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宇宙ビジネスは急速な拡大を続け、2040年には100兆円規模に到達すると予測される。宇宙に挑むプレーヤーにエールを送るべく始まった日経宇宙プロジェクトは5年目の節目を迎え「日経宇宙プロジェクト会議」を開催した。宇宙ビジネスのさらなる発展と認知拡大を目指し、産学官を代表する有識者たちが一堂に集結。白坂成功氏を座長に迎え、国内宇宙産業の現在地について議論を交わした。
白坂 成功 氏 慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 教授
●座長あいさつ
新たな経済圏誕生間近
国内宇宙産業は転換点を迎えている。キーワードは「産業化」だ。デジタルトランスフォーメーション(DX)が社会課題を解決したように、新技術の登場は新たな価値創出を実現する。
宇宙関連技術の進歩により、宇宙利活用の目的は「宇宙航空研究開発機構(JAXA)によるミッションの達成」から「新たなエコシステム(経済圏)の創出」へと変わりつつある。宇宙産業のアーキテクチャー(仕組み)を変えるには、JAXAやアカデミアが培ってきた技術や人材を生かし、民間企業が事業化を目指す循環が欠かせない。
今後、多くの人が宇宙で生活するようになれば、衣食住をはじめとした地上のあらゆる産業が宇宙にも求められ、水平分業化していく。非宇宙産業の参画が進み、モノやサービスの新たな市場が形成されれば、大きな経済的インパクトを生むだろう。新たなアーキテクチャーの構築は始まったばかりだ。新産業の行方を握る分岐点に、我々は立っている。
風木 淳 氏 内閣府 宇宙開発戦略推進事務局長
国際競争力強化へ前進
政府は宇宙開発利用の推進に注力している。23年6月に閣議決定した「宇宙基本計画」では、国内宇宙産業の市場規模を20年の4兆円から30年代早期に2倍の8兆円まで拡大する目標を掲げた。 内閣の宇宙開発戦略本部を司令塔とし、宇宙基本計画を策定。重点事項の決定と工程表の改訂を毎年行っている。加えて、我が国が開発を進めるべき技術を見極める「宇宙技術戦略」において、「衛星」「宇宙科学・探査」「宇宙輸送」 「分野共通技術」の4分野について、開発の進め方や重要性を検討し、可能な範囲で示している。24年には、民間や大学の技術力強化を目的に、10年間で総額1兆円規模の支援を行うことを目指す「宇宙戦略基金」を創設した。
宇宙産業はあらゆる分野に関係し、宇宙政策の強化は「経済財政運営と改革の基本方針2025(骨太の方針)」にも盛り込んだ。経済成長への政策として位置付けも大きくなっている。
民間が安心して投資を行える制度基盤を整備することも政府の重要な役割だ。産官学が連携し、宇宙分野で我が国が国際競争力を発揮すべく、政策を推し進めていく。
高田 真一 氏 宇宙航空研究開発機構(JAXA) 宇宙戦略基金事業部 技術開発 マネジメントグループ長/新事業促進部 事業開発グループ長
官民共創の舞台を整備
「宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)」は、JAXAのオープンイノベーション型の新しいプラットフォームだ。JAXAと民間企業が協力し、新しい発想による宇宙関連事業の共創を目指す。JAXAが持っている技術シーズを民間企業が使えるようにし、実用化に向けて技術を高めて、互いに価値のある成果の創出を目的としている。
新たな宇宙プレーヤーの参画や、事業領域の開拓にも注力している。18年の発足以来、累計300件超の事業アイデアが議論され、そのうち52件がプロジェクトとして立ち上がった。その中で14件はすでに事業化を果たしている。
具体的には、測位衛星で運転手不足、地球観測衛星で農作物の成長予測といった課題解決につなげている。連携企業の一部は上場し、それ以外のスタートアップも外部資金の獲得などで次の活動につなげている。
民間企業に技術を先に使ってもらって実証データをJAXAが受け取ることも増えている。それによりJAXAが新しい気づきを得て対応し、民間企業にさらに使ってもらうという好循環も生まれている。
山岡 建夫 氏 日本航空宇宙工業会 常務理事
官需中心から脱却へ
日本航空宇宙工業会(SJAC)は、航空宇宙機器の生産振興と貿易の拡大を通じて、航空宇宙産業の発展への貢献を目的とする団体だ。約130の企業・団体が所属している。
国内宇宙産業は、これまでJAXAを中心とした官需が多く、少量の受注・生産が主だった。今後は様々なスタートアップの参入や打ち上げ需要の拡大により、生産設備や射場、地上局といったインフラの整備・拡張が求められるだろう。
技術継承にも課題がある。国産ロケットH2Aは、初号機が01年に打ち上げられたが、次世代機H3の運用開始までに20年以上の期間を要した。設計図などの資料は残るものの、設計思想などの暗黙知の継承は容易ではない。新型ロケットの継続的な開発などを通した、技術継承の体系化が重要となる。
日本の宇宙産業の強みは、ロケットの製造から打ち上げ、衛星の運用まで、一気通貫で行える能力にある。今後は米国や欧州のエコシステムに、国内企業がいかに参画していくかも問われる。技術だけでは解決できない壁も多い。打開策の検討が必要だ。
加藤 松明 氏 PwCコンサルティング 宇宙・空間産業推進室 マネージャー
地球規模の課題解決支援
宇宙産業の役割は、宇宙領域における新ビジネスの創出にとどまらない。当社が2024年に創設した「宇宙・空間産業推進室」は、地球規模の課題の解決も念頭に、多様な業界の知見や専門知識を合わせもつ人材が結集した組織だ。宇宙産業の課題を包括的にとらえるため、自動車などの他産業の視点や、陸・海・空・宇宙・仮想空間といった宇宙にとどまらない領域をカバーするなど、多様な視点で分析している。
事業化に向けた支援としては、次世代通信実証や3次元空間情報活用などの社会実装に向けた実証支援も行っている。また、市場が未形成の領域での経済規模予測などの支援を推進してきた。宇宙産業は現実的な事業領域となってきており、「どのように入っていけば良いのか」という段階に移行している認識。非宇宙分野の企業支援にも力を注ぎたい。
企業などが持つ技術シーズを政府の技術戦略と結び付け、エコシステムに組み込むことで産業の裾野を拡大。政策動向を把握しながら研究開発を支援し、事業化まで幅広く伴走。日本の宇宙産業発展のために産学官連携を支援していく。
岩﨑 匡宏 氏 スカパーJSAT 宇宙事業部門 投資・協業推進局 局長
衛星ビジネスさらに拡大
スカパーJSATは静止軌道に17基の衛星を保有する、アジア最大の衛星通信事業者だ。宇宙ビジネスの拡大を見据え、新たな事業領域に挑戦している。
例えば、非地上の通信ネットワーク、ユニバーサルNTNの構築だ。複数軌道の通信衛星や高高度通信プラットフォーム(HAPS)を組み合わせる。携帯電波の標準化団体3GPPにも参画。「圏外のない社会」を目指している。
需要拡大を見据え、衛星の拡充も進める。広域災害に機動的に対応すべく、通信対象地域やデータ量を変更できる柔軟性の高い通信衛星2基を導入。衛星データを分析して販売する事業にも注力する。現在は他社提供の撮像データを提供しているが、従来の他社の衛星データに加え、要望に応じてスペシャリストが画像解析をしたうえで提供している。27年には低軌道地球観測衛星を自社で10基保有、運用する予定だ。
スタートアップとの連携も重要な戦略の一つ。30年までに宇宙関連スタートアップ企業に対して100億円の投資を行う。衛星通信事業に加え、宇宙ソリューションプロバイダーとして挑戦を続ける。
石田 真康 氏 SPACETIDE 代表理事
主導権握り世界をリード
SPACETIDEは、中立的な立場から宇宙産業の発展・拡大のための議論と共創の場を提供する一般社団法人だ。15年に開始した宇宙ビジネスカンファレンスは、国内外から2000人が参加するアジア最大級のイベントに成長。宇宙産業の幅広い潮流について議論された。
日本の宇宙産業の最大の課題は売上額が少ないことだ。解決には、「官と民のマルチユース」「国を挙げての国際展開」「提携や買収を通じた成長」など多様な成長戦略が求められる。
宇宙産業における日本の勝ち筋は、強みを発揮できる領域の発見にある。例えば、ロケットや通信網などの宇宙インフラの利活用、デブリ除去や軌道上サービスなどの「後行程」、特殊なレーダー衛星網などのニッチインフラなどで主導権を握ることが重要だ。
市場の分断化が進み、世界は同盟国や同志国ごとにグループを形成する「マルチラテラル(多国間)」の時代へと移りつつある。海外市場の開拓には、政府間の関係づくりが不可欠だ。国家間の対話の場に民間のセッションを設けるなど、官民一体となったアプローチが求められるだろう。
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