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タイピングと物語の二極分析(4):ライティングの方向と軸足

舌の根ビショビショ

本記事は上記シリーズのまとめであり、かつ横断的な内容となる。

当初予定していた内容は書き終えたのだが、その途端にフと思った。

「タイピング」と「物語」も二極じゃねえ?

と。

これまでに、タイピングという身体動作と、物語を紡ぐ(読む)という思考動作、その間にある執筆における二極の有り様について述べてきた。

  • オンバランス/オフバランス

  • リアクション/アクション

  • 認知の物語/行為の物語

この左側と右側は、全て同一の特性であるという説だ。

これら三つのレイヤーを、便宜上「タイピング(Typing)」「ライティング(Writing)」「モデリング(Modeling)」と呼ぶことにする。

タイピングは、(キーボードを叩いて)テキストを生成する身体動作を指す。あくまで身体動作だ。
使うのがキーボードではなくタッチパネルでも、紙とペンでも、その他様々な入力装置であっても、意味合いは変わらない。

モデリングは、書きたいもの、僕たちの場合は物語を想起する思考動作を指す。
これは読者(観客)も行っていることだ。コンピュータ的に表現すれば、メモリ展開とでもなるだろうか。
物語とは、文章でも映像でもない。それらを通じて読者の意識に生成される、動的なイメージだ。
ただしこれは、必ずしも作品全体を意味しない。ストレージ保存ではなく、メモリ展開だ。
モデルの中身は、シーンだったり、シーンを貫く流れだったり、キャラクターの半生だったりする。

ライティングはその間だ。これは思考動作でも身体動作でもある。
ここだけ曖昧なのには理由がある。改めて表にしてみよう。


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物語執筆の各レイヤーにおける特性対応

今回、僕と大岡さんのタイプをそれぞれ「抽象ベース」「具体ベース」と定義してみた。
なぜか。この表でいうと、僕が下から上、大岡さんが上から下に波及するからだ。

モデリング→タイピングか、タイピング→モデリングか

モデリング→タイピングのライティング、すなわち意識に思い浮かべたことをキーボードで入力する、という話は一般的にわかりやすいと思う。

しかし逆向き、タイピング→モデリングのライティングは確かにある。僕にもある。しかし大岡さんがはっきりとその特性なので、彼の表現を参考に紐解いてみたい。

タイピング→モデリング①:テキストは自己生成する

テキストは次のテキストを生む。

ただ厄介なのは、シナリオは全身から書いて、
ディテールを詰めていくことができない。
100枚の紙を用意して、
構成だけそこに描き、
徐々にディテールを描きこんでいく、
みたいなことは出来ないよね。
文章というのは、頭から書かないと書けないものだからね。

(強調は筆者による)

これとは別に、物語全体の構成は最大の効果を発揮するべく入れ替えるべきだということも度々書いている。この記事が一番わかりやすいかな。

矛盾するように思われるかもしれないが、まさに上記の記事にある通り、「書く順と見せる順は違う」のだ。
文章は前のテキストを受けて書くので、既に書いたテキストが次のテキストをある程度規定する。(それこそ矛盾を一切気にしないなら話は別だが)
あるいは、自分で書いたテキストに想像力を喚起され、次のテキストを思い付くということもある。「キャラが勝手に動き出す」という現象がその極地だ。
最初から動いているのならモデリング→タイピングだろうが、書き進めるうちに「動き出す」ということは実際にある。

文章は一繋がりのものであり、自己生成する。この時、タイピングがモデリングを促す、という表現ができる。
編集行為というのはその先の話だろう。そして、シーンを入れ替えれば新たに矛盾が生じる(まだ前提情報が提示されてないとか、このキャラはその心情になってないとか)ので、それも含めて一繋がりになるようにリライトする必要がある。
このリライト自体はモデリング→タイピングといえるだろうが、タイピングは自ずからモデリングを促すので、リライトすら当初のモデリング通りにならないことはよくある。
なので、パッケージされた完成品を目指すような執筆は、突き詰めるほどに無数のリライトを伴うことになる。

タイピング→モデリング②:脳は臓器である

大岡さんが、過去3回に対するアンサー記事を書いてくれている。
(ちなみに疑問への回答を受けて過去記事追記しました)

この記事に以下の記述がある。

そういえば、そのために部屋では靴下履かないのよね。
足の感覚がないと書けないっぽい。
だから畳必須。板間は寒い。
一青窈がライブでも裸足って聞いて、わかるって感じ。
外で書くときも、
緩めの靴下+素足に近いカンフーシューズ常用してます。

まさに、思考が身体の影響を受けることを表している。

いわゆる五郎丸ポーズは、単なるルーティーンとは異なる。
ルーティーン(アンカリング)とは、特定の姿勢・動作から任意の心理状態を再現することだ。『喧嘩稼業』の無極は、身体動作に頼らず思考動作のみでこれを行う技だといえる。
しかし五郎丸ポーズは、それ自体に集中力を高める効果を持つ。

……という記事を読んだ記憶があるのだが、今探しても全く見つからなかった。くそう。確か指の形にも神経優位をコントロールする意図があったはず……
ちょっとオカルトでヤなんだけど、この記事で書かれていることが一番近い。

手の指はさまざまなツボがあり、それぞれ異なる経絡に対応する。
手の組み方によって様々な形の印を組むことで、気の流れ方が変わってくる。

これだけだとアレなんで、別の例を挙げよう。腕組みが神経活動に影響を与えるという研究だ。

かように、思考は身体の影響を受ける。というか、脳は臓器であり身体の一部だ。
よって当然、タイピングという身体動作も思考動作に影響を与える。ここでいうタイピングは指の動きだけでなく、全身の姿勢・動作を含む概念だ。

モデリングに関する機能を活性化するには、あるいはモデリングに任意の指向性を与えるためにはどういった身体動作が適切か、ということはまだ詳しく語れないが、まさにここに、オンバランス/オフバランスの特性を把握する意味がある。
つまり、認知の物語をモデリングするにはオンバランス、行為の物語をモデリングするにはオフバランスな身体動作が適している可能性が高い、ということだ。
いずれにせよ、身体的な自由度は高い方が有利な可能性が高いとは思う。僕も靴底が薄くて柔らかいワークマンのシューズを愛用してます。

(追記)タイピング→モデリング③:思考は収束する

もっとはっきり書いてあった。

そもそもはっきりとした、連綿とした思考など存在しない、
というのがわかったことだ。
だから思考とは書くことによって出現するものなのだ。
観測してはじめて収束するのだ。

具体的な文章という形を与えることで、思考もまた形を持つ。書く前に文章は存在していないし、思考は発散している。

タイピング⇔モデリング

つまり、
ライティングはタイピングとモデリングの狭間であり往復である
という話になってくる。

モデリング→タイピングだけでなく、タイピング→モデリングもある。
物語作品を作り上げるにはその両方が必要で、ただし、「向き」には書き手によって明確に優位があると思われる。
これは創作活動に限らず、「生き方」というか、「習性」に近いものだ。

抽象ベースと具体ベース

ライティングの向きによってどのような違いがあるのか。

  • モデリング→タイピングは具体化

  • タイピング→モデリングは抽象化

といえるだろう。
なのに、なぜモデリング→タイピングが抽象ベースで、タイピング→モデリングが具体ベースなのか?

具体化と抽象化は、念能力でいえば具現化系と放出系だろう。
(と書いた後に六性図見たら見事に対極で笑った)

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『HUNTER×HUNTER(7)』

そして、具現化系の能力者は、明らかに抽象的な思考を得意とし、

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『HUNTER×HUNTER(1)』

放出系の能力者は、具体的な行動を得意としている。

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『HUNTER×HUNTER(1)』

つまり、「戦い」の時と平生では逆なのだ。
普段から抽象的な思考をしているから、「戦い」に臨んで具体化できるのだし、
普段から具体的な行動をしているから、「戦い」に臨んで抽象化できるのだ。
(逆に考えれば、己を問い直すことなく行動を続けるクラピカはバランスを崩しており、生活に安住して夢見る学生と化していたレオリオは「居着いていた」といえる)

この一連の記事だけでも、僕がなんでもかんでも抽象化したがる人間だということはわかるだろう。

具体化をしないわけではない。僕が発表している作品は全て具体化されたものだし、僕が使っている自作キーボードも、それによるタイピング動作もまた具体化されたものだ。
例えば、「スイッチのバネの反発力を何gにするか?」というのは、ものすごく具体的な問題だ。「この場面でこのキャラクターにどんな台詞を喋らせるか?」というのも、具体的な問題だ。こうした問題に、我々は日々答えを出さねばならない。

そういう問題に、僕はしばしば抽象化して答えを出す。
第1回の記事で書いた「踏める程度」というのも、まさに抽象的な尺度だろう。具体的な数値は太ったり痩せたり、体調によっても変わるはずだ。
もちろん、バネを取っ換え引っ換えして試行錯誤はする。しかしそれは、「踏める程度とは具体的に何gなのか?」を確かめる実験であって、先に抽象的な尺度ありきのことだ。

言い換えれば、僕の軸足は抽象的な世界にある。
具体的な世界に関わらないわけではないが、そのために抽象的な世界から踏み出している。
「オフ会は好きだが、リアルの友人とネットで繋がりたくない」といえば伝わりやすいだろうか?
「実際に買って試すより、商品を探す方が好き」ともいえるか。(カネがもったいないとかももちろんあるが)
比重ではなく軸足、向きの問題だ。

それに比べると、大岡さんは具体化がとにかく速い。
抽象化して考えないわけではなく、むしろ抽象化もとても上手い方だと思うのだが、具体的な感覚や物体を基に考える習性があるように見える。
抽象的な話をする時も、具体例がポンポン出てくる。リンクした記事だけでもわかるだろう。

なので、とにかく作りまくる。理想に届く技術がなくても、こうすれば実現できるという発想がなくても、今ある技術と発想で作れるものを作ってしまう。
先のアンサー記事にもこうある。

僕はもともと手書きで実写の脚本を書いてきて、
qwerty+ヘボキーボードじゃ無理ってなって、
まだ自作キーボードがない頃から、
自作論理配列に変え始めて現在に至る。
物理も変えられると知り自作キーボードに入門して、
界隈では異色の物理キーボードと、
打鍵姿勢の追求をやってると自覚している。

現在は3Dプリントでキーキャップを製作しておられるが、それを覚える前から木を削っていた。

工業デザインの文脈で言えば、プロトタイピングだろう。
対して、僕のほうはコンセプト設計を重視するといえばいいだろうか。対義語を作るなら、アーキタイピングとでもいったところか?

軸足の違いとタイピング姿勢

この「軸足の違い」を考えると、タイピング姿勢の違いも理解できる。

第2回の記事でも触れたが、僕はホームポジションを維持する指向が強く、考えている時も基本、指はホームポジション上にある。

いや、でもみんな手書きでこうだよね?
ペン先を紙につけて考えないよね?
ペンや鉛筆ではそうするのに、
なんでキーの上に手を乗せるのか、僕にはちょっと分からないのよね。

いや、考えるよw けっこう紙にペン先付けて汚しちゃうw
いわば、パッシブが軸でありリアクションに備えているからこそ、軸をアクティブに近付けたいのだろう。現場待機というやつだ。

対して、大岡さんはアクティブが軸だからこそ、ギリギリで備える必要がない。

語頭が強く、その勢いを活かして語末までいく。
ダン、カタカタカタカタ…スッ(指を上げる)
みたいな。
筆書きも第一画が強めなのと同じ。
「最初に強めで当たって、あとは勢いでお願いします」ってやつ。

だからこの感覚はぜんぜんわからないのだが、第一打がアクティベートで、それからアクティブ状態を維持していると考えれば説明がつく。

それこそ、打撃系と組み技系の違いに喩えればわかりやすいだろうか?
制空圏ギリギリを維持して、打ったら離れる打撃系。
タックルで一気に入って、組んだら極めにいく組み技系。
(大岡さんの修めている武術は打撃系ではあるが、組み技はある意味オフバランスの極地だろう。対戦相手を含めてのバランスであり、それすら崩そうとするのだから)

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板垣恵介 夢枕獏『餓狼伝(18)』
  • 抽象ベースの書き手は、書いてない状態が軸

  • 具体ベースの書き手は、書いている状態が軸

だとすると、

  • 抽象ベースの書き手は、いかに速くタイピングに入るか

  • 具体ベースの書き手は、いかに速くモデリングに入るか

ということが課題になるに決まってるのだが、しかし、いきなりそれをやろうとしても多分ムリなのだ。

  • 抽象ベースの書き手は、考えてからしか書けない

  • 具体ベースの書き手は、書いてからしか考えられない

極端に言えば、そういうことなのだと思う。

その上で、どうやって作品の完成度を上げるのか、あるいは速く完成させるのかといったことについては稿を改めたい。

まとめ

  • ライティングはタイピングとモデリングに跨がるが、向きがある

  • 向きは書き手の特性によって優位がある

  • ライティングの向きとタイピング時の姿勢にも関係がある

というわけで改めて、オンバランス的なタイピングとキーボードをしばらく考えたい。

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