2025-09-18

たった一度だけした「完全犯罪」──それでも消えない重さ

あの夜の冷たさは今でも思い出せる。

誰にも言わなかった。言えなかった。だからここに書く。

彼は悪党だった。人を利用して金を稼ぐことにしか興味がない男。

特に知的障害のあるあの子のことを笑顔仮面で囲い込み、色恋で縛り、風俗に落としていた。

誰も気づかないふりをしていた地域空気行政書類の束、そして彼の巧妙な「優しさ」。

僕はその全てを見て、胸が腐るほど痛んだ。

ある日、婚約者に裏切られ、彼から直接金を奪われたことを知った。

奪われたのは金だけじゃない。希望も、退路も、言葉にできないものも。

怒りは冷めず、むしろかに燃えた。復讐ではない。取り戻したかっただけだ。

取り戻すべきものはあの子笑顔に重なっていた。

計画は短く、曖昧しか書けない。

ここで細かく書く気はない。完全犯罪なんて教えるつもりもないからだ。

ただ一つだけ言えるのは、「暴力も、直接の危害も使わなかった」ということ。

人を傷つけることではなく、彼の築いた偽りの城を静かに崩したつもりだった。

そして、たった一度――金を手にした。

それは彼にとっての「損失」ではなかった。彼はすぐに別の方法帳尻を合わせるだろう。だが僕にとっては違った。

の子に渡したとき彼女は驚きもしなかった。むしろ、泣きながら手を振って笑った。

その笑顔だけで、僕は何年分もの重荷を下ろした気がした。

後日、警察行政も動かなかった――あるいは動けなかったのかもしれない。

世の中はいつもそうだ。声をあげても届かない場所がある。届かせる力がない人もいる。

から僕は、一度だけ自分で線を越えた。線の先に法があることは分かっている。罰を受ける覚悟も一瞬はした。だが結局、誰にも見つからなかった。

それでも、夜になると胸の奥に小さな石がある。

あの「完全犯罪」は完璧だったのか。法の目を逃れたからといって、それが正しかったのか。

の子笑顔が戻ったのは紛れもない事実だ。だが僕の心には代償が刻まれた。

読んでいる君へ――もし正義復讐の境目で迷うことがあったら、僕の話を思い出してほしい。

たった一度の行為で救えることもある。だがそれで自分が壊れることだってある。

僕はまだ答えを探している。後悔と救いのどちらが重いのか、まだ分からないままだ。

追伸:あの子は今、少しずつ自分の足で歩き始めていると聞いた。

それだけは、本当に良かったと思える事実だ。

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