための勉強会とか、若手が管理職社員にパソコンなどの使い方を教える講習会を何度もやってきたんです。社外のスクールに行く場合は、授業料の補助まであった。なのにほとんどのベテランはボーッとしているだけ。早期退職の話が出た時、暇なベテラン達が一斉に労組に入り、社員をクビにするなと運動を始めたんです
- 社内失業者が、自ら進んでスキル修得をする仕組みを作る
「社内失業」という大問題を克服しなければ、日本経済の復活ナシ
メガバンク、富士通、NEC、コカ・コーラ ボトラーズジャパンホールディングスなど、いわゆる一流企業におけるリストラが加速している。多くが45歳以上の中高年社員を対象としたものだが、各社に共通しているのが、大量の社内失業者問題である。
https://gendai.media/articles/-/64758?page=2
400万人もの社内失業者が存在しており、2025年には500万人近くになる見通し
300社に聞く「社内失業」実態調査社内失業者がいる企業は、予備軍を含めて29%。 業種は「サービス関連」、企業規模は「1000名以上」で顕著。―『人事のミカタ』アンケート― | エン・ジャパン(en Japan)
人材総合サービスを提供する、エン・ジャパン株式会社、ニュースリリースのページです。
https://corp.en-japan.com/newsrelease/2020/22874.html
社内失業者の発生要因を伺うと、「該当社員の能力不足」(75%)が最多でした。
アジアで最も大人が学ばない日本で「学歴よりも学習歴」を。ベネッセが目指す学びとは
「アジアの中で日本は、最も大人が学んでいない」※1 という調査結果があります。この実態を個人の問題ではなく、社会課題と捉え解決に取り組むのが、ベネッセコーポレーションの社会人事業です。その目指すところは、働きながら学ぶことは人生の選択肢を広げ、豊かにすると感じてもらうこと。そして、一人ひとりがより自分らしいキャリア・生き方を実現できる社会づくりに貢献することです。新しい学びのあり方に挑戦する活動をご紹介します。
https://www.benesse.co.jp/brand/category/education/20200903_1/
「アジアの中で日本は、最も大人が学んでいない※1」という調査結果があります。
- 学生が勉強をする仕組みを作る
- 履修主義から修得主義への変更
- 学校で塾みたいに問題集をする
- 朝から夕方は普通の授業で、教科書に書かれた内容をする
- 夜からは塾のように問題集をする
スプリックス基礎学力研究所:世界11ヵ国22,000名の子ども・保護者に学習調査を実施 日本の子どもの約3割はなりたい職業がない・決まっていない!
株式会社スプリックスのプレスリリース(2021年2月25日 12時00分)スプリックス基礎学力研究所:世界11ヵ国22,000名の子ども・保護者に学習調査を実施 日本の子どもの約3割はなりたい職業がない・決まっていない!
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000013.000045711.html
学校の授業以外の勉強時間を比較すると、日本の子どもは11カ国中最も少ないことが分かりました。
財務省VS文科省バトル再び 中学程度の私大授業に財務省「助成の在り方見直しを」求める
定員割れの私立大の中には、小中学生が学ぶ内容の授業が行われているケースがある-。財務省が一部私大の授業内容を問題視し、文部科学省に対し、私学助成の在り方を見直…
https://www.sankei.com/article/20250607-5EARTNMF7JN3LMML4OMCZL2I4Y/
定員割れの私立大の中には、小中学生が学ぶ内容の授業が行われているケースがある-。財務省が一部私大の授業内容を問題視し、
資料では、数学の授業は足し算や引き算といった四則演算から始め、英語は現在形と過去形の違いなどを教えていると列挙。いずれも大学が公表しているシラバス(講義内容)から抜粋したとしている。
資料では約6割の私大が「定員を割っている」と指摘し、そうした私大ほど「学生1人あたり(公費)の補助額が大きい」点などをデータを示して問題視した。
アベノミクスの教訓
お金を増やすなどの景気対策をしても経済発展にはあまり寄与しないです。
主流派経済学のケインズ経済学(積極財政)における賢い支出により経済が発展します。
ワイズスペンディングとは? 意味や使い方 - コトバンク
デジタル大辞泉 - ワイズスペンディングの用語解説 - 「賢い支出」という意味の英語。経済学者のケインズの言葉。不況対策として財政支出を行う際は、将来的に利益・利便性を生み出すことが見込まれる事業・分野に対して選択的に行うことが望ましい、という意味で用いられる。
https://kotobank.jp/word/%E3%83%AF%E3%82%A4%E3%82%BA%E3%82%B9%E3%83%9A%E3%83%B3%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B0-664322
賢い支出
経済学者のケインズの言葉。不況対策として財政支出を行う際は、将来的に利益・利便性を生み出すことが見込まれる事業・分野に対して選択的に行うことが望ましい、という意味で用いられる
経済対策では、供給側の生産性向上に結び付く政策が大切です。
生産性高める財政支出 ソフトなインフラに重点を
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、財政支出が増え続けている。2021年度の一般会計歳出は、年末の補正予算で36兆円が追加され、総額143兆円になった。政府債務残高は国内総生産(GDP)の約2.5倍にのぼっている。 一方、日本の潜在成長率は足元で0.5%に届かず、特に全要素生産性(TFP)の鈍化が続く。結果的に、毎年策定される成長戦略は生産性向上を実現できていない。政府支出を拡大すれば総需要は増えるが、潜在成長率が高まるわけではない。需要拡大イコール成長戦略という誤解が多いが、持続的な経済成長には供給側の生産性向上に結びつく政策が必要になる。 図は世界金融危機以降の政府債務残高のGDP比率と経済成長率の負の関係を示している。横軸に純債務を用いても、縦軸に生産性上昇率を使っても同様の関係になる。これ自体は政府債務から成長という因果関係を示すものではなく、双方向の関係だ。高成長が政府債務比率を低下させるのは、税収増と分母のGDPが大きくなることによる。 一方、政府債務から経済成長という逆の経路は説明を要するだろう。一つは財政赤字や債務の増大が金利上昇を通じ企業の資金調達コストを高め、生産的な投資を妨げる。ゼロ金利下ではこの経路での影響は限られるが、景気回復やインフレ懸念により金利が上昇する局面では、巨額の政府債務の存在は民間部門の活動を阻害する可能性がある。 将来の増税予想による期待収益率の低下、不確実性の増大に伴うリスク回避など別のメカニズムも指摘される。楽観バイアス(ゆがみ)を持った経済見通しに起因する債務増大が、経済成長や生産性を低下させる因果関係を示す実証研究もある。政治的には財政健全化よりも経済成長が先となりがちだが、政府債務の累増が成長を抑制するということなら話は違ってくる。 ◆◆◆ 生産性上昇や経済成長に寄与するのは投資的な支出だ。一般政府の支出額の内訳をみると、公的固定資本形成はここ十数年ほぼ横ばいだ。量的には医療・介護などへの支出増を主因として政府消費の拡大トレンドが続き、公共投資のシェアは低下している。コロナ下で膨らんだ財政支出も、その多くは家計や企業への給付金などの再分配と医療費など政府消費が占める。 社会資本の効果に関する内外の研究は、交通・通信インフラが中長期的な生産力効果を持つことを示す。日本では大都市圏ほど生産力効果が大きいので、公共投資の地理的配分の改善は生産性向上に寄与する。一方、地方部では街のコンパクト化を促す形でのインフラ整備がサービス分野の生産性向上に有効だろう。 だが経済成長の二大源泉はイノベーション(技術革新)と人的資本の質の向上だ。これらに関連する財政支出の多くは狭義の公共投資ではなく、ソフトなインフラへの支出だ。最近の成長戦略ではデジタルトランスフォーメーション(DX)やグリーン分野に力点が置かれるが、他にも多くの重要な研究開発分野がある。注目されていない基礎研究がしばしば将来のイノベーションの源泉になることを考えると、多様な研究を支える一見地味なインフラを維持する必要性は高い。 一例を挙げると、研究にあたっては海外の研究成果へのアクセスが大前提だ。だが学術出版の寡占化が進む中で英文学術誌の価格高騰が続き、円安もあいまって大学図書館や研究機関で購読誌が削減されるなど深刻な状況に陥りつつある。今後設置される大学ファンドの機能が期待されるが、広範なインフラ劣化への効果は限られるだろう。 人的資本投資にも課題が多い。日本産業生産性データベースによれば、労働の質向上の成長寄与度は00年代以降急速に鈍化し10年代はほぼゼロだ。この間、政府の教育支出は横ばいだ。 岸田文雄首相は「人への投資」を倍増すると述べ、経済対策にはデジタル人材育成、リカレント(学び直し)教育などが盛り込まれた。こうした方向は妥当だが、学校・教員の質の改善をはじめ、人的資本投資には長期的な予測可能性が必要だ。各年の振れが大きく不確実性の高い補正予算ではなく、恒常的・安定的に実施することが望ましい。 初中等教育、高等教育、職業訓練はいずれも重要な人的資本投資であり、特に若年者の教育は成長と分配のトレードオフ(相反)がない。一方、イノベーションを支える重要な基盤が大学院教育だ。大学院教育の投資収益率は10%を超える。ただし収益の多くが高賃金という形で個人に帰属するので、一律の助成ではなく資金制約に直面する学生に対象を絞った奨学金制度の充実に合理性がある。 米国では理工系大学院への海外からの留学生がイノベーションの担い手として経済成長に貢献した。日本の大学院では中国などアジアからの留学生のシェアが高まっている。労働力人口が減る中で、優秀な留学生が日本で就職し、成長に寄与することも期待される。 企業の教育訓練投資も設備投資に比べて収益率が高い。だが教育訓練を受けた従業員が離職すれば企業にはメリットがないので、労働市場が流動化するほど企業の人的資本投資インセンティブ(誘因)は低下する。税制などの助成措置に一定の意義があるが、公的職業訓練の充実も重要となる。 ◆◆◆ 成長戦略というと生産性を高める政策だけに目が向きがちだが、生産性を低下させる政策の合理化も必要だ。マクロ経済の生産性上昇は、個々の企業の生産性上昇のほか、非効率企業の退出や高生産性企業のシェア拡大による資源再配分効果から生じる。資源配分の誤りが、国全体の生産性に大きな負の影響を持つことを示す研究は多い。 コロナ下で資金繰り支援や持続化給付金、雇用調整助成金を利用した企業の生産性は、非利用企業と比べてコロナ前から10~20%低かった。生産性の低い中小規模の飲食・宿泊業が新型コロナの影響を強く受けたからだと思うかもしれないが、産業や企業規模を一定とした比較である。 新型コロナの収束にはまだ時間を要しそうだ。持続的なショックによる構造変化に対応するには、政治的には難しいが支援策の対象見直しや支出規模の段階的な縮減が必要になる。 エビデンス(証拠)に基づく政策形成の認知度が高まっている。限られた時間で策定される補正予算は、当初予算と違い事業規模に比して事前の査定が甘くなりがちだ。コロナ関連の補助金・給付金、雇用対策など、事後評価も十分ではない。少なくとも巨額の事業は、外部からも客観的な事後評価ができるよう、データ公開などの枠組みを示すことをルール化すべきだろう。 生産性向上に寄与する支出に重点を置き、生産性を押し下げる支出を合理化しても、効果の発現には時間がかかる。持続的に実質1%を超える成長は当面難しいという蓋然性の高い前提に立った経済運営が、財政リスク軽減だけでなく経済成長にとっても望ましい。 2022年2月10日 日本経済新聞「経済教室」に掲載
https://www.rieti.go.jp/jp/papers/contribution/morikawa/16.html
政府支出を拡大すれば総需要は増えるが、潜在成長率が高まるわけではない。需要拡大イコール成長戦略という誤解が多いが、持続的な経済成長には供給側の生産性向上に結びつく政策が必要になる。
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はじめに:なぜ賢い支出と構造改革が必要か
日本経済は長期的な低成長に悩まされてきた。アベノミクスによって就業者数は増加し、有効求人倍率が1を超える人手不足が続くなど、需要過多の局面もあったが、GDPの伸びは限定的で、実質賃金の停滞も続いている。背景には、労働時間の短縮による生産量の頭打ちや、生産性の向上が不十分だったことがある。
今、日本に必要なのは、短期的な景気刺激策ではなく、限られた財政資源を将来の供給力強化に振り向ける「賢い支出(ワイズスペンディング)」と、構造改革による中長期的な生産性向上である。
「賢い支出(ワイズスペンディング)」は、OECDや各国政府の政策文書でも広く用いられてきた概念であり、単なる景気刺激ではなく、教育や研究開発など将来の経済成長につながる分野への重点的な投資を意味する。特に1990年代以降、ケインズ経済学の再評価の中で「支出の質」に注目する議論が強まり、この考え方が注目されるようになった。
構造改革とは、教育、雇用制度、企業慣行など経済の根幹を見直し、供給能力を高めて持続的な成長の基盤を築く取り組みである。こうした中長期的視点に立った政策こそが、日本経済の再生に必要不可欠である。
教育改革:IT人材の育成と基礎学力の底上げ
日本の生産性向上には、人的資本の強化が欠かせない。世界的にデジタル化が加速する中、日本はIT化の遅れが成長の足かせとなっている。ITスキルを備えた人材の育成は、国際競争力を維持・強化するうえで不可欠であり、そのための教育改革が急務である。政府は2020年からプログラミング教育を義務教育に導入しているが、現場では教員のITリテラシー不足や教材整備の遅れが課題となっている。
大学教育にも改善の余地がある。財務省の報告では、一部私立大学で教育の質が低く、学生の基礎学力不足や講義内容の乏しさが指摘されている。
基礎学力が十分でない学生に対しては、画一的な4年間のカリキュラムにとらわれず、個々の学力や進度に応じて学修期間を柔軟に延長できる制度の整備が望まれる。また、卒業要件の見直しにより、形式的な卒業を防ぎ、必要な知識と技能を着実に修得した者だけが卒業できる体制への転換が求められる。
さらに、教育の質を確保するためには、公費支出を通じて成果ベースの評価制度やFD(Faculty Development)の義務化を進めるなど、大学改革を一層推進する必要がある。
社内失業・リスキリング問題への対応
日本企業には、正社員制度のもとで実質的に仕事を与えられていない“社内失業者”が一定数存在しており、特にITスキルの習得が進まない中高年層に多い。こうした人材を再教育し、必要なスキルを身につけさせることは、労働市場の流動性と企業の生産性向上に寄与する。
そのためには、企業内研修の充実に加え、外部の職業訓練機関との連携を制度化し、再挑戦しやすい環境を整備することが重要である。加えて、学習意欲を高めるカウンセリング支援など、心理的側面からのアプローチも併せて進めるべきである。
経済政策の教訓:ワイズスペンディングと生産性重視の支出
アベノミクスは、大規模な金融緩和と財政出動によって景気の底上げを図ったが、生産性の向上には結びつかなかった。人手不足や需要過多の側面が見られたにもかかわらず、持続的な経済成長には至らなかったことからも、需要だけでは成長は続かないことが明らかである。
今後は、教育・研究・人材育成などのソフトインフラへの投資、すなわち「賢い支出」に重点を置く必要がある。具体的には、以下のような分野への投資が挙げられる。
- 教育・人材育成:初等中等・高等教育におけるIT・デジタル分野の質的向上、教員の能力開発プログラムの拡充
- 研究開発投資:基礎研究の強化、大学と企業の産学連携、スタートアップ支援による技術革新の促進
- デジタルインフラ整備:行政のデジタル化推進、教育・医療現場へのICT導入
- 雇用制度改革:職業訓練・職業紹介の強化、失業時のセーフティネットの拡充
これらの支出は単なる消費ではなく、将来の生産性と成長率を押し上げる「投資」である。短期的なバラマキ型の支出とは一線を画すべきであり、費用対効果の検証やPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルの徹底も不可欠である。
まとめ:成長の鍵は人的資本と構造改革にあり
人口減少が続く日本では、一人当たりの生産性をいかに高めるかが最大の課題である。短期的な景気対策に頼るだけでなく、中長期的に持続可能な成長を実現するためには、人的資本の強化と、それを支える構造改革、そして賢い支出の推進が不可欠である。教育、雇用、企業制度の見直しを通じて、"人"への投資を最大化することが、日本経済の再生の鍵である。
そのためには、単に教えるだけでなく、学習の意義や将来のキャリアに直結する具体的なメリットを理解させることで、自己効力感を育み、積極的に教えられたことを修得しようとするように促す必要がある。こうした動機づけの強化は、人的資本の質を高め、構造改革の実効性を高めるうえでも重要な要素となる。