経済デマの正体は「他責思考」
「金融・経済のデマに騙されるな」の4回目は、SNSで人気のデマに共通の「他責思考」について書いてみます。次の5回目は、宗教のように一部に信じられている「財務省悪玉論」を取り上げます。
4. 経済デマの正体は他責思考>自己責任と思いたくない
他責思考は人気がある
ここまで、SNS上で人気のある経済デマについて3つのコラムを紹介しました。賢明な皆さんはすでに気づいていると思いますが、これらのデマあるいは詭弁に共通しているのは「社会が悪い」「体制が悪い」「国の責任」という他責思考です。
本来、自らが交渉当事者であるはずの民間企業における給与すら、国が上げてくれるという錯覚がデマの裏にはあります。近年、自己責任論は流行らないと聞きます。書店で売れる本も「社会が悪い」系の他責思考のものばかり。次に取り上げる財務省悪玉論や、コロナワクチンが厚労省と製薬会社の陰謀とする反ワクチンなどは、究極の形ともいえます。
こうした他責思考には、それに触れる人が「自分が一生懸命やっても報われないのは社会(国)のせいだったのか」と心理的な解放感を得られる面があります。解放感は心を沈め、自責の念を減らすので、気持ちが穏やかになる人もいるでしょう。一定の精神安定剤のような効果があるので、人気があるのかもしれません。
他責思考は怒りと不幸の増幅マシーン
ところが、SNS上で発信するこうしたデマの信奉者はほとんど例外なく怒っています。それはそうでしょう。誰かの陰謀のせいで、あるいは国や政府が仕事をしないために、自分の生活が苦しいのだと信じれば、次に来るのは怒りと抗議です。
いったん他責思考に陥ると、仕事におけるリスキリングや転職活動など、自分で自分の環境を良くする努力は馬鹿らしくなるでしょう。「どれだけ頑張ったところで、社会が悪いから、無駄」と本気で信じれば、前向きな努力をする気がなくなります。
一方で、自分が効果的に、目に見える変化を起こせるのは自分と自分の選んだ環境だけです。本当に国が悪いと思うなら海外で暮らす、働くという選択肢もありますし、それを選ぶ人もいます。かつては芸能人など特殊な職業の人だけが海外に住んでいましたが、最近はワーキングホリデーを利用して海外でアルバイトをする若者も増えているようです。また、グローバルなビジネス展開をしている外資系企業に勤務すれば、自分の努力次第で海外勤務も可能です。
他責思考の方は「政府機関や政治家の悪口を言うことでストレス解消になる」と思うかもしれませんが、長期的に見ればそれは大きな錯覚です。悪口や批判をするエネルギーがあれば、自分でできることから変えていく方がよほど健康的です。ハローワークでは仕事探しの他に職業訓練も受けられ、一人親や引きこもりの人が相談できる自治体の窓口もあります。そうやって自分で自分を幸せにしていくことが、問題解決の一番の近道なのです。
そうした近道から人を遠ざけ、不幸を増幅するアンプのような働きをするのが他責思考のデマや陰謀論なのです。自己責任を否定すれば改善の努力を怠り、いよいよ自分の環境は悪化していきます。そして、幸福感がいよいよ薄れるので国への怒りがさらに増すという悪循環に陥ります。
現実社会はそんなに単純ではない
社会の問題は複雑な要因から生じています。政府機関にも問題はありますが、一つの政府機関や人物、グループがすべての問題を作り出している、というのは単純化しすぎであり、子供向けの戦隊ヒーローもののような世界観です。単純化されているので、難しい理論が苦手な人にも読みこなせ「わかる」からそれを「真実」だと思ってしまう。そういう心理を巧みに利用した書籍が書店に平積みにされているのが現状です。
経済や金融を本格的に学ぼうとすれば何年もかかります。マクロ経済学とミクロ経済学の教科書各々1冊だけで厚さは3-5センチくらいありますし、教科書の他にも知るべきことは限りなくあります。もし新書一冊程度で経済や金融のすべてがわかるなら、大学に経済学部など不要でしょう。さらに、金融市場を深く理解するためには、金融業界の第一線での実務経験も必要となります。
子供や学生ならともかく、一定年齢に達した大人が「わからない」と認めるのはしんどいことです。実務経験がないか乏しく、学ぶための時間を惜しむ人たちに「わかった」と思わせてくれる、つまり錯覚させてくれる他責思考の陰謀論の本や論者は「わからなかったことをぜんぶ説明してくれる、ありがたい」ものに思えるのでしょう。
難しいことを難しいままに理解するための学びを怠り「政府や国が仕事をさぼっている」という単純な話で満足する。彼らは自分が真っ当な努力を怠っていることを認めたくない、弱い心の持ち主なのかもしれません。だとすれば弱い心の持ち主にたかって儲ける側はより罪が深いといえます。
「いまの時代、自己責任論は受けないから」と、他責思考の本を書店に並べている出版業界の方々には「森永卓郎のようなデマ本を売って儲けて嬉しいのですか?」と聞いてみたくなります。それは出版人として恥ずべきことではないでしょうか。(次項に続く)
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