WBPC住民訴訟の都の主張と国の委託マニュアル

令和3年度東京都若年被害女性等支援事業の若草プロジェクトとの契約の住民訴訟で、委託費に計上した人件費の事業案分根拠の一端が明らかとなった。

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東京都陳述書

客観的な証拠との突合せもなく、受託者の言い分をそのまま採用しただけのようである。現在、若草プロジェクト以外は文書提出命令について争われているが、開示されても領収書だけで事業按分の根拠が存在しない恐れがある。そこで国の委託マニュアルをベースに委託事業の経費の確定に必要な証拠書類や契約の建付けについて検証したい。

Ⅰ 国の委託事業マニュアル等の証拠能力

 経済産業省、農林水産省及び環境省において準委任ベースと思われる委託契約事務のマニュアルが存在する。

(1)国のマニュアルの証拠能力

 住民訴訟の対象は都の委託契約であり、国のマニュアルは直接的に適用されない。しかしながら、東京都もcolabo裁判の備品返金手続きの主張にあたり国のマニュアルを証拠として認めている。

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R3colabo契約の住民訴訟 東京都準備書面(4)

(2)備品返金に関する東京都の歪曲解釈

 国のマニュアルの証拠能力を認めて本稿を進めた場合「WBPCの備品返金手続きを正当と認めた」ととられる恐れがあるため、まずは備品返金に関する東京都の主張が前提に欠くものであることを明らかにしておく。

 この実際の農水省委託事業の応募要領とR3東京都若年被害女性等支援事業の公募条件の違いを図に整理する。

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東京都被害女性等支援事業と農水委託事業の公募条件の相違

 事業期間・範囲の建付けから都と農水省では異なる。農水省は公募時点から「複数年継続+契約は単年度」を条件としており、事業の最終年度までの提案を求め評価している。備品については契約期間ではなく「研究実施期間」とし複数年度の継続使用を可能とする条件を提示している。反面、都の公募は1年間の事業期間を前提としており契約継続の条件は一切示されてない。
 民間企業や団体への都備品の無償貸与や継続使用は、競争の公平性を損ねる恐れがあり、公平な条件となるよう団体選定時に明らかにしておく必要がある。東京都の準備書面は自らの主張に沿うように次年度以降の契約に触れた元資料を切り取っており、前提を欠く恣意的な解釈と言わざるを得ない。

Ⅱ 都の主張を国のマニュアルから検証

 東京都は東京都若年被害女性等支援事業の住民訴訟において、その契約内容について以下の主張を繰り返している。(参考:BOND住民訴訟 レインボー求釈明への欺瞞に満ちた東京都回答

  • 2600万を上限とする企画競争をしたので企画提案どおりに履行されれば2600万以上と推定される

  • 補助事業ではなく委託契約なので領収書を積み上げて経費を確認する必要はない

  • 事業計画書において2600万以上の内容だと確認している

  • 実施状況報告書が企画提案書・事業計画にそっていれば2600万と推認され、都による領収書の確認は不要である

  • 過失、故意による架空請求があっても実施状況報告書に表面的な不備がなければ都の職員に責任はない

 これらの主張について自らが証拠として認めた国の委託事業のマニュアルで検証する。

(1)「委託契約だから経費の確認は必要ない」は正しい?

 「委託契約だから経費の確認は必要ない」とする都の主張に関して国の委託事業のマニュアルの委託費の扱いを整理する。

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国の委託事業マニュアルにおける委託費の扱い

 3省庁とも委託でも要した経費に対して支払うとしており、東京都の「委託契約なので領収書を積み上げて経費を確認する必要はない」との主張を真っ向から否定する結果となった。これにより以下の3点の主張も論理的に国のマニュアルから否定される。

  • 2600万を上限とする企画競争をしたので企画提案どおりに履行されれば2600万以上と推定される

  • 事業計画書において2600万以上の内容だと確認している

  • 実施状況報告書が企画提案書・事業計画にそっていれば2600万と推認され、都による領収書の確認は不要である

 なお、委託契約でもって経費を確認する・しないが決定されることはなく、個別の契約内容による。成果品のみで経費は不要な請負型の委託契約も経費の確認が必要な準委任型の委託契約もある。
 これら3省庁のマニュアルは自治体や公的機関への委託を対象にしたものと思われ、偏ったものとなっている。実際に民間への委託は請負型のほうが多い。
※東京都若年被害女性等支援事業は準委任契約であり国の委託マニュアルと同じ契約

(2)「公募提案や事業計画書が2600万相当」なので経費確認は不要?

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BOND訴訟のレインボー求釈明への都の回答

 団体選定時及び事業計画との関係の記載がある国のマニュアルは農水省だけであったため、経産省はマニュアルを適用するとした具体な案件である公募中の「令和7年度ユニコーン創出支援事業(女性アントレプレナーのための地域密着型支援事業)」で整理をした。

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国の委託事業マニュアルにおける団体選定・事業計画書と経費確認の関係

 経産省の事例では事業計画書の記載はないが、「実施計画書(仕様書)」が作成される。これは、受託者特定後かつ契約前の協議により、企画提案内容を仕様書に反映さえるためであり、仕様書が計画書も兼ねているためである。
 農水省も経産省も企画競争(費用の限度額)、事業計画書とは関係なく限度額と証拠書類等を含めた検査で確定した経費の内低い額としており、これも東京都の主張とは真っ向から対立する。


(3)「人件費の事業案分」は受託者へのヒアリングでOK?

 若草プロジェクトの訴訟で東京都職員から自主点検時等の様子が陳述書として提出された。陳述書を読む限り人件費については管理人はシフト表にて都事業従事の確認がされているが、その他は当事者である若草の口述のみで都事業専従と認定している。「都事業の人件費」であることが証憑でもって確認されていない。

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若草訴訟における都職員の陳述書

 若草プロジェクトの実施状況報告書の賃金の単位はシフト回数(陳述書では1シフト3時間程度)であり、「シフト回数」の証憑による確認が必須だが、R5.2‐3の自主点検でも管理者以外は確認はされてないようである。シフト回数が単位であれば「専任」とか無意味であり、専任を実施状況報告書のシフト回数にどのように割り当てたのだろうか。

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R3 若草プロジェクト 実施状況報告書

 国のマニュアルの人件費の事業按分方法は以下のとおりであり、単に賃金の支払いがあっただけでなく、委託事業への従事状況について作業日報等の証憑を用いて確認をしている。東京都も証拠として認めた国のマニュアルに基づけばWBPC契約にも事業従事の証憑が必要となる。

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国の委託事業マニュアルにおける人件費の事業按分の証憑

Ⅲ 農水省委託事例を用いた都の主張検証

(1)農水省委託事例との比較

 より具体な検証のため、実際の農水省の委託事業の発注案件と東京都若年被害女性等支援事業の比較を行う。
 比較対象は、Ⅰ(2)で使用した現在農水省で公募中のみどりの食料システム戦略実現技術開発・社会実装促進事業とする。


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農水省委託事業と東京都若年被害女性等支援事業の委託費関係の比較

 委託費の上限額を設定の上で実経費に基づいて支払うスキームは同じである。実経費の確定に必要な証憑類については農水省は細かく書かれているが、東京都若年被害女性等支援事業は非常にざっくりとした書き方となっている。しかしながら、「事業の収支に関するその他記録」を要求している。信頼性のある人件費の事業収支の確定には業務日誌やタイムカード等の証憑が必要であることから、これらと同等な資料の作成・保管が義務付けられているものと考える。
 なお、上述の経産省の「令和7年度ユニコーン創出支援事業(女性アントレプレナーのための地域密着型支援事業)」のスキームも農水省の事例とほぼ同じである。

(2)都の変節の検証

それでは都の主張を振り返ってみる。

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R3BOND 住民訴訟 東京都準備書面(3)

 BOND訴訟に限らず、東京都は「支払額に見合った成果物を納品させる請負型の委託契約」であるとし、経費の確認をしなかった事実を正当化しようとした。その根拠を委託契約の一般論に求めている。しかし、委託契約でも経費精算の準委任型もある。東京都被害女性等支援事業は契約書に準委任と明記され、経費確認を必要となる農水事例と同じスキームである。
 前提条件が異なる契約の引用という乱暴な理論構成は、矛盾だらけとなり裁判所からの求釈明がなされた(レインボー求釈明)。

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BOND訴訟のレインボー求釈明への都の回答(全体スキーム)

 準委任・経費精算のWBPC契約を一般的な請負型の委託契約と偽ったことにより発生した矛盾を、東京都は「特殊性」で埋めようとした。
 その特殊性の根拠は「2600万を上限とした企画競争」と「2600万相当とする事業計画」である。しかし、農水省や経産省事例でも上限額を設定した企画提案及び研究実施計画書(仕様書)を提出した上で経費確認しており、経費確認をしなくて良いという根拠とはならない。
 なお、契約後に提出する事業計画書には価格抑制の力学が働かないため、企画提案や入札等の競争を関連付けないと必要費用の根拠とはならない。この都の主張は、何ら競争を経なかったR4のWBPC契約の事業計画書が4,500万相当の根拠とはなりえないことも示す。

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BOND訴訟のレインボー求釈明への都の回答2②(請負解釈と差額発生の矛盾)

 東京都は準委任契約を請負契約に装って経費確認を不要とした。通常の請負契約では「請負額ー経費」は収益となることから、収益を予定していることになり、裁判所は矛盾を指摘した。
 東京都は企画提案と事業計画書の特殊性をもって「2600万かかるはずなので収益は予定してない」と回答をしたが、農水省や経産省の事例が示すとおり費用見合いの企画提案と計画書の内容履行を確認すると共に委託費用については経費積上によって確定をしている。
 また、2600万相当の企画だったとて実際の経費が2600万を下回れば収益になる。東京都の回答は裁判所の質問に答えていない。

Ⅳ まとめ

 東京都が証拠採用した国の委託マニュアル等では、裁判での東京都の主張の根幹を否定している。

  • 委託契約は提出物の確認だけで上限額とみなす(都)
    →国のマニュアルでは証憑でもって経費を積み上げて委託費を確定

  • 企画提案や事業計画書で上限額相当の費用であることを担保(都)
    →国のマニュアルでは企画提案や事業計画に関わらず、契約上限額と経費を積み上げた委託費のすくないほうを支払額とする

  • 受託者への口頭ヒアリングだけで職員の事業従事確認となる(都)
    →国のマニュアルでは業務日誌等が必要

  • 都職員は精算時にペラ紙実施状況報告書を確認すればよい(都)
    →国のマニュアルでは証憑等を含めた検査を実施

Ⅴ その他

 農水省が委託事業の契約に関する動画をアップしているので興味のある人は参照されたい。→動画
 なお、本文には触れなかったが農林水産省では以下の費用を委託費の対象外としている。

  • パソコン等の汎用品の備品費用(委託事業専用ならOK)

  • スキルアップの費用

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【修正記録】

  • 2025/4/9 :Ⅱ(1)に経産省の「令和7年度ユニコーン創出支援事業(女性アントレプレナーのための地域密着型支援事業)」の事例追加

  • 2025/4/9 :「Ⅲ 農水省委託事例を用いた都の主張検証」大幅に拡充


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