2022年12月29日 18時0分

2022.12.21【坂本慎太郎@月世界】ライブレポート

月世界で坂本慎太郎を聴いた。

2022年12月21日(水)
クラブ月世界

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 坂本慎太郎が通算4枚目となるソロ・アルバム『物語のように』。その英題を冠した「LIVE2022 “Like A Fable”ツアー」の神戸公演がクラブ月世界で行われた。
 今回のツアーにはこの月世界だけでなく、熊本の「キャバレーニュー白馬」と沖縄の「桜坂セントラル」が含まれている。かつて大阪の味園ユニバースでも複数回のライブを行っている。半世紀ほど前まで大人の社交場として機能していた場所と坂本慎太郎の音楽。この日のライブでその相性の良さにある奥深さを知ることになった。

 バンドはギターとヴォーカルの坂本慎太郎、ベースのAYA、ドラムの菅沼雄太、サックス&フルートの西内徹の4人組。坂本のソロ作のほぼすべてが彼らによって演奏されている。不変不動のメンバーだ。
 1曲目は『物語のように』の冒頭を飾る「それは違法でした」。アルバムとは異なるリズム・アレンジに戸惑う。プログレ・マニアよろしく歌メロの譜割に集中して頭の中で指を折ってみたが、何拍子なのか掴めないうちに曲が終わった。観客に拍手する間も与えず、2曲目「スーパーカルト誕生」。この曲の「地獄の窯の蓋が開いた」というイメージのイントロがたまらない。そこからファンキーな「まだ平気?」に雪崩れ込む。

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 アルバムでは多くの曲でAYAのヴォーカルが大きくフィーチャーされていたが、ライブではそれに加えて菅沼雄太が坂本慎太郎と一緒にコーラス・ヴォーカルを取る場面が増えていた。フォルムとしてのバンドらしさが増す効果を生んでいる。
 「君には時間がある」、「悲しい用事」と軽やかなツイスト・ロックが続く。前日、Zepp Nambaという大バコでのライブでも、そのスケールに見事にハマっていたサウンドも、この日はさらにしっくりと響いた。2階席から見下ろしていたせいか、アメリカの青春映画に出てくるプロム・パーティで演奏しているバンドを観ているような気分になった。スロウな「スター」に続く、「浮き草」でのスタックス・ソウル風のビートはレコード以上にぐっとくるものがあった。歌詞、メロディ、そしてビートと、この曲を聴くたび、RCサクセションを思い出してしまう。「愛のふとさ」のボッサで夜のムードに突入する。ノアールなイメージを継いだままアフロ・ファンクの「仮面をはずさないで」へとDJのように繋いでいく。
 「幽霊の気分で」で熱くなり過ぎた空気を入れ替える。この曲のワンコーラス目、カウベルのタイミングで単音ギターを弾きながら歌う坂本慎太郎のリズム能力にいつも呆れてしまう。「あなたもロボットになれる」は確実に不思議な高揚感に誘ってくれる。

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 そして、「物語のように」。あとで気がつくのだが、アルバム『物語のように』に収録された10曲すべてが、その合間、合間に過去の曲を挟みながら、(この「物語のように」の場所だけ異なるものの)アルバム収録順に披露されていた。シンプルかつ、とても大胆な構成だ。
 廻るミラーボールの下で「ディスコって」の歌詞が染み入る。これ以上なく盛り上がる「ナマで踊ろう」はダンサーに徹する西内徹が見どころだが、最後にはタオルを振り回す姿は、湘南乃風ではなく、サウナのロウリュウ・タイムようで、しっかり熱風を振りまいていた。
 ラストは「君はそう決めた」。ある雑誌のアンケート原稿で「生涯の10曲」のひとつに挙げたのだが、同じ雑誌の企画に参加した友人のキングジョーもこの曲を挙げていた。この曲のなにがそんなにオッサンの心を揺さぶるのだろう。私はそこに「子供を持たずに還暦を迎えた私は、たまに親としての自分が、子供の自分を育てているような気持ちになる」と書いた。この曲を聴くと、そんなことを考えてしまうのだ。

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 ステージから一歩も動くことがなくアンコールに応えるのも、すっかりお馴染みのスタイルとなった。メンバー紹介以外にステージでのMCはないのだが、ここで穏やかな笑いが起こる。しみじみ、いい習慣だと思う。
 いかんともしがたい日常や人間関係に思いをはせずにはいられない「ある日のこと」、そして深く踏み込むと火傷をしそうな(と、書くことでまた火傷をしそうな)歌詞を持つ「恋の行方」の2曲でステージは終わった。
 限りなく演者と観客の距離が近いこの会場で坂本慎太郎バンドの演奏を聴くことができるのは格別だ。大きな会場でのライブならではの効果もあいまったダイナミズムも魅力だが、この環境ではヴォーカルの艶っぽさはもちろん、エレキ・ギターの多彩な表現をよりヴィヴィドに感じることが出来た。サーフ・ポップ、エキゾチック、ファンク、ディスコ、バラード…と、そのサウンドの語彙は豊富すぎるほどに豊富なのだが、いずれも、しっかり歌が伴っている。目新しさはないのだが、決して懐古ではない。キャバレーという会場の選択にしても同じことである。そこに(まだ)ある場所を当たり前のように使っているのだ。坂本慎太郎の音楽に「物持ちの良さ」の美徳をみる。音楽に新しさを求めるとき、誰もがついつい忘れがちになるものを、しっかりと手にして、それを器用かつ華麗に扱ってみせる。これを普遍と呼ぶことに未来を感じてしまう。

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文・安田謙一(ロック漫筆)
写真・河上良

坂本慎太郎 Official HP
http://zelonerecords.com/ja/news