万博に<DJ警備員>、「コモンズBのお兄さん」の愛称浸透…「警備業界の甲子園だ」
テイシン警備の根岸佑典さん
「みんな大好き『コモンズB』ですよー。26か国のスタンプが押し放題、もはや修行です。全部押すまで帰れません」 【写真】コモンズBの館内(大阪市此花区で) 会場中央の「静けさの森」近くにある共同館「コモンズB」。その前に、DJのように声を張り上げる警備員が立っている。「コモンズBのお兄さん」の愛称がじわじわと浸透中の、テイシン警備(埼玉)の根岸佑典(ゆうすけ)さん(33)だ。
9月8日は平日午後にもかかわらず会場は混雑し、コモンズBも入場規制がかかるほどだった。そんな時、根岸さんの地声が響く。 「阪神タイガース優勝おめでとうございます。コモンズBも万博で優勝したいです」。前夜、阪神が2年ぶりのリーグ優勝を決めたばかり。関西人の心をつかむ言葉選びに、うだる暑さの中で入場の順番を待つ人たちから、笑いが起きた。 歩きスマホをする人を見つけると「順番抜かしされても、責任取れませんからね」と声かけ。衝突などの事故を防ぎつつ、巧みに人の流れを加速させた。
埼玉県の高校を卒業後、製造業や建設業に従事してきた。配管工をしていた一昨年、現場で通行人らに声をかける警備員がふと、気になった。「あの人たちが見守っていてくれるから、現場の作業がスムーズに進むんだ」。思い立って昨春、テイシン警備に入社した。 最初は、「得意の大声を出しておけばなんとかなるだろう」と高をくくっていた。ただ、現場に立った瞬間、甘さに気づかされた。 通学路、車が多い道、見通しの悪い交差点……。それらは季節や天候によって景色が変わる。事前に現場を頭に入れて、特性に合った声かけをしないと、通行人に響かない。準備が重要な仕事だった。
1年がたった頃、上司に万博の警備に興味があるかと尋ねられ、うなずいた。「採用されたら、警備業界の『甲子園』だ」と思った。 いざ、開幕。根岸さんは「コモンズB」前の警備を任された。想像以上の混雑ぶりにたじろいだ。「押さないで」。自分の声に、誰も見向きもしなかった。