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Karte.157 「私はなにをしているのか」所感と考察②

まえがき

もうめちゃくちゃリアルな回でした。この回の個人的な印象は、とてもリアリティがあって、でもコミカルで、市川と山田らしく、つまりいつもの僕ヤバらしく描かれていたです。こうして言葉にするのは簡単なんですが、実際にどう描かれるかは見当もつきませんでした。何しろテーマが恋愛と性。シリアスに描けば生々しくなり、コミカルに描けばリアリティが消える。

僕ヤバは『子供にとって重くシリアスな問題を内包しつつ、コミカルで軽快に読める』作品です。少なくともそれが特長の1つです。このシリアスとコミカルの絶妙なバランスが、僕ヤバをさらっと読めるのに深いリアリティがある作品へ仕上げていると思います。これまでに様々なテーマがそのようなバランスで表現されてきました。

では恋愛と性、それをどう描くことでシリアスとコミカルを両立させるのか。実際に読んだ感想は、もうこれは絶対のりお先生にしか描けないです。

この考察②ではそこに着目して考察を進めていきます。



1.全体の構成

一言でいうとこうなります。
『市川と山田が"朝チュン”の具体的な内容に迫る』
冒頭で市川が想像したあれです(笑)。市川も山田もおそらく、ああいうイメージは知っているし保健体育で習うようなことも知ってはいるけど、いわば夜の営み(セックスのみならず全般)の細かいディティールは知らないんです。

ちなみに自分が学生だった当時は雑誌でその手の知識を入手してました。ホットドッグプレス、プレイボーイetc。女性のことは分かりませんがananとかでしょうか。こういう雑誌を友人間で回し読みしつつ、いつか来る実戦に備えていたんです。ムードの作り方だの触る順番だの電気消すタイミングだの……。

翻って市川には、まずそんな友人自体いませんでした。情報源としての雑誌も読んでいる様子はありません(この手の雑誌の存在感が現代でどうかも微妙ですが)。なので現実はただエッチするだけのAVとは違いその過程に色々あることにも気付いていない感じです。エッチなことするのに寝室へ行くことすら思い浮かばないレベルでしたから。

そんな市川と山田の2人が大雑把な知識で夜の営みに挑むのが全体の形です。前回までの話で、市川は山田へ好意を示すことに前向きになっています。そして山田は市川の好意に応えようとしています。
大事なのは、2人とも真剣なんですよね。お互いに大好きだから真剣にエッチなことをしたいんです。でも知識がないから行動がおかしな方向へズレる。
もう結論になっちゃうんですけど、のりお先生が恋愛と性をこの2人らしく僕ヤバらしくどう描いたかというとそこのギャップで見せたんです。真剣な行動とおかしな結果のギャップ。前回①で書いた通りですね。引用します。

お互いに覚悟を決めてエッチなことしようとして、一晩中かけて2人きりで、真剣に真面目におっぱいの重さ測ったんですよ。馬鹿みたいじゃないですか……。

経験値ゼロの2人は最終的にここに辿り着いてしまったという(笑)。でもこの結果も含めて、そこへ至るまでの過程のどれもこれもが市川と山田らしくて、しかもやっぱりリアリティがあるんです。寝室への誘い方から分からない男女って凄いですよ。この導入は、リアルなあの2人のぎこちなさの表現として完璧だと思います。

整理すると、市川は山田への好意を、山田は市川への好意を、それぞれの形で示し受け止めながら悪戦苦闘する。夜更けから朝スズメが来るまでの間、一体何が行われるのか、無知な2人が実際にやってみる。そんな構成になっています。


2.全体の流れとツッコミどころ

ここからは市川と山田2人の行動のツッコミどころをざっと書いていきますが。ツッコミどころ=普通の行動とズレているところです。普通とは何か……。そういう空気になってからの作法は千差万別、人それぞれだと思います。なのでここでは常識的にズレてるだろうと自分が思った部分を指摘します。自爆しないように気を付けますが、おかしな部分があっても"こいつの性癖だ”と考えてご容赦ください。


冒頭リビング

正確には前回もそうでしたが、キスシーンで(カレー食べたのに歯を磨かないんだな)と思いました。
……思いますよね?
でもまぁ"そういう空気”になった後で歯を磨くタイミングって難しいかもとしれません。


寝室への誘い方

これこそタイミングが難しいと思うんですが、それはさておき。最初は市川の手を握ったり積極的だった山田は、ここから急に誘い受けモードになります。でもセリフおかしいだろうと。流れも変だし言葉選びも変だし多分あれ棒読みセリフだろうと。でもそのおかしさに市川も気付けない。いや、エッチなことする気なんだから寝室へ行かなきゃってことくらい分かって欲しい……と、お互い無知なのでこのレベルですれ違いが起きてしまいます。
でも山田はここ、最終的には強引にいくんです。とにかく部屋に呼んだ。個人的にこれは正解だと思います。

あと2人とも考えもしなかったんでしょうけど、市川はシャワー浴びるならここが最後だったんじゃないかな……。


寝室へ入った後

山田のムーブは素人童貞がやるムーブとして一部で知られています。ソープでは男性は寝そべってるだけでOK⇒それしか知らない男は初めて付き合った人との初エッチでも同じムーブをかます、という笑い話があるんです。これも無知ゆえの行動……そして残念ながら市川にも失笑されます(でも頑張ってることは伝わってる)。


ベッドで横になった後

仕切り直しです。考察①にも書きましたが、今回は2人とも『エッチなことするぞ』という目的を共有しているので、すれ違っても再チャレンジします。というわけでまたキスから始めるんですが、やっぱりその先はやり方が分からない。
そこでまず市川が主導権を放棄します。なんでだよ!
山田が散々誘ってるのに、それに気付いてるのに、自ら受け身に回ってしまう。ハグすらしない。頑張ってバックハグした市川はどこかへ行ってしまった。


市川が目をつむった後

それを受けて山田が諦めます。なんで!
いや、でもこれは仕方ないのかもしれません。そもそも一連の始まりは市川の『そういう空気になったら我慢できる自信がない』です。つまり山田の本意は我慢しなくて良いよなので、市川が寝てしまったならそれも仕方がないんでしょう。勘違いなんだけど。
これも考察①で書きましたが山田には、能動的にキス以上の行為を市川にしたがることは、今のところ無いみたいですね。服を脱がしたり襲ったりしない。


山田が上着を脱いだ後

意訳すると『山田に攻めさせようとした』市川は、実際に山田が行動したのを目の当たりにして考え直します。やはり自分から攻めるべきだと。
バックハグの出来る市川が帰ってきました。
この辺の応酬、キスから先のやり方が分からない2人がどうにか前進するためのギミックとしてお互いの勘違いが交互に入るんですよね。相手が一歩引いたと勘違いして服を脱いだり、それを見て駄目だと思って少し大きく踏み込んだり。本当にちょっとずつ近づく。だから自然な流れになった。
この2人らしさを損なわないよう、とてもデリケートに描いていると思います。


いいけど……

ようやく2人の意思疎通が出来て『次は胸』ということに収まります。ここまで随分かかりましたが、何時間経ったんでしょうね。
市川は正座から膝立ち、山田は正座で向き合います。なんでだよ! そんなの見たことないよ!
結構なお点前ですとか言い出しそうなこの構図で行為が始まります。

ちなみに部屋の電気消すならここが最後だったと思います。ある意味それが合図だったりするけど、シャワーと同じで全く頭に無かったんでしょう。


胸を持ち上げる

これ凄かったですね……また①から引用します。

素肌の胸は触れない、下着も取らない。
下着の上から触りつつ大きさを確かめたいのでああいう動きになる。

市川はハグするとき絶対に山田の胸を避けるんですよ。めちゃくちゃ意識してるのが逆に分かるんです。それが今回余計な気遣いとして表れてしまってる。我慢しないで良い状況だからこそ冷静になれと言い聞かせてしまって理性が働き、行動が混乱し、結果訳の分からない我慢をしてる。

ディティ―ルが本当に細かい。胸触るって行為でここまで段階を刻むって、ちょっと普通じゃないと思います。のりお先生以外に思いつく人いるんだろうか。そしてこのシーンがギャグにならず、ちゃんとリアリティを生んでるんですよね……だって市川らしさ全開なんですよ。これが市川だよなって凄い納得する。

その結果が――もう1回言いますね。2人は真剣に真面目におっぱいの重さ測ったんですよ……。


山田「違うよ」⇒市川「違うの? こわ……」

これもうピロートークですよね。行為が終わって2人とも羞恥心を乗り越え、完全に気を許し合った状態。まぁ実際には終わってないから、疑似ピロートーク。
あの市川が山田との寸劇に素直に付き合って、自分からボケて、あまつさえ『ギャ』って言って表情まで作るなんて……これじゃ本番後は冒頭のイメージシーンみたいなことを本当にやるかもしれない……。


そしてスズメが来た

ここでタイムアップ。時間配分なんて分からないから、お互い夢中になってたら朝になったという大失態です。

でも実際のところ、もし今の市川が山田の家に泊まったら自制心は効かないんじゃないかと考えてたんです。ストップできず行くところまで行っちゃうだろうと。だからまず泊まらないと思ってたし、もし泊まるなら第三者、つまり山田の親が帰ってくるしか無さそうだと。でもそれは怖い。
だからどうやってオチ付けるんだろうと思ってたらこうなりました。ここは強引に思った人もいるだろうけど(笑)、個人的にはオマケを読んで納得したんですよね。いや分かる、この2人のこのムーブなら全然あり得る。

だからまだ時間があれば、あのピロートークの感じだと次の段階へ進んだと思うんです。市川は恐る恐るでも踏み込めたと思うし、山田も拒まなかったんじゃないかなと、そう思える終わり方になったのは良かったなぁ。


一体 我々はなにを…

市川と山田は『夜更けから朝スズメが来るまでの間、一体何が行われるのか』実際にやってみました。結果、お互いに覚悟を決めてエッチなことしようとして、一晩中かけて2人きりで、真剣に真面目におっぱいの重さを測りました。それで終わり。

まぁそういう感想も出てきますよね……。


3.全体の所感と考察

まえがきで、僕ヤバはこんな作品だと書きました。

僕ヤバは『子供にとって重くシリアスな問題を内包しつつ、コミカルで軽快に読める』作品です。少なくともそれが特長の1つです。このシリアスとコミカルの絶妙なバランスが、僕ヤバをさらっと読めるのに深いリアリティがある作品へ仕上げていると思います。

今回について言えば恋愛と性という問題・テーマをきちんと抱えて、僕ヤバらしく描かれていたと思います。
そのための手段が次の3つです。

  1. 市川と山田の恋愛感情を前面に出す

  2. 市川と山田が持つ性的知識・関心について解像度を上げる

  3. 真正面から性的行為を描く

1はそもそも今回へ至るまでに相当抑圧されていたので(単行本11巻収録分全部!)、今はもう2人とも全開になっています。一度タガが外れるともう止まらない、何回キスするんだよって感じです。

2は『全体の流れ』で書いたものです。個人的にこういう考えだったんですが、その部分の解像度がここで上がりました。

どのくらい無知なのかはっきり見えてきた。だけど1のように恋愛感情が溢れまくってるので、市川と山田の2人にはもっと前進したい気持ちが強くある。真剣に大真面目に『エッチなことするぞ』という意欲がある。

その上で3をやる。ここなんです。1と3ではシリアス過ぎて生々しくなる。2と3ではコミカル過ぎてギャグになる。1と2と3全て揃ってるからバランスが取れる。

知識がないからやることなすことズレてしまうけど、お互い大好きなのは分かるから微笑ましく見れる。胸持ち上げて重さ測ってどうするんだよと思うけど、市川と山田が真剣で真面目で、しかもエッチな気分になってるのは伝わってくる。そうして解像度が上がってる分、リアリティも増している。

こういう手段を用いて、恋愛と性という難しいテーマも僕ヤバらしく仕上げたんじゃないかと思うわけです。これ1~3まで見ても『普通のこと普通にやってるだけじゃん』ってなりそうで伝わり難い気もするんですが……でも本当にコロンブスの卵で、一見シンプルで簡単だけど実は凄いことをやってるんです。凄いんですよ、もうそれしか言えないけど(笑)。

ちなみに、のりお先生が下ネタ得意でギャグ漫画描いてたからこれが描けたのかなと、なんとなく思ってます。性的行為って真面目に描くほどギャグになってしまう側面があります。スポ根と一緒ですね。当人達が本気であればあるほど、傍から見れば全く意味の分からないことを真剣に夢中になって興奮してしまうとか、そこのおかしさを上手く使ってるなぁと。


4.まとめ

単行本10巻のpostscriptで、のりお先生がこんなことを書いていました。引用します。

付き合うにあたって性への関りは不可欠。少しずつほんのりと前に進んでゆく2人をなるべく誤魔化さず丁寧に描いていきたいと思いますので何卒よろしくお願い申し上げます。

(C)桜井のりお(秋田書店)2018

Karte.157で描かれたのがこの一端だったと思います。その意思表示としても朝チュンはやりませんよってことだと感じたんですね。『全体の所感・考察』で書いたように、ちゃんと2人の恋愛と性的行為を真正面から描いているんです。時間だってたっぷりあったし、ほぼ無制限に何でも出来た。それで結果があんな風になったのだから、つまりあれが市川と山田の限界で現在地なんです。

しかも僕ヤバらしさを――『子供にとって重くシリアスな問題を内包しつつ、コミカルで軽快に読める』作品であることを失わずにそれを描いた。
まとめとして、最後にここを少し掘り下げます。


僕ヤバは軽快なテンポで読める作品です。スキップするようにさらっと読める。一方ではじっくり深く読むことも出来ます。深海へ潜るように。リアリティがあると言われることも多い作品ですが、それを担っているのがこの深さです。

例えば、初期の市川はいつ登校しなくなっても不思議じゃない状況です。あからさまな描写こそされませんが、山田も周囲の人物も市川をそのように認識しています。観察すれば行動の背景にちゃんと見えてくるものがあるんですね。ここに深さを与える要素の1つがあります。


Karte.157では恋愛と性というテーマが深さにあたります。市川も山田もそうした感情をちゃんと背負って行動している。
その上で、やはり軽快なテンポでさらっと読んだ人も多いと思うんです。本稿の『全体の流れとツッコミどころ』は茶化す感じで書きましたが、ああいう読み方をした人もいれば、真面目に見入った人もいると思います。胸を持ち上げるシーンを馬鹿馬鹿しいと笑った人も、エッチなシーンだと興奮した人もいるでしょう。そもそも深夜、親がいない状況で2人きりでっていうのは倫理的に問題があると考えた人も、いいぞもっとやれと考えた人も。

読み手次第で色々な読み方が出来る。いつも通りの僕ヤバなんです。そういう意味も込めて僕ヤバらしかったなぁと思ってます。

◆◆◆

さて、そうはいっても恋愛と性についての話はまだ導入編だと思います。踏み込んだばかり。今回のことがあって市川は何を考えどう変わるのか。山田はどうなのか。2人の関係は。見どころがめちゃくちゃ沢山あります。

続きと捉えるにせよリベンジと捉えるにせよ『次』のことを考えるなら、これから勉強は必須でしょう。ネットで調べるのか誰かに聞くのか。ももちゃんみたいなヤバイのに聞いちゃマズいとか。

あと持論に『性欲は我慢できるけど、恋愛は我慢できない』というのがあって、個人的にはここにも注目しています。今回はかなりそこに近づいた印象もあるんです。恋愛は心地良さを求めるもので、性欲は気持ち良さを求めるもの。普通のキスは心地良いけど気持ちよくはなくて、だからその先があるっていう。

それでは、ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます。


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コメント

2
Lamu_🐑🌷
Lamu_🐑🌷

Me encanta leer tus pensamientos, es muy entretenido y siempre descubro algo nuevo, muchas gracias.

宇内すけん
宇内すけん

Gracias, señor. Me alegra mucho oírle decir eso. No me resulta fácil actualizar el sitio más a menudo, pero seguiré haciéndolo con constancia.

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