番組でイチローと対談した矢沢永吉
番組でイチローと対談した矢沢永吉
この記事の写真をすべて見る

 普段は滅多にメディアに出ない人物が、テレビに出演するというのは貴重な機会である。しかも2人揃うとなれば、希少価値のある特別な番組になることは間違いない。9月15日放送の『NHK MUSIC SPECIAL 矢沢永吉 ヤザワ×イチロー ~俺たちの失敗~』は、まさにそのような番組だった。

【写真】地上波で見ないのに「年収2億円」のお笑いコンビはこちら

 半世紀以上にわたって日本のロックシーンを牽引し続け、今なお第一線に立つ矢沢永吉と、日米を股にかけて次々に記録を塗り替えてきたプロ野球界の“生きる伝説”イチロー。ともにスーパースターとして数十年にわたって輝き続けてきた存在であり、孤高のカリスマとして人々の記憶に深く刻まれている。そんな2人が顔を合わせてじっくり語り合う様子は、それだけで歴史的に価値のあるものだった。

 番組のテーマは「俺たちの失敗」。数々の栄光に包まれた輝かしい人生を送ってきたように見える彼らにも、失敗の経験がある。矢沢は1998年にオーストラリアに建設予定だったスタジオをめぐって横領被害に遭い、35億円の借金を背負うことになった。イチローは50歳まで現役でプレーすることを目指していたが、45歳で引退することになった。彼らはその失敗をどのように受け止めて、どう乗り越えてきたのか。それがこの番組の主題だった。

矢沢は「失敗だらけ」と

 矢沢はこのテーマについて「失敗を語る……面白いね。失敗だらけなんだよ」と興味を示した。そんな矢沢に対して、イチローはこう述べた。

「僕はどちらかというと失敗がないな、という感触なんです。人が見ると『それ失敗だよね』って思ってることはたくさんあるんです」

 矢沢は目を見開いて「それってすごくいいですね」と感心したような表情になった。イチローは続けた。

「僕、そこはやっぱりロックだったんです。やりたいことに向かっていく自分が常にいたので」

 直接、言及されることはなかったが、50歳まで現役を続けられなかったことも、彼の中では「失敗」とは位置づけられていないのだろう。失敗がたくさんあったことを認める矢沢と、失敗はなかったと考えるイチロー。2人の「失敗観」の違いが浮き彫りになった瞬間だった。

次のページ 35億円の借金の窮地を生々しく語る