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安倍氏銃撃、背景に「宗教的な虐待」主張へ 山上徹也被告の弁護団

 10月に奈良地裁で始まる安倍晋三元首相銃撃事件の裁判で、殺人などの罪に問われた山上徹也被告(45)の弁護団が、背景に「宗教的な虐待があった」と主張することが関係者への取材でわかった。母親の信仰の影響で家庭が困窮した恨みによる犯行だとして、「政治的なテロではない」と訴えるとみられる。

 一方、検察は、犯行の悪質さを重視すべきで「教団の影響に踏み込むことは不適切」としており、被告の生い立ちと事件の関係をどう考えるかが大きな争点になりそうだ。

 関係者によると、母親は被告が小学生のときに世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に入信し、夫の死亡保険金や自宅を売って得た資金など約1億円を献金したという。自己破産しても信仰を続け、被告は大学進学を断念した。親族の請求で約半額が返金されたものの、被告は捜査段階で「献金で生活は破綻(はたん)した。教団に恨みがあり、関係が深い安倍氏を狙った」と供述したという。

宗教学者が指摘した「ネグレクト」

 弁護団は、そうした生い立ちを量刑に適切に反映させる必要があるとして、被告と面会して成育歴を分析するよう宗教学者に依頼。この学者は、母親が教育費を失うほど献金し、信仰活動で子どもを残したまま韓国に出かけることもあったことなどから、厚生労働省が定める「宗教の信仰等に関係する児童虐待」の4類型のうち「ネグレクト(養育放棄)」にあたると判断したという。

 弁護団は学者の分析などをふまえ、母親からの「宗教的な虐待」によって被告が教団に恨みを抱くようになり、教団側に祝電やビデオメッセージを送る関係だった安倍氏を襲撃することになった経緯を裁判で説明する方針。その上で、個人的な恨みによる犯行で、政治的な動機はもっていなかったと強調するとみられ、この学者のほか、被告の母親や妹ら5人の証人尋問を求めている。

検察が主張する「刑事裁判の原則」

 一方、検察はこれまでの公判前整理手続きで、生い立ちではなく犯行そのものの悪質さを重視するのが刑事裁判の原則だと主張している。山上被告が使った手製銃の殺傷能力の高さや、周囲に多くの人がいた状況での犯行の危険性を立証するため、銃の鑑定をした専門家や警察官らの証人尋問を求めている。

 初公判は来月28日で、地裁が近く、証人の採否を決めるとみられる。

 山上被告は2022年7月、奈良市の近鉄大和西大寺駅前で、参院選の応援演説をしていた安倍氏を手製銃で撃ったとして現行犯逮捕され、殺人や銃刀法違反などの罪で起訴されている。

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    本田由紀
    (東京大学大学院教育学研究科教授)
    2025年9月21日7時15分 投稿
    【視点】

    仮に裁判所が弁護側の主張する親族や宗教学者など旧統一教会関連の証人喚問を認めないような姑息な手段をとったとしても、証拠は多数あり、安倍と旧統一教会との関係の深さや旧統一教会が求める献金の問題が明るみに出ることは必至である。 韓国では本体の旧統一教会の幹部や教祖そのものが逮捕の対象となりつつある。様々な違法な手段を通じて権力に食い込む宗教団体の邪悪さを明るみに出し罰しようとする韓国に対して、これほどの事件が起きてもなお日本の司法が事実の隠蔽を図ろうとするのであれば、国家の立て付け自体が日本では腐敗しきっていると言わざるをえない。 裁判の結果だけでなく、その審議のあり方自体が、この社会の来し方と現在のあり方を示す重要な証拠として詳細に報告され記録されることになるだろう。

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    末冨芳
    (日本大学教授=教育行政学)
    2025年9月21日9時49分 投稿
    【視点】

    【安倍元総理に恨みの矛先を向けてしまったのはなぜか?宗教虐待の解明は重要】親による宗教虐待は児童虐待であり大人には通報の義務があります、あらためてそのことが知られ、苦しむ当事者への支援が広がること願っています。 なぜ安倍さんの命が奪われたのか、止めることはできなかったのか。 私自身も教育政策・こども政策の研究者として、山上容疑者や、同じ様につらい環境を生き抜いてこられた宗教2世のみなさんに何もできていなかったことを悔やんでいます。 カルト宗教による日本国民の搾取が長年放置されてきたこと、子どもたちへの宗教虐待が軽視されてきたこと。 山上被告の生い立ちは、こうした日本の状況を浮き彫りにし、犯行に至る経緯をより正確にとらえることにもつながります。 量刑にも大きな影響を及ぼすはずです。 私たちは、次の山上被告が生まれることも許してはならないはずです。 親の信仰で苦しむ子ども若者への対応は以下の、こども家庭庁の動画・ガイドラインをご覧ください。 とにかく児童相談所への相談・通報が重要です。 一人でも多くの子ども若者が、宗教虐待で苦しまなくてすむ日本にしたいです。 ※こども家庭庁「宗教の信仰等を背景とする児童虐待事例への対応」(youtube) https://www.youtube.com/watch?v=oUmjRummn8I ※こども家庭「宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A」 https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/a176de99-390e-4065-a7fb-fe569ab2450c/e8642586/20230401_policies_jidougyakutai_14.pdf

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安倍晋三元首相銃撃事件

安倍晋三元首相銃撃事件

2022年7月8日、奈良市で選挙演説中の安倍晋三元首相が銃撃され、死亡しました。殺人や銃刀法違反などの罪で起訴された山上徹也被告の公判前整理手続きが進行中で、10月28日に裁判員裁判の初公判が開かれることが決まりました。関連ニュースをまとめてお伝えします。[もっと見る]