【解説】「プロジェクト2025」とは 米右派は第2次トランプ政権に何を求めるのか

ドナルド・トランプ米大統領

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マイク・ウェンドリング、BBCニュース

これは約900ページに及ぶ「ウィッシュリスト」だ。どうやって大統領権限を拡大し、超保守的な社会観を強行するかという提案だ。

ドナルド・トランプ米大統領は昨年の選挙中、「プロジェクト2025」に含まれるいくつかの過激な考え方に対する反発を受け、繰り返しこの文書を強く否定していた。

しかし就任後には、その著者の何人かを政府の主要ポストに指名した。また、就任直後に署名した大統領令の多くは、この文書で示された提案にほぼ沿ったものとなっている。

トランプ氏が今後4年間でどのような政策を打ち出すかを示すビジョンのひとつになっている「プロジェクト2025」について、以下に解説する。

誰が「プロジェクト2025」を書いたのか

ヘリテージ財団はワシントンで有数の右派系シンクタンク。1981年にロナルド・レーガン政権が発足する直前に、きたる共和党政権のため政策計画を提示した。

同財団はその後も大統領選のたびに、同様の政策提言をまとめてきた。2016年にトランプ候補が初めて大統領選に勝った時も同様だ。

これは特に珍しいことではない。アメリカではありとあらゆる政治的姿勢のシンクタンクが、望む政策を未来の政府に提言するのは普通のことだ。

その中でもヘリテージ財団は、共和党政権に影響力をもつことに成功してきた。トランプ政権発足から1年後、自分たちの提案の3分の2近くをホワイトハウスが採用したと、同財団は自慢していた。

「プロジェクト2025」は2023年4月に発表されたものだが、昨年の大統領選が本格化するのに合わせて、民主党側はこの文書を厳しく攻撃し始めた。

民主党の政治家らは「2025年阻止プロジェクト対策本部」を立ち上げ、ヘリテージ財団の活動に関する内部情報を収集するための内部告発ホットラインまで設置した。

民主党のカマラ・ハリス候補の陣営とその代理人も、インタビューや演説で一貫してこのプロジェクトについて言及した。

一方トランプ氏は、7月初めごろから積極的に「プロジェクト2025」との間に距離を置くようになった。

「プロジェクト2025について自分は何も知らない」、「誰がかかわっているのか、まったく知らない」と、自分のソーシャルメディア・プラットフォーム「トゥルース・ソーシャル」に書いた。

「内容の一部に自分は反対するし、内容の一部はまったくばかげていてみっともない」とも書いた。

しかし、「プロジェクト2025」をまとめたチームには、トランプ政権で大統領顧問を務めた人がずらりと顔を並べていた。政府の人事管理局トップだったポール・ダンス氏も、そのひとりだ。ダンス氏は後にプロジェクトから離れた。

しかし、「プロジェクト2025」の他の執筆者らは、トランプ政権に参加している。

ラッセル・ヴォート氏は、「プロジェクト2025」の中核となる重要な章を書いた。同氏は、共和党全国委員会の2024年綱領の政策担当責任者でもある。

第1次トランプ政権の関係者だったヴォート氏は、再び大統領から指名され、6兆7500億ドルの連邦予算を管理する予算管理局(OMB)のトップに就任した。

他にも、中央情報局(CIA)に指名されたジョン・ラトクリフ氏、ブレンダン・カー氏(連邦通信委員会の監督に指名)、トム・ホーマン氏(トランプ大統領の「国境問題担当長官」)、ポール・アトキンス氏(証券取引委員会の委員長に指名)、貿易顧問のピーター・ナヴァロ氏などがいる。

ヘリテージ財団によると、文書には100件以上の保守派組織が参加した。共和党がホワイトハウスを奪還すれば、ワシントンで特に強大な影響力をもつことになる組織も、そこに複数含まれているという。

文書そのものが提言する四つの政策の柱は、(1) アメリカの生活の中核として、家族の重要性を復権させる、(2) 行政国家を解体する、(3) 国家主権と国境を防衛する、(4) 神によって授けられた個人が自由に生きる権利を確保する――というもの。

いくつかの提案はすでに、トランプ氏の大統領令の基礎となっているが、多くの場合、それらは共和党綱領やトランプ氏の選挙公約だった「アジェンダ47」など、他の政策文書にも記載されている。

政府

「プロジェクト2025」は、連邦政府の行政機関はすべて、大統領の直接統制下におくべきと提言する。これには司法省など、大統領から独立した権限を持つ省庁も含まれる。これは、大統領権限を広く解釈する「unitary executive theory」(単一執行府理論、行政権一元化論などと訳される)と呼ばれる、批判の多い政治理論をもとにしている。

この提言が実現されれば、政策決定の手続きが簡素化され、複数の政策分野において大統領が直接、政策を実行できるようになる。

「プロジェクト2025」はさらに、数万人の連邦政府職員の雇用保障を解除するよう提言。これが実現すれば、キャリア国家公務員の代わりを政党や政治家が任命するスタッフが担うようになる。

「プロジェクト2025」は連邦捜査局(FBI)を、「肥大化して傲慢で、日に日に無法化が進む組織」と非難。FBIをはじめとする複数の政府機関の大幅な改編を呼びかけるほか、教育省の全面廃止を提言している。

就任直後、トランプ氏はキャリア公務員の雇用保護を廃止し、連邦支出を凍結する方針を打ち出した。

側近で富豪のイーロン・マスク氏が率いる「政府効率化省(DOGE)」を通じて、ホワイトハウスは数十億ドルの連邦支出削減に乗り出したが、削減の詳細やDOGEの法的地位については、不明な点が多い。DOGEは連邦議会ではなくトランプ氏が大統領令でホワイトハウス内に設置したチームで、大統領から幅広い権限を与えられている。

しかし、トランプ氏が連邦政府に現状打破の鉄槌(てっつい)を下そうとしていることは明らかだ。これは、プロジェクト2025の提案と概ね一致する目標でもある。

中絶と家族

「プロジェクト2025」は妊娠の人工中絶について約200回、言及している。そしてその内容が特に激しい論争を呼んでいる。

この文書は、全国的な中絶禁止を文字通り求めているわけではないし、そのような禁止法案に自分は署名しないとトランプ候補は述べた。

それでも、経口妊娠中絶薬「ミフェプリストン」の販売禁止を提言するほか、この薬の郵送を禁止するため、ほとんど実際には適用されていない現行法を使うよう呼びかけている。

この文書では、中絶に関する新たなデータ収集の取り組みを提案しているほか、もっと一般的な話として、連邦政府の保健福祉省が「(キリスト教の)聖書を根拠にした、社会科学によって強化された、結婚と家族の定義を維持」すべきだとしている。

これに対し、トランプ氏はこれまで主に、中絶に関する法律は主に各州に委ねるべきだと述べてきた。

しかし、トランプ大統領が保健長官に指名したロバート・F・ケネディ・ジュニア氏は、承認公聴会の席上、ミフェプリストンの安全性に関する記録を調査するよう大統領から命じられたと述べ、同薬に対する規制強化の可能性を残した。

また、トランプ氏は、連邦政府の資金が中絶に利用されるのを阻止する大統領令に署名したが、この動きは、「プロジェクト2025」内に詳細に説明されている。

移民

アメリカ・メキシコ国境の壁

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アメリカとメキシコの間に壁を設置するため、予算を増やすというのは、2016年大統領選でトランプ陣営が掲げた目玉公約のひとつだった。これも「プロジェクト2025」に含まれている。

しかし、トランプ氏の移民政策を代表する、数百万人の不法移民を国外追放するという公約は、「プロジェクト2025」では詳細に説明されていない。

この文書には、トランプ氏に「移民法を徹底的に執行する」よう求める文言が含まれている。

「プロジェクト2025」はさらに、連邦政府の国土安全保障省をいったん解体し、他の移民規制担当省庁と組み合わせることで、今までよりはるかに大規模で強力な国境取り締まりの組織を作るべきだとしている。

このほか、犯罪被害者や人身売買被害者のための特別ビザ(査証)を廃止し、移民申請費を増額するほか、高額の特別料金を払う移民申請者の審査手続きを迅速化することも提言している。

しかし、トランプ氏が有権者に最も強く訴えたのは、大規模な追放だった。官僚的な配置転換でもビザ(査証)変更でもなく、長くて高い国境の壁でもない。

この問題についてトランプ政権は、「プロジェクト2025」の提案とは若干異なる方向性の、そしてはるかに踏み込んだものになり得る対策を約束している。

気候対策と経済

エネルギー政策は、トランプ大統領と「プロジェクト2025」の提案の間に幅広い合意がみられる領域だ。これは、大統領選でのスローガン「掘れ、ベイビー、掘れ」に集約されている。

トランプ新政権は化石燃料の生産量を増やしたいと考えており、排出量と地球温暖化の抑制を目指す気候変動に関するパリ協定からアメリカを脱退させた。

「プロジェクト2025」は、再生可能エネルギーの研究・投資に対する連邦予算を大幅に削減することを提案し、次期大統領に「石油と天然ガスに対する戦争をやめる」よう呼びかけている。これは、トランプ陣営が熱狂的に取り入れた考え方だ。

関税については、「プロジェクト2025」は二つの異なる考え方を提示しており、次の大統領が自由貿易を推進するべきなのか、輸入品への関税を引き上げるべきなのか、意見が割れている。

トランプ氏は明らかに後者の意見に味方し、すでにカナダ、メキシコ中国を対象とした関税を発表した。

さらに「プロジェクト2025」の経済政策担当者たちは、第2次トランプ政権に対し、法人税と所得税を削減し、連邦準備制度を廃止し、通貨の金本位制への復帰さえ提言している。

トランプ氏はこうした分野の一部をめぐり、提案にコメントしているが、就任直後の経済に関する話題は、関税に支配されていた。

教育、テクノロジー、DEI

トランプ大統領は就任直後から連邦政府での「多様性、公平性、包摂性(DEI)」プログラムの廃止に動き、政府機関が認めるジェンダー(性自認)を二つに限定する大統領令に署名した。

こうした動きはいわゆるリベラル派の「ウォーク(woke、社会問題への認識が高いこと)」イデオロギーの一部として、DEIやジェンダー用語を標的にしている「プロジェクト2025」の内容とおおむね一致している。

「プロジェクト2025」はさらに、公立校の選択範囲拡大を求めている。これは実質的に、宗教系および私立学校への公的助成を求めるものだが、これもトランプ氏が最初に出した大統領令に含まれていた。

「プロジェクト2025」は教育省の廃止も主張。トランプ氏はこれについても、支持を表明している。

このほか、「プロジェクト2025」は、ポルノ禁止を提言しており、ポルノの閲覧・入手を可能にするIT企業や通信企業は業務停止にすべきだとしている。

これは今のことろ、多数の一流テクノロジー企業の経営者から支持を集めている新政府では、重点課題とはされてきていない。

トランプ氏のテクノロジー業界に対する見解は頻繁に変化しており、性的コンテンツにはあまり関心がないように見える。

「プロジェクト2025」の未来は

「プロジェクト2025」の執筆は一大事業で、ヘリテージ財団から2200万ドルの予算がついていた。

「プロジェクト2025」には、2025年1月の大統領就任から直ちに政策を実行に移すための戦略も詳述されている。その中には、政府ポストに人材を確保するため忠実な保守派のデータベース作成、新規採用した人材の訓練なども、項目として含まれている。

「プロジェクト2025」とトランプ政権の間には、明らかな合意点と人員の重複がある。しかし、「プロジェクト2025」のテーマの多くは、トランプ陣営が独自に主張していたものでもある。

トランプ大統領の2期目はまだ始まったばかりで、広範囲に及ぶ連邦政府の再編を、大統領がどこまで進められるかは不明だ。

民主党は、今後もこの提案に反対し、「プロジェクト2025」の影響力を強調していく意向を示している。

また、トランプ氏の大統領令やその他の措置の多くに対しては、政治的に、そして法的に、対抗する動きが今後も続くだろう。