「そうめん調理は重労働」→「付け合わせがない人は育ちが悪い」論点すり替えでSNSが大荒れ…何気ない投稿に日本中がヒートアップしたワケ

2025/08/15 13:00
そうめん
お盆中、SNSで勃発した「そうめん論争」が話題となっています(写真:Tiny Nature/PIXTA)
目次

8月13日、Xのトレンドに「そうめんの付け合わせ」「育ちが悪い」というフレーズが長時間にわたってランクインしていました。

当初、議論の焦点だったのは「そうめんを作ることは重労働なのか」。

「暑い中、ゆでるだけでも大変なのに手抜きだと決めつけられる」「家族の人数分ゆでて、冷やして氷入れて、つゆと薬味を用意するのは大変」などと主に作り手が理解を求めるような声があがっていました。

時間の経過とともに話題は付け合わせに広がり、議論は活性化。

「ウチは付け合わせがないけど気にならない」「薬味さえあれば十分だろう」「むしろ、そうめんは麺だけで食べたい」「作ってもらっているくせに、付け合わせがないだけで文句言うな」などのさまざまな声があがりました。

問題はその後、「そうめんの付け合わせがない家は育ちが悪い」という論点にすり替わってしまったこと。

「ウチはなかったけど、それで育ちが悪いとは言われたくない」「自分の母親はつゆだけだったけど、それで育ちが悪いのか?」「そうめんだけ出てくる家は嫌」「育ちがどうこうではなく、食欲がないからそうめんを食べるのに付け合わせなんていらない」「そうめんの付け合わせは愛だと思ってる」などの強い言葉が飛び交う事態になりました。

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【論争がヒートアップした「4つの必然性」】

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そうめんのつけ合わせという1つの要素だけで「育ちが悪い」とみなすことの乱暴さ、強引さは否めないだけに、なぜこれほど議論がヒートアップしてしまったのか理解できない人もいるでしょう。

ただ、その理由を考えていくと、4つの必然性が浮かび上がってきます。

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「育ちが悪い」という感覚の本質

議論がヒートアップした1つ目のポイントは、他人に「育ちが悪い」と感じる人の心理。

そもそも「育ちが悪い」とは何なのか。主に言葉づかい、振る舞い、マナー、身だしなみ、生活習慣、お金の使い方などで、他人に不快感を抱かせたり、見ているだけで恥ずかしいと感じさせたりしたときに「育ちが悪い」と感じられる傾向があります。

たとえば、乱暴な言葉を使う、音を立てて食べる、場違いな服装で現れる、たびたび人を待たせる、お金を借りたがるなどの他人にネガティブな感情を抱かせる行為が多くを占めています。

ただ、実際のところ“育った環境”というより、“大人になってもそれを直そうとしない人間性”を批判する際に使われやすい言葉なのかもしれません。

その点、今回のそうめんの付け合わせは、誰かにネガティブな感情を抱かせる行為ではなく、個人の自由でどちらでもいいこと、特に直す必要のないことです。育ちとはほとんど関係のないことに「育ちが悪い」という言葉を持ち出すことは、差別意識の表れと言われても仕方がないでしょう。

逆に「育ちがいい」とほめられるのはどんな人なのか。最も「育ちがいい」と言われるのは、他人を気づかい、尊重できる人。言動が他人に安心感を抱かせる人のことであり、他人の「そうめんの付け合わせ」に何かを言う人ではないことは確かです。

その意味で、今回リツイートの多かった「他人に『育ちが悪い』という人こそ育ちが悪い」というコメントは的を射ていました。

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【どちらでもいいことでも、ついマウントを取り合ってしまう】

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もし他人の食事について語るとしても、本人の努力では変えられない「何を食べて育ったか」ではなく、本人の努力で変えられる「どのような食べ方か」を対象にするのが自然でしょう。

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“漠然とした不安”が無用な書き込みに

議論がヒートアップした2つ目のポイントは、どちらでもいい些細なことでも、ついマウントを取り合ってしまう社会のムード。

差別意識の自覚がなくても、優劣や勝敗、上下や大小、順番や序列などには敏感で、「自分より劣っている人を見て安心したい」という心理傾向の人が少なくありません。

特にネット上では「不安をやわらげるために、自分より劣っていそうな人を見つけてコメントを書き込んで無意識にマウントを取る」というケースがよく見られます。

すると、そのつもりはなくてもコメントには上から目線のニュアンスがにじんでしまい、思わぬ批判を受けることがしばしばあります。

今回のそうめんの付け合わせに関しても、優劣のないものに優劣を見出したことに選民意識を感じられてしまい、反響が大きくなっていった感がありました。

では、なぜどちらでもいい些細なことでもマウントを取ってしまうのか。日ごろ、コンサルタントとしてお悩み相談を受けていると、漠然とした不安を抱え、心の余裕がない人ほど優劣や勝敗などに敏感で、些細なことでもマウントを取ってしまう傾向が見られました。

自分を守ろうとする防衛本能のようなものでしょうが、どちらでもいい些細なことだけにそのマウントは不安軽減にはつながりません。

さらに無記名のネット上だからこその無責任が加わり、強いコメントを書き込んでしまいやすいことも問題の1つ。今回のケースでも、冷静になったあとに「そうめんの付け合わせなんてどちらでもいいことのはずなのに、何でこんなにキツイことを書いてしまったのだろう」と感じた人は多いのではないでしょうか。

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【自らのコメントによって、ますます生きづらい社会にしている】

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漠然とした不安を抱え、心に余裕のない人が、自らのコメントによって、ますます生きづらい社会にしているところに危うさを感じてしまいます。

漠然とした不安をやわらげるために必要なのは、その内容を感覚ではなく具象化し、自分ができるレベルの一歩だけでも踏み出すこと。それができれば、ネット上のどちらでもいい些細なことにコメントし、ついマウントを取ってしまうことはなくなるでしょう。

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マウントを取られた「多数派の怖さ」

議論がヒートアップした3つ目のポイントは、無用な対立構造を生み出そうとするネガティブな連帯感。

Xを見ていて最も多かったのが、「そうめんに付け合わせは必要か」「なくてもいいけど、付けるなら何か」という観点からのコメントでした。差別意識のようなものはなく、地域の習慣による違いをあげるなど、気軽に意見交換できるネットのよさを感じさせられたのです。

しかし、時間の経過とともに、「『そうめんの付け合わせがない人は育ちが悪い』という言う人はけしからん」という不満や怒りの声が増えていきました。

「そんなことはない」という結論がほぼ出ているようなテーマであるにもかかわらず、このような不満や怒りの声が増えてしまったのはネガティブな連帯感が発生したからでしょう。

焦点は、そうめんの付け合わせがない人が、そうめんの付け合わせがある人に対して、「そんなことでマウントを取ろうとするな」と、逆にバカにするようなニュアンスが感じられたこと。

こうなると強いのは、マウントを取られた多数派であり、さほどマウントを取るつもりのなかった少数派を過剰に叩くようなコメントが増え、思わぬ盛り上がりにつながってしまいました。

それを象徴していたのが下記のツイート。

「そうめんの付け合わせがない家は育ちが悪いというツイートが流れてきて、人の家の飯を小馬鹿にするのは育ちが悪いなと思った」

最もリツイートされていたのはこのコメントであり、真偽不明の伝聞をもとにネガティブなムードが広がっていく危うさがうかがえたのです。

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【本来どちらでもいいことに対立構造を生み出す人びと】

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問題は「多数派の自分たちにマウントを取っている」というコメントを見つけたら束になって叩こうとするネット上のムード。

「本来どちらでもいいことに対立構造を生み出し、名前も顔も知らない誰かを多数で叩こうとする」とという罪深さを感じさせられます。

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「冷やし中華」でも「スイカ」でもよかった

最後に議論がヒートアップした4つ目のポイントは、常にほどよいネタを探しているネットユーザーの日常。

「育ちが悪い」論争の中に、「お盆にそうめんでこれだけ盛り上がれる日本って平和だな」というニュアンスのコメントをいくつか見かけました。

そうめんは誰もが知っている夏の風物詩でありながら、あまり話題になることが少ない食べ物。ラーメンのように熱狂的なファンは少なく、さほどこだわりがない人が多いという語りやすさも含め、季節性が高い割に議論の余地が多いテーマの1つでしょう。

今回のケースではその語りやすさに加えて「付け合わせがない人は育ちが悪い」という否定が多そうなネタが投下されました。

「そうめんの付け合わせに正解がないことはわかったうえでこれを棚に上げつつ、叩けそうなところをピックアップして盛り上げよう」という意図を感じさせられたのです。

コメントを書き込んだ多くの人々にとって、付け合わせどころか、そうめん自体に、それほど言いたいことはなかったのではないでしょうか。そのテーマは、冷やし中華でも、すいかでも、かき氷でもよく、今日これらが議論の中心にすり替わっていても驚きはありません。

ただ、ネット上においても「『育ちが悪い』というコメントはけしからん」という対立構図をけしかけるようなコメントは、できるだけスルーできる世の中でありたいところです。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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