中村元さんが立ち上げた前科者や経歴に"ワケ"がある人を支援するサービス「YOTSUBA(よつば)」の面談風景(photo本人提供)
中村元さんが立ち上げた前科者や経歴に"ワケ"がある人を支援するサービス「YOTSUBA(よつば)」の面談風景(photo本人提供)

ブログに綴った再就職までの道のり

 中村さんは、書類の書き方や面接での回答、事件の伝え方などあらゆる面で試行錯誤を重ねた。ただ、事件のことを隠すことは一度もせず、すべて面接で正直に打ち明けたという。

 こうして36社に応募した末、再就職活動を開始してから約1カ月後にWEBマーケティング系のベンチャー企業に、正社員として再就職することができた。前職での実績を評価されたことに加え、前科を隠さず誠実に向き合った姿勢や、仕事を通じて社会貢献していきたいという熱意に期待をかけられての採用だった。

 収入は前職より約4割ダウンした。それでも、培ってきた知識を生かし、がむしゃらに働いて成果を出し、やがて社内でも重要なポジションを任せられるほど信頼を勝ち得ていったという。

 再就職後の18年末、ブログ「ぼくだからできること。」を開設し、逮捕から再就職に至るまでの経験をつづった。批判されたらすぐに閉じようと思っていたが、似たような境遇の人やその家族から「生きる希望をもらった」「絶望から前を向けるようになった」などの声が多数寄せられた。

社会が前科者を拒絶するのは「自然な反応」

 こんな自分でも、世の中の役に立てるのかもしれない――。

 自らの恥ずべき経験を生かし、必要としてくれる誰かの役に立ちたいという思いが湧いてきた。23年6月に独立し、前科者や経歴に“ワケ”専門的な知識も身につけた。相談はZoomを使い、マンツーマンで行う。全国から相談が寄せられ、これまで延べ300人以上が利用。多くは逮捕歴や前科がある人、懲戒解雇などの経験者だ。

 伝えるのは、まず大前提として、事件から逃げずに過ちと向き合い、絶対に再犯しないと誓うこと。面接でも包み隠さず事情を説明できるようにすること。その上で自身の特徴や強みを生かした職業について考え、面接や書類で最大限アピールできるようトレーニングを積んでいく。個別コンサルティング利用者の約9割が、過去のスキルや経験を生かしホワイトカラーの企業に再就職しているという。

 中村さんは、「社会が前科者を拒絶するのは自然な反応」と言う。

「しかし、死刑や無期懲役以外は必ずいつか社会に戻ってきます。そうした人たちを排除すれば、行き着く先は自ら命を絶つか、失うもののない『無敵の人』となって他人に危害を加えることになりかねません。そうなれば、社会全体の不幸につながってしまうと考えています」

仕事がないことが再犯につながるケースは多いという(写真はイメージです photo gettyimages)
仕事がないことが再犯につながるケースは多いという(写真はイメージです photo gettyimages)

仕事がないことが再犯の引き金に

「犯罪白書」(23年版)によると、刑務所を出た後、22年に再入所した8180人の約7割が無職だった。仕事がなく、経済的困窮に陥ることが、再犯の引き金になりやすいとされる。

 中村さんは、過ちを犯した人たちの社会復帰が難しいのは当然であり、自業自得であることに変わりはないという。だから、前科者を無理に受け入れてほしいのではなく、前科者が存在する現実を社会が正しく認識してほしいと訴える。それが、新たな被害者を生まないことにつながる、と。今後は警察やハローワークなどと連携し、インターネットを利用しない人たちにもサービスを届けるなど、より多くの人がサービスを利用できる体制を築いていきたいと話す。

「過ちを認めて更生したのであれば、その人たちを排除するのではなく“生かしていく”ほうが賢明だと思うのです。人生を諦めることなく前を向き、新しいキャリアの中で活躍してもらうことが企業の成長や経済活動の活性化につながるものだと信じています」

 罪を犯した人々の社会復帰をどう支え、新たな被害者を生み出さないようにするか。社会は難しい課題をつきつけられている。

(AERA編集部・野村昌二)

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