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南の楽園で「発達障害児8年で44倍増」の衝撃 不安募らす島民 「言われている理由では説明がつかない」

猪瀬聖ジャーナリスト
マリンスポーツも満喫できる宮古島。後方の橋は宮古島と来間島を結ぶ来間大橋(筆者撮影)

東京から飛行機で3時間弱、エメラルドグリーンの海に囲まれた沖縄の離島、宮古島。国内外からの観光客でにぎわうこの南の楽園に、異変が起きている。全国平均をはるかに上回る勢いで発達障害児が増えているのだ。不安を募らせる住民、懸念を深める専門家。原因不明の中、行政も重い腰を上げ始めた。いったい何が起きているのか。現地に飛んだ。

少子化なのに、仮設校舎を急きょ建設

宮古島の北西部、行政機関の建物などが集まる島の心臓部に、地元では「平一(へいいち)小」の名で通っている宮古島市立平良(ひらら)第一小学校がある。児童数は約560人と島で最も多いが、ご多分に漏れず児童数は減少の一途だ。ところが奇妙なことに、教室の数が足りなくなり、昨年、急きょ校庭にプレハブの仮設校舎を建てた。

教室が足りなくなった原因は、発達障害児の予想以上の増加。仮設校舎は発達障害児などが在籍する特別支援学級のための教室だ。

授業のない週末に、市教育委員会の村上健輔・学校教育課長と、同校の與那覇盛彦校長に案内してもらい現地を視察した。校舎のすぐ目の前に、コンテナのような箱型のプレハブ教室が7つ並んでいた。カギのかかった引き戸式のドアの窓から中を覗いたが、暗くてよく見えない。窓に顔をつけるようにしてようやく中の様子がうかがえたが、机もイスも何もなかった。

それもそのはず。プレハブ教室は昨年の4月から11月まで使われていたが、基礎工事が不十分で安全上、問題があると県から指摘され、使用を中止した。発達障害児の急増ぶりに、かなり慌てていたようだ。

偶然にも、島に滞在中の9月11日、地元紙の宮古毎日新聞が1面トップで「プレハブ教室に基礎必要 平一小特別教室 県が指摘、改善求める」という記事を載せた。記事は、プレハブ教室の改修工事費1577万円が市の2025年度一般会計補正予算に盛り込まれたことを報じたもので、2026年4月から教室としての使用を再開する予定とも伝えている。

全国平均は2.25倍

校長らの説明によると、平一小には現在、通常学級が全部で18、特別支援学級が6クラスある。特別支援学級の内訳は、自閉症や情緒障害など発達障害の子どものためのクラスが4、知的障害児のためのクラスが1など。特別支援学級に在籍する児童は同校全体で30人余り。これとは別に、普段は通常のクラスで学ぶが、特別支援学級の児童と同じような特別な指導、いわゆる「通級指導」を必要とする児童が50人余りいるという。

村上課長は「発達障害児が増えているかはわからないが、配慮が必要な子が増えていることは認識している。そうした子どもたちのための空間が必要だということでプレハブ教室を建てた」と慎重な言い回しで説明した。

沖縄県学校基本統計によると、宮古島市では、小中学校の特別支援学級に在籍する自閉症・情緒障害の児童・生徒数は2013年度まではゼロだった。2014年度に6人を記録。その後、急速に増加し、2022年度には過去最高の265人になった。8年間で44倍も増えたことになる。2023年度は前年度比でほぼ横ばい、2024年度は前年度比15%減ったが、それでも224人と高水準だ。

発達障害児は全国的に増加傾向にあるが、宮古島市の増加率は全国平均を大きく上回る。文部科学省の調べによると、全国の小中学校の特別支援学級に在籍する自閉症・情緒障害の児童・生徒数は、2014年度から2022年度の間に8万1624人から18万3618人に増えた。増加率は宮古島市よりはるかに低い2.25倍だ。

自閉症と知的障害を持つ9歳の長男を、障害を持つ子どもたちのための特別支援学校に通わせている女性は、親の助けを頼りに4年前に千葉県から実家のある宮古島市に家族で越してきた。引っ越す直前に、障害を持つ未就学児のための支援サービスに申し込もうと市内の事業者に電話で問い合わせたところ、15人待ちと聞かされた。「こんな小さな島に障害を持つ子どもがそんなにいるのかと驚いた」と振り返る。

平良第一小学校。右がもともとの校舎、左が急きょ建てたプレハブ教室(筆者撮影)
平良第一小学校。右がもともとの校舎、左が急きょ建てたプレハブ教室(筆者撮影)

小児科医の証言

発達障害児の増加に関して、メディアを通じてよく見聞きするのは、発達障害児が増えているのは、報道などで発達障害に対する社会の認知度や理解度が深まり、その結果、周囲が発達障害児を発見しやすくなったことや、診断基準が確立されたことなどが理由という説明だ。つまり増加しているのは統計上だけであって、実際にはそれほど増えていないという主張だ。

だが、取材した宮古島の住民の多くは「たしかにそういう面もあるかもしれないが、宮古島市の発達障害児の急増ぶりは、それだけでは説明がつかない」と口をそろえる。

「もちろん、配慮が必要な子に周囲の目がより届くようになった結果、発達障害と診断されるケースもあると考えている。しかし、長年、子どもたちを診てきた実感としては、配慮が必要な子が思った以上に増えているというのが率直な感想だ」

こう語るのは、沖縄県立宮古病院の元院長で小児科が専門の安谷屋正明医師だ。宮古島出身の安谷屋医師は2015年に宮古病院を退職した後も、毎年、学校医として市内の小学校を回り、乳幼児健診にもかかわるなど、島の子どもたちの変化や現状を最もよく知る専門家の一人だ。

その安谷屋医師は「発達障害児が増えている原因はよくわからないが、今の状況はとても心配だ」と懸念を隠さない。

「正直、この島では子どもを産みたくない」

親たちも不安を募らせている。

「発達障害児は私が小学生だったころよりずいぶん増えている印象がある」

こう話すのは1児の母の國吉則子さんだ。28歳の國吉さんには小学1年生の長男がいるが、現在、平一小とは別の小学校で通級指導を受けている。「イライラすることが多く、コミュニケーション能力が不十分なためすぐに手を出してしまう」と長男の症状を説明した。

「この子が小学校に上がるとき、市は、この子にはどんな教育法がいいかとても丁寧に説明してくれたし、今も手厚く対処してくれている」と行政の対応や支援には感謝しつつも、「今のような(発達障害児が増え続ける)状況が続いたら、正直、この島でもう子どもは産みたくない」と不安な気持ちを訴える。

発達障害児増加の理由が、言われているように単に周囲の認知度の高まりや診断基準の確立だけなら、教育の現場にはそれほど大きな追加負担や混乱はないはずだ。だが、関係者の間からは悲鳴に近い声が聞こえてくる。

市内のある保育園のベテラン副園長は次のように語る。

「気になる子、配慮が必要な子は、15年ほど前は園全体で数人程度だったが、今は1クラスに3人から5人はいる。3歳児から5歳児のクラスだけを見ても、そうした問題を抱えている子は合わせて15人はくだらない。特に増えているのは、自閉症のような症状、音に敏感、多動、落ち着かない、集団に入り込めない、コミュニケーションがとれない子。今や園児の4人に1人はそういう子どもたちなので、先生たちは大変な思いをしながら対応している」

さらに「これは宮古島市全体の問題だと思うので、問題解決のために何とか力になりたい」とも力を込めて語った。

國吉さん親子(本人提供)
國吉さん親子(本人提供)

「本を正さないと……」

市内の小学校の教諭を長く勤め、一昨年、定年退職した女性は「発達障害児は間違いなく年々増えており、学校側も対応に追われているのが現状だ」と明かす。

女性によると、支援を必要としている子どもたちのための教室はどの学校でも足りず、女性が勤務していた小学校でも多目的室や視聴覚室などを特別支援教室に充てていたが、全然間に合わなかったという。

「かといって、支援を必要としている子どもたちを通常学級で他の子どもたちと一緒に学ばせたら、周りから取り残されてしまうので、通常学級に置いておくわけにもいかない。先生たちも困り果てている」

そして「支援の必要な子どもが増えたから新たに教室を作る、さらに増えたからさらに教室を作るでは、何の解決にもならない。なぜこうした子どもたちが増えているのか、本(もと)を正さない限り永遠に同じことの繰り返しになる」と危機感を露わにした。

では宮古島で発達障害児が増えている原因として何が取り沙汰されているのか。

次回に続く。

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ありがとうございます。
ジャーナリスト

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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