単なる「原材料費の高騰」ではない
さらに、ある口コミサイトでは店舗に「ゴールド」や「シルバー」といったランクが付与されます。これはミシュラン以上に、近年では集客力やステータス性において影響力を持つ存在となっています。ランク付けがさらなる希少性を生み出し、「全ランク制覇」を目的に動く富裕層も少なくありません。この行動を界隈では“スタンプラリー”と呼び、席を取ることそのものが目的化しています。
クローズドなグルメコミュニティなどでは「『鮨○○』のご予約ができる方はいませんか? もしご予約いただける場合、『鮨△△』の枠をお譲りします」といった予約枠の交換をする人も少なくありません。
高級鮨の高騰は、単なる原価上昇もあります。しかしながら、それだけでは説明ができないのです。背景には、限られた人しか味わえない「特別な体験」への強い欲求と、それを競い合う富裕層の心理が確かに存在しているのです。
余談ですが、この数年、高級鮨の主役であるマグロの値段は上がっていないようです。確かに海水温度の上昇により、魚(特にひかりもの)は採れなくなっている。良い魚は海外に買われてしまい、「いい値」でないと買えない魚もでてきている。そういった事実は確かに存在していますが、それだけでは説明ができないということです。
名店の大将が語った「価格の本質」
価格帯は顧客層を大きく変えます。
私が過去に訪れた、金沢の高級鮨の有名店があります。単価は2~3万円。しかも訪れたのは北陸の蟹の季節で、他の店なら5万円を超えてもおかしくありません。そこで大将に「なぜこんなにも安いのか。もっと値上げしてもお客は来るのではないか」と尋ねたことがあります。すると大将はこう言いました。
「周りを見てごらん。若いカップルが複数いるでしょう。僕はそんな人に来てもらって、笑顔になってもらいたいんだ。5万円にしてもいい。でもそうすると、彼や彼女らは来なくなる。ギラギラした富裕層と外国人観光客ばかり来る店にしたいわけじゃないんだ」
この発言は的を射ていると思います。価格は顧客を決めるものです。価格設定次第で客層は一変します。実際、値上げをしたらクレームが減ったというお店も少なくありません。それは、お財布の大きさだけでなく、顧客層によって価値を感じるポイントが異なるからです。「食オク」のように高値でも取り引きされる例は、まさにその象徴といえます。