実業之日本フォーラム 実業之日本フォーラム
2025.09.04 外交・安全保障

知られざる防衛テック企業・アンドゥリル創業者、パルマー・ラッキー氏独占インタビュー

船橋 洋一

 VR(仮想現実)ゴーグルの製造を手がけるオキュラスVRを立ち上げ、フェイスブック(現・メタ)に売却し、やがてマーク・ザッカーバーグ氏らと袂を分かちアンドゥリル・インダストリーズを立ち上げたパルマー・ラッキー氏。AI(人工知能)を駆使した自律型無人機の製造などを手がける同社は、2024年に10億ドルを売り上げ、未上場ながら企業価値は280億ドルに及ぶ見込みだ。世界的に防衛費が拡大し、AIやドローンなどテクノロジーの進展によって軍事に大きなゲームチェンジが起きつつあるいま、最も注目すべき企業の1つと言っていい。「シリコンバレーの異端児」として知られるパルマー氏に、ジャーナリストであり実業之日本フォーラム編集顧問の船橋洋一がインタビューした。

——会社の成り立ちとビジョンについて教えてください。

 私たちは「防衛プロダクト(製品)会社」です。ここがとても大切なのですが、「防衛請負会社(コントラクター)」ではありません。

 コントラクターは、政府や顧客が定義した作業を請け負い、結果がうまくいかなくても、言われたとおりにやった分の対価は支払われます。しかし私たちは「防衛製品会社」なので、何を作るかは自分たちで決め、自社の資金で開発します。だから失敗すれば失うのは納税者のお金ではなく私たちのお金です。もし間違ったものを作れば、誰も買ってくれない。そこが大きな違いです。

(写真/的野弘路)

 私がアンドゥリル・インダストリーズという会社を始めた理由は、2017年に2つのことに気づいたからです。第一に、米国では、最優秀のエンジニアたちが軍と働かなくなっていました。かつて軍と仕事をしていた最も革新的な企業が、その関わりをやめてしまっていました。

 第二に、その理由が中国の圧力にあることです。中国は、テック業界、メディア業界、映画産業、その他多くの分野と非常に緊密に結びつくことに成功しました。その結果、企業は「米軍と仕事をすると中国にビジネスで報復される」と恐れるようになったのです。

 それは非常に危険だと思いました。例えば冷戦時代を想像してみてください。もし米国が、最大の戦略的競争相手だったソ連にコンピュータの製造を任せ、ハリウッド映画の資金も出してもらい、さらに技術開発の多くを担ってもらっていたら——。機密漏洩など情報面の問題が生じますし、なにより、生活の質を相手国の供給に依存してしまえば、相手に対して自らを犠牲にせずに対抗することができなくなります。

 そこで私は、中国に一切依存しない新しいタイプの会社を作ると決めました。中国製の部品は使わない。中国で設計しない。中国に実質的に支配されている投資家も入れない。投資会社の中には中国マネーに依存しているところが少なくありません。

 要するに「中国に関係するものは一切なし」というのが大原則でした。同時に、グーグルやアップルなどのビッグテックから人材を引き抜き、軍事・国家安全保障の課題に取り組ませたかったのです。

 周囲には「あなたはおかしい」と言われましたが、実際はうまくいっています。

——当時シリコンバレーの多くが中国に深く組み込まれ、それを当たり前のように思っていたのに、なぜあなたは「中国に依存してはならない」との信念を持てたのですか。シリコンバレーで孤立していませんでしたか。

 私は孤立していたわけではありませんが、平均的なシリコンバレーの人たちよりも早く、はっきり気づいていたと思います。

 多くの人はシリコンバレーにとどまり、自分の担当している仕事、目の前のソースコードにしか関心が向きません。大局が見えないのです。でも私は実際に中国で仕事をしていました。VRヘッドセットを作っていて、中国で製造し、工場にも私自身が頻繁に出向いていました。

 中国と密接に関わっていたからこそ、問題がより明確に見えたと思います。例えば、私の知的財産が盗まれていくのを目の当たりにしました。単なる模倣ではありません。中国滞在中、私が会議で外出している間に、ホテルの部屋に侵入されて試作品が盗まれる、といったことが起きたのです。当局に通報しても何もしてくれませんでした。政府が裏で関与していたからではないかと疑っています。私は多くのシリコンバレーの人より、はっきりと問題をこの目で見ていたのです。

 ただ、中国リスクに気づけなかった多くの人たちのために少し言い訳をしてあげるとすれば、2010年代初頭当時、中国が悪い方向へ向かっていることは今ほどには明白ではなかったと思います。2010年の時点では、多くの人が、中国が西欧化し、民主化するのではないかという希望を持っていたと思います。

 さらにいえば、西側のテック業界の多くは、意図的に問題に目をつぶりたかったということもあるでしょう。例えば当時、シリコンバレーの大企業を率いるCEO(最高経営責任者)に「人権侵害をして軍備を増強している中国と、なぜ仕事をするのか」と問えば、こう答えたでしょう。「いや、彼らは西欧化している。安全保障のパートナーになりたいのだ。問題は過去のものだ」と。「ウイグルの人々は?」と聞けば、「米国にもかつて問題はあった。もう少し時間を与えるべきだ」と。そうやって都合よく目を閉じてきたのです。しかし、私は閉じられなかった。

 私の考えを決定づけたダメ押しの要素は、米国内の文化的な変化でした。これは日本とは事情が違うので、このインタビューを読んでいる日本の方には伝わりにくいかもしれませんが、米国では「アイデンティティー政治」が大きな力を持つようになったのです。

 米国の左派は、社会的には極端に左に傾斜しましたが、経済的には必ずしも労働者寄りではなくなった。民主党は「高所得のテック業界の政党」という側面が強まりました。

 米国では「誰でも自分が名乗るものになれる」、という思想が政治的にも受けがよくなりました。自分を女性だと言えば女性、黒人だと言えば黒人、あるアイデンティティーを名乗れば、それでまかり通る。自分が何者かを名乗れば、他者もそれに合わせて扱わなければならない——。私自身がそこで働いていた時に見聞きしましたが、シリコンバレーの大企業では、「自分は同性愛者だ」と言えば「よく言った」と歓迎バッジまで配られます。「自分は男だが女だと認識する」と言っても「勇気がある」と称賛される。しかし、一方で「自分は台湾人だ」とは言えないのです。社内の会議や資料で「台湾」という語を使うことすら許されない会社が実際にありました。米巨大テック5社、GAFAMの一角の会社です。彼らは中国を怒らせることを恐れていたのです。どんなアイデンティティーでも名乗れるのに「台湾人」とは名乗れない。それはタブーでした。

 かつて米国では「自分は同性愛者だ」と言えば世間を騒がせましたが、今では「自分は台湾人だ」と言うことが、1950〜60年代に同性愛を名乗るのと同程度に物議を醸すようになっています。われわれは中国にここまで支配されるようになってしまったのか、と痛感しました。企業がそこまで特定の言葉を禁じるのですから。

「撃ってくれてありがとう」とは言えない

——16歳のときにVRヘッドセットを作り始め、2012年に創業したスタートアップ、オキュラスをフェイスブック(現・メタ)に売却し、同社に参画しました。しかし、2017年に決別しました。

 多くの人は真実をぼかして「自分から次へ進んだ」「互いに別の道を選んだ」と言いたがります。しかし、本当のことを言えば、私は解雇されました。ドナルド・トランプ陣営に9000ドル寄付したためです。2016年の終盤、シリコンバレーでは極めて評判の悪い行為でした。

 当時、フェイスブックの社員は4万人ほどでした。米国では政治献金すると、氏名・住所・勤務先が公開され、利害関係の有無を確認されます。したがって、フェイスブック社員のうち誰がトランプに、誰がヒラリー・クリントンに寄付したかが可視化されるのです。

 社員4万人のうち、ヒラリーに寄付したのが約9000人、トランプに寄付したのはわずか2人でした。トランプが社内でどれほど不人気だったかを示しています。不人気というだけでなく、恐怖もあったのでしょう。実際にはトランプに寄付した社員は2人以上いたはずですが、ほとんどの人はそれを隠していました。私は愚かにも自分が優秀だから解雇はされまいとタカを括っていたんですね。だけど解雇されました。

——フェイスブックを去ってアンドゥリルを創業しました。結果的には解雇が良い転機になったと言えるのではありませんか。

 メタの人たちからも同じことを言われました。「解雇に感謝すべきだ」と。私はこう答えます。誰かが頭部を銃で撃ち抜き、奇跡的にその衝撃で超人的な能力を得たとしても、「撃ってくれてありがとう」とは言えません。撃たれた事実は消えないのです。

 多くのスタートアップは失敗に終わります。アンドゥリルは成功しましたが、そうでなかったかもしれません。会社を一つ成功させるだけでも稀です。二度続けて成功させるのは極めて稀です。一部は私の判断が的確だったからでしょうが、大半は運によるものです。振り返ると、成否の分岐点は100回はあったかもしれません。けれども偶然も味方して、正しい選択を重ねることができた——その積み重ねだと思います。才能や才覚ももちろんあったのでしょうが、かなりの部分は運でしたね。

——トランプ支持だから米軍から受注できたのですか?

 米軍からの最初の受注はトランプ政権ではなく、ジョー・バイデン政権でした。私たちは、初の自律AI戦闘機「YFQ-44A」の契約を米空軍から受注しました。競合はボーイング、ロッキード・マーティン、ノースロップ・グラマンでした。ロッキードのCEOは公の場で「アンドゥリルの勝ち目は0%だ」と述べましたが、私たちが受注しました。これも幸運の要素が大きかったと思います。先に触れたように、締結されたのは第1次トランプ政権ではなくバイデン政権期です。売上もバイデン政権期の方が大きく伸ばしました。もしトランプ期のみ好調でバイデン期が不振であれば、会社が政治的だと見なされてしまいます。私個人の政治的な信条や立場とは会社は別だ——米軍はそのように理解してくれています。

「AI駆動の完全自律」をすでに実現

——アンドゥリルはドローンに注力していますね。中国企業DJIが市場をほぼ独占している分野で、なぜそこに挑んだのですか。

 少し自慢っぽく聞こえたらごめんなさい。けれども、私はここでは他の誰よりも早く潮目を読めたと自負しています。

 2017年当時、AIはまだ今のようなブームではありませんでした。いまでは誰もがAIの重要性を言い立てますが、当時のAIはVRやタイムトラベル、寿命延長、低温保存技術のようなSFの類の話で、リアルな技術だとはみなされていなかった。AI企業に投資する人もほとんどいませんでした。AIの可能性について話せば「現実離れしたテクノロジー・オタク」といった目線で見られました。

 でも、アンドゥリルは最初からAI企業でした。ただ、それを口に出さなかっただけです。AIが現実になろうとしているのを私は知っていました。証拠を挙げましょう。社名の「Anduril Industries」の「AI」は、実は「Artificial Intelligence(人工知能)」のAIに掛けています。つまり創業時からAI企業だった、という密かな証拠です。私は「AIが流行する前からのAI派」なのです。

 AI世界では、作るべきドローンも、武器も、戦略もまったく変わります。遠隔リンクがなくても機械が自律して考える。遠隔操縦リンクだと、妨害で無力化されたり、操縦者も狙われる。でもAIが自律性を生み出せれば、例えば自律型の無人潜水艦を作れる。水中数十キロの深さでは良好な遠隔リンクなど不可能ですが、AIがあれば有人潜水艦より良い解になります。

(写真/的野弘路)

——無人機の分野には、すでにRQ-1プレデターやMQ-9リーパーのような優れたドローンが製造されています。これらに挑むのは大変だったのでは。

 我々が勝つ唯一の方法は、技術がはるかに優れていることを証明することでした。プレデターやリーパーは素晴らしい機体ですが、衛星通信リンクが必要です。衛星が破壊・妨害されたら動きません。無線リンクを妨害されても同様です。覚えておいていただきたいのは、世界中のリーパーの操縦は米国ネバダから行われていたことです。もしその施設に爆弾が1発でも入れば——極端な例ですが——世界中のリーパーが停止してしまうのです。

 1999年に公開された映画『スター・ウォーズ エピソード1』では、通商連合が惑星を封鎖し、何百万というロボット軍を展開します。最後に、誰かが「すべてのロボットは一隻の母艦からの電波で制御されている」と気づき、その母艦を撃破するとロボットは全部止まります。これは単なるフィクションではなく、リアルな描写なのです。

 だからこそ、プレデターやリーパーのようなドローンにも自律思考が必要であり、我々が競うには、それを軍に証明しなければなりませんでした。我々は「ドローンは自分で考えるべきだ。衛星も無線もなくても任務を完遂できなければならない」と主張しました。もちろん衛星リンクがあれば状況を可視化できるので良いのですが、それがなくても任務を終えられる必要があると考えていました。

 しかし、政府は当初「そんなの不可能だ。AIはまだ100年先だ」と信じませんでした。だから私たちは自社の資金——米ドルで数十億ドル規模——を投じて実証したのです。

 そして成功しました。先ほどお話ししたAI戦闘機YFQ-44Aは数カ月前に初号機を空軍に納入し、現在試験中です。2026年夏には量産に入ります。つまり、証明できたわけです。YFQ-44Aは無線通信を一切使わない運用も可能です。任務を与えて「ここへ行って、この目標を破壊せよ」と指示すれば、無人でやり遂げます。

—— 完全に無人で自律するのですか。

 完全に無人です。人工衛星も通信も不要で、完全自律で動けます。 人間のパイロットを考えてみてください。目視による推測航法ができますよね。地形を見て「川が見える。目的地はここだな」と位置を割り出します。私たちのAIも同じことができます。

 敵に探知されるリスクを回避するためには、無線はすべて切って、地表や海面すれすれを飛ぶ方がいいのですが、 人間のパイロットは安全上そこまで低空は飛べません。しかし、無人機、ロボットなら可能です。丘があれば、人間なら大きく回避するところを、ロボットなら稜線すれすれをなめるように飛べるのです。

 私たちはすでに、人工衛星もGPSも使わずに飛行できることを示しました。これは、敵が人工衛星を破壊するインセンティブを下げる効果もあります。もし私たちの戦力が人工衛星に全面的に依存していれば、彼らは人工衛星を最初に破壊しようとするでしょう。すべてが自律なら、破壊する意味が薄れます。これは非軍事のGPSにとっても良いことです。

小型ドローンでは中国には勝てないが…

——中国も無人機、ドローンの高い製造能力を持っていると言われます。どう見ていますか。

 中国は小型ドローンでは非常に優秀です。DJIなどの企業が担う領域です。私たちは彼らと真正面からは戦えません。彼らと同じ価格帯では勝てない。中国の場合、大量の政府補助が入っているからです。

 補助と言っても、中国政府がドローン1台ごとに現金を渡す、という形ではありません。例えば軍民共用の施設を無償で使わせる、とか、軍事技術——ときには盗用した技術を含むのですが——を企業に移転する、といった形です。米国の先端軍事R&Dから盗んだ技術を中国企業に渡すわけです。

 具体例を挙げます。DJIの最新ドローンには「リアクションホイール式のスタビライゼーション(反応輪による安定化装置)」が入っています。反応輪は小さな円盤で、センサーに取り付けて高速で振動させ、振動を打ち消すものです。ジンバル(回転台による安定化装置)に加えてぶれを抑止するために機能します。

 米国ではプレデター、リーパー、さらには衛星カメラなどでこの技術を使っています。中国政府は、その制御アルゴリズムや高速制御の設計法などの技術——一部は盗んだものでしょう——をDJIに渡したのです。その結果、米国では数十万ドル級の装置にしか入っていないような技術が、DJIでは300ドルの民生ドローンに入っている。我々の安価なドローンには、コスト面でとても載せられない技術です。

 つまり、小型機では中国が圧倒的に強いと思います。一方で、大型機に関しては彼らはまだ遅れています。戦闘機などの有人機に重心を置いてきたからです。

 背景として、10年前を振り返るとAIを信じる人はほとんどいませんでした。中国の戦闘機戦略も10年以上前に決まっており、今はその実施段階。AIへの大転換はまだ起きていないのです。

 もう一つ、価値観の違いもあります。正直言わせてもらえば、中国政府は日本や米国に比べて個々の人命の価値を低く見積もる傾向があると見ています。だから失敗のリスクが高い戦闘機であっても人を乗せることを厭わない。同じことをすれば、米国だと大きな政治問題になります。例えば米国でF-35の生命維持システムに問題があった際、政府は莫大な費用をかけて改善しました。仮に中国で「100万回に1回だけ起きる不具合」だったら、おそらく「許容範囲」と判断されるのではないでしょうか。

 これは軍事に限りません。例えば交通事故の損害賠償を見ればわかります。米国では数百万ドルに達することもあるのに、中国では上限が設けられ、数万ドル程度に抑えられています。自動車の安全規制でも、命を救う規制より生産性重視の政策が選ばれる。価値観の違いによって、中国では軍事装備におけるAIの必要性が相対的に低いのです。「人間と同等」なら人を乗せればよい、という発想になりがちです。

 こうしたリスク許容度と人命価値の差は、中国の「強み」でもあります。

ウクライナ「蜘蛛の巣」作戦から得るべき示唆

——ウクライナ戦争において、私たちはドローンが新たなデジタル総力戦の最も中核部分をなしている姿を私たちは日々、目にしています。AIは今後、軍事戦略そのものをもつかさどることになるのでしょうか。

 「戦争における最重要の戦略決定さえAIに委ねられるのか」という問いに対する答えは、今のところ私は「いいえ」だと思います。技術の予測より難しいのは文化の予測です。責任をAIに委ねるかどうかは文化の問題で、予測が難しい。

 現状の米国文化は、戦略レベルの意思決定をAIに任せることを望んでいません。戦術レベル——例えば「谷筋をどう抜けて目標に到達するか」「地対空ミサイル発射機をどう見つけるか」——はAIに任せたいが、全体の作戦立案は人間が行いたいというのが米国の根底にある思想です。

 米国式の例えで恐縮ですが、アメリカンフットボールのヘッドコーチは、その場でゼロから作戦を考えるのではなく、数百〜数千の「定型プレー」が入ったプレーブックから状況に応じて選びます。AIは大量のプレー案を生成し、シミュレーションや訓練を支える。しかし最終的にどのプレーを採用するかは人間が承認します。私は軍隊もそんな運用になると思います。

 なぜなら、勝つことだけが目的ではないからです。特定の兵器の使い方がメディア映えとして悪くないか、他国を怒らせないか、ワシントンがどう反応するか。そうした政治的含意も織り込んだ「プレー」を練り上げる必要があります。

 例えば、朝鮮半島で北朝鮮が砲撃を始めたとしましょう。AIは数千のセンサーから状況を把握し、複数の「あなたが事前にシミュレーションで100回は練習したプレー」を提示します。片方は極端に言えば「北朝鮮全域への核攻撃」、もう片方は「特定の防衛システムを展開」。AIがやるのはここまでです。最終決定は人間が下す。AIが勝手に核か防御かを決めることはありません。

 将来的には戦略決定の一部がAIに移る領域は増えるでしょうが、500年経ってもAIに任せない領域もあると思っています。例えば、米国の原子力潜水艦による戦略核の運用は、500年後でも人間の専任領域のままだと予測します。科学技術的に可能でも、文化的な抵抗があるからです。

——ウクライナの「蜘蛛の巣作戦」の衝撃とその意味をどう見ますか。

 技術的な側面も興味深いのですが、もっと本質的なのは、グローバル経済の進展がこうした攻撃を可能にしてしまう点です。今日、「蜘蛛の巣攻撃」は世界中のどこで企てられても、実際に起こるまで疑われないだろうと思います。世界中のどこでも国境を越えたトラック輸送が日常化しているから、軍事基地のそばまで外国のトラックが平然と入って来られるからです。

 第2次世界大戦中、外国のトラックがコンテナ満載でドイツ国内に入ってくる、なんて厳格に管理されていて考えられませんでしたよね。日本でも同様でしょう。日本にはサコク(鎖国)の時代の名残があって、黒船来航のあとでも、外国船が大量の荷物を積んで来ること自体が想像しがたい出来事だった。でも今は日常です。

 今日の世界では、「蜘蛛の巣作戦」のような攻撃は、どの国でも実行直前まで不審がられない可能性が高いということです。日本も毎日コンテナ船が入ってくる。米国も同じです。極端な話、トラックに積んでいるのが小型ドローンだけでなく、大型ドローンや人型ロボットでも、簡単に国内へ入ってこられます。

 港湾のセキュリティーは、船が着岸してコンテナが陸揚げされてから検査するのが一般的です。もし入港直前に船上で100本のコンテナが一斉に開き、検査前にドローンが飛び出したら——。日本中に100万機のドローンが入り込めるかもしれない。

 私は米国最大の港の一つ、カリフォルニア州ロングビーチの近くで育ちました。政治でもたびたび港湾保安が話題になりますが、実際に検査が行われるコンテナは全体の5%に過ぎません。つまり95%は素通りできるのです。理屈の上では核兵器だってコンテナに入れて国内を横断できてしまう。日本の統計は知りませんが、すべてのコンテナを検査してはいないでしょう。

 私たちが学ぶべきは、先進センサーやAIなどでグローバル経済のセキュリティーを劇的に引き上げるか、あるいはグローバル経済そのものを縮小するか、どちらかを選ぶ必要がある、ということです。

台湾防衛に対しては「楽観的」

——アンドゥリルは台湾にも拠点を設けています。台湾もドローン能力の開発に強い関心を持っています。ドローン技術によって中国の威圧や攻勢を無力化できる見込みは。

 私はかなり楽観的です。米国で非公式に台湾政策を語る場では、台湾を「ヤマアラシ」(強大な侵攻軍に対して、ヤマアラシの針状の剛毛のように分散型の小型兵器を多数備え、侵攻する中国軍に深刻な痛みを与えて占領を許さない状態)のようにしたいとよく言います。日本に対しては、対外的な役割も想定して地域の対等な安全保障パートナーになってほしいという議論が出ますが、台湾は純粋に防衛特化です。

 これは台湾にとっては良いことで、台湾は費用対効果の高い防御システムに資源を集中できます。

 「破壊は創造より易し」というのは真理だと思います。中国は台湾を単に破壊するだけではなく、占領し、再建し、長期統治したい。だから膨大な人員・装備・補給・エネルギーを運ぶ必要があり、途方もない兵站の問題を抱えます。台湾が、例えば上陸用舟艇や補給艦を撃沈できる弾薬を相手の1/100のコストで用意できれば、極めて強い抑止力となります。中国軍は毎日、この費用対効果の計算をしていますが、いまはまだ上陸・占領の能力が足りないと感じているはずです。私の望みは、台湾を本物のヤマアラシにして、彼らが計算の結果「不可能だ」と結論づけるようにすることです。

 台湾の防衛システムが滑走路や港湾の健在を前提にしている限り、中国が有利です。彼らは最初に飛行場と港を破壊するでしょう。しかし、台湾が垂直離着陸機(VTOL)や小さな発着場から発射できる兵器を整備すれば、前提が一変し、侵攻は不可能に近づきます。私は楽観的です。

 ちなみに、「台湾防衛は無理だ」という人の多くは、奇妙なことに中国との統一に賛成する人たちです。理由があって悲観的なのだと思います。

——台湾へはドローンの輸出だけでなくライセンス生産(技術供与)も行うのですか。

 すでに、台湾向けに米国製造の装備を政府経由でいくつも納入していますが、台湾国内での製造も必要になるでしょう。ウクライナ戦争では戦争が始まっても欧州や米国から補給が届きましたが、台湾の場合、封鎖されてしまえば補給はほぼ不可能になります。

 私は米国製造に誇りを持っていますが、戦略的には、現実として、台湾においては「戦時でも現地で作り続けられるシステム」を作らねばなりません。抑止の要諦は初日(Day 1)だけでなく、2日目、10日目、100日目、1000日目まで見据えること。習近平に「5年に及ぶ占領と住民抵抗」を想起させる必要があると思います。

 アフガニスタンで即席爆発装置(IED)が作られたように、台湾でも小規模施設で低コストのドローンなどを継続生産できる体制が求められます。大事なのは、中国の指導者に「5年戦っても尽きない」と思わせることです。私が作って渡す兵器だけでは足りません。ゆえに、ライセンス生産が鍵です。

——日本はどうでしょうか。

 日本でもライセンス生産を進める計画です。日本には我々に欠けている強力な産業力を持つ企業が多く、特に造船は非常に強い。日本の商船の品質は高く、中国企業ですら日本製の商船を買うことがあるほどです。我々にとって明白なパートナーシップ領域です。

 また、例えば、当社の潜水艦は「自動車工場」で製造できる設計にしてあります。造船所ではなく、自動車と同じ設備で製造できる。米国でも自動車工場の跡地に入り、現在はロボット潜水艦を製造しています。自動車産業が強い日本とは非常に相性がよく、うまく連携すればシームレスに移行できるはずです。

——日本では、商用ドローンに挑んだスタートアップの多くが苦戦し、大企業も本腰を入れていないように見えます。市場が小さいのも課題かもしれません。日本市場をどう見通しますか。

 日本は失敗もありましたが、世界でも数少ない「グローバル競争力ある電子機器を作れる国」の一つです。台湾、韓国、日本、米国、そして中国。世界に5カ国ほどしかない。日本はその一つです。これは強みです。

 つまり、日本が他の種類の電子機器でグローバルに勝てているのに、ドローンだけ特別に難しいということはない。問題は実行や戦略の部分にあるのだと思います。

 率直に言えば、大手企業が本気の「Aチーム」を当ててこなかったのではないでしょうか。米国では一般に社内でA・B・Cチームと俗に言いますが、どの会社にも「任せて安心」の、最強のAチームがいます。 もしソニーのAチームに「国内で大量生産でき、国際競争力があり、中国や米国製にはない独自機能を備えた低価格ドローンを設計せよ」と任せれば、私はできると思う。かつてVRでソニーのAチームと競りましたが、彼らが作った「PlayStation VR」は安く、ある点では我々の製品より優れていました。私たちが作った初代Oculus Riftの販売実績は100万台ほどでしたが、PlayStation VRは600万台売れました。

 そもそも、スタートアップの多くは、産業を問わず失敗します。新しいレストランがよく失敗するのと同じです。レストランが潰れたからといって「ハンバーガーは誰も欲しがらない」「ハンバーガーは作れない」わけではない。日本のドローン・スタートアップが失敗したのは、ドローンが不可能だからではなく、その会社が失敗しただけ、という面もあるでしょう。

——米国の半導体産業再建、特にインテル再建の遅れがAIやドローンの将来に与える影響を懸念していますか。

 米国にとって大きな問題です。仮に明日、中国が台湾に侵攻し、台湾の輸出が滞るだけでも、米国経済は大混乱に陥るでしょう。TSMCなしでは米国経済は回りません。政治家は「TSMCの工場を丸ごとコンテナに入れて米国へ運び、技術者も連れてくればいい」と思っているでしょうが、TSMCは米国内に新工場を建てたいのであって、台湾の工場を移設したいわけではありません。

 さらに米国には高度製造の労働力が不足しています。これは偶然ではなく、政策判断の帰結です。米国は中国のWTO(世界貿易機関)加盟を認め、高次の設計や情報・サービス経済に特化し、製造は海外へという方針を取った。今、その副作用に気づいたところです。

 フィクションの世界では、一人の天才のひらめきで一夜にして世界の難題が解決するという物語が好まれます。しかし、現実には何十年もかけて形成された問題——例えば製造業の雇用を減らして熟練労働力が細った問題——は、一日で解決できません。何年、場合によっては一世代かかる。困ったことに、超大国が本気で武力で奪おうとしている場所に、たまたま、世界唯一、世界最高のファウンドリがあるということなのです。

日本が好きで、うらやましく思う。だが…

 アンドゥリルは中国から制裁を受けており、経営陣個人にも制裁が科されています。理由は「台湾への武器供与が無責任で国際安全保障を不安定化させる」からだそうです。中国国営メディアは「日本が台湾支援で艦船を1隻でも送れば東京に核を使う」とまで言っています。冷戦期のソ連でも、通常戦力に対する不釣り合いな核報復を公言することはほとんどなかったはずです。こうした発言に対してどう感じますか。

——私たちは中国の経済威圧に懸念を持っています。それをさせないために、経済も含めて抑止力を強化しなければならない、それにはコストがかかる。しかし、そのコストは覚悟しなければならない、多くの日本人はそう考えつつあるのではないでしょうか。ただ、中国の威圧についていえば、かつてほどのすごみは感じません。なぜか?中国を怒らせると怖い、という恐怖感が薄れつつあるからです。なぜなら、彼らはいつも誰かに怒っている。誰かを叱りつけている。不機嫌です。それが常態化してしまっている。それにこっちも慣れてしまった。

(写真/的野弘路)

 私は日本が大好きです。日本語はひどいものですが(笑)、日本という国そのものが好きです。経済的にも戦略的にも、文化的にも米国と非常に近いと思います。

 オキュラスの事業のために日本に長く滞在していましたので、ゲーム開発やテック業界に友人が多いのです。日本は非常に興味深い国です。多くの米国人は口にしませんが、日本はある意味で、私たちが目指したい姿でもあります。都市は機能し、公共交通は時間どおりに動き、街に犯罪があふれているわけでもない。食の品質も高い。もちろん課題はありますが、訪問者の目には「なぜ米国は自国をこの水準にできないのか」と映りがちです。昨夜も妻と電話で、「なぜ米国のどこででも、良質な食料品店が当たり前にある状態にできないのか」「必要な場所へ向かう公共交通を整備できないのか」と話しました。米国での冗談に「鉄道は、行きたい所以外ならどこへでも連れて行ってくれる」というものがあります。だからこそ、日本をうらやましく思うのです。

 クルマやバイクが好きで収集していますが、ホンダの「NR」というバイクがあります。 とても面白いプロジェクトなんです。当時のホンダのCEOが「ルールは一切なし。コストは考慮しない。性能だけが最優先」と言って作らせたもので、社内メモにも「コストは一切考慮しない」とはっきり書かれているそうです。結局、非常に高価なバイクになりました。プログラムとしてはホンダに多額の損失をもたらしたのですが、レトロな見た目で中身は最新技術という極めて面白い一台です。私も一台持っています。日本企業は面白いと思います。

 ただ、難しいのは、私が共感する政治的立場の方々の多くが、米軍基地の撤去など「反米」を掲げがちな点です。

 私は銃の収集家でもあり、米国製はもちろん日本の銃も集めています。およそ450丁は持っています。日本でも銃の所有は可能ですが極めて難しい。だからこそ、銃を持っている日本人のコミュニティには興味がありました。紹介してもらってわかったのは、彼らは日本の安全保障に強い関心を持ち、伝統と文化を重視し、自前の憲法を求めている。つまり独立自尊を志向する人が多いということです。ただ、最後の最後で「だから在日米軍基地はすべて撤去すべきだ」となる。そこだけ一致できないのです。米国では、強い軍と伝統を重んじる層ほど、日本との同盟関係を好みます。そこが違う。なぜでしょう?

——いまでは60%以上の人々が日米同盟を維持すべきだと答えています。「在日米軍はすべて撤去すべきだ」と思っている人は少数派ではないでしょうか。

 ただ、日本の安全保障に関して米国への過度の依存は続かない、日本は自分の国の防衛にもっと自ら責任を持つべきだ、と考える人も増えていると思います。かつては、日本の防衛面での自立と独立は地域の不安定化をもたらすとの慎重論もありましたが、いまは、日本がより独立し、自分を守るようになってこそ、日米同盟も健全になるし、強くなる、というように変わってきている。日本が敵基地攻撃能力を持つことが日米同盟を強化し、抑止力を高める、そういう時代になっていると思います。

——まったくそのとおりです。

眠っている間に鼻から体内に侵入するドローンも

——最後に、ドローンの小型化はどこまで可能なのでしょうか。例えばこのくらい(指先で砂をつかむようなしぐさをしながら)の極小サイズは可能ですか。 考えるだけでも恐ろしいことですが…。

 おそらくあなたの想像よりはるかに小さく、目に見えないほどになる可能性もあります。

 最近、私自身が消化器の検査を受けたのですが、従来のように内視鏡を体に入れるのではなく、小さなカプセルを飲み込みました。内部にカメラがあり、腹部に装着した磁気バンドで動かし、体内を進めるのです。つまり、極小ドローンすでに実現しています。

 長期的には、兵士の感染症や負傷を防ぐため、人の体内に常駐する超小型防御ドローンのようなものが鍵になるかもしれません。爆風で心臓の弁が外れるような外傷に対し、応急的に縫合・接着して病院まで持たせる、といったことが考えられます。生物界の共生関係のように、人と超小型ドローンが共生する未来です。

 もちろん攻撃用途もありえます。昆虫サイズのドローンは車を爆破できなくても、機密を盗聴して外交交渉で相手を無力化できる。電子攻撃で施設の照明を落としたりロックダウンさせたりもできるでしょう。

 正直、私もあなたの問いが怖い。どこまで小さくなるものか。考えるだけで怖くなります。答えは「あなたが眠っている間に鼻から入り、体内に棲みつくくらい小さくなる」。攻撃側だけでなく、防御側にも超小型ドローンが普及するでしょう。自宅の周り、そして体内にも。超小型は航続距離が短い弱点があるので、もし誰かが「太陽光で動く超小型ドローン」を発明したら、それこそ本当に恐ろしいですね。

船橋 洋一

ジャーナリスト、法学博士、国際文化会館グローバル・カウンシル チェアマン、アジア・パシフィック・イニシアティブ創設者、英国際戦略研究所(IISS) 評議員
1944年、北京生まれ。東京大学教養学部卒業後、朝日新聞社入社。北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、朝日新聞社主筆。主な作品に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『カウントダウン・メルトダウン』(文藝春秋)、『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン』(朝日新聞社)、『地経学とは何か』(文春新書)、『宿命の子 安倍晋三政権クロニクル』(文藝春秋)など。

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