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タイピングと物語の二極分析(2):リアクション/アクション

の続き。

前回は、タイピングにもオンバランス/オフバランスの軸、二極があるのではないか、という話だった。

互いの対照的な身体感覚について確認した後、僕たちは「思考」と「タイピング」の繋がりにおける感覚の相違について議論した。
大岡さんのまとめ記事は、主にこの点について書いてある。

タイトルは「タイピングは〜」となっているが、これは「キーボードで(物語を)書くこと」と言い換えた方がいいかもしれない。

この話の最も重要な点は、物語を紡ぐ「思考」と、タイピングという「運動」のタイプに、関連性があるのではないかということだ。
僕たちは大まかにはストーリーテラーなので、物語を紡ぐ思考について扱っているが、書くものがブログでもツイートでも論文でもプログラムでも、似たようなタイプの違いはあるのではないかと思う。

リアクション/アクション

で、リアクション/アクションの軸だ。(僕はリアクション側なのでこう書かせていただく)

僕は確かに、リアクション的な感覚でタイピングをしている。
まず脳内に文章を浮かべて、それをキャッチして打ち込む、という順番。
なので、タイピングという運動自体は、「脳内に浮かんだ文章」へのリアクションだ。

いやそれもアクションだろ、と思う方もおられると思うが、身体動作について「こういう風に打とう」と考えて(イメージして)いるわけではない。
自分が脳内で浮かべた文章にせっつかれるような感覚、といえばいいか。もっとキー数が多く、重いスイッチのキーボードを使っていた頃は、指が頭に追い付かないストレスに苛まれることが日常だった。
削除の方が伝わりやすいかもしれない。違うなーと思ってバックスペースキーを叩く時は、大抵の人が「リアクション」しているのではないだろうか。アレだ。

ところが、大岡さんの話を聞いていると、どうもこのへんの感覚が違う。
頭で考えるのではなく、手で考えているとでもいうのだろうか? 将棋や麻雀で言うところの「指感に任せる」というか。
考えることと書くことがより一体であり、「入力」というより「出力」という印象を受ける。

(追記)
ちょっと前の記事にいい表現があった。

「そもそも脳内は整理などされてなくて、
書くことによって思考が整備される」

おおざっぱに言えば、書く前に書くべき文章が存在していないわけだ。

この話をする前はずいぶんレベルが高いな……と思っていて、実際レベルも違うとは思うのだが、恐らくタイプからして違う。
僕がいくら修業してもこうはならないというか、ここを目指すべきではないのではないか。
(余談だが、手書きの姿勢を実演してもらった時、大岡さんの左手は遊んでいるように見えた。本来、少林寺拳法における左手はリアクション(防御)を担当するモジュールなのではないだろうか?)

(追記)大岡さんがアンサー記事を書いてくれた。

たぶん左手はスタビライザー代わりかな。
フェンシングの突きでも、左手は引いて右を出すために作用する。

結構長いので冒頭だけ引用。
言われてみればそうである。

僕はこの手の身体運用がヘタで、マウスばっか使ってると体が左に傾いていくことがよくある。
両手バランスよく、できれば同時に使う方が快適に感じる。スマホのスワイプ入力で書くのがイヤだったり、なんでもキーボードでやりたがるのはそういう理由もある。
使ってない手が遊んでるように見える、ということ自体、オンバランス的な感覚かもしれない。
例えば最初の記事で引用したピケ・アティチュードで、左腕が右腕のスタビライザー、といった感覚だと滝本先生に叱られるだろう。
双剣ではないにせよ、二刀であるほうがオンバランス的には良い。たぶん両手持ちより良いと思う。(だから分割キーボードが良いのか??)

構えか、流れか

これだけだとあまりに感覚的すぎるので、「構え」における違いについて考えてみよう。

リアクションに必要なのは、瞬時にいかなる動作にも移れる基準姿勢、即ち「構え」だ。タイピングでいうなら、ホームポジションだろう。
僕は、可能な限りホームポジションを維持する、離れたら必ず戻るという感覚が強い。
なので、ホーミングキーを重要視する。Gravity Keycapsをメインで使っていた時期に、どうしてもホーミングキーが欲しくて試供品に飛び付いたこともあった。(ふくさん、その節はありがとうございました)

でかいキーボードが嫌いなのはキーが遠いからだが、遠いことの何が一番嫌かといえば、ホームポジションを見失うことだ。
つまり、各キーの位置認知もホームポジションを基準にしていて、同じキーは常に同じ指で取りたいと思っている。
フィギュアスケートの中継で軌跡のCGがあるが、ああいう感じとは正反対。運指の認知は、ホームポジションを中心とした放射状に近いと思う。

競技タイパーにしてDDR強者の友人がいて、遊舎工房フリマに連れてった帰りに、「踏み」に連れて行かれたことがある。
まあ死んだよね。というのはともかくとして、その時わかったのは、僕のDDRスタイルが「刻み」だということだ。

重心はパネルの中心を極力維持。
オンバランスのまま踏んですぐ戻る。
ボディで常時裏拍を刻み続ける。

たぶんこれだと最高速が低くて、いっぺん崩れると建て直しに手間取るのだが、安定感と体力効率は高かったと思う。ろくに鍛えてないのに6曲もやらされたぞ。

で、そのとき競技タイピングについても色々聞いたのだが、競技タイピングだとホームポジションは電話番号らしい。

その運指はフィギュアスケートだ。基準位置などなく、常に流れの中に身を置き、近い指で取り、次を取りやすいように動く。

アクション系タイピングの動作は、これに近いように思われる。
「構え」を取らず、「技」の連続で動きを作る。現在の動作は常に次の動作に繋がっており、動作の文節化を拒絶し「一筆書き」を求める。

薙刀式とオールコンベックスキーキャップは、このような動作感覚を強く反映している。
薙刀式の「連続性」については前回の記事でも紹介したが、それを物理的に表現したのがオールコンベックスキーキャップだといえるだろう。

その特徴は、「あらゆる入射角に対応する」とも表現できよう。
指があるキーに対して常に一定の角度で入射するなら(例えばカラムスタッガード配列ならば)このような形状は全く必要ない。
前述のGravity Keycapsは、そのような運指に向くだろう。

しかし、(フィギュアスケートのように)技の連続が自己生成する不定形の「流れ」に身を置くなら、あるキーへの入射角は一定にならない。
四方八方からとは言わないまでも、扇型くらいにはなる。オールコンベックスキーキャップは、そういった運指に適するものだ。

やや余談めくが、どう考えてもリアクションであるはずの競技タイピングがオフバランスになるのは、オンバランスだとトップスピードが出ないからだと思われる。
(競技タイパーの友人は『タイピング・オブ・ザ・デッド』も超上手かった。僕は反射神経切れてるのでてんでダメ)
競技レベルのスピードを出すには、「1セクションごとのオフバランス」が必要なのではないか。
ただ、これはスプリントであってロングランではない。大岡さんがキーボードを小さくし、バネを踏めないほど軽くし、薙刀式で運指を効率化しているのは、スプリンター寄りの走りをしているせいでもあるのではないか。

客観/主観

このような身体動作の違いが、物語を紡ぐ感覚とどう関係してくるのか。
大岡さんは、これを客観/主観の軸に分けた。

「書く感覚」としては、大岡さんの記述におおむね異論はない。
僕は明らかに客観的な書き手だし、「キャラクターになりきる」というより「キャラクターと対話する」感覚がある。
ラノベでよくあるキャラクターと作者の対談、無限に書ける自信がある。僕ああいうの得意。
キャラクターに作者が投影されていない、というのとは違う。自分の要素がたっぷり投影されているとしても、書いているときには自分じゃないのだ。

逆に主観的な書き方は、自分と全く異なる人物に対して、「自分がこの立場だったらどうだろう?」「自分がこういう人間だったとしたらどうだろう?」という想像力から生まれるのかもしれない。
これは次の記事で詳しく触れるが、そういう意味で、「主観的」であることはいわゆる「オナニー」を意味しない。
むしろ、主観的であるとは、自分以外の誰かとして、世界に対峙する感覚なのではないかと想像する。

客観的な書き手が対峙するのはキャラクターであり自己だが、主観的な書き手が対峙するのは他者であり世界だ、とかいえるだろうか。

これは「書く」という行為についての話だ。そして、物語を「書く」行為には、当然、物語というものに対する認知が存在する。

次回は一連の記事の本題、物語の捉え方における書き手・読み手のタイプ、そしてメディア特性の違いについて論じる。

今回のまとめ

  • タイピングにはリアクション/アクションの二極がありそう

  • 身体動作としては構え/流れと言い換えられる

  • それは書く物語に対して客観的/主観的の違いがありそう

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