最高益だが客離れ……CoCo壱、“物議の値上げ”は成功か失敗か?
なぜ小刻みな値上げが効果的なのか?
背景にあるのは「内的参照価格」という心理学的な概念だ。顧客は無意識に「これくらいが妥当だろう」という価格基準を持っており、それを超えた値上げは、「高くなった」という印象を一気に強めてしまう。 だからこそ、値上げは一度にまとめて実行するのではなく、少しずつ価格を上げ、顧客に新しい価格に慣れてもらうことが重要なのだ。 その結果として、この値上げ戦略はCoCo壱の業績にも大きく寄与してきた。既存店ベースでの売り上げは長年安定して推移し、利益率も堅調に推移。特に大きな客離れを起こすことなく、値上げしても選ばれ続ける店を実現してきたのである。 これはCoCo壱に限った話ではない。スターバックス、マクドナルドといった多くのグローバルチェーンでも、年1~2回ペースの小幅な値上げを定期的に実施する戦略が定着している。 うまくいっている企業ほど、値上げを先延ばしにする傾向がある。しかし、原材料高騰などの外部要因が急に顕在化したとき、それまで値上げを先延ばしにしていた企業が慌てて価格改定に踏み切ると、顧客の許容範囲を一気に超えてしまい、離反を招きやすい。 CoCo壱は、まさにその落とし穴を避けるべく、10年にわたり地ならしをしながら値上げを成功させてきた企業だったのである。
価格改定で客離れが加速した2つの理由
では、なぜ今回に限ってCoCo壱の値上げで、顧客離れが加速する結果になったのか。 一言で言えば、「価格の閾値を超えてしまった」からだろう。ある一点の価格(閾値)までは、値上げをしても客離れがほとんど起きない、または緩やかにしか進まない。しかし、その閾値を超えた瞬間に、顧客の離脱が急激に加速する。 今回の2024年8月の値上げは、まさにその境界線を超えた可能性が高い。ベースカレーは10.5%、トッピングも含めれば一食100円前後を値上げした。 もう一つ見逃せないのが、地域別価格の廃止だ。 従来のCoCo壱は、都市部と地方で価格差を設けていたが、今回の価格改定では全国一律価格へと転換された。一見するとシンプルで公平な施策に思えるが、実は価格戦略としては非常に難度が高い。価格の閾値や支払い意欲は、地域や顧客層ごとに全く異なるためだ。 支払い意欲が比較的低い層(地方・学生・ファミリー層など)を基準に価格を統一すると、当然ながら客単価は下がる。反対に、支払い意欲の高い層(都市部・ビジネスマン・外食頻度の高い層など)を基準に統一価格を設定すると、支払い意欲が低い層の離脱を招く。 つまり、どっちを取っても常にリスクを伴うのだ。このように、地域別やセグメント別の価格戦略を廃止し、支払い意欲の高い層に寄せた価格になったことで、支払い意欲が低い層の離脱を招いてしまったのだろう。 さらにもう一点、今回の価格改定で特に気掛かりなのは、来店頻度の高い顧客への影響である。仮に一食当たりの値上げが100円でも、「たかが100円」と感じる人もいれば、「それが積み重なるとばかにならない」と感じる人もいる。 実際に月間来店頻度で換算すると、 ・月4回の利用者:+400円 ・月16回の利用者:+1600円 ・月25回のヘビーユーザー:+2500円 ほどが増えることになる。 来店頻度が高い人ほど、価格の変化が生活に食い込んでくるため、同じ値上げでも「生活コスト」としての重みが異なるのだ。