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ハガキ職人から放送作家、そして廃業へ。1

 
2017年8月5日は、僕が人生で2番目にたくさん泣いた日です。

同棲していたカノジョが言った「お金、足りてるの?」という一言がきっかけでした。それは僕自身がここ1年ずっと気に掛かっていたことで、怖くて目を背けていた深刻な問題でした。カノジョにしたら、週に2日しか仕事に出ていかない僕を見て心配にならない方が不自然です。

しかし、僕の仕事がフリーランスの放送作家という特殊な収入形態であること。つまらないプライドが捨てられずにいる僕の性格を理解して、ずっと言わずに我慢してくれていたのです。

16年前、深夜のラジオ番組『ナインティナインのオールナイトニッポン』へのハガキ投稿をきっかけにディレクターに拾われ、僕は22歳で放送作家になりました。26歳で年収1400万円を越え、若くして身の丈に合わないお金を手にして、天狗になり調子に乗り、貯金もせずに夜の街で遊び呆ける毎日。

仕事をいただける感謝の気持ちも持つことができず、無駄に虚勢を張った振る舞いと、人を人とも思わず「ありがとう」も「ごめんなさい」も言わない殿様商売を続けて来ました。気づけば38歳。収入はピークの10分の1にまで落ちていました。 

すべて、自分のせいです。 

このマガジンは、僕の放送作家としての16年間の活動を綴った「後悔と反省の記録」です。反面教師の材料にもならない、東京のどこかで一人のバカがバカをやって最後に泣いたというだけの話。

これを書き綴ることで自分と向き合い、反省することだけが今の僕にできるすべてです。どうか、僕のバカさ加減に嫌気がさすまで、あるいは興味の失せるところまで優しい気持ちで読んでいただけたら幸いです。 


【大学生(21歳) 2001年 】

僕は大学4年生で就職活動もせず、毎週木曜・深夜1時のラジオ番組『ナインティナインのオールナイトニッポン』にハガキを投稿するだけの生活を送っていました。まだインターネットも一般的ではなかった時代、当時全盛だったテレビよりも、さらにディープな笑いを楽しめるものとして深夜ラジオがありました。

その中でもナイナイANNは、毎週、数千通というハガキが届く人気の番組で、僕は「顔面凶器」というペンネームでハガキ職人をやっていました。
ハガキ職人とは、ラジオ番組にネタハガキを送る常連リスナーのことを指し、僕が高校生の頃はクラスの男子の半分ぐらいがやっていた人気の遊びの一つでした。

僕は大学3年の春ぐらいから本格的にハガキを出し始め、割とすぐに採用されるようになり、半年ほどで「ハガキ職人ランキング」で1位になりました。これは3ヶ月に1度、読まれたハガキの枚数を集計してランキングにするというコーナーで、僕は1年間にわたり4回連続1位を防衛し続けました。

当時、ハガキ職人が番組に投稿するモチベーションとしては「岡村さんにネタを読んで欲しい」「矢部さんを笑わせたい」「番組のノベルティ(ハガキを読まれるともらえるグッズ)が欲しい」「ただの暇つぶし」という人もいたでしょう。しかし、ランキング入りを目指してたくさんネタを送る人のほとんどは「放送作家になりたい」という気持ちでハガキを送っていたと思います。もちろん僕もその一人でした。

実際に、僕より前にナイナイANNからは2人の放送作家が誕生しており、そのうちの1人は番組の構成作家も務めていました。そんなラジオ版のシンデレラストーリーに憧れ、僕は大学4年になっても就職活動を一切せずリクルートスーツすら買うことなく、番組にハガキを出し続けていたのです。

そんな折、僕はラジオ局があるお台場へナイナイさんを「出待ち」しに行きました。生放送が終わって出て来る岡村さんと矢部さんを待ち伏せするのです。ゆりかもめの終電に乗ってラジオ局に到着すると、すでに出待ちの人らしき女の子の集団がいました。聞けば、彼女たちは岡村さんと矢部さんがラジオ局に入ったときの「入り待ち」もしたそうで、さらに出待ちもするという熱狂的なファンでした。

生放送が始まる深夜1時には、お台場は車も人通りもほとんどなくなり、僕はラジオ局の前の歩道に座り、ポケットラジオで生放送を聞いていました。当時、そのラジオ局はフジテレビの最上階にあり、僕は巨大なビルのてっぺんを見上げながら「今まさに、あそこでナイナイのお二人が喋っているのか」と感動したものです。 

2時間の生放送を聞いている途中、僕は手持ち無沙汰になりコンビニでお茶と食玩の「ミニ黒ひげ危機一発」というオモチャを買いました。

そして、生放送が終わった深夜3時過ぎ。いよいよナイナイのお二人が地下駐車場から出て来ました。先に上がって来たのは岡村さんの車。出待ちのファンたちが一斉に群がり、岡村さんは窓を開けてそれに応えます。女子たちは手紙を渡したりプレゼントや差し入れのタバコを渡したり。その間を縫って僕もお話しすることができました。

「いつもハガキを出してます。ペンネーム顔面凶器です!」

すると岡村さんは
「お前か、顔面凶器って。いつも、ありがとうな!」

走り去る岡村さんの車を見つめながら、僕は胸のドキドキが止まりませんでした。これが岡村さんとの初対面です。

続いて矢部さんの車が上がってきました。このとき僕はふと思いました。出待ちしているファンの中で、僕だけがプレゼントを持っていない、と。

(矢部さんに、何かプレゼントを渡さなきゃ!)

僕はとっさに、さっき買った「ミニ黒ひげ危機一発」を渡しました。 

矢部さんは「なんで、黒ひげなん?」と不思議そうにしていましたが、「ありがとう」と言って受け取ってくれました。これが矢部さんとの初対面です。

矢部さんの車が走り去った後、出待ちの人たちは散り散りにいなくなり、僕は一人でゆりかもめの始発の時間を待っていました。近くにお店や時間を潰せるような場所はありません。
仕方なくラジオ局の前に座っていると、背後から誰かに声をかけられました。

「顔面凶器って、キミ?」

「はい、そうですが」

「私、ナイナイANNで構成作家をやっているAといいます」 

その人は、ハガキ職人から放送作家になったAさんでした。

「実は今、岡村さんから電話があって。下に顔面凶器が来てるから、何とかしたって! って言われちゃって…」

岡村さんは車で走り去った後、わざわざスタジオに連絡をしてくれたそうなのです。僕はそこでAさんと連絡先を交換させていただきました。

岡村さんの一本の電話が、僕が作家になるキッカケを作ってくれたのです。

大学4年の春になり、どんどん周りが就職先を決めていく中で、僕は未だラジオに投稿を続けていました。あの日、Aさんに連絡先を教えたはずなのに、一向に番組からのオファーは来ません。

(早くしてくれよ!) 

僕は、ラジオ局側から「放送作家になりませんか」とオファーが来るものだと、すっかり勘違いしていたのです。

この話は続きます。
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