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全然やってこない成果主義

この前「今期からは徹底した成果主義になるから数字が達成できないとお前の評価もいよいよ下がるぞ」と上司に脅された。今までは社内の様々な事情が考慮されていたが、いよいよ我が社も成果主義を導入して自分たちを律しながら厳しく成果を追っていく姿勢をあらためて伝えられたのである。

他の社員も何名か同じように伝えられていたようで、社内には少し緊張感が漂いやたらと残業している人も多かったように思う。

しかし僕はある程度は頷きつつも、基本的には懐疑的な姿勢でこの言葉を受け取り、やるべきことだけ終わらせてその日は早く帰った。正直なところ「ただの脅し」だと思っているからだ。

この「成果主義を導入する」発言は半年前にも言われていた。もっと言えば1年前にも言われていたし、1年半前にも言われていたので、もはや「成果主義を導入するする詐欺」になっているんである。

とはいえ、僕の上司も「脅し」と思って伝えているわけではないと思う。本当に毎回のように成果主義を導入しようとしているが、したくてもできないだけなのだろう。成果主義を導入すれば、社員はシンプルに成果を追い求める様になり、評価に不公平感を抱く社員も減る。

しかし、あらゆる業務を数値化する必要が生じ、そのために莫大な時間を費やすわけにもいかないから、デジタル化による効率化が絶対条件となる。ITリテラシーの高い社員が多く揃っている場合は可能かもしれないが、そうでもない会社にとって、それは決して簡単なことではないのだ。

橘玲の『貧乏はお金持ち』という本のなかに、2000年代初頭に富士通が成果主義を導入しようとしたが見事に失敗した顛末が紹介されている。少し長いが、状況が非常に良くイメージできる文章なのでそのまま引用する。

 富士通が鳴り物入りで導入した成果主義では、半期ごとに各自が目標を設定し、その制度によってボーナスなどの報酬に差をつけることになっていた。だが評価される社員はもちろん、評価する側の管理職や人事部も実際はなにをしたらよいかわかっておらず、右往左往する中で社内は大混乱に陥っていく。
 目標は数値化が義務付けられていたが、営業部門や開発部門ならともかく、総務や経理などのバックオフィスでは、部員全員が数値化できる目標を持つのは不可能だ。その結果、「三回以内に電話を取る」「退職金の計算を間違えない」などの「目標」が登場した。その一方で、営業部門は確実にAを取るため目標を意図的に低く設定し、開発部門では自分の目標に関係のない業務を誰もやらなくなった。
 社内にさらなる軋轢を生んだのは、たとえ目標を達成しても一方的に評価を引き下げられることだった。当初、富士通人事部が採用したのは相対評価で、SAやAなど人件費の増額につながる評価の割合は厳密に定められていたため、各部門の一時評価を事業部長と各部門長による評価委員会で再調整する必要が生まれた。この振り分けは部長間の力関係で決まり、各自の貢献度は一顧だにされなかった。当然のことながら、これではなぜ評価が下がったのかを説明することができず、「がんばっただけ馬鹿馬鹿しい」との風潮が急速に社内に広まった。
 そのうえ富士通では、一般社員と異なり、管理職の成績は絶対評価で評価し合うのだが、相手の高い評価を期待すれば、自然と自分からの評価も高くなる。このようにして、管理職はほぼ全員がAになった。もちろんこんなことは部下には言えないから、管理職の評価は徹底して秘密にされていた。
 その後、若手社員の不満が高まり離職が相次ぐと、驚いた人事部はこの絶対評価を全社に適用してしまう。その結果ほとんどの社員がA評価を取るようになり、かといって人件費の予算は決まっているのだから、評価は報酬にまったく結びつかなくなった。こうして査定直前まで目標シートを提出しないことが常態化し、日本的雇用の改革の象徴とされた成果主義は完全に崩壊したのである。

『貧乏はお金持ち』(講談社プラスα文庫)橘玲 P.44-45

約20年前に起こった富士通での出来事だが、今も似たような現象に見舞われている企業は多いと思う。

現代は人手不足が企業の大きな課題であるため、成果主義を導入することで「目標未達は減給するぞ」と脅しを掛けられた社員が実際に目標に未達になり減給されたとしても、それにより離職する社員が増えると更なる人手不足になってしまう。それを恐れて結局のところ減給に踏みきれないか、減給を断行したとしてもその「見せしめ」によって他の社員が大量離職する可能性もある。

「お前の代わりはいくらでもいる」といった労働市場の場合は機能するかもしれない成果主義の脅しも、この状況ではあまり社員の心に響かないだろう。そういう状況のなかで半年ごとに「成果主義を導入するから数字が達成できないとお前の評価もいよいよ下がるぞ」と言われても「そうですか、わかりました」という心無い返事をすることになってしまっている。

まぁ、ここまで書いておいてこんなことも言うのも少し変だが、とはいえ仕事で課された目標はしっかりと達成していこうと実は思っている。そうでもしないと面白くないからだ。

チャレンジして未達で終わった場合も「どうせ脅しだしな」と受け流し、目標を達成しても「どうせ報酬は大してもらえない」と期待せず、下らない期待をさせる言葉や脅し文句には目もくれず、自分の時間と体調とメンタルを正常に保ち、よく本を読み、美味しいものを食べ、美しい場所に出かけ、節約生活をこなして健やかな生活を続けていこうと思っている。一生懸命頑張るのは尊いことだが、冷静な判断を心掛けて、自分の人生は大切にしよう。

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