やまゆり園障害者殺傷事件・植松聖死刑囚の獄中結婚。本人が語った「その影響」の驚くべき中身
やまゆり園事件から9年目の夏が訪れる
毎年6~7月は、あの事件から何年…という報道が続けざまになされる。この6月は秋葉原無差別殺傷事件、池田小児童殺傷事件などの報道がなされ、7月には世界中を震撼させた津久井やまゆり園障害者殺傷事件だ。あれから9年目の夏が訪れようとしている。
その植松聖死刑囚は、先頃、再審請求が高裁で棄却され、特別抗告が行われた。また、このヤフーニュースでも昨年秋から、彼の近況、多くの人を驚愕させた「獄中結婚」については詳しくお伝えしてきた。特に下記の記事、そもそも植松死刑囚の獄中結婚がどういう経緯で行われたかについては、掲載当時、大きな反響を呼んだ。
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/419548cf821381487a39a980b347fc15b11dfa44
衝撃!やまゆり園障害者殺傷事件の植松聖死刑囚が獄中結婚! しかも何と相手は障害を持つ女性
結局、昨年12月4日に結婚は法的に成立し、今年2月28日に東京拘置所の接見許可が出て以降、妻・翼さん(仮名)は連日のように面会を重ねている。その翼さんの手記や日記も、月刊『創』(つくる)に毎号掲載し、その一部をヤフーニュースに公開してきた。
周知のように日本においては、死刑確定者に執行が告げられるのは、当日の朝だ。翼さんも連日、拘置所に通いながら、その瞬間が突然訪れはしないか不安を感じているという。面会に際しても、もしかしてこれが最後になるかもしれないとの思いは念頭に置いているそうだ。
死刑が確定すると接見禁止となって外界との交流をほぼ全面的に遮断されるから、死刑囚の実情はほとんど社会に開示されない。彼らがどういう生活を送り、死に直面して何を考えているか――そういう情報は全く知らされないまま、国民の8割が死刑存続を望んでいるという政府の説明がなされてきた。いわゆる先進国の中で日本は例外的に死刑制度を存続させている国だ。
その多くの死刑囚にとって、死刑確定時の大きな関心事は、社会との関係をどうするのか、ほぼ全面的な接見禁止がつくことで、自身が孤立状態に置かれることにどう対応するかということだ。
植松死刑囚が語る獄中結婚の予想外の影響とは
獄中結婚は死刑囚にとって、社会とのパイプを維持する手段だ。死刑囚との獄中結婚は過去にもいろいろなケースがあったが、最近の植松翼さんのケースが特徴的なのは、死刑が確定して何年も経ってからの結婚ということだ。東京拘置所がその結婚による接見許可をなかなか認めようとしなかったのもそうした事情にも一因があるのかもしれない。
獄中結婚は植松聖死刑囚にもいろいろな影響を及ぼしたようだ。最近驚いたのは、これまで彼のもとには10人近い人から現金の差し入れが届いていたのに、獄中結婚の後、ぴたりと止まってしまったという。
もともと差し入れなどを行っていたのは多くが女性だったそうだが、翼さんと正式な結婚がなされたことを、そうした人たちは、複雑な気持ちで受け止めたらしい。
それで思い出したのは、池田小事件の宅間守死刑囚の獄中結婚の時のことだ。死刑が確定するタイミングで、彼との結婚を弁護人に申し出ていた女性は2人おり、そのうち1人は『創』の読者だった。そして実際に結婚したのは、彼女でない、もう1人の女性だった。2004年に、死刑確定から約1年という異例の早さで執行がなされた時、その獄中結婚した女性は、長文の手記を発表し、『創』にほぼ全文を掲載した。ところがそれに対してもうひとりの女性は傷ついたようで、怒りのメールを送ってきたのだった。
今回、植松死刑囚が結婚したと聞いたとたんにそれまで支援を行っていた女性たちが一斉に引いてしまったという話は、それを連想させた。
死刑囚と交流する数少ない手段とは
死刑確定者は家族と弁護人以外、接見禁止なのだが、例外的に現金の差し入れは認められ、受け取った死刑囚から礼状が届く。それが死刑囚の消息を把握するほぼ唯一の手段で、それゆえ死刑囚とその人たちの関係は現金差し入れという方法と連動している。一般の人にとっては、拘置所へ行って差し入れする、あるいは現金書留でお金を送るのが、死刑囚とのほぼ唯一の交流手段なのだ。
植松死刑囚にしてみれば、翼さんと獄中結婚したとたんに他の女性たちからの現金の差し入れがピタリと止まるという、予想外の影響がもたらされたということらしい。
死刑囚との獄中結婚という話を聞いて、まず多くの人が思い浮かべるのは、どういう思いで敢えて死刑囚と結婚するのか、ということだろう。翼さんの結婚への動機も、実はやや屈折したものだ。
さて植松夫妻の最近の出来事といえば、双方が互いに相手のことを絵に描いてみるという試みだった。植松死刑囚がもともとイラストなどがうまいのは知られている。母親がマンガ家だから、親譲りなのかもしれない。また翼さんも油彩画を頻繁に描いている。両人とも得意な絵によって相手のことを表現するというのは、2人ならではのアイデアかもしれない。
互いに相手を描いたイラストと油彩画
その実際に描かれたものをここで紹介しよう。
まずは植松死刑囚が描いた妻・翼さんのイラストだ。これがなかなか見事で、顔の表情もよく描けているし、配色などもかなりのものだ。
そして翼さんの描いた夫のイメージは油彩の抽象画だ。彼女が獄中結婚についていろいろな思いを重ねた、その心象がじわりと表現されている。
その2枚が掲載された『創』7月号を、翼さんはさっそく夫の面会の時に差し入れたという。ところが植松死刑囚の反応はというと、それに並んで掲載したもう1枚の絵を、これは自分が死刑執行されたイメージを描いたのではないかと怒ったらしい。翼さんによると、それは全くの誤解で、実はその絵は自画像だという。彼女の抽象画は、どこか「不安」のイメージが表出されているのだが、夫はそれを自身の死刑執行への不安に重ねてしまったらしい。その対立の一因となった絵は『創』に掲載したが、ここでは割愛する。
なお、そもそも『創』がどうして今のように植松死刑囚に接触できているか、あるいはそもそも障害者殺傷事件と植松死刑囚についての詳細などについては、創出版刊の『開けられたパンドラの箱』『パンドラの箱は閉じられたのか』をご覧いただきたい。
妻・翼さんの面会日記その一部
『創』7月号にはそのほか、翼さんが文章で書いた接見日記のようなものも掲載したが、長くなるので、ほんの一部だけ紹介しよう。
●5月15日
最近、聖さんはとても穏やかになりました。
以前から優しかったのですが、益々表情や態度が穏やかに……そう感じるようになりました。というのも、初めて会った頃の聖さんは私のことを障害者ではないと言い切っていました。その理由は聞いてはいませんが、きっと聖さん自身が障害のある女性と結婚したいと思っていなかったのではないかなと少し不安でした。
ですが最近は私は障害者じゃない。という口癖から「これから一緒に病気治していこうね。絶対治るから」という言葉に変わり、心の中でとても嬉しかったのを覚えています。
私が聞きたくなかったり嫌なことは気を遣ってあまり話さないようにしてくれます。
他にも接見が終わる時のアクリル板越しの手合わせの「じゃあね」が「また明日」になったり、扉を出るときの聖さんの投げキッスが片手から両手になったり、堅苦しかった「愛してる」が「大好き」に変わったり、日々少しずつ変わっていく私たちの関係性に面会時間の20分間が今までよりも楽しく早く短く感じます。
9歳も歳上の聖さんのことを最近は愛おしく可愛らしいと思ってしまいます。
●同
「死んだおばあちゃんに会わせたかった」
聖の結婚相手はどんな人なんだろうねって言ってたから…と。
話を聞くといつも小さな聖さんを笑わせて陽気なおばあちゃんだったそうです。
身内に会わせたいと言われるのはこんなにも嬉しいことなのですね。
死刑囚との獄中結婚が持つ様々な意味合い
なおこの間、『創』には元オウム新實智光氏の妻の由紀さんら、死刑囚と結婚した女性の手記などを掲載しているが、7月初めにそれらを『死刑囚と家族になるということ』という書籍にまとめることにした。以前もヤフーニュースに書いたように、死刑囚との獄中結婚というのは、実は世間が思っている以上に多くなされている。死刑が確定すると接見禁止になるので、それを恐れた死刑囚にとって獄中結婚は自分と社会とをつなぐ貴重な細い糸になるからだ。社会関係を途絶させられる死刑囚にとっては、それが生きていく希望になることもある。
書籍編集を機に、そうした事例を幾つも読み返して改めてわかったが、同時にそれは、死刑制度が抱える根本的矛盾を示すことがらでもある。法律では死刑確定者は半年以内に執行することとされており、確定したとたんに社会から隔絶してしまうというのは、恐らく執行まで半年間というイメージを前提としていると思われる。
ところが現実には半年どころか何十年も拘置所で生き続けている死刑囚がたくさんいる。死刑執行は国家による殺人だから、そう簡単に法律にのっとって半年で、というわけには実際はいかないのだ。
死刑囚の現実を知ることで死刑制度について考える
死刑囚の実態というのは、当事者が接見禁止となることでほとんど知られていないのだが、死刑制度の持つ様々な矛盾がいろいろな形で含まれている。
いま編集している事例の中には、死刑囚と養子縁組をして約10年を経た女性の話もあるのだが、獄中結婚や養子縁組をしたとして、それが10年20年も続いていくと、新たな矛盾も生じてくる。支援する方も10年たてば、例えば実の子どもが成長し、自分も老後のことを考えなければならなくなったりする。死刑囚と家族であることを10年続けるというのは、当初は予想しなかったいろいろな問題に突き当たることになるのだ。
死刑囚との獄中結婚や養子縁組は、死刑制度の根本的矛盾と隣り合わせだ。死刑制度について改めて考えてみるためには、そうした死刑囚の置かれた現実を知ることが大切だと思う。7月15日には出版記念を兼ねて阿佐ヶ谷ロフトAで、当事者を招いてトークイベントも考えている。多くの人に、死刑囚の置かれた現実、あるいは死刑制度について一緒に考え、議論してほしいと思う。
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/322132
月刊『創』については下記ホームページを参照いただきたい。