虚構戦記 外伝 中学の章

「えっ?中学の時のあいつですか?うーん、変なやつでしたよ。なんか揉め事になって、それから学校来なくなって。高校は違うとこいったらしくて…えーと、あ、あそこの通りの先にあるコンビニの店長の小林ってやつが、もっと詳しいですよ。」

示されたコンビニに向かい、名刺を渡して自己紹介する。「探偵さん?って本当にいるんですね。それで、あいつのことを調べてるんですか?あいつ、何やったんですか?30分くらいならいいですよ、話も聞きたいですし。おーい、ちょっと出てくるから頼むよ」小林という男は、快く取材に応じてくれた。

彼らは小林の案内で近くの喫茶店に向かった。テーブル席とカウンターで合わせて15席くらいの小さな店だ。常連らしき老人が隅の席でコーヒーを飲みながらマスターと話し込んでいる。2人ともアイスコーヒーを頼み、席につくと、取材対象のはずの小林の方から興味津々で聞いてきた。「で、あいつ何を?」

ここに取材に来た経緯を説明すると、小林は、納得したような、納得しないような、なんとも判別のつかない難しい顔になった。「そうですか…あいつはそんなことに……で、中学の話でしたっけ。10年くらい前のことだけど、よく覚えてます。あれは6月の中頃のことでしたね。5月には修学旅行に行きました」

「えっ?中学の頃のあいつですか?うーん、あの事件のあとは誰も口利かなくなったんですけど、その前は普通に、いや、うーん……気味が悪くて嫌な奴でしたね。みんなうっすら嫌ってたと思います。なんか、同級生を馬鹿にしてるし、屁理屈ばっかりだし。2つ下の弟はいい奴なんですけどね」

小林は思い出すように天井を見上げ、視線を戻すとアイスコーヒーをストローでかき混ぜながら話を続けた。「修学旅行のとき、一緒にまわってたエミリと付き合う事になったんですよ。そのときは結構軽いノリで、修学旅行でくっついてるカップルは他にもいました。それで、俺とエミリが呼び出されて」

「あ、エミリって嫁です。ほんと、修学旅行のときは付き合ってみるか、くらいのノリだったんですけどね。あいつからエミリを守ってやらなくちゃって思ってたら。あいつは高校でいなくなったんですけど、エミリとは続いて。だからあいつが恋のキューピッドだって言うと、多分エミリはキレますけど」

「俺とエミリが担任に呼ばれて、心当たりもないからなにかと思ってついていったら、教頭先生が部屋にいて。『君たちがいじめをしてるって話があるんだ』って。まったく心当たりがなくてキョトンってして、エミリとお互いに顔を見合って。ああ、あのときあいつショートヘアで可愛かったなあ…」

「で、なんか俺とかエミリのグループであいつをいじめてるって話になってて、全く身に覚えがないし何もしてませんって説明したんですよ。エミリなんて、知りませんってだけ言って泣き出しちゃって。そんときにこう、胸がキュってなって、こいつを守りたいなって。あ、あいつの話でしたね、だはは」

「で、なんか、あいつから皆でカツアゲしてるんだろって。でも違ったんですよ、あいつ、放課後にグループで遊んでたら入れてくれって言ってきて、で、いつもなんか手土産だとかいって、高いお菓子とか、あいつやってないのに、グループの男子のやってるポケモンカードのレアカードとか配ってて」

「それ説明したら、教頭先生は変な顔してたけど、担任の先生は『私もいじめとかじゃないと思いますよ』って。で、そのあとグループのやつとかも順番に呼ばれてきて、黙って聞いてなさいって。同じ質問して、みんな同じ答えで、いじめはありませんってなって解散しましたね」

「あいつの家、なんか京大京大ってかーちゃんがうるさかったって話で。弟は京大に行ったってすげー自慢してまわったらしいんですけど、あいつの話は聞かないから、どこの大学いったのかも知りませんでしたね。成人式で集まった時も誰も知らなくて。で、次に集められた時、あいつのかーちゃんもいて」

「あ、そのとき、あいつから貰ったもので返せるものはもう返そうってみんなで話して決まったんですよ」小林はアイスコーヒーを一気に半分くらい飲んで喉を潤した。喉に引っかかった何かを流して、話しやすくするかのように。そして長いため息をついたあと、意を決したようにまた話し始めた。

「あいつ、なんかいじめられたって告げ口したのに、そのあともまだ遊びに混ぜてくれって言ってきて。もう混ぜられないって言ったら、なんでだ、なんの権利があってだとかわけわかんない屁理屈いってきて。しまいに暴れ始めるから、暴力とか言われないよう男子で抑えて先生のところ連れていきました」

「それが次の日もなんか物持ってきて混ぜろって。本当に気持ち悪くて。エミリにむかって差し出すから、エミリはまた泣き出すし。それで俺突き飛ばしちゃったんですよ、あいつを。すごかったですよ、ギャアアアアって叫んで。で、あいつのかーちゃんも呼ばれたんですよ」

小林は興味津々にこちらに質問をしそうな始めの頃とはうって変わって、深刻な話し方になってしまっている。「で、もう絶対に何もいらないし、今までもらったものも返すから、混ぜろとか言ってこないで欲しいって、あいつのかーちゃんと先生といるところで、あいつに言ったんですよ」

「そしたらあいつのかーちゃんも、なんかあいつみたいにキエエエエ!!って叫んで、小林ってどいつなの!そいつが主犯なのよ!あなたたちは騙されてるの!うちのコはナイフでそいつの顔を、写真を切るくらい追い詰められてたのよ!!謝らせなさい!!小林に謝らせなさい!って。ハハ、怖かったっす」

「なんか写真がどうとかって話、クラスでも話題になって。みんなあいつの話してたらなんか、あいつ自分でも同じ小学校だったやつに言ってたみたいで、なんか、ミリタリーのナイフの高いやつもってて、それで写真をズタズタに切らないとイライラが晴れない?とか。クラスみんなドン引きで」

「俺はあいつは、そんな度胸ないと思いますけどね。面と向かったら目も合わせられないやつで、ああいうやつって喧嘩もできないでしょ?」その後家電などを破壊していたらしいことを伝えた。「物ばっかりでしょ?だと思いますよ。でも中学生には、あんなナイフもって写真刻んでるってドン引き」

「ドン引きはしたけど、結局口だけってなんとなくわかってきたんですよね、そのあとはあいつと一緒に顔を隠して写真とって、切られるぞーとか写真渡すなよーとか。でもあれいじめとかでもなかったと思います。なんか、あいつが怖すぎて逆にネタにしないとやってられなかったっていう」

「あと、あいつから物もらったことないやつも、『いらな~い 何も 捨ててしまおう~』ってあいつの前で歌うのも流行りましたね。そのたびにあいつ変な屁理屈でわめきちらすから流行が終わらなくて。俺らのグループは二度と関わりたくないから混ざらずに見てました」

「でもなんか、1人、また1人とだんだんあいつと関わると本当に気持ち悪いってなって、そういうのでも誰も相手しなくなって。最後は誰1人相手にしなくなったんですよね。話しかけられても絶対無視、暴れたら先生を呼ぶ。そうしたらあいつ学校に来なくなりましたね。みんなホッとしてました」

「こんな感じでいいですか?」小林はアイスコーヒーを飲み干して言った。短い話だったが、話せたことでなにかスッキリしたような様子だ。「あいつのことはだから忘れられなくて。あのクラスのやつはみんな覚えてるんじゃないかな」心ばかりの謝礼を渡すと、礼を言って小林は店に戻っていった。 

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