追加告発状の「利害誘導罪」について

本稿では、斎藤元彦氏らの公選法違反の告発に関して、追加告発状を神戸提出した件について解説します。「追加告発状」と言っても、当初告発の公職選挙法221条1項1号の「買収罪」に加えて、適用すべき罰条と告発事実の構成として、2号の「利害誘導罪」を追加したもので、公選法違反事実としては同一です。

まず、追加告発状に記載した、本件を利害誘導罪として構成した告発事実を以下に示します。

被告発人斎藤は、当選を得る目的をもって、同年9月29日ころ、「株式会社merchu」事務所において被告発人折田らと面談し、その後10月5日ころまでに、被告発人斎藤のための選挙運動を依頼し、被告発人折田に応じさせるとともに、選挙準備として「株式会社merchu」に業務を発注することとし、10月3日から9日頃にかけて、被告発人斎藤が、同社に同選挙における「公約のスライド制作」、「チラシのデザイン制作」、「メインビジュアルの企画・制作」、「ポスターデザイン制作」、「選挙公報デザイン制作」の業務を発注し、11月4日、「斎藤元彦後援会」名義で、上記業務の対価として合計71万5000円を同社に支払う一方、被告訴人折田に、公式応援アカウントの取得、記載事項のチェックなどの被告発人斎藤のための選挙運動を行わせ、もって、選挙運動者に対し、特殊の直接利害関係を利用して誘導した。

この追加告発と当初告発事実は、同一の選挙における同一の選挙運動者の被告発人折田が行った選挙運動と同人が代表取締役を務める会社への同一の支払について公選法違反の嫌疑に関するもので、社会的事実としては同一です。本件については、公選法221条1項1号を適用し買収罪で起訴することも十分に考えられますが、同条項2号を適用し、利害誘導罪によって起訴を行うことは、被告発人斎藤側の主張を前提としても可能と考えられます。

両者の告発事実は択一関係、つまり、どちらかを選択できる関係にあります。

利害誘導罪とは

利害誘導罪の構成要件は、

「当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもって」

「選挙人又は選挙運動者に対し」

「その者又はその者と関係のある社寺、学校、会社、組合、市町村等に対する」

「用水、小作、債権、寄附その他特殊の直接利害関係を利用して誘導をした」

です。

利害関係が観念される場は、行為者と関係がある場合、ない場合どちらもあり、

  • (1)行為者と選挙運動者等との間、
  • (2)行為者と選挙運動者等と関係のある者との問、
  • (3)行為者以外の者と選挙運動者等との間、
  • (4)行為者以外の者と選挙運動者等と関係のある者との間

の4つと解されています。

同罪の成立には、利害関係を利用して誘導をすることが必要ですが、「誘導」とは、利害関係を利用して選挙人又は選挙運動者を特定の候補者のために当選を図り又は当選させないように誘うことであり、「相手方である選挙人又は選挙運動者の決意を促し、又は現に存する決意を確実にするため、特殊の直接利害関係をその者の利益に発生、変更、消滅させることを申し入れることをいう」と解されています。

誘導の方法は、文書か口頭かは関係がなく、また明示でも黙示でもよく、要するにその意思表示が相手方の認識に到達することをもって足りるとされています。また、相手方がそれにより意思を動かされたことや、誘導に応じたことは不要とするのが判例です。

折田氏が「選挙運動者」であること

当初告発で述べているように、本件では、note 記事の投稿通り、選挙におけるSNS 戦略全般を折田氏に依頼していたことは明らかであり、折田氏は「選挙運動者」です。

また、仮に斎藤氏の代理人弁護士の説明通り、「株式会社merchu」への依頼が5項目に限定されるとしても、少なくとも、折田氏が、「公式応援アカウント」の取得、「公式応援アカウント」の記載事項のチェック、街頭演説会場などにおける動画の撮影、アップロードについて、「ボランティア」で行っていたことは、斎藤氏側も認めています。

「応援アカウント」の実際の設置や運用は、明らかに一連の広報戦略の下で、折田氏の発想で設置され、折田氏の考え方にもとづき運用されています。

今回の選挙では、「公式」の「応援アカウント」が設置されており、その投稿内容も、「本人アカウント」との連携、連動を強く意識したものとなっています。このような「公式応援アカウント」の設置や、「本人アカウント」との連動などのアイデアが折田氏のものであることは、令和6年に受注した「高知県SNS公式アカウント分析等委託業務」の企画提案書でも同様の「アカウント相互連携」「相乗効果」を謳っていることからも明らかであり、note記事記載の通り、折田氏の提案した「戦略」といえます。

また、note記事に投稿された「X本人アカウントの投稿」の画像では、下欄に「ポストのエンゲージメントを表示」と記載されており、これは当該アカウントに管理権限がある者がログインした場合にしか表示されない事項であるため、折田氏が「応援アカウント」だけでなく、「本人アカウント」にもログインできる権限があり、両者の連携した運用を担っていた証左だといえます。

さらに、斎藤陣営の投稿する「ハッシュタグ」は、選挙前から「#さいとう元知事がんばれ」に統一され、投開票日までその通りに運用され、当選とともに「#さいとう元彦知事がんばれ」に変化するというストーリー性まで持たせています。

「ハッシュタグ」は、note記事記載の通り、応援の流れに方向性を提供し、アルゴリズムを有利にし、また、投稿の追跡・分析も容易にするため一本化することが非常に重要で、この「ハッシュタグ」に関しての折田氏のnote記事の記載は、その考え方、設計方法など、熟考したことが極めて具体的に書かれ、しかも、削除前の当初の記事には、提案した際の斎藤氏のリアクションまで書かれていて、その内容からは、折田氏が「#さいとう元知事がんばれ」との「ハッシュタグ」を考え、これへの統一を提案したものと考えられます。

公式応援アカウントの設置・運用が、折田氏によって主体的・裁量的に行われていたことは明らかで、斎藤氏側によって折田氏の「ボランティア」とされている行為だけをみても「選挙運動」であり、折田氏は「選挙運動者」です。

結局、note記事記載の通り、折田氏が「ブランドイメージの統一」、「政策を分かりやすいビジュアルや表現で県民に届けること」や、「各SNSに適したレイアウトや内容に最適化して届けること」などの戦略の下で、「監修者として」「責任を持って」SNS広報全般を運用していたもので、折田氏の行為が「主体的・裁量的」な「選挙運動」であることは明白です。

「利害関係」

本件は、法的な契約関係は明確ではありませんが、少なくとも名義上、そして金銭の流れ上は、「斎藤元彦後援会」と「株式会社merchu」の間で、選挙における「公約のスライド制作」、「チラシのデザイン制作」、「メインビジュアルの企画・制作」、「ポスターデザイン制作」、「選挙公報デザイン制作」の業務委託を内容とした契約となっているものと思われます。

そして、「斎藤元彦後援会」に対し、斎藤氏が何らかの影響力を与え得る地位にあることは明らかです。

また、折田氏は、「株式会社merchu」の代表取締役であり、会社に対する利害関係の利用が、会社の代表者たる選挙運動者の選挙に関する意思決定に影響を及ぼし得ることも明らかです。

そのうえ、「斎藤元彦後援会」と「株式会社merchu」の間の、選挙における「公約のスライド制作」等の業務委託契約が、「株式会社merchu」にとってのみ特別に、しかも直接に利害関係があることも明白です。したがって、本件において「選挙運動者に対し」「その者と関係ある会社に対する」「特殊直接利害関係」があることは明らかです。

「誘導」

斎藤氏の代理人弁護士は会見で、支援者から「ボランティアとして協力していただける方」として折田氏を紹介され、2024年9月29日には斎藤氏が会社を訪問して打ち合わせをし、ポスターやチラシのデザインの制作などのほか、SNSの利用についても話が出たこと自体は認めています。そして翌日以降、「株式会社merchu」から、いくつかのプランと、その見積もりが出され、5項目に限って、10月3日から10月9日ころにかけて、口頭で、個別で依頼したとの説明をしています。

つまり、斎藤氏側の説明を前提とすると、時系列からして、斎藤氏が、折田氏が選挙運動をする、もしくはする可能性があることを認識しつつ、その後の近接した時期に少なくとも制作業務5項目について折田氏が代表である「株式会社merchu」に発注したことになります。

「相手方である選挙運動者の決意を促し、又は現に存する決意を確実にするため、特殊の直接利害関係をその者の利益に発生させることを申し入れ」ているのであって、「誘導」が行われたことも明らかです。

したがって「直接利害関係を利用して誘導した」ことも明らかです。

「利害誘導罪」の成立は明らか

上記誘導は、2024年11月17日執行の兵庫県知事選挙に斎藤氏が立候補を決意し、その選挙戦を手伝ってもらう人員を探すなかで行われたものであり、「当選を得る目的をもって」いることも明らかです。

そのため、斎藤氏は、当選を得る目的をもって、同年9月29日ころ、「株式会社merchu」事務所において折田氏らと面談し、その後10月5日ころまでに、斎藤氏のための選挙運動を依頼し、折田氏に応じさせるとともに、選挙準備として「株式会社merchu」に業務を発注することとし、10月3日から9日頃にかけて、斎藤氏が、同社に同選挙における「公約のスライド制作」、「チラシのデザイン制作」、「メインビジュアルの企画・制作」、「ポスターデザイン制作」、「選挙公報デザイン制作」の業務を発注し、11月4日、「斎藤元彦後援会」名義で、上記業務の対価として合計71万5000円を同社に支払う一方、被告訴人折田に、公式応援アカウントの取得、記載事項のチェックなどの斎藤氏のための選挙運動を行わせ、もって、選挙運動者に対し、特殊の直接利害関係を利用して誘導した、ということになります。

この構成をとれば、71万5000円の支払先は折田氏個人ではなくmerchu社という法人であることの問題もなくなります。

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