読売誤報問題で浮かぶ記者の主観的判断 提示すべきは検証可能な客観的事実

新聞に喝! ブロガー・藤原かずえ

読売新聞の石破茂首相「退陣」に関する報道検証記事(松井英幸撮影)
読売新聞の石破茂首相「退陣」に関する報道検証記事(松井英幸撮影)

新聞の誤報には、主として①真実の報道義務に違反したことへの役割責任②誤報による被害を償う因果責任―という2つの責任が問われます。読売新聞は、最近判明した2つの誤報を検証する記事をそれぞれ掲載しました。

1つ目は、7月23日の号外などで報じた「石破首相退陣へ」という誤報です。検証記事によれば、石破茂首相が22日夜、日米関税交渉が合意に達した場合に「記者会見を開いて辞意を表明する。辞めろという声があるのなら辞める。責任は取る」と周囲に明言したとしています。また、23日夜にこの記事を読んだ石破首相が「こういう記事を書かれると俺も燃える。もう辞めないぞ。しばらくは『誤報だ』と言い続ける」と周囲に語ったとしています。

読売新聞は、これらの調査結果から「結果として誤報となった」と弁解しています。しかしながら誤報記事は「辞めると明言した」という周囲からの二次情報を示すことなく「退陣する意向を固めた」「決断した」と断定しています。もしこの二次情報が事実ならば、それ自体を報じるのが論理的な態度でした。読売新聞には、根拠を示さずに事実を断定したことへの役割責任と国民不在のままに首相に不要な反発心を抱かせて政局を作ったことへの因果責任が問われます。

2つ目は、池下卓衆院議員(維新)が「国から秘書給与を不正に受給していた疑いがあるとして、東京地検特捜部が捜査していることがわかった」と8月27日の1面トップで報じた誤報です。

検証記事によれば、この誤報の取材手法は、関係者に池下氏への捜査の有無を問い、その反応から主観で真偽を判定するというものでした。つまり読売新聞は、誤報の可能性を認識していながら、慎重な見極めが必要な不確定情報をあて推量で報じたのです。これは読売新聞の取材手法に信頼を置いている読者に対する裏切りであり、役割責任が問われるものと考えます。

また、翌日に掲載された「取材の過程で、池下議員と石井議員を取り違えてしまいました」とするわずか約270字の謝罪文は、誤報のインパクトに比べてあまりにも不相応であり、可能な限り誠実に報道被害者の名誉回復をする因果責任がある立場として不適当です。

もちろん、読売新聞が2つの誤報について詳しい検証を行ったことは、誤報の訂正義務を果たす真摯(しんし)な対応ですが、国政や人権に関わる重大な不確定情報の真偽を記者が主観で判定して確定的に報じたことは責任を欠く行為です。報道機関に求められるのは、記者の主観的判断ではなく検証可能な客観的事実の提示です。

藤原かずえ

ふじわら・かずえ ブロガー。マスメディアの報道や政治家の議論の問題点に関する論考を月刊誌やオピニオンサイトに寄稿している。

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