20250810 国は「10・4協定」を遵守せよ
7月24日の第7次小松基地爆音訴訟の口頭弁論を傍聴し、そこで原告弁護団は第5準備書面の要約陳述をおこない、被告国(防衛省)の第2準備書面(2024/12/16)を全面的に批判した。さっそく、金沢地裁を訪問し(8/5)、第2準備書面を閲覧してきた。手許にある第5・6次訴訟の被告国の第4準備書面(2011年)、第3・4次訴訟高裁金沢支部判決(2007年)とも比較検討してみた。
(1)国(防衛省)の紳士協定論
国(防衛省)は第5・6次訴訟の第4準備書面(2011/5/28)で(資料3)、「環境基準は、それ自体受忍限度を判断する際の基準となるものではなく」(6頁)、「環境基準は、行政の目標となる基準であって、規制基準ではない」(8頁)、「上記基準は達成されることが望ましいものであり、直ちに達成されなくともやむを得ないもの」(11頁)、「紳士協定の性質を有するものであって、環境基準の達成を期することにつき、法的義務を生じさせるものではない」(11頁)、「上記環境基準は、差止請求権や損害賠償請求権の発生を基礎づける受忍限度ないし違法性を判断する基準ではあり得ず」(12頁)などと書き連ねて、「10・4協定は…精神条項、紳士協定、法的義務は生じさせない」と主張し、環境基準の達成をネグレクトしてきた。
今次第7次訴訟でも、国(防衛省)は第2準備書面(資料2、2024/12/16)で、「本件告示コンターは受忍限度を画する基準たり得ず」(35頁)、「環境基準の法的性格は国が騒音等に係る環境上の条件に対する総合的施策を進める上で、『維持されることが望ましい基準』」(37頁)、「同協定(注:「10・4協定」)は環境基準に関して、『環境基準の達成を期する』とし、…いわゆる精神条項とみるべき規定」(41頁)、「上記協定(注:「10・4協定」)の法的性格は、小松基地周辺住民の良好な生活環境を保全するために…行政施策上の目標を示したものであり、いわゆる紳士協定の性質を有するものであって、環境基準の達成を期することにつき法的義務を生じさせるものではない」(42頁)などと書き殴り、「10・4協定」は紳士協定であり、法的拘束力はもちろん、いかなる法的義務も発生しないと断言している。
(2)第3・4次訴訟判決(2007年)
私も、「10・4協定」が紳士協定か契約かという判断に関心を払ってきたが、第1・2次訴訟の金沢地裁判決(1991年)では、「(10・4協定は)周辺対策の指針を定めたものに過ぎず、環境基準の達成を約束したものとして、法的拘束力を認めることはできない」と、国(防衛庁)に寄り添う内容で判示した。
しかし、第3・4次訴訟判決(2007年)では(資料4)、「侵害行為の違法性(受忍限度)を考えるに当たって,1審被告が主張するような主観的な要素を重視することはできない」「航空機騒音に係る環境基準の達成を昭和58(1983)年までに期することとその方途が協定されており(10・4協定)」「上記10・4協定の定めは、その締結から30年以上が経過」「上記基準日から既に40年以上が経過した現在も,受忍限度を超えて違法な航空機騒音が引き続き発生し,コンター内に居住する住民は,現実にその被害を被り続けているのである」と、「10・4協定」を「紳士協定」としてではなく、「法的拘束力のある契約」へと転換している。
(3)行政法学会の動向
公害防止協定が「紳士協定か契約か」で議論されてきた行政法学会では、
★2000年 今村成和さんは「協定の効力を認める以上、その不履行に対しては、裁判の手続による強制が可能であることは、当然といってよい」(『行政法入門』2000年)と書いている。
★2003年 塩野宏さんは『行政法Ⅰ』2003年版(172頁)で、「通説は契約として有効」、2021年版(214頁)では、「(公害防止協定は)制定法の定めよりも厳しい内容の業務を企業(「10/4協定」の場合は国)側に課す手法として用いられている」「公害防止協定の有効性を前提とした最高裁判所判決がある(最判2009・7・10)」「その(公害防止協定の)実効性は民事的方法によってのみ担保される」と書いている。
★2009年 宇賀克也さんは「奈良地五條支判1998・10・20(『判例時報』1701号、128頁)は住民から信託を受けて、当該住民の権限を付与され、または当該住民を代理して、協定書に調印したと解して、協定調印に直接関与しなかった住民にも協定違反を理由とする請求を認めている」(『行政法概説Ⅰ』2009年版、350頁)と書いている。
★2010年 原田尚彦さんは『行政法要論』(2010年 第7版213頁~)で、「公害防止協定とは…事業者(「10・4協定」の場合は国)に各種の公害防止措置を約束させる協定」「法律や条令と並ぶ、第3の公害規制手段として普及している」「裁判を媒介として、直接間接その義務の履行を求めることができる。裁判例にも契約説を示唆する事例がある」などと述べている。
★2022年 岡田正則さんは「(公害防止協定の法的性質について)今日では、…行政契約と理解する考えが採られている」(2022年『行政法Ⅰ』165頁)と述べている。
★ 菊池捷男弁護士は「自治体と企業の間で結ぶ公害防止協定は、住民の福祉と健康という公益に関係する法律効果(公法上の法律効果)が生ずる契約ですので、公法上の契約」(「マイベストプロJapan」)と述べている。
(4)裁判所でも公法契約説の流れ
寺浦康子さんは「契約説が現在では多数説」、「2009/7/10最高裁第二小法廷判決は、公害防止協定の法的性質について契約説を採用し法的拘束力を認めたと解される初めての最高裁判決」(『環境管理』2013年1月号 資料5)と解説している。
さらに遡ってみると、次のような判決を見ることができる。
★札幌地裁判決(1980/10/14)
金沢地裁判決を前に、伊達火力発電所建設差し止め訴訟の札幌地裁判決があります。『判例時報』(988号)によれば、「本判決は、公害防止協定を一般的には『公害防止……という行政目的を達成するため、行政活動の手段として用いられる特殊な法形式である』とし、公法契約説に近い見解を示した」と解説されている。
★名古屋地裁判決(1978/1/18)
名古屋地裁判決では、「(渥美町と中部電力の間で結ばれた公害防止協定の)第5条は、中部電力は渥美町の同意を得なければ発電所の主要施設または公害防止施設の増設または変更をおこなうことができないという具体的な不作為義務を定めているのであるから、本件協定のうち少なくとも第5条第1項の定めは、公法上の契約と解するのが相当である」とし、公法契約説を取り入れている。『判例時報』893号では、「公害防止協定は、地域住民の健康の保護、生活環境の保全という公共の利益のため締結されるものであり、公害規制のための行政手段としての性格を有するものであるから、民事(司法)契約ではなく、行政(公法)契約である」と原告代理人の主張を載せている。
★小松基地騒音第3・4次訴訟 名古屋高裁金沢支部判決(2007/4/16)
「10・4協定……昭和58(1983)年12月27日までに速やかに環境基準(WECPNL75以下)の達成を期すること等が定められている」、「侵害行為の違法性(受忍限度)を考えるに当たって,1審被告が主張するような主観的な要素を重視することはできない」と述べ、「精神協定」に否定的な立場をとっているようだ(資料4)。
(5)「期する」とは「しない」のことなり
このように、行政法学会のみならず、最高裁判例(『環境管理』2013年1月号寺浦論文)でも、公害防止協定は「紳士協定」ではなく、「契約」であるという考えが定着してきた。そもそも、「10・4協定」は1975年に国(防衛省)と小松市などとのあいだで交わされた公害防止協定であり、両者間の契約である。
にもかかわらず、協定締結過程で、上位にある国(防衛省)は小松市が提案した「環境基準を達成期間内に達成する」を頑なに拒み、環境基準の達成を「期すべきもの」「勉める」「方針である」(資料1)などと言を左右にし、最終的に「期する」を強制したのである。
この点について、寺浦さんは「最も留意すべきなのは、協定の締結が行政(「10・4協定」の場合は国・防衛省)による強制に基づくものであってはならない」と注意喚起しているが、国(防衛省)は無理矢理小松市に押しつけた「期する」という文言を根拠にして、「10・4協定」を「精神協定」と居直り、「期間内に速やかに環境基準を達成」するとした契約を50年間も遵守していない。防衛省言語の「速やかに」とは「永遠に」、「期する」とは「しない」という意味のようで、基地周辺住民を永遠に戦争のための騒音地獄に閉じ込めるということだ。このような居直りを絶対に許さず、小松に静かな空を取り戻そう。

<資料1:『「10・4協定」への1年間』(2024年)より>
1975/7/4 防衛庁確認書案「環境基準の達成を期すべきもの」(資料56頁)
防衛庁協定書案「達成に勉める」(資料58頁)
1975/7/17 小松市基本方針案「達成期間内に達成する」(資料60頁)
1975/8/27 防衛庁解決促進案「達成する方針である」(資料63頁)
1975/9/23 防衛庁解決促進案「速やかに達成する方針である」(資料71頁)
1975/10/4 10・4協定「速やかに環境基準の達成を期する」(資料10頁)
<資料2:小松基地騒音第7次訴訟 被告国の第2準備書面(2024/12/16)抜粋>
【8~9頁】「航空機騒音は、その継続時間が短く、一過性・間欠的であり、また飛行形態や飛行経路、気象条件等によって音の伝搬特性が異なるという特徴がある。このような航空機騒音の特徴に鑑みると、……飛行場周辺住民の生活に何らかの影響があるとしてもその影響は限定的なものである」「ピーク騒音レベル値の継続時間が長い騒音とこれを単純に同一視して対比すべきではない」。
【35頁】「本件告示コンターは受忍限度を画する基準たり得ず、また損害賠償請求対策期間中の騒音状況を示すものではなく、原告らが実際に曝露された騒音状況の立証たり得ない」「本件告示コンターが直ちに違法性判断における受忍限度を意味するものではない」
【36頁】「本件告示コンターは近年における実際の騒音状況を反映しておらず、原告らが実際に曝露された騒音の立証たりえない」
【37頁】「航空機騒音環境基準が遵守されていないからといって、直ちに受忍限度を超える騒音があるとはいえない」「航空機騒音環境基準は、政府の航空機騒音に対する総合的施策を進める上での指標とするために設定されたものである」「環境基準の法的性格は」国が騒音等に係る環境上の条件に対する総合的施策を進める上で、『維持されることが望ましい基準』にほかならない」「健康被害や環境破壊等の事実を推認させる基準とすることもまた相当ではない」。
【41頁】「同協定(注:「10・4協定」)は環境基準に関して、『環境基準の達成を期する』とし、住宅防音工事等に関して、『昭和53年度を完了予定とする』等、いわゆる精神条項とみるべき規定に終始している」。
【42頁】「上記協定(注:「10・4協定」)の法的性格は、小松基地周辺住民の良好な生活環境を保全するために……行政施策上の目標を示したものであり、いわゆる紳士協定の性質を有するものであって、環境基準の達成を期することにつき法的義務を生じさせるものではない」
<資料3:小松基地騒音第5・6次訴訟 被告国の第4準備書面(2011/5/28)抜粋>
【6頁】「環境基準は受忍限度を画する基準でない」「指定区域に居住していることは受忍限度を超える騒音被害を被っていることを意味しない」「環境基準は、それ自体受忍限度を判断する際の基準となるものではなく」
【7頁】「航空機騒音に係る環境基準は、政府の航空機騒音に対する総合的施策を進める上での指標とするために策定された」「航空機騒音に係る環境基準は、騒音による好ましくない影響を防止するという見地に立って、純粋に望ましい環境の保全という観点から定められた」
【8頁】「環境基準は、行政の目標となる基準であって、規制基準ではない」(環境庁企画調整局編)。「環境基準は公害対策において個別的な規制力を持つ直接的な基準ではなく、行政施策を実施するにあたっての到達目標である」
【11頁】「上記基準は達成されることが望ましいものであり、直ちに達成されなくともやむを得ないもの」「同協定(注:「10・4協定」)は、環境基準に関して、『環境基準の達成を期する』とし、住宅防音工事等に関して、『昭和53年度を完了予定とする』等、いわゆる精神条項とみるべき規定に終始している」「紳士協定の性質を有するものであって、環境基準の達成を期することにつき、法的義務を生じさせるものではない」は生じさせない。環境基準は違法性を判断する基準ではない
【12頁】「航空機騒音に係る環境基準はいわば理想的な生活環境を造出するために行政施策状の目標として設定された」「(環境基準は)許容限度または受忍限度という性格のものとしてではなく、より積極的に、維持されることが望ましい基準とし、行政上の目標たる性格のもの」(『環境基本法の解説』)。「したがって、上記環境基準は、差止請求権や損害賠償請求権の発生を基礎づける受忍限度ないし違法性を判断する基準ではあり得ず」
【13頁】「原告らは、……告示された指定区域に居住等していることをもって受忍限度を超える騒音被害を被っていると主張するようである。しかし…指定区域に付されているW値も……実際の騒音曝露を推定させるものではない」
<資料4:小松基地騒音第3・4次訴訟 高裁金沢支部判決(2007年)抜粋>
第4 当裁判所の判断
【38頁】「10・4協定……昭和58(1983)年12月27日までに速やかに環境基準(WECPNL75以下)の達成を期すること等が定められている」
【39頁】「1審被告が種々の周辺対策を継続的に行っているからといって、本件飛行場(注:小松基地)周辺の住民の被る航空機騒音自体に変化があるわけでなく,住民の被害がなくなるわけではないから,侵害行為の違法性(受忍限度)を考えるに当たって,1審被告が主張するような主観的な要素を重視することはできない」
【50頁】「航空機騒音に係る環境基準」の達成を昭和58年までに期することとその方途が協定されており(10・4協定)」「上記10・4協定の定めは、その締結から30年以上が経過」「上記基準日から既に40年以上が経過した現在も,受忍限度を超えて違法な航空機騒音が引き続き発生し,コンター内に居住する住民は,現実にその被害を被り続けているのである」
<資料5 産業廃棄物最終処分場使用差止請求事件 最高裁判決(2009/7/10)>
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=37823
<概略>
1995年 福間町と産廃事業者間で公害防止協定(旧協定)→使用期限を2003年12月31日
1998年 処理施設の拡張(県知事の許可)、両者間の公害防止協定の改定(新協定)
2006年 福間町が産廃処分場の使用差し止め請求
←(理由)公害防止協定で定められた使用期限が経過したから
2007年 福岡高裁判決―福間町の請求棄却
←(理由)新旧公害防止協定(期限条項)に法的拘束力なし
2009年 最高裁「主文 原判決を破棄する。本件を福岡高等裁判所に差し戻す」
←(理由)上告人(福間町)と被上告人(産廃事業者)との間において,原審の判示するような理由によって本件期限条項の法的拘束力を否定することはできないものというべきである。
7月24日の第7次小松基地爆音訴訟の口頭弁論を傍聴し、そこで原告弁護団は第5準備書面の要約陳述をおこない、被告国(防衛省)の第2準備書面(2024/12/16)を全面的に批判した。さっそく、金沢地裁を訪問し(8/5)、第2準備書面を閲覧してきた。手許にある第5・6次訴訟の被告国の第4準備書面(2011年)、第3・4次訴訟高裁金沢支部判決(2007年)とも比較検討してみた。
(1)国(防衛省)の紳士協定論
国(防衛省)は第5・6次訴訟の第4準備書面(2011/5/28)で(資料3)、「環境基準は、それ自体受忍限度を判断する際の基準となるものではなく」(6頁)、「環境基準は、行政の目標となる基準であって、規制基準ではない」(8頁)、「上記基準は達成されることが望ましいものであり、直ちに達成されなくともやむを得ないもの」(11頁)、「紳士協定の性質を有するものであって、環境基準の達成を期することにつき、法的義務を生じさせるものではない」(11頁)、「上記環境基準は、差止請求権や損害賠償請求権の発生を基礎づける受忍限度ないし違法性を判断する基準ではあり得ず」(12頁)などと書き連ねて、「10・4協定は…精神条項、紳士協定、法的義務は生じさせない」と主張し、環境基準の達成をネグレクトしてきた。
今次第7次訴訟でも、国(防衛省)は第2準備書面(資料2、2024/12/16)で、「本件告示コンターは受忍限度を画する基準たり得ず」(35頁)、「環境基準の法的性格は国が騒音等に係る環境上の条件に対する総合的施策を進める上で、『維持されることが望ましい基準』」(37頁)、「同協定(注:「10・4協定」)は環境基準に関して、『環境基準の達成を期する』とし、…いわゆる精神条項とみるべき規定」(41頁)、「上記協定(注:「10・4協定」)の法的性格は、小松基地周辺住民の良好な生活環境を保全するために…行政施策上の目標を示したものであり、いわゆる紳士協定の性質を有するものであって、環境基準の達成を期することにつき法的義務を生じさせるものではない」(42頁)などと書き殴り、「10・4協定」は紳士協定であり、法的拘束力はもちろん、いかなる法的義務も発生しないと断言している。
(2)第3・4次訴訟判決(2007年)
私も、「10・4協定」が紳士協定か契約かという判断に関心を払ってきたが、第1・2次訴訟の金沢地裁判決(1991年)では、「(10・4協定は)周辺対策の指針を定めたものに過ぎず、環境基準の達成を約束したものとして、法的拘束力を認めることはできない」と、国(防衛庁)に寄り添う内容で判示した。
しかし、第3・4次訴訟判決(2007年)では(資料4)、「侵害行為の違法性(受忍限度)を考えるに当たって,1審被告が主張するような主観的な要素を重視することはできない」「航空機騒音に係る環境基準の達成を昭和58(1983)年までに期することとその方途が協定されており(10・4協定)」「上記10・4協定の定めは、その締結から30年以上が経過」「上記基準日から既に40年以上が経過した現在も,受忍限度を超えて違法な航空機騒音が引き続き発生し,コンター内に居住する住民は,現実にその被害を被り続けているのである」と、「10・4協定」を「紳士協定」としてではなく、「法的拘束力のある契約」へと転換している。
(3)行政法学会の動向
公害防止協定が「紳士協定か契約か」で議論されてきた行政法学会では、
★2000年 今村成和さんは「協定の効力を認める以上、その不履行に対しては、裁判の手続による強制が可能であることは、当然といってよい」(『行政法入門』2000年)と書いている。
★2003年 塩野宏さんは『行政法Ⅰ』2003年版(172頁)で、「通説は契約として有効」、2021年版(214頁)では、「(公害防止協定は)制定法の定めよりも厳しい内容の業務を企業(「10/4協定」の場合は国)側に課す手法として用いられている」「公害防止協定の有効性を前提とした最高裁判所判決がある(最判2009・7・10)」「その(公害防止協定の)実効性は民事的方法によってのみ担保される」と書いている。
★2009年 宇賀克也さんは「奈良地五條支判1998・10・20(『判例時報』1701号、128頁)は住民から信託を受けて、当該住民の権限を付与され、または当該住民を代理して、協定書に調印したと解して、協定調印に直接関与しなかった住民にも協定違反を理由とする請求を認めている」(『行政法概説Ⅰ』2009年版、350頁)と書いている。
★2010年 原田尚彦さんは『行政法要論』(2010年 第7版213頁~)で、「公害防止協定とは…事業者(「10・4協定」の場合は国)に各種の公害防止措置を約束させる協定」「法律や条令と並ぶ、第3の公害規制手段として普及している」「裁判を媒介として、直接間接その義務の履行を求めることができる。裁判例にも契約説を示唆する事例がある」などと述べている。
★2022年 岡田正則さんは「(公害防止協定の法的性質について)今日では、…行政契約と理解する考えが採られている」(2022年『行政法Ⅰ』165頁)と述べている。
★ 菊池捷男弁護士は「自治体と企業の間で結ぶ公害防止協定は、住民の福祉と健康という公益に関係する法律効果(公法上の法律効果)が生ずる契約ですので、公法上の契約」(「マイベストプロJapan」)と述べている。
(4)裁判所でも公法契約説の流れ
寺浦康子さんは「契約説が現在では多数説」、「2009/7/10最高裁第二小法廷判決は、公害防止協定の法的性質について契約説を採用し法的拘束力を認めたと解される初めての最高裁判決」(『環境管理』2013年1月号 資料5)と解説している。
さらに遡ってみると、次のような判決を見ることができる。
★札幌地裁判決(1980/10/14)
金沢地裁判決を前に、伊達火力発電所建設差し止め訴訟の札幌地裁判決があります。『判例時報』(988号)によれば、「本判決は、公害防止協定を一般的には『公害防止……という行政目的を達成するため、行政活動の手段として用いられる特殊な法形式である』とし、公法契約説に近い見解を示した」と解説されている。
★名古屋地裁判決(1978/1/18)
名古屋地裁判決では、「(渥美町と中部電力の間で結ばれた公害防止協定の)第5条は、中部電力は渥美町の同意を得なければ発電所の主要施設または公害防止施設の増設または変更をおこなうことができないという具体的な不作為義務を定めているのであるから、本件協定のうち少なくとも第5条第1項の定めは、公法上の契約と解するのが相当である」とし、公法契約説を取り入れている。『判例時報』893号では、「公害防止協定は、地域住民の健康の保護、生活環境の保全という公共の利益のため締結されるものであり、公害規制のための行政手段としての性格を有するものであるから、民事(司法)契約ではなく、行政(公法)契約である」と原告代理人の主張を載せている。
★小松基地騒音第3・4次訴訟 名古屋高裁金沢支部判決(2007/4/16)
「10・4協定……昭和58(1983)年12月27日までに速やかに環境基準(WECPNL75以下)の達成を期すること等が定められている」、「侵害行為の違法性(受忍限度)を考えるに当たって,1審被告が主張するような主観的な要素を重視することはできない」と述べ、「精神協定」に否定的な立場をとっているようだ(資料4)。
(5)「期する」とは「しない」のことなり
このように、行政法学会のみならず、最高裁判例(『環境管理』2013年1月号寺浦論文)でも、公害防止協定は「紳士協定」ではなく、「契約」であるという考えが定着してきた。そもそも、「10・4協定」は1975年に国(防衛省)と小松市などとのあいだで交わされた公害防止協定であり、両者間の契約である。
にもかかわらず、協定締結過程で、上位にある国(防衛省)は小松市が提案した「環境基準を達成期間内に達成する」を頑なに拒み、環境基準の達成を「期すべきもの」「勉める」「方針である」(資料1)などと言を左右にし、最終的に「期する」を強制したのである。
この点について、寺浦さんは「最も留意すべきなのは、協定の締結が行政(「10・4協定」の場合は国・防衛省)による強制に基づくものであってはならない」と注意喚起しているが、国(防衛省)は無理矢理小松市に押しつけた「期する」という文言を根拠にして、「10・4協定」を「精神協定」と居直り、「期間内に速やかに環境基準を達成」するとした契約を50年間も遵守していない。防衛省言語の「速やかに」とは「永遠に」、「期する」とは「しない」という意味のようで、基地周辺住民を永遠に戦争のための騒音地獄に閉じ込めるということだ。このような居直りを絶対に許さず、小松に静かな空を取り戻そう。
<資料1:『「10・4協定」への1年間』(2024年)より>
1975/7/4 防衛庁確認書案「環境基準の達成を期すべきもの」(資料56頁)
防衛庁協定書案「達成に勉める」(資料58頁)
1975/7/17 小松市基本方針案「達成期間内に達成する」(資料60頁)
1975/8/27 防衛庁解決促進案「達成する方針である」(資料63頁)
1975/9/23 防衛庁解決促進案「速やかに達成する方針である」(資料71頁)
1975/10/4 10・4協定「速やかに環境基準の達成を期する」(資料10頁)
<資料2:小松基地騒音第7次訴訟 被告国の第2準備書面(2024/12/16)抜粋>
【8~9頁】「航空機騒音は、その継続時間が短く、一過性・間欠的であり、また飛行形態や飛行経路、気象条件等によって音の伝搬特性が異なるという特徴がある。このような航空機騒音の特徴に鑑みると、……飛行場周辺住民の生活に何らかの影響があるとしてもその影響は限定的なものである」「ピーク騒音レベル値の継続時間が長い騒音とこれを単純に同一視して対比すべきではない」。
【35頁】「本件告示コンターは受忍限度を画する基準たり得ず、また損害賠償請求対策期間中の騒音状況を示すものではなく、原告らが実際に曝露された騒音状況の立証たり得ない」「本件告示コンターが直ちに違法性判断における受忍限度を意味するものではない」
【36頁】「本件告示コンターは近年における実際の騒音状況を反映しておらず、原告らが実際に曝露された騒音の立証たりえない」
【37頁】「航空機騒音環境基準が遵守されていないからといって、直ちに受忍限度を超える騒音があるとはいえない」「航空機騒音環境基準は、政府の航空機騒音に対する総合的施策を進める上での指標とするために設定されたものである」「環境基準の法的性格は」国が騒音等に係る環境上の条件に対する総合的施策を進める上で、『維持されることが望ましい基準』にほかならない」「健康被害や環境破壊等の事実を推認させる基準とすることもまた相当ではない」。
【41頁】「同協定(注:「10・4協定」)は環境基準に関して、『環境基準の達成を期する』とし、住宅防音工事等に関して、『昭和53年度を完了予定とする』等、いわゆる精神条項とみるべき規定に終始している」。
【42頁】「上記協定(注:「10・4協定」)の法的性格は、小松基地周辺住民の良好な生活環境を保全するために……行政施策上の目標を示したものであり、いわゆる紳士協定の性質を有するものであって、環境基準の達成を期することにつき法的義務を生じさせるものではない」
<資料3:小松基地騒音第5・6次訴訟 被告国の第4準備書面(2011/5/28)抜粋>
【6頁】「環境基準は受忍限度を画する基準でない」「指定区域に居住していることは受忍限度を超える騒音被害を被っていることを意味しない」「環境基準は、それ自体受忍限度を判断する際の基準となるものではなく」
【7頁】「航空機騒音に係る環境基準は、政府の航空機騒音に対する総合的施策を進める上での指標とするために策定された」「航空機騒音に係る環境基準は、騒音による好ましくない影響を防止するという見地に立って、純粋に望ましい環境の保全という観点から定められた」
【8頁】「環境基準は、行政の目標となる基準であって、規制基準ではない」(環境庁企画調整局編)。「環境基準は公害対策において個別的な規制力を持つ直接的な基準ではなく、行政施策を実施するにあたっての到達目標である」
【11頁】「上記基準は達成されることが望ましいものであり、直ちに達成されなくともやむを得ないもの」「同協定(注:「10・4協定」)は、環境基準に関して、『環境基準の達成を期する』とし、住宅防音工事等に関して、『昭和53年度を完了予定とする』等、いわゆる精神条項とみるべき規定に終始している」「紳士協定の性質を有するものであって、環境基準の達成を期することにつき、法的義務を生じさせるものではない」は生じさせない。環境基準は違法性を判断する基準ではない
【12頁】「航空機騒音に係る環境基準はいわば理想的な生活環境を造出するために行政施策状の目標として設定された」「(環境基準は)許容限度または受忍限度という性格のものとしてではなく、より積極的に、維持されることが望ましい基準とし、行政上の目標たる性格のもの」(『環境基本法の解説』)。「したがって、上記環境基準は、差止請求権や損害賠償請求権の発生を基礎づける受忍限度ないし違法性を判断する基準ではあり得ず」
【13頁】「原告らは、……告示された指定区域に居住等していることをもって受忍限度を超える騒音被害を被っていると主張するようである。しかし…指定区域に付されているW値も……実際の騒音曝露を推定させるものではない」
<資料4:小松基地騒音第3・4次訴訟 高裁金沢支部判決(2007年)抜粋>
第4 当裁判所の判断
【38頁】「10・4協定……昭和58(1983)年12月27日までに速やかに環境基準(WECPNL75以下)の達成を期すること等が定められている」
【39頁】「1審被告が種々の周辺対策を継続的に行っているからといって、本件飛行場(注:小松基地)周辺の住民の被る航空機騒音自体に変化があるわけでなく,住民の被害がなくなるわけではないから,侵害行為の違法性(受忍限度)を考えるに当たって,1審被告が主張するような主観的な要素を重視することはできない」
【50頁】「航空機騒音に係る環境基準」の達成を昭和58年までに期することとその方途が協定されており(10・4協定)」「上記10・4協定の定めは、その締結から30年以上が経過」「上記基準日から既に40年以上が経過した現在も,受忍限度を超えて違法な航空機騒音が引き続き発生し,コンター内に居住する住民は,現実にその被害を被り続けているのである」
<資料5 産業廃棄物最終処分場使用差止請求事件 最高裁判決(2009/7/10)>
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=37823
<概略>
1995年 福間町と産廃事業者間で公害防止協定(旧協定)→使用期限を2003年12月31日
1998年 処理施設の拡張(県知事の許可)、両者間の公害防止協定の改定(新協定)
2006年 福間町が産廃処分場の使用差し止め請求
←(理由)公害防止協定で定められた使用期限が経過したから
2007年 福岡高裁判決―福間町の請求棄却
←(理由)新旧公害防止協定(期限条項)に法的拘束力なし
2009年 最高裁「主文 原判決を破棄する。本件を福岡高等裁判所に差し戻す」
←(理由)上告人(福間町)と被上告人(産廃事業者)との間において,原審の判示するような理由によって本件期限条項の法的拘束力を否定することはできないものというべきである。