「問題はイスラエルによる占領だ」ハマス幹部単独インタビュー:辻󠄀'sANGLE

今回のアングルは先週のイスラエルの閣僚へのインタビューに続いて、イスラム組織ハマスの幹部とのインタビューをお伝えします。

ハマスの正式名称は「イスラム抵抗運動」。略称でもあるハマスはアラビア語で「情熱」を意味します。1987年の発足以降イスラエルとの武装闘争を掲げ、アメリカやヨーロッパの多くの国々がテロ組織に指定しています。

今回、インタビューに応じたのはハマス幹部のオサマ・ハムダン氏。カタールの首都ドーハに拠点を置いています。インタビューはドーハにいるハムダン氏とつないでオンラインで行いました。 

イスラエルがハマス幹部殺害のためにそのドーハを空爆したとの一報が入ったのは、私たちがインタビューを終えたわずか45分後でした。違う建物にいたハムダン氏は無事でした。ただ、停戦協議にあたっていたハマス幹部を殺害しようとした空爆は、“イスラエルは停戦協議を放棄しようとしている”と非難されても仕方ない行為です。

(「国際報道2025」で9月10日に放送した内容です)
 

・「パレスチナ人を毎日殺している軍を相手にした戦いだ」

ハムダン氏にまず私が尋ねたのは、今回の大規模な戦闘のきっかけとなった、おととし(2023年)10月のハマスによる奇襲攻撃についてです。この攻撃でイスラエル側では市民や兵士1,200人が死亡し、およそ250人が人質にとられました。これがイスラエル側の破壊的な攻撃を招きました。このことをどう捉えているのでしょうか。
 

ハムダン氏:イスラエルはパレスチナを占領し、われわれはそれに抵抗しているだけです。イスラエル軍がパレスチナ人を殺しているので、ハマスはイスラエル軍を攻撃しているのです。
 

辻󠄀キャスター:だからといって1,200人を殺し、250人を人質にとっていいわけではありません。
 

ハムダン氏: パレスチナ人を毎日殺している軍を相手にした戦いなのです。
 

辻󠄀キャスター:ハマスが市民を殺したことは認めますか。

ハムダン氏: 認めません。

辻󠄀キャスター:それはどういう意味ですか。
 

ハムダン氏: 誰だって何だって言えます。
 

辻󠄀キャスター:(市民の殺害を)証明する映像があります。
 

ハムダン氏: あなたはよく知っているはずです。映像はAIで生成できます。
 


殺害されたイスラエルの市民などは1人1人特定され、名前も写真も明らかになっています。ハマスの主張は、事実と異なっています。ただ、ハムダン氏の主張は、イスラエルによる占領が問題の根幹にあるというものです。
 

イスラエル軍は国際法に違反する形でヨルダン川西岸やガザ地区、東エルサレムの占領を続けています。占領下でパレスチナ人は基本的な権利が奪われています。
 

・ハマスは何を実現したいのか

続いて尋ねたのは、これだけの犠牲を出しながらハマスは何を実現したかったのか、ということです。ハマスが掲げる目標、つまりガザの封鎖の解除や、イスラエルの占領の終結は何一つ達成されていません。現状は、ガザの市民が筆舌に尽くしがたい代償を払っているだけです。
 

辻󠄀キャスター:6万4,000人が死亡し、大勢のけが人が出て、ガザ地区全体が破壊され尽くしています。これだけの代償をパレスチナのガザの人々が払っているのです。にもかかわらず、何も得られていないのではないですか。
 

ハムダン氏: 問題は依然としてイスラエルによる占領にあります。占領者はこう言います。“降伏するか殺されるかだ”と。でなければ奴隷のように生きるだけです。パレスチナは奴隷国家にはならないし、私たちは自由を求めているのです。

国際社会は何をしているのでしょうか。なぜ大量虐殺をするイスラエルになぜ経済制裁を科さないのか。なぜ政治的な制裁を科さないのか?イスラエルにだけは国際法が適用されないとでも?
 

藤重キャスター: ハマスはイスラエルに抗うこと、そのものが目標になっているということでしょうか?

辻󠄀キャスター:イスラエルとの武装闘争を掲げて発足した組織ですからね。
 

・「奴隷のように生きるのか、それとも自由になれると信じて抵抗するのか」

酒井キャスター: ガザでは6万4,000人以上が亡くなり、飢きんも発生しています。ガザの人々はハマスのことをどう思っているのでしょうか?

辻󠄀キャスター:市民の間ではハマスに対するフラストレーションが高まっていると思います。
 

こちらは、パレスチナの調査機関が行った世論調査です。ガザの市民に対して「ハマスの10月7日の奇襲攻撃は正しかったか」と尋ねた質問です。去年(2024年)3月には71%の人が「正しかった」と答えていましたが、ことし(2025年)5月の最新の調査では37%にまで減っています。

パレスチナの市民が苦しみを強いられていることに、ハマスは責任を感じているのか、聞きました。
 

辻󠄀キャスター:ガザの市民が直面する苦しみについて、責任を感じていますか?
(2年前の)10月7日にハマスが大規模な攻撃をしなければ、今の惨状は起きていないはずです。

ハムダン氏: 犠牲者を責めるべきではありません。責めるべきは自動小銃を構え、戦闘機から爆弾を落とし、家や生活を破壊している側の方なのです。
 

ハムダン氏: パレスチナ人としてではなく、自由な人間として、あなたはどう考えるのか。奴隷のように生きるのか、それともいつの日か自由になれると信じて(占領に)抵抗するのか。ハマスとしてではなく、パレスチナ人として、パレスチナという国として抵抗することを選んだのです。
 


パレスチナ市民の苦しみも含めて、あくまでイスラエルに対する抵抗運動だという主張でした。

視聴者のみなさんの中には、欧米の国々がテロ組織に指定するハマスに、なぜ主張の機会を与えるのかと思った方もいらっしゃるかもしれません。それでも私たちは双方の主張を伝えることは重要だと考えています。両者の立場を理解するためには、欠かせないと思うからです。

以上、ハマスの主張をお伝えしました。
 

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※放送後から1週間ご視聴いただけます
 

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辻󠄀浩平(「国際報道2025」キャスター)

エルサレム支局、政治部、ワシントン支局、ロシア・ウラジオストク支局などを経て現職。パレスチナ問題やウクライナ情勢、トランプ支持者の取材など、各地で深まる対立や分断を取材。