インフレ・デフレとは何か? いくらになれば円高で、どこからが円安? 老後資金はどうなる? 日本は豊かになれるのか? 池上彰さんが、学生への講義で、お金と経済の不安や疑問について答えた『池上彰のやさしい経済学[令和新版]』シリーズ。2巻目の「 ニュースがわかる 」から、「はじめに」を一部編集し、掲載します。
【はじめに】
池上彰の青春時代は経済に希望が持てた
最近、インフレという用語がしきりに聞こえるようになりました。これまでは、もっぱらデフレという言葉ばかりだったのですから、様変わりです。
私のように1960年代から70年代に青春を過ごした世代には、物価は上がるものという常識がありました。インフレが続いていたのです。物価の上昇と聞くと、「生活が苦しい」という印象を受けるでしょう。たしかにその通りではあったのですが、その半面、給料も毎年上がり続けていたので、将来への不安というのは、いまほどではなかったように思えます。
しかし、バブルがはじけて以降は、すっかりデフレが定着しました。デフレとは、物価が恒常的に値下がりしていくこと。いいことのように聞こえますが、物価が下がるということは、給料も下がる可能性が高くなります。給料が下がったら、「買い控えしよう」という気持ちになりますね。結果としてモノが売れなくなってしまいます。
このデフレから脱却しようと、日本銀行は金融緩和を進めました。その結果、円安が進み、輸出産業にはプラスになりましたが、輸入品は値上がりします。
円安でラーメンが5000円
私は2022年秋にアメリカに取材に行ったのですが、ニューヨークのラーメン店で豚骨ラーメンと餃子を頼んだところ、チップ込みで5400円もかかってしまいました。ホテル代も目玉が飛び出るほどで、経費のかかること! これでは海外旅行を躊躇してしまいます。私は大学生諸君に、「学生時代に海外を見ておけ」と勧めているのですが、こんな円安では、それもためらわれます。
でも、その一方で円安ということは、インバウンドつまり海外からの旅行客にとっては、「日本は何でも安い」となりますから、大勢の外国人観光客が来るようになりました。これは経済にプラスになります。
では、こうした円安になった要因の金融緩和は、どのように行われているのでしょうか。日銀の金融緩和の手法を知ることで、金融がどのようなものなのか、日本銀行はどんな仕事をしているのかを理解できるようになるのです。これを知っていれば、金融の仕組みを知らない人に自慢できることですよ。
バブルはなぜ起こり、そして繰り返されるのか?
さきほどデフレはバブルがはじけて以来のことだと言いましたが、では、そもそもバブルとは何か。なぜバブルが起きたのか。こうした少し前の歴史を知ることで、私たちは、いま生きている現在地を把握できるのです。
バブルはどうしてはじけたのかを知ると、そこには庶民の怨念に押された政府がバブルつぶしをしたからだということが見えてきます。いまになってみると、バブルのつぶし方に問題があったのではないかということもわかってきます。
バブルは繰り返し生まれてははじけてきました。ということは、いずれまた生まれるだろうということです。日本ばかりではありません。中国もいま不動産バブルがはじけて、経済成長にブレーキがかかっています。「中国経済の日本化」という言葉まで生まれています。もし中国が、日本のバブルとバブルのはじけた要因を学んでいれば、こんな事態にはならなかったはずです。
本書は、2011年夏に私が京都造形芸術大学で客員教授として行った一般教養の集中講義「経済学」がもとになっています。そちらを現在の経済状況にあわせて、加筆修正しました。
日本経済と日々のニュース、そしてその背後にある歴史は切り離せません。失敗を繰り返さないためにも、私たちは知り、学ぶ必要があるでしょう。
【目次】