かな入力における拗音問題
kouy氏による100万字統計によれば、拗音の頻度は約3%に過ぎず、かな入力全体における影響度は低い。
しかし、ローマ字・行段系入力に対するかな入力の大きな弱点がそこで、かな入力を学ぼうとするユーザーの大半がローマ字入力を経験していることを鑑みると、普及面で大きな足枷となることが懸念される。
ローマ字入力より露骨につらくなるところが一個あったら相当モチベ削られるでしょ。
また、文章が歪むリスクを軽視すべきではないと思う。
頻度で重み付けをして、シフト等で操作量に差をつけるのはかな入力の宿命ではあるが、あまりに差が大きすぎると、頻度の低い仮名をさらに使わなくなると思う。
操作コスト=押しやすさ、認知コスト=覚えやすさの両面で、極端な差がつかないようにすべきだ。
「ゐ」「ゑ」「ゎ」くらいならともかく、最低限は伝統的拗音(イ段+「ゃ」「ゅ」「ょ」)、書くものによるができれば主要外来音までは、直音と同じ操作系の中に入っていないと、説得力に欠けるというのが僕の意見だ。
仮名ベースごとの問題
拗音合成の話は最後。
文字ベース
まず理論値2打なのが普通に厳しい。濁点後付けで拗濁音(濁音の拗音)が3打になるJISかなは、今どき考慮に値しないと思う。前置シフトも同様に厳しい。
基本的には飛鳥配列のやり方しかない。
つまり、
全ての直音が一打
捨て仮名「ゃ」「ゅ」「ょ」がアンシフト
イ段と捨て仮名が左右交互
「ゅう」「ょう」の運指にも配慮
拗音の扱いに関してはここが最低ライン。
外来音に関しては相当厳しい。「ぁ」~「ぉ」まで表に出すわけにもいかないし、第1字を片手寄せするのも難しく、「う」は頻度的に絶対表だから連続シフトも組めない。
文字ベースであるという時点で、書くものを選ぶ配列と言ってしまっていいと思う。
モーラベース
定義的に拗音を直接配置しているわけで、直音と同じ操作系という条件は基本的に満たしている。
つまり操作コストについては問題のあろうはずがないが、問題は認知コストだ。
下駄配列(新下駄配列)も蜂蜜小梅配列(シン蜂蜜小梅配列)も、拗音をまともに配置するのは諦めて、マトリクスによる規則的配置を採用している。覚えられないからだ。
認知コストはそれで許容範囲に収まったとしても、「~ゅ」「~ょ」の位置が散らばる以上、「ゅう」「ょう」の運指最適化に限度があり、伝統的拗音に限れば飛鳥配列よりしんどい印象だ。
拗音あってこそのモーラベースだが、その拗音にこそ構造的な弱点を抱えているとさえ言える。
拗音合成(文字ベース)
薙刀式(相互シフト)、ハイブリッド月配列(前置シフト)で採用されている。
時期的にはハイブリッド月配列が先行しているが、完全ではないため、以下薙刀式の仕組みを前提とする。
長くなるが、薙刀式解説記事から該当部分を引用する。
【3 拗音同時押し、外来音同時押し】
薙刀式のウリのひとつです。
右手側にある「や」「ゆ」「よ」と、
左手側にある「拗音化する音(き、し、ち、に、ひ、み、り)」との同時押しで、
拗音化します。
(同様に、センターシフトありなしは関係なし。
拗音に関しても排他的配置が成立しています)
例 し+よ→しょ
濁音(以下濁表記)同時押しと併用できます。
例 し+濁+よの3つ同時押し→じょ
半濁音との同時押しもです。
例 ひ+半+よ→ぴょ
外来音の定義は、
清音と濁音で以下のように常に3キー同時押しです。
清音: 使用2音+半濁音の3キー同時押し
濁音: 使用2音+濁音の3キー同時押し
ティ て+半+い ディ て+濁+い
テュ て+半+ゆ デュ て+濁+ゆ
トゥ と+半+う ドゥ と+濁+う デュ て+濁+ゆ
シェ し+半+え ジェ し+濁+え
チェ ち+半+え ヂェ ち+濁+え
ウィ う+半+い ウェ う+半+え ウォ う+半+お イェ い+半+え
ヴァ う+濁+あ ヴィ う+濁+い うェ ヴ+濁+え うォ ヴ+濁+お
ヴュ う+濁+ゆ
ヴ う+濁+ー(唯一の例外です)
ファ ふ+半+あ フィ ふ+半+い フェ ふ+半+え フォ ふ+半+お
フュ ふ+半+ゆ
ツァ つ+半+あ
クァ く+半+あ クィ く+半+い クェ く+半+え クォ く+半+お
クヮ く+半+わ
グァ く+濁+あ グィ く+濁+い グェ く+濁+え グォ く+濁+お
グヮ く+濁+わ
濁音キー、半濁音キー、
使用する二音さえ覚えておけば、
すべての拗音、かなりの種類の外来音が、
2ないし3キー同時押しで、1アクションで出せます。
(分からなくなったら、最悪Qの小書きを使います)
これらがすべて機能しているのは、
「濁音になる音が同一キー内で被らない」
「半濁音、小書きになる音が(以下同)」
「拗音になる音が(以下同)」
「外来音になる音が(以下同)」
を満たしているから(排他的配置)です。
この工夫が薙刀式の特徴です。
全て説明されているが、改めて要点をまとめ直してみよう。
拗音を構成する2仮名の同時押しで拗音を入力できる
拗濁音の場合は濁音キーも同時押し
前提として配置に工夫がなされている
排他的配置
濁音(半濁音)になる仮名
小書きになる仮名
拗音第1字になる仮名
以上全てと濁音(半濁音)シフト
拗音第1字になる仮名と捨て仮名が同時押し可能
ここまで見てきた一般的な方式と比べ、圧倒的に認知コストが低く、操作コストも概ね低い。
薙刀式における拗音合成の課題は2つある。
拗濁音でフィンガー3キー同時押しが必要
キーマップに大きな制限がかかる
いずれも、薙刀式の配置が回答として示されてはいるが、運指や指負荷バランス、その他諸々のしわ寄せを食っている部分もある。
一番わかり易いのが、「゛ゃ」が標準運指で取れない(両方とも本来は右人差し指のキーにある)という点で、これは小さからぬ欠点だと思う。
拗濁音合成における諸問題
拗音入力において明らかに最もスマートな方法である拗音合成について、その課題と解決策を司祭に検討する。
キーマップの制限
薙刀式における以下の工夫は、言い換えれば制限である。
排他的配置
濁音(半濁音)になる仮名
小書きになる仮名
拗音第1字になる仮名
以上全てと濁音(半濁音)シフト
拗音第1字になる仮名と捨て仮名が同時押し可能
配字の制限と限界
これらを守れれば問題ないが、構造的に難しい部分もある。
まず、拗音は伝統的拗音(イ段+「ゃゅょ」)と、外来音(主にウ段+「ぁ~ぉ」)に分かれる。
ここで、捨て仮名を「ゃゅょ」「ぁ~ぉ」に分類すると、第1字「し」「じ」「て」「で」などが両者にまたがる。
よって、この観点からは捨て仮名を全て片手に寄せることが望ましい。
逆にいえば、全ての第1字をその反対に寄せることが望ましいのだが……
そもそもの話、「う」が第1字としても捨て仮名としても使われる以上、完全な左右分別は原理的に不可能で、ある程度の片手同時押しは許容せざるを得ない。
つまり、最低限でも片手で「う」と「い」「え」「お」の同時押しを考える必要があり、自由な配字など望むべくもない。
もちろん、同じ仮名を2つ配置するならその限りではないが、そんな余裕があるなら他に置くべきものはいくらでもあろう。
拗音第1字排他
まあ「ぢゃ」とか「すぃ」あたりは除くとしても、
きぎしじちぢにひびぴみり
うふてでとどゔくつ
を、全部片手に、排他で、置くということになる。
清濁別置の場合、イ段だけでも
きぎしじちぢにひびぴみり
の12仮名となる。不可能ではないが、運指設計に与える影響が大きすぎる。
よって、明らかに清濁同置が望ましい。
「ゔ」を「う」の濁音扱いとし、さらに「う」自体捨て仮名側に寄せるとして、残る清音だけ見ても、
きしちにひみり
ふてとくつ
と、12仮名にものぼり、さらに濁音・半濁音シフトも加わる。片手15キーとすれば残り1で、非常に厳しい制限と言える。
このうち、捨て仮名として「フルセット」を要求しないのは、
て(で):てぃ、てゅ
と(ど):とぅ
の2つ。これらを捨て仮名側に配置して、片手同時押しする設計ならば、第1字の排他にはかなり余裕ができる。
濁音シフトの指
拗音合成する場合、濁音キーをいずれかの仮名と同時押しする状況が生じる。
この際、負荷バランス的には中指を濁音シフトに使いたいのだが、
中指と同手同時押しできるキーが極めて限られるため、事実上それができない。
小指に振るのはローマ字のaを小指に振るが如き愚行であるからこれもできず、現実的には人差し指しかありえない。
つまり、ただでさえ酷使されがちな人差し指の負担をさらに増やすことになる。
おまけ:ファームウェアキーバインドとの干渉
QMKなどのファームウェアには、同時押しで通常と異なるキーイベントを発行する機能があり、これとも干渉する可能性がある。
自作キーボード派には大問題なのだが、さすがに嫌なら使うなでしかないので詳述しない。
フィンガー3キー同時押し問題
本題。
この問題が問題なのは、「フィンガー」「3キー」「同時」が全部揃ってしまっているからだ。どれか一つでも解消すれば大した問題ではなくなる。
例外処理を作る系ならいくらでもどうとでもなるのだが、認知負荷になるのでそういうのは極力避ける。
親指濁音シフト
これならばフィンガーは2キーまでの同時押しに収まり、大幅に配置の制限が緩和される。
ただし、親指で濁音シフトするにはいくつもの課題がある。
まず、親指で濁音を含む族シフトする場合、親指で面シフトも行うなら、相当の負荷対策が必要になる。別段軽いスイッチでもなければ、長文に使うのは無謀と思う。
では面シフトをフィンガーでやるのはどうか。これなら拗音合成に絡まないから中指シフトも使える。
しかし、大岡さんは拗音合成を族シフトとまとめて
・濁音、半濁音、拗音、外来音は、
清音に和音を重ねて色をつけるイメージ
としている。僕としては全く異論なしではないのだが、少なくとも薙刀式が前提とする言語感覚には沿わないとはいえる。
2段シフト
例えば、
「濁音キー」と「第1字キー」を同時押し
「第1字キー」を押したまま「濁音キー」を離す
「第1字キー」を押したまま「捨て仮名キー」を押す
という運指を許容する実装にすれば、実質2打になるが3キー同時押しは避けられる。
打数以外の利点は得られるが、あまりにかったるい印象。
清濁別置
ちゃぶ台返しっぽいが、別置なら濁音シフトキーもいらないから、片手15キーとして、
きぎしじちぢにひびぴみり
ふゔ
の14仮名は入る。
うてでとど
は捨て仮名側で配置頑張って、「くぁ~くぉ」「つぁ~つぉ」はさすがに諦めとすれば、理論的に不可能とまではいえない。
ただ、これも結局親指面シフト前提なので親指負荷は厳しく、やけくそ気味。
左右クロス
伝統的拗音と外来音で、第1字と捨て仮名の配置を逆にする。
前述の通り、「し(じ)」「ち(ぢ)」「て(で)」「ゔ」が被るので、「しぇ」「ちぇ」「てゅ」「ゔゅ」だけ配置で配慮する。
拗音合成だけ見ると結構悪くない方法と思え、検討の余地がある。
まとめ
拗音入力の方法としては拗音合成が明らかにスマート
実現は大変で、課題解決も困難
この記事はメビウス式で書きました。
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