NHKが8月に放送したNHKスペシャル「シミュレーション~昭和16年夏の敗戦~」のドラマ部分の登場人物設定にモデルとされた人物の遺族が反発している問題で、脚本、編集、演出を担当した映画監督の石井裕也氏が17日、NHKを通じて見解を表明し、「個人の人格や人間性を再現することがテーマではない」と主張した。また、「表現の理由と正当性については、しかるべきタイミングでお話しすることになります」とした。
17日に開かれたNHKの稲葉延雄会長の定例記者会見で、稲葉氏は「ドラマを面白くするために史実と異なる脚色をしたと指摘されてもおかしくない。たとえドラマであってもNHKらしくなかった」と番組を批判。これに続けて行われた山名啓雄メディア総局長の定例会見で、記者から石井氏がどのような意図でキャラクター設定を行ったのかについて質問が出され、番組担当者が石井氏のコメントを読み上げた。
石井氏はコメントで「総力戦研究所内で描いたキャラクターは全員、原案書籍となったノンフィクションはもちろんのこと、残された資料や記録に基づいて創作しています。個人の人格や人間性を再現することがテーマではなく、当時の状況とそこに生きる人々の葛藤を伝えることが主眼の作品です。表現の理由と正当性については、しかるべきタイミングでお話しすることになります」と表明した。
番組は8月16、17両日に戦後80年関連番組として放送。日米開戦直前に設立された総力戦研究所で若手官僚らが日本必敗のシミュレーション結果を導き出すという史実に基づくドラマで、研究所長は結論を覆すよう圧力をかける存在として描かれたが、実際の所長だった飯村穣陸軍中将は、若手の自由な議論を後押ししていたとされる。